表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第三章 たった一つの異世界転生
45/102

たった一つの異世界転生15:複合魔法

 顔色を真っ青にして、苦しそうに息をするミナお姉さんを見ていられなくなって、慌ててマイカやガルガルに事情を話しにいく。

 まだ朝日も昇らない時間帯だったため、二人を起こすことになってしまった。


 ミナお姉さんの症状を説明し終える。他人のことを言えないけど見ていられないくらいに動揺するマイカと比べて、ガルガルは至って普通だった。

 流石は冒険歴の圧倒的に長いガルガルだ。蓄えられた知識の中に思い当たるものがあるらしい。


「こりゃ毒にやられたんじゃねぇか。この地域にも毒を持った生き物はいるからよ。基本的に人を襲うことはねぇが、無闇に触ろうとすれば噛まれる。マイカ嬢、何か心当たりはねぇか」

「そういえば! この客車のバッグを確認してた時、何かに噛まれたって話をしたわね」

「じゃあ、やっぱ毒で決まりだな。しかし、こりゃマズイぞ。町に行けば薬は手に入るだろうが、早くしねぇと死に至るかもしれねぇ」

「でも、毒なんて魔法を使えば……そうか。今は魔法力が空の状態だったわね」

「一晩休んだのにダメなのー?」

「具合悪いんじゃ休まらないもの。一晩というのはあくまで何もないときの話よ」

「そっか……」


 魔法で治療することが望めないのなら、自ずと選択肢は近くの町に急ぐことに絞られる。

 だけど、ミナお姉さんたちが来た方の町はここから歩くとなると数日かかってしまうため却下である。


 それならもう一方のミナお姉さんたちが目指していた方の町はといえば、大岩の悪魔が道を塞いでしまっているわけだ。


「俺様たちだけで、あのデカブツを倒すっきゃねぇな。マイカ嬢、あの石はあるのか?」

「もちろん、あるわよ。あたしだって練習して魔法を刀にまとわせられるようになったんだから」

「おお、やるじゃねぇか」


 あの石というのは何のことだろう。たしか、マイカは魔法使いではないらしいけど、その石とやらがあれば使えるということだろうか。


「その石ってなんなのー?」

「ああ、そうね」


 マイカは半透明の綺麗な石を取り出した。


「これが魔法石よ。ミナが作ったものなんだけど、簡単に言うと魔法が石の中に閉じ込められているのよ。これを使えば誰でも即座に魔法を使えるってわけね」

「すごーい! 流石、ミナお姉さんだー、ニヒヒー」


 これがあればアリエも魔法を使えるということだろうか。それとも左腕のウリにダメージがいく可能性もあったり、なかったり?


「魔法石があるなら問題ねぇ。俺様があのデカブツをぶっ倒してやるよ」

「でも、魔法石の火力じゃダメだったのよ。まずは悪魔を覆う硬い岩を破壊して本体を剥き出しにしなきゃダメね」

「俺様は何度も破壊してるぜ」

「きっと本体を守る岩じゃないでしょ。周りだけ異常に硬いみたいなのよ」

「確かに壊したのは本体の岩じゃねぇな」


 悪魔の左腕で殴りつけた時のことを思い出す。そういえば、たしか──。


「そういえば、アリエの悪魔パンチで額にヒビを入れたよー」

「でも、あんた戦えるわけ? 左腕はそのままにするって話は昨晩聞いたけど」

「いや、任せらんねぇ。一回でヒビが入るくらいってことわよ、何回も殴る必要があるってことだろ。しかし、こいつに正面から挑ませるのは無理だ」

「まあ、そうよね。あのデカさだし、あたしだってできる気がしないわよ」


 実際に一度殺されかけているアリエは何も言うことができなかった。


「ミナが言ってたんだけど、急激な温度の変化で岩は脆くなるらしいわね。だけど、炎の魔法石じゃ、あの大きさの岩を熱するのは無理なのよね」


 どうやら、魔法石も万能ではないということが分かった。


「うーん」


 アリエは異世界の住人である羊子の記憶を持っている。その世界に魔法は存在しないけど、魔法と見分けのつかない科学もあれば、魔法が登場するたくさんの物語もあった。


 それを参考にすれば何か良いアイデアが浮かぶかもしれない。

 単純にもっと強い魔法を使えるようになればいいのではないだろうか。


 羊子の世界にあったビデオゲームを参考にしてみよう。

 ステータスが上がれば同じ魔法でも威力は上がる。

 消費する魔法力を多くすれば上位の魔法を使える。


 だけど、これらは現状の解決策にはならない。


「わかった! 複合魔法だよー」

「だから、異世界何とかの話は結構だって言ってるだろ」

「異世界転生だよー。全然覚える気ないでしょー。それに今回は違くはないけど違うんだよー」

「分かった、分かった。それじゃあ、説明してみろ。だが、つまんねぇ冗談だったらゲンコツだからなぁ」

「二つの異なる魔法石を組み合わせたらどうかなって思ったんだー。炎と風を組み合わせれば、もっと強い魔法になるのかなって」

「……いいじゃない、それ。あんたやるわね。言われてみれば大した話じゃないけど、今まで一度も試したことなかったわ」

「ガハハッ、おもしれぇじゃねえか、異世界転生。その複合魔法ってやつ、俺様が試してやるよ」


 アリエのこと疑っておいてガルガルは平然と手のひらを返す。ムカッときて足のすねを蹴っ飛ばしてみたけど、仕返しされたことにすらガルガルは気づいていなかった。


 そして、ガルガルとマイカで決めた作戦はこうだった。


 まず、ガルガルが複合魔法をまとわせた大剣で岩を急激に熱して脆くする。そこにすかさずアリエの悪魔パンチで岩を粉砕。正体を現した臆病な悪魔をマイカの刀で仕留める。

 ただし、一つでも想定した結果が得られなかった場合は全員で退散する。


 ミナお姉さんのことをガルガルが担いでいってやると言うが、マイカはそれを断って自分でおんぶした。


 何度も担がれているアリエから言わせれば、ガルガルは人のことを荷物のように担ぐから嫌な気分にさせられる。ミナお姉さんをそんな扱いするなんてアリエ的に許せないから断るのは正解だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ