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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第三章 たった一つの異世界転生
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たった一つの異世界転生11:真相

 気に食わねえ。


 そう思うのは俺様の勝手だ。だから、他人に俺様の価値観を押し付ける気はない。それに、俺様は善人でも正義の味方でもないのだから。


 善人というのはアルミナ嬢、ああいう奴を指すのだろう。メンタルの方が糞ザコだから正義の味方なんて玉じゃないが正義感もあると言っていい。


 それなら、どうして俺様は村でのアリエの扱いが気に食わなくて村長を問い詰めているのか。


 答えは簡単──カネになるからだ。


 俺様が暴走したアリエを鎮めたことが伝わったんだろう。村長は快く俺様との話の場を用意してくれた。


 まずはアリエとかいう糞ガキの事情を聞き出した。


 アリエが皆に黙って灰の悪魔を世話をしていたこと。その悪魔がアリエの体に憑り付いて村の子供に大怪我を負わせたこと。

 それをきっかけにして周りの誰もがアリエを恐怖して遠ざけたこと。


「私たちに戦う力はありません。いいえ、心を鬼にすることこそが私たちにできる戦い方なのです」

「なるほどな。出来もしねぇことを正義感振りかざしてでしゃばるよりか利口だろうよ。まあ、少し利口すぎるとも思うがよ」

「そうですね。おっしゃる通りだと思います」


 弱い奴には弱い奴なりのやり方がある。そして、強い奴には強い奴なりの戦い方がある。それはどっちが利口だとか正しいとか決められるもんじゃない。

 だから、俺様にとってそのやり方が気に入らないとしても、俺様の戦い方を実践しろなんて馬鹿げたことは言わない。


 別の視点から考えれば、それはつまり俺様だからできる方法であるわけだ。そして、この俺様の特権を切り売りすることこそが傭兵稼業の本質である。


 俺様が気に食わねぇと思う所にカネが埋まっているのはそういうカラクリだ。


「アリエのこと、俺様が何とかしてやろうかぁ? 魔法使いの知り合いがいてな。そいつに頼めばアリエに憑り付いた悪魔を切り離せるかもしれねぇ。だからよ、俺様があいつを魔法使いの元まで護衛してやるよ」

「なるほど……私としましてはぜひお願いしたいことではあります。ですが、アリエの両親に同意を取る必要がありますので少々お待ちいただけないでしょうか?」

「もっともだな。そんじゃあ待たせてもらうぜ」

「ありがとうございます。客室に案内致しますので、そちらでおくつろぎ下さい」


 案内された客室のソファーで横になってくつろいだまま居眠りするが、村長が戻ってくるまでそう時間はかからなかった。


「アリエの両親もぜひお願いしたいとのことです。ですが、一つだけお願いがあります」

「ほう、何だぁ? 言ってみる」

「アリエは両親から捨てられ、厄介払いとしてあなた様に護衛の依頼として押し付けたということにしてほしいのです」

「はぁ? どうして、そんなことする必要があるってんだよ」

「私たちにはどうすることもできなかったとはいえ、アリエに許されないことをしてきたのは事実です。アリエも灰の悪魔をどうにかできたとして、今更私たちを許したりはしないでしょう。ですので、私たちを憎んでほしいのです。生きる糧を一つでも与えてあげたいのです。それが両親の意向です」

「……分かったよ。俺様はカネがほしいだけだからな。依頼人がそう言うなら従おうじゃねぇか」


 その日の晩、村の入り口で約束通り待っていると、死んでるように熟睡するアリエを背負う男と、その隣で目を真っ赤にする女が現れた。


「おう、あんたらがアリエのあれか。話には聞いてると思うが、俺様がガルディアスだ」

「はい、伺っております。まず、こちらが依頼料になります」


 丁寧に作られたなめし革の大きな巾着袋を受け取る。


「ほう、こいつは上物じゃねぇか。それにカネも指定した額よりだいぶ多いようだぁ」

「はい。旅をするとなるとお金もかかりますので、少しでもアリエに楽をさせられればと思い」

「お前さんの意向は理解した。俺様もプロとしての誇りはあるから、そこら辺は安心しな」

「はい、お願いいたします」


 眠るアリエを肩に担いだ俺様は最後、二人にもう一度確認する。


「本当にお前さんたちを憎むように嘘を吹き込んでいいんだな?」

「……はい」

「奥さん、あんたは?」

「……あい、グスッ……お願いじまず……グスッ」

「……分かった。じゃあ、俺様はこのまま行かせてもらうぜぇ」


 父親は行き場のない感情を地面に叩きつけるしかなかった。母親は地面にへたり込み顔を手で覆って泣くしかなかった。


 ここで考え直せと言うのが正しいのかは分からない。だけど、俺様は善人じゃない。仮にどうすることが正しいのかを知っていたとしても何も言う気はない。


 今夜は月がちっとも出ていなかった。


 …………………………


 師匠はアリエさんのことを話し終えると、後頭部を大袈裟にかいてその場で横になってしまう。

 これ以上はもう話すことはないということだろう。


「教えていただき、ありがとうございます」


 私は師匠の話を聞いてアリエさんの問題を整理することにした。


 まず、アリエさんの中の悪魔を倒すことができるのか。そもそも、倒していいのか。アリエさんがその悪魔に対してどんな感情を抱いているのかを知る必要がある。

 そして、両親や村の人々に対してアリエさんがどんな感情を抱いているのか。悪魔の問題が片付いたとして、この先どう生きていくのか。


 そこまで私が責任を負う必要はないのかもしれないけど、灰の悪魔が関わっているとなると放って置けない。


 長旅の疲れも溜まっていたためその日はもう休むことにする。


 そして、次の日もそのまた次の日も私はアリエさんの左腕に魔法力を流し込むことを続けた。

 もちろん、アリエさんの胸の内を知るまではこの悪魔を倒してはいけない。だけど、何が起きても対処できるように弱らせておくことは必要だ。


 余談ではあるけど、手持ち無沙汰なマイカさんは師匠に人を気絶させるやり方を教わっていた。


 そして、丸三日が過ぎた日のことだった。


 これまで一度も目を覚ますことのなかったアリエさんが目を覚ましていた。


「……もう許してよ。もう逃げたいよ。どうして逃げるのは……いけないことなの?」


 それが灰色に変色した左腕を天井にかざすアリエさんの第一声だった。

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