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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第二章 たった一つの姉妹
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たった一つの姉妹15:姑息な戦術

 スールの悲鳴を聞いた私は負傷した体を引きずりながら、スールを逃がした方角へと進んでいく。


「大きな音が何度も聞こえるわね。もしかして、誰かが戦ってるのかしら……。でも、ミナは街にいるはずだし……」


 気味の悪い音を最後にたびたび聞こえていたものが止んでしまう。悪魔の叫び声ということは、誰かが悪魔を追い詰めたということだろうか。


「あれー……もしかしなくても、こっちに向かってきてないかしら」


 腕に大きな植物が植えられた悪魔が三足歩行とも言えない、坂を転げ落ちるような姿で向かってきた。


 私は刀を構えるけど、正直ここで襲われたら戦える自信がなかった。


 しかし、私の存在に気づいていないのか、それとも悪魔側にも戦う余裕がないのか分からないけど、拍子抜けするほど何事もなく悪魔が私のすぐ横を過ぎ去っていく。


「マイカさん! ご無事でしたか」


 魔法少女の姿のミナが悪魔の逃げてきた方から走ってきた。まだ二度目の見慣れない恰好に少し胸が高鳴るのはどうしてだろうか。


「戦ってたのはミナだったのね。でも、どうして森にいるのよ」

「転移魔法です」


 そう言いながら、ミナは私の体に応急処置の治癒魔法をかける。


「失くした魔法石はどうやら、スールさんでしたか? 彼女が拾っていたようです」

「なるほどね。偶然に救われたってわけ」

「それより、マイカさん。この先には何があるのですか? マイカさんも悪魔と戦っていると聞きましたが」

「見ての通りボロボロだけど何とか勝てたのよ。倒れて動かなくなった悪魔がいるはずよ」

「もしかして、左腕を使って攻撃する悪魔でしょうか」

「その通りよ。おそらく、二体で一つの悪魔なのね。合体して強くなる的なやつじゃないかしら」

「そういうのもいるのですね。私はとりあえずトドメを刺しに行きますので、可能ならマイカさんはスールさんを迎えに行ってあげてください」

「とりあえずは今ので歩けるくらいには回復したからスールのことは任せて」


 ミナと反対方向に向かった私はすぐにスールと合流することができた。スールもミナの後を追って来ていたらしい。


「えっと、スー……でいいのかしら?」

「それでも構いませんが、一応自己紹介をしておきます。わたしはスールの姉のエルマーナと申します」

「お姉ちゃん? でも、スーと同じ見た目だし……もしかして、あんたも魔法使いとか?」

「いいえ。わたし自信はこれを魔法のようだと思っていますが、いわゆる十二の魔法使いではありません」

「へー、そうなのね。世の中、不思議って意外と多いものね。さあ、ミナの所へ行きましょう」

「……詳しく聞かないのですか?」

「ん? あんたの魔法のこと? まあ、何かに困ってて相談に乗ってほしいとかなら全然聞くけど。無理に聞き出そうとは思わないわよ」

「……」

「さあ、行くわよ」


 私はエルマーナの手を取って先ほどまで戦っていた場所に向かった。


「やっぱり合体してるみたいね」


 灰の悪魔の姿は一つしかないけど、私が戦っていた時よりも一際大きかった。


 悪魔は両腕から異なる形のエネルギーを巧みに放出するものだから、ミナはなかなか近づくことができない。

 だけど、悪魔の攻撃がミナに直撃することもまたなかった。


 魔法少女の姿になることで体感時間を数十倍にまで膨らませることができるらしく、並の反射神経しか持ち合わせていないミナであっても側から見れば人間離れした動きに見えることだろう。

 真っ直ぐに空間を穿つ光線であっても全てを破壊して進む砲撃であっても、私が負傷した原因の広範囲にまき散らす散弾であっても、ミナはまるで散歩でもしているかのように歩くだけだった。


 やがて、悪魔はエネルギー切れを起こしたように攻撃の手を緩める。


 ミナはその隙を見逃さなかった。至近距離まで詰め寄って魔法をまとわせた杖を打ち込む。よろめく悪魔の両腕に小枝を投げ入れたと同時に詠唱は完了して、二股の大きな木が両腕を塞ぐように生えた。


「一つでも二つでも変わりませんでしたね。……いえ、違う!」


 悪魔は耳を塞ぎたくなるような金切り声を上げて両腕を光らせる。自身を顧みない爆発が魔法で急成長を遂げた大樹を木っ端微塵に吹き飛ばして、両腕にプラズマの大剣を構えた。


「それが最後の切り札ですか。ですが、規格外のものを相手に律儀に戦うのも馬鹿らしいことに気付いてしまいましたので無駄です」


 ミナが短い詠唱を終えると、悪魔の腕や脚の関節全てにツルのような植物が巻き付いた。


「先ほどの木の保険でしたが、上手くいってよかったです」


 この悪魔には器用なことをする指がない。砲撃を放つ筒状の腕は大きいせいで関節に触れることもできない。

 関節を封じられた悪魔は身動きを取れずに転倒する。


「なるほどね……」


 生物としてあり得ない悪魔の骨格を逆手に取った策略に私は思わず感心をこぼす。


 トドメの魔法を唱え終わったところで、私とエルマーナはミナの方へ向かう。


「お疲れさま、ミナ」

「はい。マイカさんもお疲れさまです」


 地面に少しずつ呑まれていく悪魔を尻目に私たちは無事を祝い合う。


「待ってください! 悪魔から何か出てません?」


 エルマーナが指摘する通り、悪魔から黒い煙が立ち上る。


「この黒いモヤ、倒したら見る気もするけど……。何かいつもと違わないかしら」

「確かにそうですね。まだ終わってないのかもしれません。警戒してください」


 黒いモヤは宙で二つのとぐろを作る。その次の瞬間、片方のとぐろがエルマーナ目掛けて動き出した。


 私もミナも進行を妨げるように割って入るけど、すり抜けるというよりは気体に触れることができずにエルマーナを貫く。


 突き飛ばされる少女と、その場で何が起きたのか理解できずに立ち尽くす少女の二つの姿があった。

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