たった一つの姉妹09:就寝
宿に帰ってきた私とクーニャは、ベッドの上にぺたん座りして瞑想するミナと遭遇する。
ミナを中心に魔法陣は広がり、彼女自身をくまなく調べるように円陣は上から下へ移動する。
魔法の放つ光が失われると同時にミナは目を開けた。
「ミナ、ただいま。今の魔法は何なの?」
「お帰りなさい。この魔法は記憶を鮮明に思い出すための魔法です。昨日完成させた魔法石をどこかで失くしてしまったようでして。手がかりを探すために朝起きてからの一部始終を洗っていました」
「魔法石って紫色のやつよね。あたしが出かける時は机に置いてあったわよ」
「はい。その後、起きてから散歩に出かけたのですが、その時ポケットにしまったのと、帰った時には既になかったのは確実なんです」
「つまり、散歩中にポッケから落っことしたってわけね。さっきの魔法で石がポッケにある感覚までは思い出せないの? 感覚がなくなった時がつまり、石を落とした瞬間ということになるじゃない」
「そこまでは難しいですね。思い出せる対象はあくまで記憶したことだけですので、見てないものや感じてないことを知ることはできません。魔法石がすごく重かったり大きかったりすれば、あるいは分かったのかもしれませんが」
「そもそもだけど、その魔法石にはどんな魔法が込められてるのよ」
「転移魔法です。ここにいるわたしが使用者の元に転移するだけですので用途は限られますが」
「転移魔法! あんた、そんなことまでできるわけ」
「そうですね。一度作れたということは可能なのでしょう。ですが、何をどうやってできたのか不思議で仕方ありません」
「つまりは偶然の産物なわけね。誰かが知らずに使って取り返しのつかない事態になることはなさそうだけど、貴重なのなのにもったいないわね」
「……ですが、魔法石のせいで拾った誰かが不幸になる可能性が少しでもあるなら、わたしは誰よりも先に見つけて回収しなくてはなりません」
ミナが焦るのには理由があった。彼女は魔法のせいで誰かが傷つくことを恐れている。私たちがまだ幼い頃に起きたある事件がきっかけだ。
その事件を引き起こした原因が自分の魔法にあると考えるミナは、魔法を誰かに向けることを恐れるようになった。先の戦いで瀕死のクーニャを前に魔法を暴走させたのは、そのトラウマのせいだろう。
「そうね……。でも、どうしよう。あたし明日、人と会う予定があるのよね」
「そうですか。約束は大事ですし、わたしは一人で探すので大丈夫です。ちなみに、クーニャさんもその約束に含まれますか?」
「まあ、そうね。含まれてると思うわ」
「分かりました。いえ、わたしの蒔いた種ですので気にしないでください。さっそく今から探してこようと思います」
ミナはベッドから降りて部屋を出ようとするが、フラついて転びそうになる。
「あんた疲れてるんじゃない。夜ふかしのせいか、さっきの魔法のせいか分からないけど。今日はもう寝て休んで、明日にしなさいよ」
「たしかに先ほどの魔法は見た目に反してかなり体力を消費しますが、それでも……」
「“でも”も“だって”もなしよ。はい、良い子は眠りましょうね〜」
ミナをベッドに連れて行き寝かしつける。
幼い頃はミナを世話の焼ける妹のように思っていた。だけど、ミナの優秀さを目の当たりにするたびにその想いは揺らいでいった。
こういう時ばかりはなんだか姉の気分になって、それが少し嬉しいと思う自分がいる。
私はミナが寝入るのを最後まで見届ける。この時ばかりはミナの寝付きがいいことを少しだけ残念に思った。