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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第二章 たった一つの姉妹
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たった一つの姉妹05:相談

「ここは帽子を売ってるお店なのかな。スーはここ、知ってるお店?」


「あっ……知ってるけど、ここはダメなの。それより、向こうの角を曲がった所にあるお店。早くそこに行くの」


 店の外から見えるように展示してある帽子はどれも、素人目で見ても惹かれる何かがあった。


 しかし、スールは一秒でも早くこの場から離れたいかのように私の手を引いて進もうとする。


「そう? ここもすごくいいと思ったけど」


 お店の看板には帽子の絵と【エルマーナのアトリエ】という店名が描かれていた。


 それからも、ああでもないこうでもないとクーニャにしっくりくる代物を吟味するが、どれもあと一つという決めてに欠ける。そのため、候補だけはいくつかあるのに未だに何も買えていなかった。


「暗くなってきたし、今日はここまでかしらね」

「ごめんなさいなの……」

「いや、スーのせいじゃないわ。あたしが優柔不断なのがいけないのよ。それより、今日は楽しめた?」

「うん! クーちゃんともお友達になれたし楽しかったの」

「えー、あたしもスーと友達になれたと思ってるのに、その“楽しい”にあたしは含まれないわけ」

「そ、そんなの含まれるに決まってるの!」

「ハハッ、冗談よ。あたしも旅をしていると中々こういうことできないから凄く楽しかったわ……」


 取り留めのない会話をしている中で、私はふと考えてしまった。


 そういえば、どうしてこの幼い女の子を買い物に付き合わせたのだっただろうか。


 姉妹喧嘩を聞いて、その会話の内容がどうしても気になってしまった。それで、何となく放っておけなくて成り行きで誘ったのだ。


 これは善意とかそういう類いのものじゃなくて、私の中にある何かしらの感情が少女のことを求めているのだと思う。


 いや、何かしらなんて曖昧なものじゃない。共依存という言葉を耳にした時に感じたあの感情はきっと親近感に違いなかった。


 私は口をつぐんでしまう。ここで姉妹喧嘩の話を切り出せば楽しかったというスールの言葉に泥を塗ってしまうのではないだろうか。少なくとも彼女が私に助けを求めるまで、私からこの話を振るべきではないと考えた。


「ねえ、スーは灰の悪魔の目撃情報とか、噂とかでもいいんだけど。何か知らないかしら?」

「灰の悪魔……? それなら、スーのよく行く森に住みかがあるって聞いたことあるの。でも、実際に悪魔を見たわけじゃないし、どうしてそう言われてるのかも分からないの」

「それは気になるわね。調べる価値ある気がする。その住みかが地図のどの辺りか分かるかしら」

「えっと……地図だとどこだろう……。あ、でも、明日その森に行く予定だから……案内……なら」


 スールは言いかけるが、何かの問題に気づいて声が尻すぼみしていく。


「スー? どうしたの……?」

「あ、うん……。えっと、マイカお姉ちゃん、聞きたいことがあるの……」


 スールはうつむきながら話を切り出す。普段は視線をしっかり合わせて話す子だったが、この時ばかりは話しづらい内容だからか視線が合うことはなかった。


「森に行くのが怖くて、だから本当はお姉ちゃんに代わりに行ってもらってたの。だけど、もう自分で行くようにって。何でダメなの? そういうのっていけないことなの?」

「うーん、どうしても苦手なのよね。誰かに頼るのは別に悪いことだとは思わないけど」

「じゃあ、お姉ちゃんの意地悪なの?」

「何か理由があるかもしれないし意地悪かは分からないわね。あたしも似たようなことで悩んでさ、その時に言われたのよ。人には出来ることと出来ないことがあってお互いに助け合う、それでいいと思うって」

「でも、スーは普通のことしかできないからお姉ちゃんに頼り切りで……それが理由なのかな」

「スーのお姉ちゃんのことは分からないから何とも言えないけど、対等な関係じゃなくてもいいんじゃないかな」


 スールが抱く不安と近しい感情をちょうど今朝の私もまた抱えていた。


 心の奥から湧き出る感情を変えるのはどうやら難しいらしく、時々だけどその感情が再燃することがあるのはどうしようもないのかもしれない。


 だけど、私にとってそれは解消された悩みなのである。頭では納得のいく結論が既に導き出されているのだから。


 そして、私にとっての答えがスールにとっての答えになればと私は考えた。

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