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たった一つのまほろば -It's an only Magical World-  作者: 宙乃夢路
第二章 たった一つの姉妹
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たった一つの姉妹04:ショッピング

 この時間帯の街の雰囲気は早朝と比べて人の密度から活気まであらゆるものが違うため、いつの間に他の街に来てしまったんだと感じてしまう。


 たくさんの人で賑わう店が所狭しと並んでいて、正直な話それを眺めているだけでワクワクが止まらない。でも、お上りさんに見られるのも嫌だし、何より今はクーニャの保護者であるから、身悶えるこの感情に蓋をした。


 私やミナが暮らしていた小さな田舎町の女の子にとってここは住んでみたいと憧れる場所の一つであり、実際に私も一度は行ってみたいと思っていた。


 つまりはこの街を訪れておいてショッピングを楽しまないのは女の子として間違っていると私は思うわけだ。


 だけど、ミナはあまり興味がないみたい。性格からして分かり切ってはいたけど、実際目の前にすれば興味を示すかもという微かな予感が私の中にあったのも事実だった。


 今日のショッピングの一番の目的はクーニャのための装飾品探しである。


 クーニャはミナを魔法少女に変身させる特殊な力を持っているようだけど、見た目は普通の可愛らしい黒猫だ。


 つまり、何も身に付けていない状態で歩かせると野良猫に間違われる恐れがある。だから、一目でクーニャだと分かるトレードマークを身に付けさせようと提案したのはミナだった。


「提案した本人がいなくてどうするのよね。ほんと、あんたのご主人様は世話が焼けるわ。普段はしっかりしてるくせに、生活能力だけは昔からゼロなのよ」

「ニャウン」


 腕の中で大人しくしているクーニャが同意してくれた気がした。


 目的に適う雑貨屋を探して歩いていると、路地裏の方から言い争う女の子の声が耳に届いた。


「全然分からないもん! 何で最近のお姉ちゃんはそんな意地悪ばかり言うの」

「いつか今のままじゃいられない日が訪れること、あなたも何となく感じているでしょう? お姉ちゃんはそう遠くない未来で必ず消えてしまうわ」

「やだやだ、スーにはお姉ちゃんが必要なの……」

「お姉ちゃんだってスーちゃんが必要よ。それでも……この世界は意地悪だって知ってるでしょう。こういうのを依存とか共依存とか言って、直さなくちゃいけないことなのよ」

「知らない……知らない、知らない! お姉ちゃんなんて知らないの!」


 姉妹で言い争っているのだろうか。


「共依存……ね」


 私はその会話に惹かれるものを感じて、好奇心を抑え切れずに路地裏を覗く。しかし、もう既にそこには一人の小さな女の子しかいなかった。


「だ、誰なの……?」


 女の子はオレンジと白のワンピースのスカートをクシャッと握りしめて、潤んだ瞳で私を見上げた。


「あたしは……たまたまここを通りかかっただけよ」


 警戒を解いてもらうためにしゃがんで、女の子の涙で濡れた頬をハンカチで拭ってあげた。


「にゃにゃ! ネコちゃん……可愛いの」


 女の子は私の腕にしがみつくクーニャに手を伸ばすが、途中で止めて私の顔色をうかがう。


「クー、あんたのこと触りたいみたいだけどいいかしら?」

「ニャウン」


 クーニャから同意を得られたため女の子に抱かせてあげる。クーニャは何やらツインテールの結った髪が気になるのか、前足で髪を揺らして遊び始めた。


「この子はクーニャっていうのよ。ついでに、あたしはマイカ。あんたの名前は?」

「えっと、スーはスールっていうの」

「なら、スーと呼ばせてもらうわ。スーはこの街の人? 他所から来たからここの地理に疎くて、もし時間があるなら街を案内してくれると嬉しいのだけど」


 スールは少し考えた後、迷いを振り切るように首を縦に振る。


「大丈夫なの。でも、この街はお店しかないから何か目的がないと案内は難しいかも」

「目的ならあるわ。クー、この子にお似合いの装飾品を探してるのよ。例えば……首輪とか髪飾りとか……そういう感じのものかしらね」

「それならよく行くお店がいくつかあるから大丈夫なの」

「それは頼りになるわね。ありがとう、お願いするわ」


 こうして、街中で出会ったスールという女の子と一緒にショッピングを楽しむこととなった。


 田舎者の私にとって見たことのないオシャレな雑貨や食べ物が多くあった。


「スーちゃん、今日は案内をしているのか。偉いね~」


 街を歩いていると、スールはよく住人に声をかけられる。どういった関係なのかをたずねれば、特に何かがあるわけではないただの顔見知りらしい。


 浅い関係と言うわりにはは「あの人はこういう特徴がある」なんてことを話すから私は関心した。


 おしゃべりを楽しみながら歩いていると、ちょうど私たちが泊まっている宿の前を通る。


 流石にもう目を覚ましているだろうし、ここで誘わないのも冷たい気がする。そう思った私は借りている部屋を覗いてみたけど、どこかに出歩いているのかベッドはもぬけの殻だった。


「スー、お待たせ」

「あ、うん……」


 道の端でしゃがみ込むスールが猫型のショルダーバッグに何かをしまって立ち上がる。


「ごめん、もしかして疲れちゃった?」

「ううん、そうじゃないの」

「ならいいけど、もし疲れたらちゃんと言うのよ。それで、あたしの旅仲間なんだけど出かけてるみたいなのよ」

「待ってみるの?」

「いや、いつ戻るかも分からないし行きましょ。そろそろ小腹も空いてきたし、休憩ついでに流行りのスイーツでも食べたいわね」

「えっと、えっと、それならオススメのがあるの」


 名前は何て言ってたかしら。甘くてふわふわの見た目も可愛らしいスイーツを食べて、それからこの町でトレンドのコーデなんかも教えてもらって服の試着をしてみたりと寄り道もしながら、陽が沈むまでいくつもの店を渡り歩いた。

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