2.転生チート?
陛下が部屋の外に声をかけると、四人の男性が入って来た。
因みに、この国の後宮は、陛下の許可が有れば男性も足を踏み入れられる。
「どうだ? 驚いたか?」
私は陛下の期待通り、入室した四人の顔を見て驚愕した。
何故なら、『ブラウローゼ~青い薔薇は神の祝福~』シリーズのメインカップル二組とそっくりだったからだ。
何で?! こんな偶然有り?!
「初めて挿絵を見た時は驚いたぞ。この者達にそっくりだったのだから」
私には、写真のようにリアルに描く画力は無いし、デフォルメもしているので、そっくりと言っても其処までではないが、彼等がモデルなのではないかと思わせる程度には特徴が一致している。
「更に読み進めてみれば、名前と愛し合っていると言う点以外は、ほぼ同じだった。身分も家族構成も性格も」
どういう事?! そんな偶然有り?!
「一応、紹介しておこう。ジークフリート・ヴィンデ。第三軍軍団長」
ヴォルフガング・ロートハーレ(赤髪金目)にそっくり。例えるなら、雲一つない青空のような人。
「テオフィル・トゥルペ。第四軍軍団長」
アルミン・ヴァイスフリューゲル(白髪金目)にそっくり。例えるなら、懐かない猫のような人。
「ウルリヒ・クロークス。第六軍軍団長」
ブルーノ・シュバルツアオゲ(黒髪黒目)にそっくり。基本不真面目だが、仕事はちゃんとする人。
「フォルクハルト・アイゼンフート。第十軍軍団長」
クリスティアン・ゴルデンバーム(金髪碧眼)にそっくり。滅多に怒らない穏やかな人。
「お初にお目にかかります。ローザリンデ・グリツィーニエ夫人。著作を拝見させて頂きました」
代表としてなのか、ウォルフガング……じゃなかった。ヴィンデ団長が口を開いた。
読んじゃったのか~。……とても気まずい。
「当初は、身近な人間の中に著者がいると考えておりました。本人しか知らぬ事が記されているのも偶然だと」
そう思うよね。そうじゃなかったら、おかしいものね。
「しかし、グリツィーニエ領で発行されたと聞き、ならば、職を辞し彼の地に移住した者だと思ったのですが……」
「身近にいた者で、そうした者は居なかったのです」
アルミン……じゃなくて、トゥルペ団長が言葉を引き継ぐ。
「それに、五年前に移住したならば知らない筈の最近の会話まで……」
不気味がられている! 無理も無いけれど!
「私は、移住ではなく、帝都からグリツィーニエ領に原稿を送ったのだと考えました」
ブルーノ……いや。クロークス団長が言う。
「しかし、発行元の本屋を調べ、原稿を持ち込んだ者がグリツィーニエ家の侍女と知り、彼女と帝都の繋がりを調べたのですが、親類縁者も友人知人も皆グリツィーニエ領におり……」
何十人調べたんだろう? 凄いね。……調査費、幾ら掛かったのかな?
「埒が明かなかったので、侍女本人に陛下が著者を探している事を明かして、教えて貰ったのです」
クリスティン……あ、アイゼンフート団長だった。彼が、そう締め括った。
「まさか、嫁入り前の令嬢だとは思わなかったぞ」
陛下が、愉快気に言う。
「念の為に申し上げますが、他の方の小説を参考にしましたので、私は清い体です」
「そこは心配していない」
周りに怪しい男がいないかどうかも、調べたのだろうか?
それとも、私は陛下の好みから外れているからどうでも良いと言う事だろうか?
「ああ。そうだ。発売禁止の件だが、朕は関わっていない。取り消させたので、安心して今後も執筆して欲しい」
団長達は、不満そうですが。
実在の人物そっくりと知ったから、書き辛い。
「畏まりました」
「では、朕はグリツィーニエ夫人と『ブラウローゼ』シリーズの話をするので、其方等は戻って良い」
「承知致しました」