1.後宮へ
この作品タイトルを思いついたので、頑張ってひねり出した(四話目辺り)話です。
全四話。
地方領主の娘として生まれて18年。
何故か、この世界のものではない記憶があったが、特に気にする事無く生きて来た。
その別世界と比べて色々と不自由だったが、仕方ない。
幸いにも、紙が安く、活版印刷・大衆文学などが普及していた為、様々な娯楽小説を読んで育った。
しかし、私には不満があった。
記憶の中の別世界に存在したBL本が無かった事である。
別に、法律や宗教で、同性愛が禁じられている訳では無い。
ただ、気味悪がられているのだ。
12歳の時にBL本が読みたくなってから、1年。
無いなら、自分で書こうと思い立った。
そうして書き上げた小説を、本屋に出版して貰おうした。
因みに、この国では、印刷・製本は本屋が行っている。
「申し訳ありません。お嬢様。需要が見込めないと断られてしまいました」
侍女のデリアに代理を頼み原稿を持ち込んで貰ったのだが、地元の本屋には全て断られてしまった。
「そう。じゃあ、印刷・製本費用は此方で出すと伝えて」
「畏まりました」
すると、今度は引き受けて貰えた。
出来上がった本は、予想に反して売れた。
私が描いた挿絵が他の絵師と画風が違った事も、新し物好きな人や珍し物好きの人達に受けたのだ。
『同性愛者も、恋心は異性愛者と同じなのですね。安心出来ました』と言う感想を貰った事もある。
勿論、大多数の人には下手物扱いされている。
その後何冊か発行し、15歳で成人すると、官能小説を書いて出版した。
その頃になると、他の町でも私の本が売られるようになっていた。
「お嬢様! 大変です!」
「どうしたの?」
「お嬢様の官能小説が、発禁処分になりました!」
「何ですって?! 理由は?!」
18歳になった今年、発禁処分を受けたと聞いた私は、驚いてデリアに理由を尋ねた。
「はい。あの、お嬢様が描かれた挿絵が、官能的過ぎて風紀が乱れる恐れがあると」
挿絵が受け付けないとはよく言われているが、まさか、官能的過ぎると思われるなんて。
「他と違って、性器を描いてないのに?!」
「ですが、お嬢様は体液を描かれていますし」
「涙や汗や唾液が駄目なの?!」
「私の想像ですが」
個人の想像ならば、違うかもしれない。
もしかして、同性に性的興味を持つ者が増えるかもしれないからと言う事?
なら、男性にも結構売れている?
それとも、お偉いさんが男性同性愛物と知らずに買って、ショックを受けた?
その日の夜、夕飯の席でお父様が珍しく話しかけて来た。
「ローザリンデ。お前には後宮に入って貰う」
「私に、皇后を目指せと仰るのですか?!」
そんな無謀な事、したくない。
「まさか。儂は、これ以上の権力は要らん」
「お父様は、欲が無いのですね」
「死者蘇生は、権力でもどうもならんからな」
お父様の一番の願いは、七年前に亡くなられたお母様を生き返らせる事。
それが無理なら、どうでも良いらしい。
「お前を後宮にいれるのは、適当な嫁ぎ先が無いからだ」
行き遅れにしたくないからと、陛下に押し付けて良いのだろうか?
「妃としての身分は、『夫人』となる」
「解りました」
と言う訳で、これまで書いた原稿と出版した本と執筆中の新作と、その他諸々を持ち込んで、後宮の住人となったのだった。
「ローザリンデ・グリツィーニエと申します」
与えられた宮殿で、陛下の訪問を受けたので挨拶する。
この国の慣例で、後宮に入ったら、陛下と一度昼に顔を合わせる事になっていた。
そこで陛下に気に入られたら、夜伽を命じられる。
この時気に入られなくても、後で陛下の気が変わればお相手出来る可能性がある。
しかし、私は別に皇后の座に興味は無いので、気に入られなくても構わない。
万が一気に入られたら、命の危険があるかもしれないし。
「其方が、『キルシュバーム』か?」
私のペンネーム! 何で知ってるの?!
「あ、あの……」
「『ブラウローゼ』シリーズの著者の! 朕の愛読書なのだ! まさか、このような形で会えるとは!」
陛下がグイグイ迫って来る。
え? 何? 愛読書? BLですけど?
皇帝陛下が?! BLですけど??
「わ、私が筆者だと」
「どんな人物なのか知りたくて、調べさせたのだ! 宮廷小説家として召し抱えようと思っていた!」
疑問の言葉を最後まで言う前に、陛下は目を輝かせて説明してくれた。
宮廷小説家って、何だろう? 初めて聞いた。
「そ、そうだったのですね」
「そうだ! 会わせたい者達がいるのだ! 入って来い!」