5話:気まずさと入寮の話
「エイジくんはSランクにするんだよね」
入学式が終わり、食堂へ向かう道中ゲイツが先ほど貰った表彰状を笑顔で眺めながら話しかけてくる。
「いや、俺はGランクにする。Sランクのカリキュラムは人間が熟せるようにはできていない」
新入生向けに配られた資料を読みながら俺は即答する。
アイザック魔法学校ではランク分けによって授業運営などを行っているらしく、S,A,B,C,D,E,F,Gの8ランクが存在する。序列としてはSランクが一番上でGランクが一番下となっており、授業内容や活動内容のレベルがその序列に応じて変化する。
各ランクの上限人数は以下の通りである。
S:40名 A:400名 B:800名 C:2000名 D:4000名 E:6000名 F:6000名 G:制限なし
また、このランク分けされた中で35-40人ほどのクラスに組み分けされ、クラス単位で授業などを受けることになる。
先に受けた学力試験の結果によってランクの希望ができるらしく、表彰された俺やゲイツは間違いなくSランクを希望できるが、俺はGランクに魅かれていた。
カリキュラムを読む限りSランクは学校に少なくとも10時間は拘束されるのに対してGランクは3時間程度しか拘束されない。3時間も拘束されるのは苦行でしかないが10時間に比べたら天国のように思える。加えて、Gランクは序列として最下層に位置するためそれだけ授業内容が簡単になるということは容易に想像できた。
そういった理由から俺はゲイツの問いに答えた。
「やっぱり面白いね、エイジくんは」
少し驚いたような表情をしながらも、何か納得したようにそう述べる。
「ところで、さっきの――」
「イヤァ、キョウハテンキガイイネェ」
ゲイツが次の話題に移ろうと、後ろを歩くエリスに話しかけようとしたところで俺はその言葉を遮るように言葉を重ねる。
先ほどの表彰で俺の隣に立った少女――エリスに似たエリカという少女――の話をしようとしたのだろうが、当のエリスは沈黙を貫いており明らかに様子がおかしいのでそれを察した俺はこの話題は話すべきではないと判断し話を逸らした。
「え? あぁ、確かにいい天気だけど……」
ゲイツは少し不思議そうにしながらも廊下の窓から見える空を見ながらそう答えた。
「ここの食堂、とってもおいしいらしいよ。メニューもたくさんあって、毎日悩んじゃうね」
エリスの隣を歩くノアは返事のないエリスに対して一生話しかけているみたいだが、何か察するということはできないのだろうか。
そんな気まずい空気のまま俺たちは食堂で昼食を取り、今日行う行事は学力試験と入学式のみであったため、食堂を出たところで解散し俺とゲイツは男子寮へ、ノアとエリスは女子寮へ向かった。
今日のところはあの少女に関する話題を何とか阻止することができたが、いずれその話題について触れる日が来るだろうか――
ゲイツの提案で男子寮に向かう前に少し学内を探索することになった。
今朝俺たちが通ってきた大きな正門を抜けるとその正面には本堂と呼ばれる規格外に大きい建物が見え、正門から本堂までは200メートルほどの並木道が続く。
この本堂では魔法学に関する授業や実習を行い、ほとんどの学内施設は本堂の内部に存在する。入学式を行った大聖堂もこの本堂に隣接している。食堂に関しては本堂の中に20か所ほど用意されているらしい。
正門から見て本堂の右側に女子寮、左側に男子寮が存在しており、渡り廊下のようなもので本堂と繋がっている。
学校の敷地は5キロ平方メートルほどで、その大部分は森や湖が覆っている。
特に学校の東に位置する森は禁忌の森と呼ばれるらしい。この禁忌の森は学則などで立ち入りを禁じられているわけではないが、森に出る魔物などがあまりにも危険すぎるため教職員含め誰も立ち入らないという。
そんな広大な面積を誇る学内を全て見て回ることなど不可能であるため、俺とゲイツは医務施設の場所など今後訪れる可能性がある場所を見て回り、最後に興味本位で禁忌の森の入り口だけ確認して男子寮へ向かった。
『はい、新入生はこっちに並んでねー』
男子寮につくと入り口付近には新入生と思われる男たちで溢れかえっていた。
その人の波を肩の部分に6本の線が入った制服を着て、胸の部分に6個の星を付けた男子生徒たちが誘導している。おそらく最高学年の生徒たちだろう。
男子寮は2人1部屋で、男子寮で手続きを終えた順番で部屋が決まったため俺とゲイツは同じ部屋になった。
「ランク分けの申請、今日中にしなきゃいけないみたいだね……。うん、僕もエイジくんと同じGランクにするよ」
「そうか」
ゲイツまで巻き込むつもりはなかったが、彼がそうしたいのならば止めることはない。実際ランクの意味をあまり理解していないというのもあるが。
俺たちは学力試験のときにも用いたタブレット端末のようなもの――機能としては元の世界にもあったタブレット端末に酷似しているが、タブレット端末にしてはあまりにも薄すぎるためのようなものと俺は呼んでいる――が配られていたのでそれに入力してランクの申請を行ってその日は就寝した。