4話:試験と式典の話
アイザック魔法学校に到着した俺たちは一息つく間もなく、300人ほどが収まる大講義室に案内されて学力試験を受けるよう指示された。
例年新入生に対して行われている学力試験らしく、ゲイツたちはその存在を知っていたらしい。
俺は魔法学校に関する下調べを書物のみで行っていたため具体的にどのようなカリキュラムで学校が運営されているのかを把握しておらず、この学力試験についても到着してから存在を知ったが、確かに入学前の入学試験のようなものは一切行われていなかったためクラス分け用の何かであろうと察しがついた。
試験開始前に50ページほどの問題冊子と10枚ほどの白紙の紙が与えられ、試験開始と同時に各々の目の前に映し出されたタブレット端末のようなものに答案を打ち込むという方法の試験であったが、どれもメモ書きなど必要のない難易度の問題であったため俺は白紙の紙は使わずに問題冊子を読んで直接答案を入力していく。
試験時間は3時間となっていたが、内容が元の世界の高校入試レベル以下だったため俺は15分で解き終えて残りの時間を寝て過ごした。
試験終了の10分ほど前に目を覚ましたが、驚くことにペンの音やページをめくる音が鳴り止んでいない。
隣に座るノアの顔を一瞬覗いてみたが顔面蒼白している。
確かにノアの学力が著しく低いことは察していたが、この世界の平均学力自体がそもそも低かったのかもしれない。少しだけ周りを見渡してみたがこの講義室内で俺以外にペンを置いているのは見直し作業をしているであろうゲイツのみであった。
「いやぁ、さすがは最高難易度と謳われるだけあるね、解き応えがあったよ」
試験終了後、ゲイツがすました顔でそう話しかけてきた。
「これで最高難易度、か」
思わず呟いてしまいゲイツに不思議がられてしまったが、変に怪しがられても困るのでこれ以上話は広げない。
他2名は出来が悪かったらしく――
試験会場の講義室を出ると新入生は全員、大聖堂と呼ばれる大ホールのような場所に集められた。新入生は約2万人ほどいるらしくその全員が収容できているため凄まじい広さである。
「新入生の諸君、入学おめでとう。教職員一同諸君の入学を心より歓迎し、祝福する。我、アイザック魔法学校第13代学校長、名をアイザック=レムニスと言う」
すべての新入生が大聖堂に集まると、学校長の挨拶で式典が始まった。入学式が始まったのだろう。
「浮生は夢の若しとあるように、泡沫夢幻の生涯においてこの6年間というのは――」
案の定横を見るとノアとエリスの口はぽかんと空いていた。ゲイツはなぜかキラキラした目で校長の演説を聞いていたが正直俺でも内容をギリギリ理解できるレベルだった。
『学校長ありがとうございました。続きまして成績優秀者の発表に移ります。新入生の皆さんは着席してください。』
その場にいる大半の意識がどこか遠くへ行ってしまう寸前で校長の長話が終わり、司会役のアナウンスが入った。
新入生の後ろに突如現れたパイプ椅子に少し驚きながら新入生は着席する。
『時間の都合上上位3名のみを発表し、当初発表予定だった上位10名は後日学内掲示いたします。名前を呼ばれた人は登壇してください。』
『第3位、463点:レインハルト=ゲイツ』
少し微笑みながらゲイツが席を立つと周囲の女子生徒が騒めき始め、黄色い声援まで聞こえた。
ゲイツは近くの女子生徒に愛想良く手を振りながら、列から抜けて学校職員の案内を受ける。
『第2位、498点:ニコラス=エリカ』
一瞬エリスが呼ばれたと思ったが人違いだった。肝心のエリスは俯いている。
ともかくこの試験は500点満点だったのだろう。この世界の平均学力を疑ってしまったが、俺のいた講義室のレベルが低かっただけらしい。
俺は内心ホッとして――
『第1位、1000点:エルミート=エイジ。ま、満点です』
周りが騒めくどころの騒ぎではなかった。
第1位として名前が呼ばれることは薄々感づいていたが、こんなことになるなら調整しておけばよかったと心底思う。
俺は渋々重い腰を持ち上げて立ち上がり、近くの学校職員のもとへ向かった。
俺たちは大聖堂の中央付近に座っていたが、それでも壇上まで700メートルほど距離があったため、俺は学校職員の転送魔法によって直接登壇した。
「すごいんだね、エイジくんは。」
一足先に登壇していたゲイツは他の新入生の方を見ながらも、ゲイツの横に現れた俺に嬉しそうに話しかける。
もう1人の登壇者は前の方に座っていたらしく、転送された俺よりも後に自分の足で登壇してきた。
登壇してきた少女に俺たちは驚かされる。
ポニーテールのエリスそのものだった――