3話:出会いと到着の話
「僕はゲイツ。レインハルト=ゲイツ。よろしく」
俺の向かいに座った白髪の青年は早々に自己紹介をした。
「私はノア、こっちはエイジよ。よろしくね」
俺は睡魔との戦いによって2人の挨拶を腕を組みながら頷いて聞くことしかできい。ノアが俺の紹介までしてくれたことには驚いたが珍しくファインプレーだ。
「2人は、恋人同士なのかい?」
この男、デリカシーというものが欠落しているのだろうか。
ノアは隣で咄嗟に否定しているが、俺は反射的に2回も頷いてしまった。
「ふーん、青春だね」
ゲイツが意味深にニヤけながら呟く。
出会って早々に盛大な勘違いを生んだみたいだが俺にそれを弁解する気力は残っていなかったため、ノアに後を託す形で俺は眠りについてしまった。
『――ザック魔法学校、アイザック魔法学校。左側のドアが開きます。』
1時間半ほど寝ていたのだろうか、目的地到着を知らせるアナウンスとともに俺は目を覚ます。
「おはよー、エイジ」
「おはよう、エイジくん」
「おはようございます、エイジさん?」
「あぁ、おは……」
最後に聞こえたのは可愛らしい女の子の声。目を向けるとゲイツの隣にツインテールで小柄な少女が座っている。
なぜか最後に疑問符が付いたような挨拶だったが、疑問符をつけたいのはこちらである。
おそらくゲイツが乗ってきた後の駅で乗ってきたのだろうか、ともかく早く降りなければならないとのことで、正式に挨拶する間もなく俺たちは荷物を持って電車を降りた。
「あっあの……、私ニコラス=エリスといいます……よろしくお願いします……」
学校職員に荷物を預けてから学校へ向かうらしく、荷物を預ける長蛇の列で順番待ちをしているところでエリスが自己紹介を始めた。
「あぁ、エルミート=エイジだ、よろしくな」
1時間半ほどの仮眠によって気力をある程度取り戻した俺は元気に挨拶を返す。
「不愛想な奴だけど、悪い奴じゃないから怯えなくていいからねエリスちゃん」
ノアが補足説明のように割って入ってきた。
最大限の自己紹介を不愛想などと言われてしまってはどうしようもない。
確かに、前の世界を含めたら30年近く人とまともな会話をしてこなかったが、小説の登場人物が難なくこなしている会話という行為がこんなにも難しいとは思わなかった。
今見える距離にいる人だけで1万人ほどだろうか、かなり大きな駅ではあるが荷物の受付を待つ長蛇の列で駅構内のほとんどが埋まってしまっている。
今わかったことだが、俺は人混みというものが苦手らしい。非常に気分が悪い。
「こんなに並んで、魔法でどうにかできないのかね」
「入学前の子供たちに割ける人員がいないんじゃないですか?」
「見た目とは裏腹に現実的なことをいうのねエリスちゃん……」
これが世間話というやつか、俺が入る隙のない完成された言葉の連鎖だ。会話の練習は今後の課題になってくるかもしれない。
3人が他愛もない会話をしているうちに列は進み、受付の職員に荷物を預けることができたため俺たちは学校の方へと歩き出した。とは言え、もはや元の長蛇の列を保ったまま俺たちは流されるように進んでいる。