1話:転生と合法ニートの話
そうして俺の異世界転生の儀式が終わり異世界ライフが始まったわけだが、転生という名の通り転生先の世界における俺の母親から俺が生まれるところから俺の人生は始まった。
リリスとの無駄話を繰り広げている間に読んだ分厚い本によると、俺が通ってきたあの道は母親の子宮に繋がっていたらしい。ただし、母親の胎内での記憶は無く俺の最初の記憶は生まれた瞬間の助産師の声である。
ここは母親の顔や声であるべきだろうとも思ったが、生まれた直後は目が見えないし、出産という一大行事を終えた母親にもはや先陣を切って話す気力は残っていなかったため、あの瞬間で一番元気な助産師の声が最初に聞こえたのだろう。
本によるとこの世界の名は ユミルニア。国名というわけではなく、おそらく星の名前のようなものだろう。ユミルニアで暮らす人々は魔法が使えるらしく、転生者も魔法が使えるように生まれ変わるらしい。
天使リリスが言っていたように記憶は引き継いでいるが、元居た世界のことを絶対に言ってはいけない、ということではなく、自分が転生者であることや他の世界から来た人間であることを言わなければ良いだけで、例えばある知識として元居た世界のことを引用することは禁止されていないらしい。
確かに、あの時リリスが俺に本を投げたのはかえって理にかなった行為だったのかもしれない。
ユミルニアにおける俺の名前はエルミート=エイジ。エルミートが姓でエイジが名だ。
不覚にも元の名前と似たような名前を付けられてしまったが、俺自身名前というものは個人を識別するだけのものだと思っているため特に気にしていない。
家族構成は父:ルーベン、母:イリス、姉:ローラの4人家族である。
父は筋骨隆々なおっさんという感じで大工をやっている。母はとても温厚な美しい人でどことなく前の母親を想起させる。姉は俺の4つ上で母に似て美形である。
ユミルニアで俺が生まれた街はカイン。比較的都会であるらしいが、街の風景は俺の想像上における中世ヨーロッパのイメージそのものであるため、この世界の技術は元居た世界ほど発達していないのだろうと察しがついた。
ユミルニアには一般教養を含む学術を教えるような学校は存在せず、教育機関として存在するのは魔法学校のみであり、魔法学校に入学するまでの期間は家庭内、もしくはいわゆる塾や家庭教師などによって一般教養や学術の教育を行う。
生まれてから数週間経ったところで自分が言葉を発せることに気が付いたが、両親を驚かせては悪いと思い普通を装って様々な成長の発覚を調整した。28歳だった俺が赤子の真似をするのは滑稽だっただろうが、そんなことを知っているのは俺自身のみだったため、羞恥心はすぐに消えていた。
俺の家庭における教育は、6歳の誕生日を迎えると同時に母親による指導で始まったが、ユミルニアの文明的な発達が元居た世界よりも遅れていたことから俺にとっては簡単すぎたため、ユミルニアの歴史に関する教育以外は不必要であると家族会議によって決定した。神童が生まれたと両親は驚きながらも喜んでいるようだった。
魔法学校には15歳から入学するためそれまでの約9年間は、1日3食の家族との食事と毎日1時間の歴史関連の勉強を行いそれ以外の時間はほとんど寝て過ごしていた。元居た世界とほとんど変わらず規則的なニート生活を今度は合法的に堂々と行っていたのである。
そして時は流れ今日は15歳になってから初めて迎える4月1日。
魔法高校の入学式の日である。