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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
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救済の境界線

 チチッ!


 鳴き声を上げたファイアーラットが掘り出した女の子に飛び掛かる。

 とっさにその子を守る形で抱きしめた私の背後で爆炎と爆風が吹き上がった。


「ねーちゃん、そいつ連れて逃げろっ!」

「りょーかいっ!」


『お姉さま、ナオ、こちらでも補助します。姉妹召喚(シスターコール)リング、映像転送機能、全姉妹に自動転送設定、実施』


 私は固くなっていたその子の手を外してその子が抱いていた白猫を手元から取り出す。


 ギュヒッ!


 背後から聞こえるファイアーラットの鳴き声。

 服の胸元から無理くり猫を中に入れると女の子を背に乗せて手を肩にかけてからお尻に手を回して持ち上げた。

 柔らかい感触と静かな寝息が聞こえるが正直それを堪能してる暇もなく森の中に積もった雪の上に足を踏み出した。


「ナオッ! 先に進んでるからっ!」

「おうよっ!」


 頼もしい妹の声が後ろからする。

 さらに吹き荒れる爆炎と爆風。


「いってぇてっ! てめぇはこれでも食らいやがれっ!」


 どでかい爆発が起きてその勢いに背を押される。

 自分と女の子が雪に放り出され一瞬意識が遠のいたのを認証フィルタの排除と再設定で強制的にしのぐ。

 前のめりになってしまったことで猫をつぶしてないか一瞬心配になったが大丈夫だったらしい。


「いっつぅ、ナオっ!」


 振り返った私の目に映ったのは左肩から血を流すナオが燃え上がった火の玉をファイアーラットにぶつける瞬間だった。

 爆発にのけぞるファイアーラット。

 そのがら空きの喉に下から猛然と飛び上がった月影が食らいつく。


『『『『ナオっ!』』』』

『『『『月影っ!』』』』


 さらに大きくのけぞったファイアーラットの首から牙を離した月影がそのままファイアーラットを踏み台に大きく跳躍。

 くるりと一回転してから私の傍に降り立った。

 ファイアーラットの巨体がそのまま後ろ向きに雪の上に倒れた。

 そしてそのまま動かなくなった。

 これで死んじゃいないんだろうな、なので一々「やったか」とかは言わない。

 本当ならここで止めを刺すべきなんだろうけど……


「…………」


 横を見ると月影が私を見上げていた。


『ナオの戦闘センスは群を抜いてますわね。現在だと自身の炎が自分を焼かないのを逆手に取っています』

『それはいい、シャル。ナオと月影を急いで転送……』

『まてっ! 今、オレや月影がここを抜けたらねーちゃんたちを誰が守るんだ』


 かまれたと思われる肩口を抑えながらナオが私たちの方に近づいてきた。


「いったん逃げるぞ、ねーちゃん」


 ここは逃げの一手か。


「わかった」


 とは言ったもののどこ行けばいいのよ。

 私がそう途方に暮れていると月影がサクサクと雪の中を歩き始めた。


「ははっ、今回は二人に助けられてばかりだわね」

「余計なことしゃべんな。あのくそネズミが起きてくる前に逃げんぞ」

「りょーかい」
























 先ほどの戦闘から約一時間。

 ファイアーラットの追撃に注意しながら私らは森林の中、深めの雪を踏みながら進んだ。

 晴れていた天気はいつの間にか崩れ、周囲には強めの風が吹き雪が舞っていた。

 足跡とか追撃されんだろうなとおもってたけどこの分だと消えそうだわね。

 先行する月影についていくと山中の壁面にぽっかりと空いた穴を見つけた。


「ここかね、月影」


 猫に導かれて私たちが中に入るとそこは土がむき出しの洞窟だった。


「やっとやすめんな」


 白猫を抱いていたナオがどかっと壁に背を預ける。

 一応着ていた服を破って噛まれた肩口は縛りはしたけど消毒も治療も満足にできてないので少しでも休めるのは本当にありがたい。


「せやね」


 私の方も汗だらけになった状態で背負っていた女の子を下におろした。

 いや、ほんと参った。

 私自身に力がないってのは根本的な弱点だというのは熟知していたつもりだったんだけどね。


『シャル、まだ見てるよね』

『ええ。今こちらの方で治療用のセットと誰を増援に送るか決めています』

『よろしく』


 即決が多いシャルにしては判断に迷いが見えるけど何かあるのかな。


『何かあるのかね』

『原因は不明ですがそちらの力場に乱れがあります。恐らくですが吹雪と合わせてマナが荒れている状態です。このまま状況が悪化すると魔導が動作不能に陥る可能性があります』


 マジか。


『通信できなくなるかね』

『そちらはスキルにかかるところなので多分大丈夫です。ですが姉妹召喚リングにかかる能力は吹雪が明けるまで使えなくなる可能性が高く……』

『あー、相互に召喚できなくなるのか』

『はい』


 二人の会話が止まると沈黙が場を包んだ。

 助けた女の子の静かな寝息が聞こえる。


『この子らは姉妹召喚リングでは呼べない?』

『現時点ではそうですわね。少なくとも誰のリストにもその子の名前はありませんでした』

『付属品として私やナオと一緒にってのはどうよ』

『それも検討しました。そこにいる白猫位であれば問題なくいけるでしょう。ですが、まるごと人間一人となると別途認証が必要になるようです』


 元が私の認証フィルタと月華王(げっかおう)を用いての誤認識を利用した場所移動だからか。

 ここまで結構便利に使えてきたものだから制限とか意識しなかったね。


『ですから現状その子をこちらに呼び出すのは難しいと判断します。ですので……』


 シャルは一呼吸おいてから言葉を続けた。


『私はその子を放棄しお姉さま達のみをこちらに呼び戻す提案をしました』


 ははっ、シャルらしいっちゃらしいね。


『それに対して幽子お姉さまが断固反対されたことから私たちの間で意見が割れました』

『だって、優ならその子見捨てないもの』


 さすが幽子、私のことを理解してる事。

 とはいえシャルの提案も完全に間違ってるってわけでもないだよね。

 さて、どうしたもんだか。

 視線をナオの方に向ける。

 肩をかまれたナオの衣装の肩口が赤く染まっている。

 しかも二人ともスカートなものだから寒い。

 兵士詰め所は魔導による火を使わない暖房が動いていたから寒くなかったんだけど外だとキツイ。

 まぁ、私の場合は最悪は認証フィルタで感覚遮断してしまうって手もあるんだけど、それやると体壊しやすくなるので最後の手段なんだわ。


『どちらにしろナオの怪我がヤバい。とりあえずナオを回収して他の子を送ってくれないかね』

『はい、ステファリードとマリーベルに今準備させております。もう少々お待ち下さい』


 私が姉妹通信でそんな会話をしているとナオが鋭さを含んだ懐かしい瞳で私を睨みつけた。


「おい、ねーちゃん達。いっとくけどオレはこいつ見捨てては帰んねーからな」


 そういってレオナと呼んだ少女を顎で示したナオ。


「つってもシスティリアにあのネズミいれるのも駄目だってのもわかってる。だからよ」


 ナオが私のそばに寄ってきて私を見上げた。


「あのネズミ、ここで倒すぞ。ねーちゃん」


 ああ、やっぱそうきたか。

 となると次に来るのはあれかね。


「「オレが全部救済して(すくって)やんよ」」


 私がナオの言葉に同時に声を重ねるとナオが心底嫌そうな顔をした。


「それ、きもちわりーからやめろよな」

「ははっ、わるいね」


 まいったね。

 こうなると咲と違ってナオは折れてくれない。

 あの時心を折りきらなかったのがここにきて出てきたかたちだ。


『撃退するのであればむしろシスティリアの下層にファイアーラットを取り込み、私がグラビィティで殲滅したほうが確実なのですが……』

『それだとヤエや沙羅(さら)ねーちゃんたちがせっかく作った田んぼが駄目になんだろーが』

『オラは別に構わねだが。田んぼはまた起こせばええ、もう一回育てんのはいたいけんどもおめさんの命にゃかえらんねべや』

『そうですよ、ナオちゃん怪我した状態じゃないですか』


 ここで倒そうとするナオに心配を口にするヤエと沙羅。


『二人とも馬鹿なんですか。いえ、馬鹿姉どもでしたね』


 ここにきてふいに振ってきたアカリの罵倒に皆が黙った。

 なんだかんだ言ってシスティリアの構築で一番苦労してたのはアカリだ。


『三度は言いませんからね。耳かっぽじって聞け、この馬鹿姉ども』


 全姉妹に聞こえてるであろう状態でアカリの声が私らに届いた。


『壊れたもんは直して見せます。でも、いなくなった姉妹は直せません。だから……』


 不意に目の前に窓が立ち上がった。


<全姉妹一斉アンケート>


 『問:危険を冒して都市を壊してでも全てを救済したいか』


 1:はい

 2:いいえ


 およ、カウントダウンが今回は十秒と早い。

 あっという間に十秒がたち結果が表示された。


<全姉妹一斉アンケート 結果>


 投票率:94%


 1:84%

 2:16%


『これが答えです。ちなみに私は2に入れました、このばーかっ! どいつもこいつもばかばっかですね』


 そういうアカリの声には怒りは含まれていない。

 ははっ、これだからアカリは可愛いんだよなぁ。

 そんなことを考えていた私の裾を誰かがツンツンと引っ張った。


「おねえちゃん、相談は終わりましたか」

「いや、まぁ、もめてたんだけどって……」


 振り返ると胸元に月影を抱っこした月音がいた。


「月音ちゃんや、月の湯で待ってるって言わんかったかね」


 私がそういうと月音はちょっとバツの悪そうな顔をした後でちらりと舌を出した。


「きちゃいました」


 ははっ、きちゃったかー。

 私のリングをたどってきたわね、この子。

 かわいいのはかわいいんだけどさ、本当言うこと聞かんね、月音は。


「よぉ、月音。連れてきてるか?」

「うんっ!」


 月音がナオに元気よく答えると月音の頭の上にみーくんがひょこんと顔を出した。

 システィリアの音楽隊が全部外に出てきちゃったか。

 どうなるんかね、これ。


『月音、その子をシスティリアに連れ込むことは出来ませんか』

『できる。でも……』


 通信で聞いてきたシャルの言葉に月音が答えた。

 月音の視線が洞窟の出入り口をとらえる。


『アレが邪魔』


 チチチチチチチチッ!


 ファイアーラットが洞窟の入口から覗き込んでいた。

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