表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
93/170

猫と怪獣

「おまたせ、出前もってきたよ」

「まってたっ!」

「おなかすいたー」

「くー、やっぱお昼が一番楽しみだわ」

「今日の日替わりはなんだろ、イナゴじゃないといいんだけど」


 私とナオが着くやいなやおなかをすかせた妹たちが周囲に群がった。


「おい、おめーらテーブルの上に置くからちょっと下がれ」

「「「「はーい」」」」


 ここはシスティリアの外、海岸から少しだけ離れた山の麓。

 雪の広がる森の中にステファがこしらえた木製の兵士詰め所だ。

 簡単な魔導での監視もされているけれども何かあった時や人に出会った時に困るということでステファの部下についた兵士の子らが順番に監視業務にあたっている。

 たまに魔獣が襲ってきたりもするらしいけどステファとマリーの訓練が役に立ってるのか、今のとこ一名の脱落もなく無事に過ごせている状態だ。

 そんな詰め所の奥の方にはレプリカの夢幻武都(むげんぶと)が設置してあり私とナオはそこを通って出前を届けに来たわけだ。

 一応、このレプリカが破壊されたときに備えて土中にも防御をつけた状態でレプリカの夢幻武都を埋めてある。

 なので、万が一詰め所内の夢幻武都が使えなくなった場合にはシスティリアの方から全員を姉妹召喚と同時にこの詰め所は放棄、状況によっては爆破する手はずとなっている。

 そんなこともあって私とナオが並べた出前の食事は食事の挨拶もそこそこにした兵士の子たちの胃へと消えていった。


「むぐっ」

「ちょっとはおちついてくえよ。ほら、これ飲め」


 掻っ込んだ食事をのどに詰まらせた妹にその子より見た目は小さいナオが携帯していた飲み物をコップに移して手渡しした。


「ぷはっ。す、すいません」

「別にいーけど落ち着いて食え。とられりゃしねーんだから」

「はいっ!」


 ナオってこういうとこ見るとほんと面倒見がいいんだよね。

 火浦でヒャッハーしてた時もそういうとこあったんかね。

 そんな風に食事が進む妹達を見ていると四人の視線が私の後ろに向いていることに気が付いた。

 ははっ、なんとなくわかったよ。


「…………」


 振り返るとそこには月影が香箱座りしていた。


「おめぇ、でてきちゃだめだろうが」


 そういいつつ月影を撫でるナオ。

 目を閉じつつも月影は動こうとしない。


「月影、月音が心配してるんじゃないの?」


 まぁ、話しかけても答えられんわな。


『月音、こっちに月影来てるんだけど』

『あ、いつの間に。おねえちゃん、月影、月の湯まで連れてきてもらえませんか。戻ってくるまで待ってますから』

『あいよ』


 そんなやり取りをした後で皆の方を見て私は口を開いた。


「最近の様子とか聞いてみたかったんだけど、みんなが食べ終わったらこの子連れて帰るわ」

「うん、それがいいとおもう」


 まぁ、月影は抱っこできて手で運べる猫なのできちんと説得すりゃ大丈夫でしょ。


「つーことでもうちょいしたら帰るよ、月影」


 私がそういうと月影が兵士詰め所の出入り用のドアの前まで移動してがりがりとやり始めた。

 ふーむ、この子がこういうアピールするのは珍しいね。


「外に出たらあかんよ。魔獣がちょいちょい襲ってくるし、雪と森しかないしね」


 一応、この子も怪獣分類なわけで簡単にはやられんだろうけど何かあったら月音が泣くからね。

 私がそういうと月影は私の方を見たままじっと動かなくなった。


『お姉ちゃん、今ちょっと大丈夫?』


 不意にリーシャが話しかけてきたので視線をナオの方に向ける。


「ナオ、ちょっと雑談するんで月影お願い」

「わかった。つってもそのうちあきらめるだろうからほっとくぞ」

「それでいいよ」


『それでどないしたのよ』


 私がそういうとリーシャが返事をする。


『お仕事中ごめんね』

『それは大丈夫よ。そんで今日はなんの話よ』

『あのね、アカリちゃんにお願いして作ってもらったのがあるんだけどちょっと見てもらえないかなって』


 ほぉ、リーシャがアカリに直接頼んだのか。

 まぁ、都市の領主はリーシャなわけだし今後はそういうのも増えるだろうからありだわね。


『ええけど、なにを頼んだのよ』

『あー、多分使ってみたほうが早いと思いますよ』


 私とリーシャの会話に割り込んできたアカリ。

 少し首を傾げつつ私が聞く。


『ちょっと待ってね、沙羅ちゃん、これでいいかな』

『えっと選択肢の内容ちょっといじってもいいですか』

『うん』


 なにやっとるんだか。


『よしできた』

『ちょっと、リーシャ姉に沙羅姉、使うのはいいですけどいったい何を聞くつもりなんですか』


 どことなくそわそわした声音のアカリ。


『『ないしょ』』


 それに対してのリーシャと沙羅の声がそろう。


『じゃぁはっじめるよー』


 リーシャの声が聞こえた直ぐ後に目の前にウィンドウが開いた。

 なになに。


<全姉妹一斉アンケート>


 なるほど、妹召喚リング経由で魔導使って展開してるっぽいわね。

 ええっと、「アカリちゃんが月の湯で妹たちを盗撮していることが判明しました。罰ゲームを出したいと思いますが次のどれがいいですか」


『え、冤罪ですっ! どこに証拠が!』


 ん、下に証拠ってついてるわね、選択してみると脱衣所で服を脱いでる途中の私の映像が数秒流れた。

 つーか私のもとってたんかい、興味ないとか言ってたくせに。


『アカリさぁ、おねーちゃんの裸に興味あるのかね』

『ねーよっ! ま、魔導装置のテスト用にとっただけでっ、はっ!?』


 アンケートの下の方に追加情報が増える。

 証拠その二、音声自白とあるね、選択するとつい今やったばかりの音が流れる。

 つーか今のやり取り録音したのか。

 なんというかこれ作りこんだのアカリなんだよなぁ、きっと。

 続いてその下に選択肢が出現した。


 1:ククノチで一日メイド服奉仕作業

 2:下層で魔導機なしで一日農作業

 3:一週間、優お姉ちゃんの面倒を見る

 4:好きな人に告白する


『おい、三番の選択肢なんぞ』

『待って、リーシャ姉、最後の奴……』


 私の質問は慌てた様子のアカリの声にかき消された。


『アンケートスタートっ!』


 私の質問をスルーしたリーシャが掛け声をかける。

 するとウィンドウに三十が表示され数字が減り始めた。

 なるほど、カウントダウン付きか。

 とりあえず一番を指で触ると選択肢に枠が付いた。

 ナオや兵士たちも目の前の空中を指で押してるとこ見ると本当に全妹に出てるっぽいわね。

 なるほど、こういう作りか。


『集計しゅーりょーっ! 結果発表っ!』


 ノリノリなリーシャ。


<全姉妹一斉アンケート アカリちゃんへの罰ゲーム結果>


 投票率:87%


 1:16%

 2:11%

 3:37%

 4:36%


『ひでぇ選択肢だった』


 アカリのボヤキも分らんでもない。


『ちょっと残念だったね』

『私はほっとしたようなきもします』


 リーシャと沙羅の反応も微妙だわね

 というか結構みんな答えたみたいだわね。

 面白がっていれたね、これ。


『とまぁ、こんな感じなの』

『なるほど。会議のメンツだけじゃなくて姉妹全員に聞いてみたいときとかかな、使うのは』

『うん。そのうち投票とかにも使えるかなとおもってアカリちゃんに作ってもらったの』


 なるほどね。


『いいんじゃない』


 作った本人も自分が最初の題材にされるとは思わなかったろうけど。


「おい、ねーちゃん、あれっ!」


 ナオの声にふと視線をさっき月影のいたほうに戻すと月影の姿が消えていた。

 代わりにナオが指さす最近試作したばかりのガラス窓の外、雪原の上に白黒柄の猫が座ってこっちを見ているのが見えた。


「あっ、いつの間に。ナオ、月影連れ戻しに行くよ」

「しゃーねぇなぁっ!」




































 雪原の上を月影が先行し私たちが追いかける。

 少し深めの雪を踏みながら進むのは骨がいる。


「月影っ! まちやがれっ!」

「おーい、どこに行こうとしてるのかね」


 脱走した張本人の月影は私たちが付いてくるのを見ながら進んでいるのか、しばらく進んで座っては待ちを繰り返えす。

 これ、確実にどこかに誘導してるわね。

 しばらく進むと森林の中、木の隙間の日が差し込んでいる場所で月影が止まる。

 そこには山の上の方から落ちてきたのか大きな雪だまりができていた。

 私たちをここまで誘導した月影はその雪だまりを前足で掘り始める。


「なんやろ、なんか埋まってるんかね」

「しらねーよ、おい月影。ちょっとそこどけろ」


 ナオがそういうと月影が横に飛びのいた。

 そのまましゃがみこんだナオが適当な大きさに雪を掴んで雪玉にする。

 そしてその雪玉を燃え上がらせると、それを雪だまりに投げ込んだ。

 燃焼していた雪玉が結構な温度だったのか周囲にもうもうと煙が立ち上る。


「ちょ、ナオ。中に何か大切なものがあったらどうすんのよ」

「そこらは手加減してるつーの」


 ほう、昔と比べると器用になったこと。

 やがて煙が晴れるとそこには上下逆になった人の足が雪から生えているのが見えた。

 出てきたのは足だけで体の方はまだ埋まったままみたいやね


「げ、なんだこれ」


 私が聞きたい。

 これが雪じゃなくて水面だったら殺人現場だわね。

 つーかいきてんのかな、これ。

 そんなことを考えていると横に避けていた月影が戻ってきて再び足の周囲を掘り始めた。

 その後、兵士を二人加えた私たち四人で掘り進めること数分、それがついに顔を見せた。


「マジか、レオナじゃねーかよ」


 雪から掘り出されたソレはファイブシスターズくらいの歳の少女と白猫だった。


「知り合いかね」

「まーな」


 ピンクがかった金髪、たしかストロベリーブロンドだっけか。

 掘り出されたその子はどこかで見たような整った容姿に北国の民族服っぽい服装をしていた。

 腰には何か壊れた銃みたいな変なものを身に着けてるけどなんやろね。

 エルフほどじゃないけど耳が少し尖っているとこをみるに亜人なのかね。

 そして、その子は白猫をぎゅっと抱きしめていた。


「なんで女の子が雪に埋まってるんよ」


 口元に耳を近づけるとかすかに吐息が聞こえた。


「しかも寝てるんかい。とりあえず詰め所に運ぼう」


 私がそういった瞬間に姉妹通信でシャルの声が聞こえた。


『お姉さま、お待ちをっ! 今、詰め所の方に怪獣が向かっていますっ!』

『はっ!? なんでまた、今までそんな気配なかったじゃん』


 何かフラグでも踏んだか。


『時間がありません。残ってた兵士たちに夢幻武都を持たせ姉妹召喚で回収します、よろしいですね』


 何かあったときの打合せ通りやね。

 んー、この掘り出した子、夢幻武都経由で運ぶつもりだったんだがしゃーないか。


『オーケーよ。やっちゃって』

『緊急招来実施っ!』


 一緒にいた兵士二人も消えた。


『成功しました、次はお姉さまたちですっ!』


 嬉しそうなシャルの声。


『続いてお姉さまたちを……』

『ストップっ!』

『どうなさいましたか』


 私の急な静止にシャルが怪訝そうな声を出した。


『外で女の子と白猫を見つけた。この子らも一緒に転送できんかね』

『それは原理上無理です。お姉さまの姉妹でないと』

『あ……』


 私たちの前にそれは出現した。


『どうなさいました』

『シャルの言う怪獣とやらに見つかったっぽい』


 それは全長十二メートルほどの巨大な赤いネズミ。

 さすが幻想世界にして怪獣の世界、アスティリア。

 安全圏(システィリア)から一歩外に出るとこうなるか。


『ぱっと見十二メートルほどの赤い鼠、少し透明で袋があってしっぽが短い』


 というかデザインがまんまでっかいチュータそのものだわね。

 あの子はここまで凶暴な顔はしてなかったけどさ。


『その大きさならば恐らくは深度二、お姉さまのおっしゃる特徴はファイアーラットのものですわね。ユニーク個体だと思われます』


 高速回復もちか。

 感情の見えない黒い瞳で見つめるそれに私は声をかける。


「久しぶりってのもおかしいんだろうね」


 それはスネークイーン同様、怪異(かいい)から転換した地球由来の怪獣。


「チュータの孫ってあたりかな」

「チチチチチチチチチチッ!」


 かぐや姫の試練の一つに関係する幻獣。

 生きた状態のこれにお目にかかるとは思わなかったよ。

 成り行き上しょうがないけど、今のメンツがナオと月影、それに私だけってのがね。

 チチチとなくそいつから視線を外さずにナオに小さく声をかけた。


「ナオ、ファイアーラットって燃やせるかね」


 私の問いにナオが苦虫をかみつぶした顔で答える。


「おっきかった時のみーくんがいるならな」

「あかんか」


 頷いたナオ。


「そいつ『完全耐火』もちなんだよ。オレ一人じゃ無理だ」


 ははっ、最悪だよソータ師匠。

 味方殺しの幻想怪獣つくんなよ、つくづくやらかしてくれる。

 さて、どうしたものか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ