表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
88/170

異世界の妹弟子達

 ステファの家からアイラの店までの距離は短い。

 朝の通勤時、その短い距離を月音と咲、そして猫を伴って出勤する。

 月影と一緒に道の隅を歩く月音を微笑ましく見ながら、私達は最近再整備された道を歩いていた。


「店の仕事には慣れたかね」

「はいなのです」


 そういって見上げてきた咲。

 妹の青い瞳には今を楽しんでるという感情がはっきりと見てとれた。


「咲ちゃんや」

「なんですか?」


 首を傾げた咲の動きに合わせてピンクの髪がさらりと流れる。

 忘れがちだけど咲のこのピンクの髪は青の龍王であることを隠すための偽装だ。

 まぁ、実際のとこ黒髪に青目ってのは普通にいるそうなのだけど目立つっちゃ目立つからね。

 ピンクも目立つんだけどこっちだとたまに見る髪の色らしい。


「月影、お手っ!」


 視線の先ではもう一人の青い瞳の妹が顔面に猫パンチを食らっていた。

 まぁ、月音はしゃーないということで。


「ここでの生活はどうよ」


 私のふわっとした質問に少し考えこんでから咲が答える。


「お姉ちゃんと一緒に居られる時間が増えて嬉しいのです」

「そっか」


 近くの水路に水が流れているのもあって水音の聞こえる道路で手をつないで歩く。


「あー、そのだね」


 咲には言っておかんと行かんことがあるのよ。

 別に忘れてたわけでもないんだけどね。

 ただ、状況がここに至ってもめどが立たんということは長期戦になりそうなんだわ。


「なんですか」


 愛らしい顔立ちを持つ咲の青い瞳が私を映す。


「私にとっても妹のカコ、助けに行くのずっと先になりそうなんだわ」


 まぁ、この子の場合は年齢不相応に理解力が高いから、多分察してしまっていたと思うけどさ。


「はい。わかっているのです」


 そういって頷いた咲の頭をそっと撫でる。


「またせてごめんね。必ず連れ戻しにはいくからさ」

「はい」


 人を素材にして薬を作る連中の手元に妹がいたら普通は心配でしょうがない。

 もしかしたらもうすでに骨すらも残ってない可能性もある。

 そうじゃなくても咲には姉として作製を禁止した龍札を限界まで作りこんで寿命を迎えたというのもあり得るわな。

 とはいえ、この大所帯で足元のシスティリアの生活が安定しない状態で敵地に無理に乗り込んでも確実に疲弊して負ける。

 私は政治経済はど素人だけど、食べ物と人材、それと補給ラインの安定化が最優先だってのはさすがにわかる。

 以前、レビィと融合していた時にレビィが考え込んでいたのを読んだことがあるけど、現在青の龍王の直系の末裔は咲とカコだけだ。

 そしてカリスは咲、つまりキサを抹殺しようとしてきた。

 これ、今だから分かるけど結構な自殺行為なのよね。

 この世界、想像以上にトライが世界に組み込まれている。

 本当に追い詰められたときとかブレイクスルーを欲したときなんかにテラからトライを呼びこんでるんだわ。

 その青の龍王の子孫を壊滅するということは、短期はともかく長期でいうなら確実に怪獣と対決するための手段を失うこととなる。

 赤の龍王なんかはタレントという形で死んだトライの龍札の能力も冒険者の技能として開放してるみたいだけど、それでも対応できるのは等身大からサバを読んでもぎりぎり数階建ての建造物の高さの怪獣までだと思う。

 だからこそ青の龍王の子孫は貴重だ。

 赤の龍王がクラウドを配置したのも今なら納得で、殺傷なんぞした日には多方面から睨まれるのが目に見えている。

 だが、カリス教はそれを行った。

 多分、半年前までソータ師匠が生きてた時には彼がそこら辺の防波堤になっていたんだろね。

 だが、どうしてそうなったかは不明だけど、半年前トライとしてこっちに転生していたソータ師匠は死んだらしい。

 シャルが言っていた「これまではあそこまで外道な方法には出てきませんでした」というのはキサを殺しかねない攻撃は禁止されていたからだろうね。

 そしてこの流れから読み取れるものがもう一つある。

 カリス神に余裕がない。

 理由は分からんけどね、行動から見るに何かを恐れている。

 世界樹を燃やしたのもそこらへんが関係してるんじゃないかな。

 そんなことを考えながら私は視線を猫と戯れる着物少女に向けた。


「月影、今日は何しましょうか」


 いや、一応私らは仕事し行くんだがね。

 おっと、そういや忘れんうちに聞いておくか。


「そういやさ、咲」

「なんですか」


 ルックスもさることながら最初に見た時からえらい親近感がわくとは思ったんだよね。

 なのです口調でない、ただの敬語のときの仕草と反応がそっくりなんだわ。


「咲ってさ、ソータ師匠やなっちゃんと一緒にいた時期ないかね」


 ちょっと驚いた目をした咲。

 すぐにいつもの穏やかな表情になると少し苦笑しながら答えてくれた。


「あります。五歳から七歳くらいまで私とカコはロマーニの王城であの二人に色々教えてもらったのですよ」


 それでなっちゃんの口調が移ったのか。


「その口調はなっちゃんやね」

「はい」


 でもなー、なっちゃんはなのです口調ではなかったんだよね。


「なのですってやつはもしかしてそういう風に補正された?」


 私がそういうと咲ははっきりした苦笑を浮かべた。


「はいなのです。理由は教えてもらえませんでしたが、かなり厳しく言い回しや仕草とかを直されたのです」


 ははっ、おかげで初見で飛びつくくらいに好みのドストレート真ん中だったわけか。


「わるいわね、それ、私相手にする前提での補正だったんだわ」

「そうなのですか」


 再び目を丸くした咲が今度はほころぶような笑顔を見せた。


「なら、覚えてよかったのです」


 あー、もう。

 私は咲を抱きしめると同時に、このことについてだけは師匠達に深く感謝した。

 咲を見る形で下げていた視線を元の位置まで引き上げると月音と頭の上の月影が私たちをじっと見ていた。


「どうぞ、続けてください」

「ははっ、こんにゃろ」


 月音には別途後でハグだわね。


「お姉ちゃん、ちょっと痛いのです」

「おっとごめんごめん」


 私は一旦咲を離した。

 さて、さっきの続きだ。

 多分にいくら師匠達でも私の妹融合スキルまでは読み切れてなかったと思う。

 いろんなことができた二人の師匠だけどなんでもできたわけじゃない。

 特に私が死んだ頃には二人ともいなくなってるわけだしね。

 妹融合はだね、直前に幽子が式鬼にできちゃったからできたスキルなんだわ。

 そしてこういっちゃなんだけど幽子を式鬼にしたのは私の気まぐれが原因だ。

 だから師匠たちは多分仕込めるだけ仕込んでおいて、後はなる様になれって感じでぶん投げただけなんじゃないかな。

 ナオはともかく追撃隊にアカリをいれたのは多分師匠たちだ。

 アカリはぶち切れ気味だったけど、アカリが得意とする魔導具系ってこっちではソータ師匠が強かったって話だし直接ではないけど弟子みたいなもんだわね。

 というかだね、アカリはいろいろ知りすぎた。

 あと四聖全体に縁がありすぎってのもあって、多分カリス教の本部に残っていたらソータ師匠が死んだ後にこっそりと消された可能性もあるんじゃないかな。

 それとだ、ステファとマリーを鍛えたのもソータ師匠達らしいしね。

 つまり咲、ステファ、マリー、アカリは私にとっては妹弟子にあたるってことだ。

 ちょっと違うかもだけど、この子らが師匠達から私への遺産って見方もできるね。

 たぶん、二人にとって一番の賭けだったのはシャルと咲がどこまで追い詰められた時点でトライ招来に踏み切るかどうかだったんじゃないかな。

 逆を言えば他はかなり読んでいてカコについてもなんらかのフォローが入っている可能性は高い。

 なんでそう言えるかというとだね、私が世界を物語と見立てて読み取る技能の師匠が人工知能のなっちゃんだからなのさ。

 情報社会じゃないこっちだとさすがのなっちゃんでもやりにくかっただろうと思うけど、人が揃うように仕込むくらいは多分できたと思う。

 そうなるとシスティリアや月音についてはどうかという話になるわけだが……


「おっとっと」


 頭の上に月影を載せた月音がバランスをとるために両手を伸ばしている。


 この状況を読み切るのはさすがのなっちゃんでも無理だわね。

 夢の中の冒険は運任せの要素が多すぎたとこがある。

 たぶん、現状を見たら二人とも呆れるかいつものことだと笑うと思う。

 そう考えるとシスティリアに入ったことで完全に二人の読みから外れた位置に入ったともいえるか。

 さて、ここからどうするかだわね。

 こちらの世界での二人はどこまで味方でいてくれるのか、そこからして不明瞭なんだわ。


「おせーぞおまえら」


 店の前ではナオがすでに着替えてまっていた。


「ごめん、今着替えるわ」


 ま、なるようになるでしょ。

 あの二人もやるだけやったらいつもそんな感じだったしね。


『そんなざるな』


 おっと、私の思考見てたのか、幽子。


『うん。それにしても優の師匠か。会ってみたかったような会いたくないみたいな』

『ははっ、分らんでもない』

『でもさ、優』


 一呼吸おいてから幽子は続けた。


『もし万が一さ』


 うん。


『優と私の出会いもその師匠たちに仕込まれたものだったとしてもさ』


 うん。


『ここまでこれたのは私たちの努力だと思うな』


 せやね。

 だよね、師匠。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ