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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
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共通の師

 朝食後の午前、ステファが庭で訓練する声が響く。


「頑張るね、ステファ」

「まだっ、まだだよっ」


 そういって木刀を振るうステファ。

 さて、アイラの店は朝から始まり夜間まで開いている。

 食事をする場所が限られるのが原因なんだけど、特に混むのが昼と夕方だ。

 私たちは昼の手伝いがメインで夕方の方はアイラたちと他に増やした手伝いの子で回してる。

 ちなみに、あまり会うことがないのだけどサニアも手伝いに来てる。

 あと、システィリアではしばらく前からシャルとアカリが作った金属貨幣、いわゆる硬貨が出回っている。

 それと最近になって姉妹召喚リングにも情報による通貨の決済機能が追加された。

 今のとこ使えるのはリング同士だけだけど先々を見込んでとのことだ。

 なので、アイラの食堂のお手伝いは配膳や清掃などに加えて会計が普通にある。

 そんなこんなでバイト経験とかのない月音とかにさばけるかどうかちょいと心配だったのだけど、アカリが作った魔導機のキャッシャーがあるのと食事の料金が分かりやすく組まれてるのもあって今のところは大きな問題は起きていない。

 お金の方なんだけど当面は全員一日の食事に必要な分にちょっと足しただけの額が配布されてる。

 なのでアイラの店からもらえるアルバイト代は各自が好きに使ってる。

 私はアカリに頼んで主に月影用のおもちゃなんかだわね。

 月音はマーメイドの子から月影に食わせる魚を買ったりリーシャのダガシ屋で買い物したりしてるみたいだ。


「せいっ」


 そんなことを考えながら目の前で剣を振り訓練にいそしむステファを見る。

 私は今日は休みの日。

 全員でとはいかないので交互での休みだ。

 特にやることもないので月影と遊んだりステファ達とすごしたりしてる。

 そんでもって今はステファが毎日の修練をするというのでそれを見学してるわけだ。

 ちょいと確認したいこともあるしね。

 いやー、こうやって庭で眺めているとセーラと沙羅の庭先での訓練を思い出すね。

 そんなステファだけど、いつもは盾と剣だったり両手剣を使うステファが今は二本の木刀を両手に持って訓練にいそしんでいた。

 なんでも冒険者になったときに訓練してくれた人がひどく厳しかったらしく、どんな状況下でも出来合いの武器で戦えるように仕込まれたそうだ。

 そんなステファが木刀のふり下ろしとともに声を上げる。


「エクスっ!」


 何の掛け声なんだろうね、そのエクスって。

 動きを見てるとちょっと変わったことをしてるのがわかる。

 一点に相手の攻撃が来ることを想定してまず、片方の手で受けて流す。

 そのワンテンポ後でもう一本の剣でたたく動き。

 ふーむ、なんだろうね、これ。


「ステファさ」


 ひと段落の後、汗を拭いているステファに声をかける。


「なんだい、姉さん」


 さて、ファイブシスターズの顔は五人とも同じだ。

 思い出のレビィティリアで一緒に過ごしたリーシャが大きくなって咲の年を超えたくらいの見た目にそろっている。

 五人とも目と髪の色以外はほぼ同じ作りだ。

 だから色を見ないで顔だけ見れば見分けがつかないかと思いきや、全員がアクが強いものあって慣れると簡単に見分けがつく。

 ステファの場合、極めて男らしいというかシャキッとしてる。

 その一方で私生活だと部屋の中で置いたものの場所を忘れてマリーに聞いたり、トイレで紙がなくなってマリーに届けてもらったり、服の着方で失敗してマリーに直してもらったりといろんなとこで残念なわけだけど、マリー的にはそこが可愛くてぐっとくるそうだ。


「その練習何よ」


 木刀を片付けながらステファが爽やか笑顔を浮かべた。


「ボクの必殺技の練習だよ」


 ははっ、ステファからそういう単語聞くとは思わなかったなぁ。

 私はこっちに持っては来ているものの部屋に置いて着てないオンミョウジルックスを思い出していた。


「ステファも好きなほうかね」

「なにがだい?」


 手をかざしポーズを決めた私はアカリを苦悶させた必殺の呪文を口にした。


「地獄の業火に抱かれて沈め、ヘルズフレイム」


 ふと見るとステファの後ろから月影がじっと見ていた。

 沈黙が周囲を包む。


「その、すまない」

「そこであやまるなよ」


 どうやら同士ではなかったらしい。


「そういや姉さん。見張りの子たちからの連絡なんだけど」

「お、何かあったかね」


 ステファは顎に手を当てて一瞬考えこんだ。


「いや、最近天候不良が多いらしいんだ」

「ほう、つーても外の場所って山の麓だし季節も冬っぽいから普通なんちゃうの?」

「ボクもこっちに住んだことはないけど確かに天候は荒れやすいんだ。何かあるのかな」


 地球ならいざ知らずこっちだとちょっとわからんね。


「シャルにも一応伝えておいて私らでも注意はしておこうか」

「そうだね」

「あとさ、安全なとこからそういうとこに出れるんだったらいつでも雪山遭難ごっことかできそうやね。ねるなっ、死ぬぞっ、とかさ」


 ステファの動きが一瞬止まった。


「その、すまない」

「だからそこであやまるなよ」


 そんな私たちの足元をご飯が欲しくなったのか月影が家の方に向かって堂々と歩いて抜けていった。

 まぁ、いいや。

 必殺技についてだけ聞いてみますかね。


「さっき言ってた必殺技ってさ、自分で作ったのかね」

「ボクのはソータさんから習ったものなんだ。ボク一人じゃ完成しない技なんだけどね」


 そういいながらステファが見せてきたのは赤銅色の冒険者カード。

 あの酷い有様での逃走時でも二人ともカードをなくさないで持ち歩いていたらしい。


「お、復帰したのかね」

「ああ、おかげさまでね。見るかい?」

「見てもいいなら」


 ステファが貸してくれた冒険者カード。

 ステータスに書かれていることにプラスして年齢、性別、取得したタレント、ギルドポイントなどが列記されている。


「ステファ、この右下の隅、三角形になってるのは何よ」


 冒険者カードの一番右下には斜めに線が入っている。

 なんか力入れれば折れそうな感じだわね。


「それは死亡確認タグだよ」

「ほー」


 死亡確認とな。


「基本的に冒険者カードは使用者が生きてる間は傷一つつかないんだ。ボクたちこっちの世界の住民がトライの人たちの力を借りるために赤の龍王様が祝福してくれたものだからね」


 そういや冒険者カードって疑似龍札だって話だっけか。


「あー、龍札の各種防御が掛かってるのか」


 頷いたステファ。


「冒険者が死んだ場合にはギルドの方でも把握できるけど、現地で死んでいるのを見かけた場合には速やかに死体を処分する決まりになってる」


 いやはや、つくづく死者に厳しい世界だこと。


「ゾンビやレイス、アンデッド類になり果てる冒険者も当然いるってことだわね」

「いや、冒険者はアンデッド化しないんだ」


 おや、違うのか。

 ふーむ、確かアンデッド類はMP(ムーンピース)が死骸を操作することで発生する、いわゆる死体のエンチャット状態だったっけか。

 となると、冒険者カードには死亡した冒険者から速やかにMPを回収するからくりがあるってことなんだわね。


「なるほど、MPが体に残らんのね」

「さすが姉さん。そして死んだ冒険者から回収されたMPはこの三角の部分に溜まる。冒険者の死体に出会った人は折れるようになっている冒険者カードの端を折って冒険者ギルドに届ける。そしてギルドで浄化処理が終わった後でこの部分だけは家族のもとに届けられるんだ」


 なるほど、いわゆるドックタグ替わりか。


「それ、家族が泣かんかね」

「そりゃもちろん泣くさ。でも、きちんと龍王様の手の中で末期を終えることができたということでもあるからね。家族の元で一晩過ごしたら各ギルド支部が管理する集合墓に収納されるんだ。最後まで冒険した証としてね」


 なんだかなぁ。

 私の認識する赤の龍王は極めてドライでリアリスト、そして淡白だ。

 多分、龍王としての人物像ではほぼ間違いないと今でも思ってる。

 だが、今ステファから聞かされた仕組みは合理性は当然として極めて感情的なものが多分に含まれている制度だ。

 たぶんに、集合墓が神に化けたり怪獣化するリスクを背負ったうえで行ってる。

 そこから垣間見える人物像がさっき言った冷徹な王と競合する。

 いや、両面もった人物なのか。

 冷徹な王としての側面と人の心に寄り添う酔狂な超越者の人物像。

 シャルもそういうとこはあるけどあの子は根っこから研究者で道楽者だ。

 だからこそファイブシスターズはじめとして熱烈な支持者が最後まで付き従ったともいう。

 だとすると赤の龍王も結構なカリスマなのかもしれんわね。


「ステファは赤の龍王ってどう思ってるのよ」

「もちろん、尊敬してるよ」


 はっきり言いきったステファ。

 ここでシャルと赤の龍王を比較させるのは無粋だろうから聞かない。


「それって皆がそうなのかね」

「まぁ、人にもよるかな。実利で冒険者になってる人も多いしね」


 それもそうか。


「ただ……」


 遠い目をしたステファが言葉を濁す。


「昔お世話になった人は言ってたよ。あれは只の『冒険バカ』だって」


 ははっ、そう来たか。

 というか龍王ズ、ロマンチストだらけかい。

 でてこい、あれの親。


『よんだ?』

『わるい、呼んでない』


 遠くで月音が反応した。


「そのお世話になった人ってのはいまどうしてるんよ」


 私に視線を戻してきたステファの顔には苦い感情が浮かんでいた。


「カリス教に戻ったよ。元々、そっちの人だったからね」


 ほー。

 流れ的には多分ここであれか。


「その人って四聖のソータだったりしないかね」

「よくわかったね」


 そりゃあれだけ話に出ればね。

 それとなぁ、もう一個当て推量だけど確認してみたいことがあるんよね。


「『死にそうか。立てるか、そうか無理か』」


 私はかろうじて残っていたあの人との想い出を言葉に出した。

 その口調とセリフ回しにステファの目が丸くなった。

 ははっ、やっぱそこでつながるんだな。


「『なら死ぬしかないな』」


 私が彼のセリフを言い切る。

 そしてしばしの沈黙の後が場を包んだ。


「なぜ姉さんがソータさんの言葉を? ボクやマリーと姉さんは妹融合してないはずだ」


 してないねぇ。

 だから記憶は読んでいない。

 つまりだ。


「そりゃ、私も知ってるからさ。四聖のソータ。もとい、土屋蒼太(つちやそうた)さんをね」


 あんたまでこっちに来てるとは思わなかったよ、()()

 いや、ソータさん。

 これでやっと腑に落ちた。

 咲に『龍王のいる世界を救うのが勇者だ』って仕込んだの、あんただな。

 よりによって七十二の師匠の一人が四聖か。


「やってくれたね、ソータ師匠」


 明日咲が最後にやりこんでいたドラゴンプリンセスの開発者にして国際的テロ組織の実質支援者。

 あの人が開発したガジェットによる累計死傷者数は計り知れず。

 それでいて本人には一切足が付かなかったという自称社会の悪(ヴィラン)にして半端な特撮ファン。

 私は向こうでのあの人を知っている。

 だからこそ言い切れる。


「ステファ、多分さ。私をこっちに呼び込むように仕込んだのあの人なんだわ」


 多分、彼がこの世界が混迷している元凶の一つだ。

 特撮が好きだったあの人なら銀の巨人という概念を持ち込んだのも納得なんだわ。

 だから私はステファに聞いた。


「あの人の龍札ってさ、『地雷』あたりじゃなかったかね」

「どうしてそれを」


 ははっ、ほんと救えないなぁ。

 だとするとファイアーラットは私の幽子と同じくテラからの持ち込みか。

 そうなるとソータさんとセットのもう一人の師匠、『なっちゃん』こと『ナナ』もこっちに来てる可能性が高いかな。

 師匠達から『疾走する中二病』の称号をもらっていた私が、ソータさんに付けたあだ名は『鬼畜赤眼鏡』

 もしくは


「前世でもやらかしてた人だからね。多分、ナオやセーラと比較してもダントツなんじゃないかな」


 『ソーシャルボマー』のソータさんだからね。

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