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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
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システィリアの食堂

 今日はアイラの店でお手伝いしながらの研修初日だ。

 ちなみに月影は今日は家にいるというステファたちに預けてきている。

 ステファたちなら無理に絡んでとかもないだろうとは思うのだけど、当の月影自体が気が付くとふらっと外に出ていて散歩してたりする猫なので脱走してないとは言い切れない。


「いらっしゃいませー、ククノチへようこそ―」


 私が満面の笑みで接客すると入口から入ってきた妹たちが硬直した。


「二名様ですね。こちらへどうぞ」


 まずは席に案内する。


「こちらのお席になります。お冷をどうぞ」


 私と同じ見習いの月音が水を持ってきてくれたので二人の前においてから、アイラたちが手書きで作ったと思われるメニューを置く。


「それではご注文がお決まりになられましたらお声がけください」


 スカートの後ろが見えたりしない様に、ある程度は計算した角度でお辞儀をしてから後ろに下がった。

 そのまま、厨房近くの位置で様子を見ていたナオに聞く。


「こんなもんでどうよ」

「まぁまぁだな。ただちょっと愛想が足んねーぞ」

「普通の飲食店だとこんなもんだと思うんだけどねぇ」

「これ、短くないですか」


 そんな風に私とナオが会話していると月音が無造作に自分のスカートをめくった。

 クラウドといい月音といいこの世界の上位者はそんなんばっかか。

 あ、いや、ある意味直系みたいなもんだから、まさかの文化(ミーム)遺伝か?


「ちょっと、月音ちゃん、そういうことしちゃだめなのですよ」


 頓着のない月音をテーブルから食器を下げてきた(さき)(たしな)めた。

 まぁ、全身タイツに比べりゃその程度恥ずかしくはないのかもだけど女の子としちゃアウトだわね。

 この都市、現在は女性しかいないわけだ。

 そうなるとだね、女子高とかでもそうなんだけど自分がやりたい化粧とかオシャレはするけど他人の目の為には気を配らんのが一定数出る。

 元男のメンツだとそうでもないっぽいのだけどマーメイドとかで顕著なんだわ。

 恐らく基礎的な常識の差だろうね。

 そんでもって元男の妹たちがそれを窘めるってのもここしばらくでよく見る風景だったりする。

 ちなみに、妹同士で本格的に恋仲になると急にそのあたりしっかりしはじめたりもする。

 さて、今私たちがいるのはアイラのお店である『ククノチ』だ。

 多分、トライ絡みだろうね、この命名は。


「お前、店の中でそういうことすんな。次やったらつまみ出すぞ」


 そんなことを考えてるとナオが月音を叱った。

 お、おおう。

 なんか、ナオの方が月音よりしっかりしてるように見える。


「むぅ」


 私の内心を呼んだのか月音がちょっとすねた顔をした。


「しゃーね-なー。オレが注文の取り方とか見せてやっからちゃんと覚えろよ」

「「はい」」

「うーい」


 適当に答えた私の頬を背伸びしたナオがつねった。


「あいだだだだだだだ」

「まじめに覚えろ。ねーちゃんはやりゃできんだろ、そんな適当ーばっかやってっと下にしめしつかねーかんな」

「わかったわかった」


 つねっていた手を放すとナオがテーブルの方に向かった。

 傍に来た咲が私の頬に手をかける。


「大丈夫なのですか? お姉ちゃんもあんまりからかうのはほどほどにした方がよいのです」

「まぁ、確かにね」

「ところでなのですが……」


 咲が言いかけたのを私は指で止めた

 ナオの後輩たちへの手本が始まるからね。

 テーブルの前でメモ用紙と筆記用具を手にしたナオが飛び切りの笑顔で接客する。


「いらっしゃいませっ! おねーちゃんたち、ご注文はなににしますか?」


 少し体の姿勢を変えて首を傾げ注文を聞き取る見事なジャパニーズアキバメイドスタイル。

 ナオの素と接客のあまりの落差に呆然とした咲と月音。


「だれよ、ナオにアレ教えたの」


 というか明らかに実用じゃない私らが来てるメイド喫茶向けのアニメメイド服といい、主犯は多分あの子だわね。

 戻ってきたナオが厨房に向かって声を出す。


「オーダーはいりまーす。マナ丼二、ナポリタン、和っぽい定食ー」

「はーい。今、一つ前のマナ丼でるから」


 響くナオの声にアイラが答えた。

 出てきた丼ぶりを私が受け取る。


「配膳してくるわ」

「きます、だろうが」


 ドスの聞いたナオの声に私は苦笑しながら言い直した。


「はい、配膳してきます」


 いやー、これはこれで新鮮だわね。

 ふと、店の入り口を見ると月影がいた。

 やっぱ脱走したか。

 そのままふらりといなくなった月影。

 ああ見えて夜になるとどこからともなく帰ってくる子なので、たぶん大丈夫でしょ、多分。

 私は視線を店内に戻して再び手伝いに戻った。

 そんな感じでナオ指導の下、ククノチでのお手伝いが続く。

 基本的に私はこういうロールプレイは完璧とはいかなくてもまぁ、何とかといったところ。

 咲の方は持ち前の地頭の良さもあってかなり早い段階で仕事を掴んだ。

 問題はだ。


「壁ドン二、ポリタンワンセットっ!」

「ふざけてんのか、そんなメニューねーしかってに省略すんな。大体だれだよ、サツに壁ドンされてんの!」


 ポリタンで警察か。

 サツなんて略語、よく知ってたね、ナオ。

 そんなナオにメイド服の座敷童があくまで真剣な表情で答える。


「ドロボーネコ」

「つかまってんじゃねーかっ!」

「大丈夫、ワッパはもってませんから」

「そういう問題じゃねーよ!」


 やりあう二人に厨房とつながるカウンター越しに見ていたアイラが声をかけた。


「二人とも仲良しさんなのはいいけど、そういういちゃいちゃするのは仕事終わってからの方がいいとアイラ思うな」

「「いちゃついてないっ!」」


 笑いながら言うアイラにナオと月音の突っ込みがはもった。


「ところでお姉ちゃん、ちょっとこっち来てもらっていい?」

「なによ」


 アイラに呼ばれた私は厨房の方に寄った。


「あの窓の外」

「あー」


 そこにはじっと厨房内を見つめる月影がいた。


「あの子用の出来合いのご飯作ったからあげてきてほしいな」

「ええんかね」

「うん。正直すっごく落ち着かないし、あの子にご飯あげるって約束だしね。ただ、一応食品扱うからあの子触るときは一回着替えて。それと戻ってくるときに手を洗ってきてね」

「了解。あと悪いんだけど月音も連れて行っていいかね、なんだかんだいって月影が一番なついてるの月音なのよ」

「いいよ。ただ、もうちょっとしたら次のお客さんの波が来るからその前に戻ってね」

「りょーかい」

















「待ったかね、月影」


 アイラたちの食堂の裏手、隣の建物との隙間に微妙な広場がある。

 元雑貨屋の隣にある空き地。

 そこは真上から光が入る心地よい空間だけど、人の目が届かないという微妙な穴場になっていた。

 夢の中でエチゴヤの相談で彼氏の浮気の話が出た時に出てきた場所ともいう。

 私はアイラから預かった月影用のご飯をもって月影がのぞき込んでいたその広場に入った。

 中央に木が生えたその場所には周囲の建物の窓が並んでいる。

 ククノチの食堂部分の窓で光が入ってくる場所もここみたいね。

 そんでもってちょうどアイラが料理する厨房の外には手ごろな大きさの箱が積まれているのが見えた。

 箱そのものは建物と同じで夢から現実に転換する際に巻き込まれて実体化したものっぽいね。

 アイラがそれをする理由もないし、そこそこ傷んだ感じがするから元々そこにおいてあったものじゃないかな。

 そしてその詰まれた箱の上にはシャキッとした月影とその頭の上にのったカラーひよこのみーくんが待ち構えていた。


「おまえさんら、どこの音楽隊よ。犬とロバはどうしたんよ」


 思わず突っ込んだ私。

 いやー、久しぶりだわ、私が突っ込み側にまわるの。

 ナオがいないとボケたおしのオンパレードやね。

 幽子やアカリが居たら過労で倒れそうだわ、これ。

 そんな風に内心ぼやく私の隣でマイペースな月音が餌の入った容器を足元に置いた。


「月影ー。ご飯ですよ」


 ひよこを頭にのせたまま落とすこともなく地面に降りた月影から、ぴょんっ飛び降りたカラーひよこのみーくん。

 そのまま二匹は喧嘩することもなく一つの皿に同時に頭を突っ込んで食べ始めた。


「おねえーちゃん、新発見ですっ!」


 興奮したようにキラキラした目で私を見上げた月音。

 なんやろね、月影がみーくんに手を出さないとこか、それともひよこと猫が仲良さそうに見えるとこか。


「ひよこって猫の餌たべれるんですねっ!」


 そっちだったかー。

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