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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
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怪獣都市でのお引っ越し

「この辺りの荷物は後で魔導機つかって運んどきますんで、優姉たちはすぐ使うものだけ持って先に行っててください」


 今日するのはしばらく住んだ家からの引っ越し。

 そのうちまた帰ってくるので部屋は残したままなんだけどね。

 大きなものは後でアカリが運んできてくれるということで、私たちは簡単な手荷物だけマリーが作ってくれた草のバックに詰めた。

 私たちが準備を進める中、手荷物らしい手荷物がみあたらない月音が猫じゃらしを使って月影と遊んでいる。


「月音、月影連れて行く気かね」


 月音の傍には猫用のキャリーバックが置いてあるのが見えた。


「うん」


 猫はストレスに弱いから本当はあんま移動せんほうがいいんだけどなぁ。

 そうなるんじゃないかという気はしたので、念のためステファ達に月音が猫を連れて行ってしまう可能性を言っといて正解だったわ。

 月影が嫌がるようなら引きはがしてでも止めるしかないだろうね。

 完全に遠足気分の月音に対して、(さき)の方は極めて生真面目に当面持っていくものの準備と留守の間の話などを進めていた。


「それじゃ、ランドホエールをお願いするのです。餌はいりませんがたまに話しかけてあげて欲しいのです」

「うん、任せて。だから咲お姉ちゃんも気をつけてね」


 居間で水槽の小さな鯨のことをリーシャに頼む咲。

 私が出会った頃のファイブシスターズは咲に対して基本敬語だったけど、流石に人間関係に慣れてきたのか崩した言葉遣いが増えた。

 それに対してシャルが何も言わないのもあるし、咲が嬉しそうなのもあって特に注意することもなくそのままにしてる。


沙羅(さら)の方はまだ落ち着かんかね」

「うん。下層の方で毎日どこかで田植えとか水張りとかあるから」


 最初のころはリーシャが直に下層で水張りなどもしていたけど、上層の池が満水になってからはそこに一度溜めた水を川に流すようになった。

 下流の方で魔導機による整地が進んだとこはマーメイドの子たちが進んで手伝いをしてくれている。

 その上で整地が間に合ってない場所では沙羅が神技で誘引するという流れが定着した。

 リーシャが出す水ってどっから沸いてるんだろうなと思ってシャルに聞いてみたところ、おそらくになるけど発生させたのとほぼ同量の海水が減ってると思われるそうだ。

 それだとじりじりと海水濃度も上がりそうなものだけど、トンネル掘った時に内部に取り込んだ海水が結構な量だったそうで今のとこ問題はないと聞いてる。


「優、ステファのとこであんま迷惑かけちゃだめだからね」

「幽子は私のことなんだと思ってるのかね」

「歩くトラブル発生装置」


 失礼な。


「好きでやってるんじゃないだけどねぇ。ま、ここのメンツに関しちゃ特に心配はしてないけどさ。ところで、幽子ちゃんや」

「なに」


 私は実体化したままの白髪赤目の妹を傍に寄せてからそっと耳打ちした。


「まず、なんで実体化したままなのか聞きたいのもあるけど、向こうの方でいまだにクラリスなあの子についても聞いていいかね」

「え、う、うん……その」


 しどろもどろになった幽子が赤い顔で私の耳元に口を寄せる。


「あたしクラウドの血を受けすぎたっぽくて、最近緊張しすぎると実体から戻らなくなっちゃって」


 ほう、血の眷属ってやつか。

 にしても緊張すると実体化するねぇ、どういう体してるんだか。


「つーか、緊張の原因ってあれやね」

「う、うん」


 私と幽子がテーブルの先で正座して茶を飲むダークグレイの髪をした美少女を見る。


「なんだい? 二人とも」


 反応に困ってる幽子の代わりに私が質問することにした。


「クラリス、というかクラウドさ。女装気に入ったのかね」


 私がそういうとクラリスがいつも通り肩をすくめた。

 こういう変なとこで余裕有り余ってる態度って地味にむかつくなー。


「優がそれ言うなよ」


 私たちの応答の後でクラリスがゆっくりと口を開いた。


「僕がこうしてた方がハニーが喜んでくれるからね」


 そういってウインクしたクラリス。

 それを見ていた幽子がうっといって身をかがめた。

 近くにいた沙羅が慌ててテッシュを渡したところを見ると鼻血やね。

 そうそう、このテッシュは最近出回ってきたものでアカリが作る生産系の魔導機が安定動作し始めたことで紙や布、各種小物類が急速に普及してきてる。

 なんというか一足飛びって感じやね。

 私や身近な子はマリーがそれぞれに手編みして持たせてくれた入れ物とか使ってるけど、いき渡らなかった子たちには布や紙の製品が優先で配られてる。


「それと僕の権能を移行した分、ハニーは以前より実体の構造強度が強くなってる。しばらくはきちんと生身で生活したほうが良いと思ってね」


 そういいつつ再び茶を口に含んだクラリスはキャリーバックに入った月影に視線を向けた。


「そちらも気をつけて。まぁ、その子がいるなら問題はないだろうけどね」


 ふーん、クラウドの目から見ても古代猫はやっぱり普通じゃないか。

 今んとこ同類というとレビィだもんなぁ。

 そんな私とクラリスのとこに猫キャリーを持った月音が来た。


「何のお話ししてるんです?」

「いや、こっちの話よ。そういやいい機会だから二人に聞いてみたいんだけどさ、SGM(エスジーエム)ってわかるかね?」


 まずはクラリスの方を見やる。

 私の視線を受けてクラリスが肩をすくめた。


「知ってはいる。ただ流石に言えない」


 まぁ、そんな気はしていた。


「月音はどうよ」


 私の問いかけに月音は胸を張って答えた。


「すごいっ! ごっついっ! まほうですっ!」


 ははっ、こりゃ多分聞いても無駄なやつだわ。

 さてと、そろそろ行きますかね。


「ゆふっ、きふぉつけていってね」


 そんな私達の傍で鼻にテッシュを詰めた幽子がいた。

 ほんとしまらん子だこと。

 関係がちょいとは進展するように家を空ける意味分かってんのかね、幽子ちゃんや。


「ひょ、ゆふっ、そんなこ、ぶふっ!」


 私の前で幽子の鼻に詰めてたテッシュがあふれた鼻血でぽたりと落ちた。


「「「幽子おねーちゃん、鼻血っ!」」」


 慌てる妹たちの傍でアカリが呟く。


「私、この状態の幽子姉の、面倒見ないといけないんですかね」

「どんまい、アカリ」

「誰のせいだよっ!」


























 中層の中でもより商店が多く上層との出入り口がある兵士詰め所に近いその場所にその建物は立っていた。

 そこそこの横幅のある二階建ての住宅、その玄関口にはマリーが育ててると思われるコスモスらしき花が花壇に咲いていた。


「やぁ、待ってたよ。姉さん」

「いらっしゃい、姉さまたちのお部屋の方は準備できてるよ」


 玄関口についた私たちを姉妹のように似た夫婦が出迎えてくれた。

 赤み帯びた金髪の髪にグレーが土台にヘーゼルカラーが入った瞳がステファことステファリード。

 淡い色彩の緑色の髪に琥珀色の瞳を持っているのがマリーことマリーベルだ。


「ステちゃん、姉さまたちのお荷物もってあげて」

「そうだね、流石ボクのマリー、そういう気が付くとこがマリーのいいとこだ」

「もう、ステちゃんったら」


 基本、皆慣れないうちはファイブシスターズの見分けは髪か目の色でしているのだけど、この二人に関してはほっとくといちゃいちゃしだすのもあってダントツに覚えやすい。

 同日に自分のことを僕呼びする二人にあったのもあったわけど、クラウドに比べてステファの方がなんか馴染みやすい感じがある。

 この辺り、なんだかんだ言ってもクラリスの方は超越なだけあってどっか人間離れした雰囲気があるからかもしれんね。


「…………」


 気が付くとステファ達の顔をタキシード柄の古代猫が下から見上げていた。

 後ろを見ると今の僅かな時間の会話ですでに飽きたのか、月影と遊ぼうとキャリーを開けてしまった月音の姿が見えた。


 見上げる月影、沈黙する夫婦。


 やがて月影はそのまますたすたとステファ達の家に入っていった。


「猫さん、ちょっと待ってなのですっ!」

「月影っ! そこで爪とぎやっちゃダメっ!」


 慌てて月影の後を追った咲と月音。

 おいて行かれた形の私とステファ達。


「いや、悪いね。多分騒がしくするわ」

「ボクは構わないよ」

「私も。姉さまたちとは一度ゆっくり話とかしてみたかったし」


 ほんといいのかね、夫婦の営みの邪魔しちゃって。


「あー、あとさ、明日からアイラのとこに手伝いに行くから。ステファ達の方はどないよ」

「ボクの方は引き継ぎは終わったよ。ただ、兵士たちの訓練にはたまに付き合ってる」


 そういいながらマリーの方を見たステファ。


「マリーはどう見る?」

「まだまだなんじゃなかな。ステちゃんや姉さまたちと比較すると全然弱いと思う」


 ははっ、マリーも結構厳しめやね。


「そんなわけでボクたちも家にいないことはあるから」


 ふーむ、そうなると咲のこと家に置いていくつもりだったけどどうしたものか。


「咲ちゃんや」


 私が声をかけると咲が小走りに戻ってきた。


「なんですか。お姉ちゃん」

「ステファとマリー、兵士たちの訓練でたまにいなくなるそうなんだけどさ」


 私の言葉に小さく頷いた咲。


「私と月音もお仕事だし皆が出かけてる間、お留守番でいいかね?」


 私の言葉に首を傾げた咲。


「私も一緒にお仕事するのですよ、アイラちゃんから聞いてないですか? お姉ちゃん」


 おっと、そう来たか。

 気が付くと足元に月影がいた。

 見上げる月影、それを見つめる私


「猫の手はいらんそうよ、月影」


 私がそういうと月影は外に出てきた月音を見た。


「月影はネズミが取れます。それがお仕事です」


 そりゃ猫だからね。

 完全屋内飼いの猫だとネズミとらん子も結構いるけど。

 ドヤ顔してる月音と月影。


「アイラに月影どっかであずかれるか聞いてみてからだわね」


 そういやアイラの店にはナオが……あっ。


「月影、ナオのひよこはとっちゃあかんよ」


 私がそういうと月影はゴロンと腹を見せてじっと顔を見た。

 さて、これはどっちの返事だろうね。


「火の鳥VS古代猫ってなんか映画タイトルっぽいよね」


 大体、そういうのVSものって最後共闘ルートなんだよなぁ。

 私がそんなことを考えていると月影をもふっていた月音がぽつりとつぶやいた。


「合体もいいですね」


 その発想はなかった。

 つーか、どうなるか読めなくて怖いのとシスティリアの都市神が言うと本当になりそうだからやめれ。


「姉さんも月音も勘弁してくれ。今、システィリアの中で怪獣が暴れたら手に負えないよ」


 そんなステファに月音が話しかける。


「お姉ちゃん」

「ボクかな」


 腰をかがめて月音の視線に目を合わせたステファ。

 つーてもステファも子供の見た目だからそんなに大きな差はないんだけどね。

 転換前のステファとマリーは身長差が結構あったから習慣なんだろね。


「うん」

「なんだい」


 リーシャが見繕った女性用の騎士服を着たステファと着物を着た月音というアンバランスが向き合う。


「忘れてるみたいだけど、システィリアにいるスキルもち、全部怪獣です」


 ははっ、違いない。

 怪獣都市システィリアってか。

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