表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
74/170

夢のエピローグ

 外から聞こえるカモメの鳴き声はいつもと変わらない。

 和風という名の傷んだ家屋の二階、ピンクの色の強い明日咲(あずさ)の部屋で意識が焦点を結ぶ。

 ははっ、またここか。

 ノートパソコンから顔を上げた明日咲が楽しそうな感情を前面に浮かべた丸い瞳で私を見つめる。


「楽しかったかね」


 手を伸ばして頭を撫でると少女がくすぐったそうに目を細めた。


「はい、とっても。私、こんなの初めてです」


 周囲を見渡すと明日咲が好きだったぬいぐるみから私や姉がプレゼントしたちょっとした小物まですべてが精緻に再現されていた。


「そりゃよかった」


 妹たちに無茶させたり、一度死んだかいがあったってもんだ。


「おねえちゃん、次は何してお遊びましょうか」


 そういって丸い目で見つめてくる妹。


「そうだねぇ」


 さて、ちょいと話は変わるけど創作のテンプレートの一つに『見るなのタブー』がある。

 民話だと部屋の中を見るななので禁室型(きんしつがた)ともいわれたりもする。

 異類と結婚とか身近になったものがその正体を見ることでペナルティを受ける、もしくはそのパートナーを失うというものだ。

 他にも見ると不幸になる系もこれに該当する。

 うちの国の神話でもあの世で死者の姿を見てしまって結局離別とかしてるしね。

 これね、基本構造としてまず異形(いぎょう)は傍から離れるという前提があるのさ。

 そして状況的に覗いてみたくなるような舞台がセットされて、それに負けてみるという罪科を付与されたことでその代償として何かを失うという作品構造なんだわね。

 基本的に人間も神もわからないということには耐性が薄いのさ。

 怖いからね、未知のものは。

 ちなみに蛇女房(へびにょうぼう)が旦那のもとを立ち去るのも大体が正体を見てしまったからってのが多い。

 その前提を置いておいてだ。


 竹取物語という物語がある。


 竹取の老夫婦は竹の中から娘を拾いその娘はかぐや姫と名付けられた。

 その娘は人間であり得ない速度で成長し、同時に夫婦は金銀財宝に恵まれることとなる。

 これ、土台の構造は異類婚(いるいこん)と変わらんのよね。

 異形を身内に入れたことで富などに恵まれ幸せになる。

 ただ、大きく違うことがあってバレるも何も、生体自体があからさまに異形すぎて突っ込みようがないのだわ。

 そして大きくなってから自己申告で自分は異形で月に還るとか言い出す始末。

 このかぐや姫の物語ではさ、意図的なのか文頭と文末が欠けてるのよね。

 つまりかぐや姫が地上に降格される理由になった罪と、月に還った後の姫の物語が抜けてるのさ。

 さて、長くなったけどここからが本題だ。

 竹取物語においては罪を持っているのはかぐや姫本人であり翁や媼ではない。

 では、今目の前にいるかぐや姫の罪とはいったい何なのか。


「今度みんなと一緒にシスティリアでかくれんぼとかはどうよ、ティリア」


 私の言葉とともに優しく包んでいた幻想が崩壊し風景が一変する。

 無機質なテーブルに壁、そしてその壁に複数のコンソールが並ぶ白い建物の中。

 他には大きめの鉢植えが一本とベットがあるだけの広い部屋だった。

 大きく開かれた窓の先には暗い宇宙と明らかに丸くくりぬかれた大陸を備えた星が浮かんでいた。

 その窓の前にいる私の妹は黒髪に青い瞳から徐々に姿が書き換わっていき、最終的にはあめ色にも見える魅惑の金髪に、虹色の色彩をたたえて角度によって七色に変わる瞳を備えた全身タイツの小さな女の子の姿へと変貌した。


「バレちゃいました」


 そういってちょっとだけ舌を出したその子は不思議な光彩の瞳で私を見つめた。


「どうしてわかっちゃったんですか。おねえちゃん」

「そりゃまぁ、完璧だったからね」


 私がそう答えるとその子、ティリアが目を丸くする。


「え? 完璧だとなんでわかっちゃうの」


 レビィティリアに潜る前の私だったら言い切るほどの確証は持てんかったのだけどね。


「今の私は蘇生して直でいろんな記憶や認識の接続がガタガタなのよ。だから明日咲に関する記憶も全然復元できてなくてさ。ぶっちゃけ、あんなに精緻に再現されたら否応なく気が付くさね」


 意味記憶もストーリー記憶もズタズタだからね、今。

 私がそういうとティリアは分かりやすく失敗したという顔をした。

 その後でいたずらをした後で今から怒られるのをじっと待つ表情に変わった。


「その……えっと。ごめんなさい」


 そういって頭を下げたティリア。


「なにか謝ることなんてあったかね」


 私がそういうと気まずそうな表情をしたティリアが口を開く。


「あなたの……妹のふりをした」

「そうしないとかまってもらえんと思ったかね」


 私がそういうとティリアは小さく頷いた。

 私は手を伸ばすとティリアの頭を撫でる。

 ティリアは明日咲と同じようにくすぐったそうに、そして少し寂しそうな表情で撫でられていた。


「さみしがってる妹を放置するほど薄情な姉じゃないよ、私は」

「え?」


 硬直したティリア。

 瞳の中の感情がくるくると変わるさまを見てるのは見ててちょっと面白い。


「その……私、妹でいいの?」

「もちろん。というかとっくに妹になってる」


 私がそういうとティリアがうれしそうに笑った。


「そっか、そっか……私、おねえちゃんできたんだ」


 ポロっとこぼれたティリアの涙が結晶化して床の上で跳ねる。

 私はしゃがみこんでそれを拾うとなんとなく()()()()()()に突っ込んだ。


「永久保存できそうな(ティリア)の涙とかマジお宝だわね」


 そういった私にティリアが苦笑交じりの笑顔を見せた。


「ほんと、面白いおねえちゃん」

「まぁ、変わり者なのは確かだわね。楽しかったかね、『白ちゃん』」

「あうっ、それもばれてたんですか」

「そりゃまーね。あれだけ一緒にいれば何となくわかるってものさね」


 私がそういうとティリアが今度はさみしそうな表情に変わる。


「じゃぁ、私はそろそろ還るね」

砕け散った月(ムーンピース)にかね」


 苦い表情で頷いたティリア。


「バイバイ、おねえちゃん」


 雰囲気に浸るティリアがそっと目をつぶったのを見計らって、私は後ろから抱きしめた。


「………………」


 そのまま、ティリアの背中にそっと『陰陽勇者(おんみょうゆうしゃ)』の龍札を張って妹融合をかける。

 それと同時に多段に認証フィルターをかけて変更をかけていく。

 少しの間の後、目を開いたティリア。


「あれ、なんで私、虚無に還れてないの」

「なんで帰れると思ったのかね。かぐや姫」


 驚いた表情で見上げたティリアの髪は漆黒のように黒く、瞳は透き通るような青に切り替わっていた。

 そう、この色彩は今はピンクに青と切り替わっている妹の咲がキサだった時の色合い。


「燕の子安貝、システィリアという大舞台できっちり奉納して届けたでしょうが。だから帰れんわよ、月には」


 前にも言ったけど竹取物語には設定的には可能だけどストーリーラインとしては破綻しているバッドエンドが存在する。

 それはかぐや姫が貴公子達に要求した五つの難題。

 そのどれかを突破され、かぐや姫が地球に永住するという選択肢だ。

 作中では一切かかれていないけど、月の民であるかぐや姫はいろんなところで規格外だ。

 その彼女が約束を守るという形で地球に残って、果たして幸せになれるかというとかなり疑問なんだわ。

 だからバッドエンドと私は言うのさ。

 さらに言うとだね、あのシスティリアは都市全体がティリアの為の神楽舞台なのさ。

 だから沙羅の降妖水舞もリーシャの水星詩歌も、さらにいうと夢幻武都と名をつけたあのポシェットの世界そのものが人を癒す宝貝(パオペイ)(つばめ)子安貝(こやすがい)』そのものであり、その全てがトライアリスの歌と踊りを伴ってティリアに奉納されている。


 幻想世界アスティリアにおいてはティリアが関与した存在の末尾にはティリアの名がつけられる。

 幻想王機ルナティリアはシスティリアの上でのみ融合できる王機だと私が設定した。

 その理由はアレが妹としてのティリアの魂を受け継いだ夢幻武都システィリアに付帯する都市の戦闘モードだと定義したからだ。

 武都防衛用決戦兵器という名の幻想を造ったのさ。

 そしてシスティリアの素材には私がばらまいた妹たちに紐づく大量のMPも含まれている。

 呆然とするティリアの表情を見やりつつ私は宣誓をした。


創世神(ティリア)が妹にできないと誰が決めた」

「え、いや、むりっ、むりでしょ。だって私は死んでますし」

「死んだ程度で妹にできないわけがないでしょうが。大体にして幽子(ゆうこ)がいるし」

「あっ」


 セーラはその意思を汲んで無理に転換しなかったけどね。

 明日咲のまねっこする悪い子にはぜひとも妹になってもらって、一緒にいろんなゲームを遊び倒そうと思ったのさ。


「マーマンで実験したからね。MPを付与すれば妹転換はかかるのよ」


 陰陽勇者、ユウ・アンドゥ・シス・ロマーニの名においてここに星誕(せいたん)宣誓(せんせい)する。


「ということで今後ともよろしく、『システィリア』。今から都市神(としがみ)見習いだわね」

「え? えええ!?」


 おっと、忘れるとこだった。

 私の手の中で泡食ってる都市型妹にはもう一つ言っておかないといけないことがある。


「さすがに最初から都市神だと無理があるからさ。最初は建物から練習するってことで座敷童(ざしきわらし)になってもらうから」

「ざしき……わらし?」


 私が仕掛けた認証フィルタによりシスティリアの服はいかにもSF的な全身タイツから子供用のかわいらしい花柄の模様の入った着物に切り替わっていた。

 これはセーラが子供のころに着ていたものなんだわ。

 やっぱ黒髪には着物が似合うとおもう、システィリアに復元したセーラの店に他にもあるかな。

 十分な成果に私は満足しながら大きく頷いた。

 ちょっとだけティリアの魔法の力を拝借して容姿を含む全ての変更を固定する。

 その上でシスティリアに向かってさらに言葉を続ける。


「システィリアは真名だから通常の時には偽名を使わんとだわね。そうさね、月の音色と書いて月音(つきね)なんてどうよ」


 三千世界の姉妹たちに語らねばなるまい。

 これが『座敷童(ざしきわらし)月音(つきね)ちゃん』がアスティリアに降臨した瞬間である。

 虚構の月の上で一人泣いていた幼い女神はもういない。


 これをもってセーラから依頼された範囲での全ての(はら)いを完了とする。


 話についてこれない元ティリアこと月音が呆然とする中、私は胸に浮かぶ感情のままに満面の笑みを浮かべた。


「つーことでよろしくね、月音」

「え? えーーー!?」


 強制的に意識を外に向けると周囲の景色が歪み消えていく。

 俺たちの戦いはこれからだ、通称オレタタ。

 ざっくりいうと作品としちゃおわっても作中の冒険はまだまだ続くっていうシナリオパターンだわね。

 他にもクリフハンガーでの引きが基本のアメリカだとシーズンの終わりにとりあえず続きをにおわせておくとかも結構見るよね。

 創作としてはさ、やっぱ切りのいいとこで終わった方がすっきりはするものなのさ。

 でも人間の人生を星の数ほどある物語だと見立てる私の視点だとちょいと違うことを思うのよね。

 かちっと終われる物語のほうがレアなんじゃないかなってさ。

 そこら辺を抑えた上でゲーム風の夢のエンディングとしちゃ、お約束通りの締めといこうじゃないか。


「準備はいいかね、三千世界のマイシスター」


 私の名前はユウ・アンドゥ・シス・ロマーニ。

 姉妹が信じてくれる限り、星々の物語になんとなく共感し、それっぽく分解してみせる。

 そして世界を祓い落とす、それが幻想世界(アスティリア)の陰陽勇者だ。


 さぁ、物語をまた始めよう。


「ゲーム、再開だ」

ラスボスが座敷童にされたのでこれにて終幕……冗談です。

お読みいただき本当にありがとうございます。


これにて三章終了です。


幻想世界の諸問題は全くと言っていいほど解決してません。

ですが優たち個々人は夢を経由していろいろなものを得ました。

それとメアリー等についてはその後どうなったかを描く予定は今の時点ではありません。

(レビィとサニアについては機会があれば別途表現していきます)


彼女らのその後は皆様の御想像にお任せします。


さて、姉妹達の物語、お楽しみいただけましたでしょうか。

当話をもって一区切りとさせていただきます。

なお、今後も投稿はするつもりですので作品の状態は連載中とさせてもらいます。


私事で忙しくなるので投稿頻度は落ちます。

当面は週一位の頻度にて投稿していきたいと思います。

それでもよろしいのであれば優たちの夢の後、アフターストーリーをお待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ