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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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優しい幸福がそこにはあった

 目を開くと目の前には少し泣きそうなアカリとリーシャ、それといつも通りの笑みを浮かべたセーラの姿があった。


「ははっ、可愛い妹三人のモーニングサービスってか。こりゃ夢かな」

「何ってんですか、まだ夢の中に決まってるでしょうか」


 私がしんどい体を起こすと周囲の神殿の様子が見えた。

 お客さんたちはみんな帰ったみたいだわね。

 壊れた場所はそのままと。

 さて、システィリア諸共全部を妹転換した結果がどこまで固定されるかだわね。

 こればっかはやってみないと何ともだわ。


「生きとったな」

「お姉ちゃん、大丈夫ですか」


 遅れてレビィ、沙羅が寄ってきた。

 二人とも怪我だらけで疲労も見えるけど、とりあえずは大丈夫みたいね。


「おつかれさん、思ったよりうまくいったわ」

「さよか。ワイはあのモジュール、テストなしの一発組みでいける気がせーへんかったわ」


 そういって肩をすくめるレビィ。


「そういや王機としてのルナティリアってさ、この先も呼びだせるかな?」

「無理やろうな。モジュール自体は物理でも組み込んだ。せやけど、夢から抜けた後でワルプルギスやメビウスイーグルが素直に追うこと聞くかどうかは別やで。特にメビウスイーグルは今回はセーラをつこうてカリスやと誤認証させたわけやからな」


 まぁ、結果的にはそうなるか。


「ワルプルギスの方はどうよ」

「アカリ経由で呼び出すんはぶっちゃけ仕様の穴ついたズルや。今回やってもうたから修正してくるやろな。赤いのはそういうとこはほんとマメやねん」


 赤の龍王か。

 最初は怠惰なのかと思ってたんだけどなんかちょっと違うみたいね。


「なら中心部分のルナティリアは?」

「巨神モードは夢の中でしか呼び出せんやろな。今回は特殊すぎや、リアルで呼べるとは思わんほうがええで。さっきも言うたが、動くかどうかひやひやだったんや。少なくともルナティリアは巨神としてはシスティリアの上以外では出せんと思っとき。外に器造ればワンチャンやがアレの器となると今やとティリアくらいしか作れんやろな」


 まぁ、いけたから結果オーライで。

 そんな感じにレビィと話しつつ、ちょっと安心感の漂う中、気が付くと私もレビィも、セーラも、そしてアカリ、沙羅、リーシャと全員が淡く光り少しづつ光に変わり始めていた。


「おっとタイムアップか」

「せやな」


 なら、夢の終わりに感想でも聞いてみるかね。

 私は妹達に順に話しかける。


「沙羅、来てくれて助かったわ。水操作、自信持てたかね」

「うん、一杯習ったから大丈夫」


 そういって沙羅はマーサさんからもらった櫂を掴んだ降妖水舞(こうようすいぶ)にぎゅっと力を入れた。

 その隣にいるリーシャ。


「いや、大変だったね、リーシャ。でもまぁ、悪くなかったでしょ」


 頷いたリーシャ。


「セーラとちょっと話でもしてくるといいさね」

「うん」


 セーラとリーシャが少し離れたのを見てから私はレビィに話しかける。


「いやー、レビィたんには感謝だわ。あとアカリも」

「私はついでですか」


 アカリのこめかみに青筋が見えた。


「いや感謝してるって。感謝ついでにで悪いんだけどさ、二人には外出たら他にも頼みたいことがあるんだけど」

「「あんたの面倒はもうこりごりだ(や)」」


 おー、そこではもるか。

 深くため息をついてお互いの顔を見やったレビィとアカリ。


「悪いんやがちょいと記憶みてもええか」

「多分そのほうが早いです。どうぞ」


 背の高さ的には低いはずのアカリが、より低いレビィに合わせて身をかがめた。

 その屈んだアカリの額にレビィが額を当てた。


「あほくさ」


 少しの時間の後、呆れた顔をしたレビィがアカリに言った。


「まったくです」


 さっきより苦い表情になった二人が互いの表情を見やる。


「ユウ、悪いがワイはここで離脱や。ちょいと野暮用ができたんでな」

「そっか、じゃぁ、アカリに頼むわ」

「え、ちょ、ちょっとまてっ、この馬鹿姉の面倒を見るのもうやなんですけどっ!」


 掴みかかろうとしたアカリの目の前でスッと消えたレビィ。

 あのくそ蛇がぁとかぼやくアカリ。

 ぶつぶつ言うアカリの横顔を見ながら私は笑いつつ声をかけた。


「ほんと貧乏くじ引く性格してるね、アカリは」

「ほっといてください」


 あの時、皆を殺されたときに感情に任せてこの子を殺さなくてよかったわ。

 因果は巡るか、ほんと厄介なことで。

 そんなことを考えているとセーラとリーシャが帰ってきた。

 リーシャの目の周りが赤くなってるね。


「やっぱ泣くよねぇ、リーシャ」

「空気読めよ、馬鹿姉」


 皆の姿がゆっくりと消えていく中、リーシャが私を見ながら嘆願してくる。


「おねえちゃん、セーラお姉ちゃんのこと、助けられないの?」


 私は小さく頷いた。


「そうだね。まずセーラはすでに救済されてるから助けようがないってのが一つ」


 セーラが小さく苦笑した。


「次に私の妹転換は他人を救済できるスキルじゃない。それができるなら私の龍札は『救済』とかだったわね」

「できないの?」


 重ねて聞いてくるリーシャに私は再び頷く。


「できない。妹転換は死にかけてる人を素材に妹を作り上げるスキルなんだわ」

「私とかはそれで助かって妹になってますけど?」


 アカリが横から割り込んできたので私は首を振った。


「うんにゃ。私はシャルが戦ったという魔導士は救済してない。むしろ殺してる」


 妹たちがじっと見つめる中、私の言葉が続く。


「そこにいる誰かを一度殺して素材にして妹に転換するスキル、それが私の妹転換なのよ」


 沙羅とリーシャが息をのんだ。

 アカリは今ので理解したみたいだわね、セーラはリアクションが変わらないとこを見ると分かってたか。


「だからセーラにスキルをかけて妹にしてもさ、そりゃセーラを素材にした私の別な妹なんだわ。同じセーラだというその幻想を私が自分で信じられない」


 仮に転換したセーラが詩穂に出会ったとして果たして星羅が詩穂に出会えたことになるのかというね。

 徐々にかすんできた視界に時間の限界を悟る。


「だからごめん、リーシャ。私にはセーラは助けられんのよ」


 リーシャの表情が崩れ瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 隣にる沙羅も、その横のアカリも目に涙を浮かべていた。

 ははっ、何がこの世界の妹は泣いているだ。

 泣かせたのは私じゃないか。

 歪んだ視界に自分がいつの間にか泣いていることに気が付いた。

 認証フィルタのバグだわね、こりゃ。


「大丈夫よ、問題ないわ」


 そんな私たちを見つめるセーラの頬にも涙が流れていた。


「だって、私は幸せだったもの」


 代価置換では生まれない、優しい幸福がそこにはあった。

 セーラが私、リーシャ、沙羅をまとめてきゅっと抱きしめた。


「アカリちゃん、おいで」

「や、やですよっ! 恥ずかしい」

「姉の名において……」

「あーもう、わかった、分りましたっ!」


 私が言いかけるとアカリがセーラの後ろからぎゅっとセーラに抱き着いたのが見えた。

 周囲のシスティリアは光っちゃいるけど一向に消える気配がないとこを見ると、ポシェットの中にこのまま残りそうな感じだわね。

 そうして私達全員が泡のように光となって夢から消えていく中、セーラの声が耳に届いた。


「みんな幸せになってね、私と同じくらいに」

「ははっ、そりゃまた……」


 強烈な『(いわ)い』だこと。

 ありがとう、セーラ。


「セーラにあえてよかった」

「わたしもよ」


 たとえ自分を(だま)して削っても捨てきれない心の(きら)めきがそこに在った。


「楽しかったよ、マイシスター」


 最後に見たセーラの優しい微笑みを、私たちはきっと忘れない。

 その日、私たちの妹だった星の王子は夢とともに嫁の待つ月へと還っていった。

 私たちのセーラが、その後大好きな詩穂に会えたかどうか、それは誰にもわからない。

 けどさ、どんな結末であっても幸せだったのは確かだろう。

 だから陰陽勇者が語る夢の物語はこう締めくくるのさ。


『可愛い姉妹に囲まれて王子は幸せでしたとさ、おしまい』


 この幻想は一番奥の心の棚にしまっておこう。

 またね、セーラ。

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