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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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怪異と呪い、そして

「なんでサンダースなの」


 レビィに不思議そうに聞いたセーラ。

 そんなセーラの方を見もしないでレビィが答えた。


「テラで最も恐ろしい呪いやからや」


 なお、レビィが言っているのは不謹慎なファンの行動によって、阪神が勝てなくなったとされるフライドチキン屋のおじさんにまつわる呪いやね。

 まぁ、レビィ的に一番怖い呪いを纏ってほかの呪いなんぞそれに比べりゃこわかないといいたいのはわからんでもない。


「レビィ的には怖いだろうさね。一押しの野球チームが勝てなくなる呪いなんだから」


 私がそういうと妹たちがそろってこっちのほうを振り返った。


「優姉!」

「おねぇちゃん、大丈夫?」


 正直、身体的には全然だめだわね。

 私がリーシャに肩を貸してもらいながらゆっくりとみんなのほうへと歩いていると、側まで歩み寄ってきたセーラがもう片方の肩を持ち上げてくれた。

 身長差からリーシャのほうが下がる形になり、ここまで付き合ってくれたリーシャはちょっと膨れつつも私の手をつかみなおす。


「きつそうね」

「そりゃまぁ、思いっきりやられたしね」


 嬲られる形じゃなくて一発でざっくりやられたのは良かったんだか悪かったんだか。

 少なくとも精神的には宝貝(パオペイ)の効果もあって一撃で殺されたのは確かだわね。


「あら、その龍札(たつふだ)は?」


 セーラが私の胸元につけた龍札に目ざとく目を付けた。

 ちなみにいうと服装は着せられてた一枚布の服から、セーラがこしらえてくれたオンミョウジルックスに着替えてからこっちに来ている。

 私が寝てた部屋に置いてあったからね。

 私は胸元に光る『陰陽勇者(おんみょうゆうしゃ)』の龍札を少しだけ持ち上げた。


「ちょっとね」

「あなたにかかるとちょっとで龍札が組み変わるのね。権能分解(けんのうぶんかい)で頑張って札を割った私達がしてきたことって何だったのかしら」

「いやぁ、それはそれだと思うさね。多分、龍札に手を入れられる条件はトライが死んでるかそれに準じた状態になることなんだわ」

「なるほど、それなら納得がいくわ」


 そうやって会話をしているうちにセーラたちに支えられる形で私も『母さん』の近く、城壁の上にある通路の中でも最も海面に近い位置にたどり着いた。

 到着するや否や、リーシャとアカリが表情を見合わせ小さくうなづくと、リーシャが横に下がる代わりにアカリがセーラの反対側の肩を支えてくれる。

 はは、さっきと別な意味で両手に花だわね、こりゃ。


「リーシャ、ちょいとあの怪異(かいい)とお話しするから念のため私の後ろに下がっておいて。できれば見ないようにして」

「うん」


 頷いたリーシャは私の後ろに隠れた。

 後ろに下がったのを確認した後でセーラのほうを向いてさっきの質問の続きを答える。


「私はあそこにいる『母さん』に殺されたからね。かなりの部分の魂を壊されたから穴空いた部分は適当に『(つく)った』」


 そう、怪異は正しく発効し犠牲者(わたし)の命は失われた。

 結果、物語は一度終息したわけさ、半ば強制的にだけどね。

 語り部不在だったあの怪異譚(かいいたん)は、特異な形で再構築された私という語り部を獲たことで完全に固定される。

 あの怪異は『妹』を死なせた『姉』に報復する『母』として固定され、その神性は零落(れいらく)という形で限りなく減少していく。

 そんなことを考えながら私が視線を向けるとレビィと相対してる怪異、『母さん』が慄くように後ずさるのが見えた。


「つーわけでだ、『母さん』。私が刺されて死んだことをもって手打ちにしてくれんものかね」


 私がそういうと怪異の『母さん』が俯いた。


「そう。死んだのね。何度刺しても死ななかったあなたがやっと死んでくれたのね」


 『母さん』の物言いに眉をしかめたセーラとアカリ。

 それに対してどう反応していいもかわからずに困惑する沙羅とリーシャ。


「せやね。もしもあの世があるなら、死んだ私は一足先にあの子と一緒に母さんを待ってると思うよ」


 俯いたままくくくくっっと薄い笑い声が『母さん』から聞こえる。

 このまま説得されてくれるならそれはそれで構いやしないんだけどね。

 さて、どう判断するよ。

 『母』の怪異という名の不条理処理系メカニズムは。


「しねっ!」


 槍のように棒の形で飛んできた黒い水。


「「「させないっ!」」」


 沙羅(さら)降妖水舞(こうようすいぶ)が、そしてセーラとアカリのそれぞれ空いたほうの手が前方にむけられそれぞれの手元で防御のための技が光り輝く。


水清月宿(すいせいげっしゅく)


 セーラが形成した水のギロチンが詩穂の顔をした怪異の頭を跳ね飛ばす。


詩穂(しほ)の顔でそれ以上やんちゃするのは見過ごせないの。ごめんなさいね、お母さま」


 跳ね飛ばされた頭を無詠唱で発効したアカリのライトニングジャベリンが射貫く。


「いい加減、子離れしなよ、お・ば・さ・ん」


 中央を雷撃で塗りぬかれた生首がくけけけけけけけっっと笑いながら私の喉元目指して宙を飛ぶ。

 お前さんはどこの武将よ、首塚作らんとあかんのかね。

 一直線に私に向かう生首、その線上にさっきからずっと会話から外れていた金髪少女がすっと立つ。

 そしてそのまま手に持っていた蛇のついた棒をおおきく振りかぶった。


「なっ!?」


 驚愕する生首に対してフルスイングで振りぬいたレビィの棒が直撃する。

 めり込んでいく棒とへしゃげた生首。

 そのまま振りぬかれた棒の動線にそって生首が宙へと飛んでいく。


「沙羅っ、浄化!」

「はっ、はいっ!!」


 私の指示に反射的に反応した沙羅が降妖水舞から水を放って生首を包んだ。

 そのまま生首は解けるように水の中へと泡となって消えていった。


「長く苦しい戦いだった。怪異譚『母の慟哭(どうこく)』、これにて完っ!」


 私がそう宣言すると左右からあきれたような突っ込みが入った。


「ユウちゃん、楽しそうなところ悪いんだけどまだ終わってないわよ」

「あっちはどうするんですか」


 視線を残った体のほうに向けるとそこには新しい頭が生えた怪異が立ちすくんでいた。


「『母さん』これが新しい頭よー、ってか」


 そこに復元した怪異の頭は詩穂に似てはいるものの違う容姿を備えていた。

 そうさね、どっちかというとリーシャに似てきてるといえばいいかね。


「その訴えられるかどうかギリギリのライン攻めるのやめましょうよ、優姉」

「つーてもさ、こっちの世界で特許とか著作権とかで訴えられたりはせんでしょ」

「いえ、訴えられますよ。一応、テラのコンテンツにかかる権利を侵してないかどうかは赤龍機構(せきりゅうきこう)でチェックしてますから」

「うへぇ、まじか」


 なにが悲しゅうて異世界に来てまで創作で偶然までこみのまる被りとかまで意識せなならんのよ。

 赤龍機構、冒険者(ぼうけんしゃ)ギルドかと思ったらパクリ警察だった件。


「随分先の時代だと権利違反で重い実刑処分まであったらしくて、未来のトライだとかなり怯える人もいたんでその対策ですね」

「やれやれだわね」


 私とアカリがそんなやり取りをしていると地の底から這うような声がした。


「おのれ、おのれおのれおのれっ! こざかしい人間めっ! また我から子を奪おうというのか!」


 頭を振り目を血走らせたその怪異。

 私はアカリたちに支えてもらったままの状態で言葉を放つ。


「まだ目が覚めんかね。『水星詩歌(すいせいしか)』」

「そのような紛い物(まがいもの)の名で我を呼ぶなっ! 我はっ! 我はっ!」


 激昂する怪異に私は呪いを放つ。


「『その怪異には名がなかった。何故なら長き年月の間にその母蛇の物語の骨子は失われ、子であったはずの水先の家ですらも何故に母が呪い悲しむのかを理解できなくなっていたからである』」

「なっ、そ、そのようなっ、そのようなことは決してないっ!」


 睨みつける母の怪異。

 私はその憎悪に歪んだ瞳を直視しながら言葉の刃で刺し殺す。


「汝の真名(マナ)剥奪(はくだつ)する」

「や、やめっ、やめろっ!」


 私に手を伸ばそうとした怪異をレビィの蛇バットが威嚇する。


「怒りの意味も忘れし汝に名乗る名などありはしない」

「やめろーーーーーーー!」


 黒い水から大量の手が伸びてきて私をつかもうとする。

 だが、アカリ、セーラ、沙羅の護りに囲われた私には届かない。


「陰陽勇者の名において、ここに民話伝誦(みんわでんしょう)の『失伝(しつでん)』を宣言する。なんともしまらんはなしだで、とっぴんぱらりのぷう」


 言葉が風に乗った瞬間、怪異が破裂した。

 砕けた破片がうねる水に飲まれていく。


「おわった、の?」


 私の後ろに隠れていたリーシャが恐る恐るといった様子で顔を出した。


「本当に倒しやがった。この似非(エセ)オンミョウジ」

「すごいわね。私、こういうやり方でお祓いする子初めて見たわ」

「そりゃまぁ、私は創作特化型だからね」


 さてっと。

 中層以下を飲み込んでうごめく水を見やりながら私はレビィと視線を合わせた。

 ふむ、あっちの準備はオーケーみたいね。

 日も見えない曇天(どんてん)を仰ぎながら私は風に乗せて定型文をつぶやく。


「それにしても悲しいもんだわね。セーラの親も、私の母も結局のとこ被害者なわけだし」

「そうね」

「優姉の親については何割かは優姉が悪いんじゃないですか」


 アカリの突込みはスルーしてさらにポエムを風に乗せる。


「あの母が最後の怪異だとはちょいと思えないよね」


 左右でぎょっとした様子のセーラとアカリ。

 水の傍ではレビィが発動のために杖を稼働させ準備しているのが見える。


「もし、また親子の悲しい別れが生まれるとしたら、あの怪異の同類が、またどこかの世界で生まれてくるかもしれない……」

「ちょっ、まっ、まてぇ!」


 慌てて私の口をふさごうとするアカリ。

 その塞ごうとする手をセーラの空いてた方の手がつかんだ。


「セーラっ!」

「信じましょう、私たちの姉を」

「正気かっ!? この馬鹿姉がこういうドヤ顔してる時ってろくなことになんねーからなっ!」

「そうなの?」


 私を挟んで()める二人の妹。

 フラグそのものが理解できていないリーシャと沙羅がきょとんとする中、視線と息を合わせた私とレビィが大きな声で唱和する。


「「そう、怪獣(かいじゅう)としてっ!」」


 その言葉をキーにレビィが杖から放った『怪獣化メカニズム』が発動した。

 中層までを飲み込んでいた黒い水がぎゅっと収束していく形で一か所に集まり巨大な影を作り上げる。

 その大きさはレビィティリアに匹敵する巨体。

 その瞳は蛇のように鋭く金色に光り、その髪は一本一本が蛇の先端を持ちうねっていた。

 詩穂とリーシャの中間に近い愛らしい容貌と豊かな胸、それを覆い隠す二対の貝。

 寓話なら可憐な乙女の半身は美しい鱗の魚のひれであったりするが、その者の下にはうねりながらとぐろを巻いた蛇の下半分が備わっていた。


「怪異じゃないなら名前を付けようか。地球産の蛇女房(へびにょうぼう)たる母の怪異を礎にした新種の大怪獣。そうさね、その名は『祟母怪獣(すいぼかいじゅう)スネークイーン』なんてどうよ」


 怪獣化した『母さん』、改めスネークイーンは私らを見て満面の笑みを浮かべると、大きく蛇の尻尾を振りかぶった。


「あ、こりゃだめなやつだ」

「こんのっ馬鹿姉っ!」


 巨大な蛇の尻尾が上層の城壁を一撃で粉砕した。

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