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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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あなたの歩みは星が見ていた 後編

 寒空の下、あばら家の中で炊かれるわずかな火が一行を温める。

 先ほどとは打って変わって貧しい身なりに身を包んだフィーちゃんとリーシャが、間に小さい子を挟んで震えてるわね。


『なんで青いのがこんな状態になっとるんや』


 呆然としたようなレビィの声は久しぶりね。

 そういえば私もこの辺りは詳しく聞いてないわね。

 確か私とレビィがいなくなった後で生まれた青の龍王の末裔は双子ちゃんで片方をカリス教、残りの子をロマーニの方で引き取ったってアカリちゃんが言ってたけど。


『それはええ。双子が生まれたんやったら最低限片方をキープいうんもわかる。せやけどもう一方をこないな生活させとったら他の超越や七星神がガチギレするわ。白いのやメティスはなにしとるんや』


 それは分かる気がするわね。

 基本的にこの世界の上位者って青の龍王ちゃんには甘いもの。


「キサ様、大丈夫ですか」

「はい、大丈夫です」


 この子、キサちゃんっていうのね。


「無理しなくていいんですよ。私の上着、やっぱりお貸ししますよ」


 そういってきている服を脱ごうとしたリーシャをキサちゃんが押しとどめた。


「大丈夫です。二人の間に挟まっているので全然暖かいのですよ」


 そういって微笑むキサちゃんを二人が痛ましそうな目で見つめた。

 リーシャがキサちゃんをぎゅっと抱きしめた。


「ごめんなさい、キサ様」

「どうしてリーシャが謝るのですか」


 不思議そうに見上げるキサちゃんにリーシャがこわばった顔で答えた。


「アルドリーネ様にお願いといわれたのに。どんなに逃げてもカリスの人は追いかけてくるし行く先々で怪獣とかぶつかるし……お腹はすいたままだし……」


 そういえば小屋にはこの三人と部屋の隅に見える寝たきりっぽい誰かしかいないわね。

 他の人は用事で外に出てるのかしらね。

 さっきの幸せそうなリーシャとは打って変わって辛そうね。

 三人とも痩せてるのが服を着ていてもわかるわ。


「リーシャ」

「なに? おねーちゃん」


 フィーちゃんの声にリーシャとキサちゃんの視線がそちらを向いた。

 遠くを見るフィーちゃん。


「もし、食べるものが全部なくなったら……私を食べて。ゾンビ化しにくい死に方ならわかってる」

「いっ、いやだよっ!」


 涙目になって頭を振ったリーシャ。

 人が人を食べるのは本当の最終手段じゃないかしら。

 そんなに追い詰められてたというの、この子たちは。


『場所次第やな。飛散MP(ムーンピース)が高めの地域なら現地の動物は基本的に魔獣化しよるし、それを狙って怪獣もわきやすい。予定通りカリスが生まれたならMPは地域全体に溜まりやすくなっとるはずや。最低限深度二に対応できるだけの魔導かタレント、神技の備えがないと獣狩りして生活するのも大変やろうな。冒険者は極東にはあんまこんし、追手がうちのもんやったら追われる側で神技つかうんはないやろ。そうなるとサバイバルできる奴は魔導士ぐらいになるんやが、そんだけMPが高い地域やと魔導士は常時身体に負荷がかかるやろな。若くて余裕があるうちは平気やろうけど老いや病が重なると一気にガタがくるで』


 私、こちらに来てからそういった意味で生活に困ったことなかったのだけれど。


『そら、ワイらがそういうとこは見せんようにしとったからな』


 そうだったのね。

 だから私にとってはこの世界は残酷ではあっても優しかったのね。

 覚悟の色を赤い目にたたえたフィーちゃんにキサちゃんが青い瞳でじっと見つめる。


「本気なのですか」

「はい」


 慄くリーシャの隣でフィーちゃんとキサちゃんの視線が絡む。


「ならば、私が先に死んだらその時は二人が食べてください」

「そ、それは……できません」


 珍しく感情が挙動に出たフィーちゃん。

 それをキサちゃんの青い目が射貫く。


「私にとってずっと傍にいてくれた二人は姉のようなものです」


 リーシャ、フィーちゃんともにキサちゃんの言葉の先が読めずに息をのんでいる。


「その二人が衣を、死後の血肉を譲ってくれると私に言いました。なら私も二人に同じ言葉を返します」


 黒い髪に青い瞳のその少女が成人した二人をその青い目で射貫く。


「私の衣を譲ります。私の肉を食べてください。そうして……」


 瞳を閉じたキサちゃんが続きの言葉を紡いだ。


「私も一緒に連れて行ってください。一人っきりはさみしいのです」


 倫理的には完全にアウトね。

 でも、気持ちは痛いほどわかってしまうわね。

 そう囁いたキサちゃんをフィーちゃんとリーシャが左右から抱きしめた。


「くるしい、ですっ」

「ごめん」


 謝罪するフィーちゃんの頭の上にキサちゃんの手がのった。

 そのまま撫でるキサちゃん。


「やだ、死んだ後とか食べたくもないし食べられたくもないよぉ」

「私もなのです。ですから頑張って生きましょう」


 同じくリーシャの頭の上に置かれたキサちゃんの手がリーシャを撫でる。

 そのまま抱き合う三人の傍、部屋の隅で寝ていた人が起き上がった。


「げほっ」


 流れるような銀糸の髪にすべてを見透かすようなパープルアイ。


『だれやこいつ』


 ほんと、この子はどういう関係なのかしら。

 一般人の服でそろえてはいるけど、素材のいい服を着てるわね。

 てっきりユウちゃんたちの話で出てきた一緒に逃げていたという王様かと思ったのだけど。

 それにしても私たちがよく知るあの人によく似てる。


「キサ」


 その美少女はキサちゃんたちの方を見やった。


「はい、なんでしょうか」


 小首を傾げたキサちゃん。

 その子は一瞬だけ自分の手元を見るとキサちゃんに視線を合わせてこういったの。


「トライを招来しましょう。ドナーは私がやります」


 驚いたような顔をした三人。

 真っ先に表情を引き締めたキサちゃんがその子をじっと見やる。


「その……」


 心配そうに見つめるキサちゃんにその子が笑いかけてきたの。


「大丈夫。あなたたちをアルドリーネたちの待つドラティリアまで必ず届けてみせます。私を信じなさい」


 先ほどとは打って変わって不安そうにフィーちゃんとリーシャを見あげたキサちゃん。

 フィーちゃんとリーシャが二人の間で視線を合わせて頷いた。


「王様ができると言ったらできる」

「わたしもそうおもう。信じよう、キサ様」


 キサちゃんは一瞬瞳を閉じると再び目を開いた。


「分かりました。他の皆が戻ってきたら始めましょう。フィーリア、リーシャ、招来儀式の準備を」

「「はいっ!」」






























 流星祭剣(りゅうせいさいけん)が星を砕いて過去の幻影をかき消す。


「あの日の覚悟も傷も全てなかったことになる」


 ユウちゃんがドンと一歩踏み出すと今までで一番多い数の星が舞い降り、リーシャの周りに数多の映像を同時に照らし始めた。


「あの日、あの時、あの場所、あの人がくれた思い出の笑顔も」


 ユウちゃんが流星祭剣を振るうと星とともに思い出が消えていく。


「全部まとめて泡沫(うたかた)に還そう」


 そういってユウちゃんが流星祭剣を横薙ぎに振るうと、その流れに合わせて星が消えていく。


「やめてっ!」


 響き渡るリーシャの悲鳴、そして金属同士がぶつかるような甲高い音がした。

 水星詩歌(すいせいしか)が張る可視のシールドが流星祭剣の動きを止めていた。


「リーシャ、どいて。そうじゃないと不要な記憶を破壊出来ない」

「不要じゃっ、ないっ!」


 力を込めたリーシャが水星詩歌を押し切るとユウちゃんが流星祭剣を一旦引いて方向を切り替えた。

 今度は斜め下から切り上げるように流星祭剣を突きこんでいく。

 リーシャが水星詩歌で受けるもそのまま体ごと奥の位置に押し込まれた。


「セーラと一緒に暮らすには外の思い出は邪魔なのよ。リーシャがこのまま目を覚まさなかったとしても外では時間が流れ続ける。シャルもフィーリアも咲も年を重ね戦いそしてきっと死んでいく。残るリーシャには不要な未練だわね、だから姉の私が責任をもって供養してやるのさ」

「そんなことっ!」


 響き渡る二つの宝貝(パオペイ)の衝突音。


「私は望んでないっ!」


 その瞬間、ユウちゃんが水星詩歌を流星祭剣で弾いて床に落とした。

 乾いた音とともに水星詩歌が背後に転がったのをユウちゃんはちらりと一目してから大きな声を出した。


「レビィ!」

『いけるでっ!』


 ユウちゃんは流星祭剣を両手で抱えて祈るような姿をとった。

 胸に添えた星の剣に会場に舞う星々から次々と光が集まっていく。

 同時に宙に舞う星々から数多の光の蛇が出現し頭上に光る月を縛り上げた。


「すべてを星に還そう。神技っ!」


 私とは違い腰を低く下げたユウちゃんは頭上の月に切っ先を向けると会場中に響くほどの大きさで技を叫んだ。


「幻想流星雨!」


 会場に舞う星々が光の蛇とともに月へと殺到する。

 その光の帯は七色の虹色を伴い月に巨大な大穴を開けるとそのまま周囲を光で飲み込んだ。

 そして響き渡る巨大な爆風と爆発音。

 砕け散った月のかけらが会場中に降り注いでいく、それはまるで雪のような、純白の星のかけらとして。

 その光景に放心する人々を背に、技を終えたユウちゃんがリーシャの傍によってそっと抱きしめた。


「リーシャ、夢は醒めるからこそ儚いのよ。帰るよ、みんなが待つ現実に」


 リーシャがユウちゃんを抱きしめ返した。


「う……ん。ずるいなぁ、お姉ちゃんってさ、いつもそんな感じでよくわかんないまま適当に押し切るんだもん」

「それが私の持ち味だからね」


 そのままきゅっと強く抱きしめてきたリーシャ。


「まいりました」


 光とともにリーシャの変身が解けいつものお洋服に戻った。


「ここでギブアップ宣言ですっ! 勝者、セーラっ!」


 その一言を待っていたのかアカリちゃんの終了宣言が会場に響き渡った。


「セーラ、ちょいと交代してくれるかね」


 いいわよ。


































「やれやれ、これで一息付けるさね」


 流星王子の融合が解けるとセーラはリーシャに抱きつかれたままの状態でその場に、私とレビィは少し後ろの位置に再構築された。

 私がさっき水星詩歌が落ちた場所に視線を向けるとそこには何もなかった。


 ふむ、そろそろかな。


 試合が終わり興奮冷めやらぬ人々の声が聞こえる。

 そんな旧闘技場は頭上の月も演出も込みで光り輝いていた星々も消え、元々会場にあった照明が何とか全体の明るさを保っていた。

 とはいえ、会場全体に被害が及ぶ攻撃を繰り返したものだから最初に来たころと比べて半分どころか三分の一以下の明るさだけどね。

 確かアカリが旧闘技場は整備が間に合わなくて共食い整備してるって言ってたね。


「なんや、ワイとの融合も解いたんか」

「まーね。さすがのレビィも疲れたでしょ」

「それほどでもあらへん、といいたいとこやがぶっちゃけ外の状況が気になってしゃーない。ワイとセーラがいのうなった後、何が起こったんや」


 簡単に説明するのはすごく難しいんだけどね。

 私も興味がなくて完全には把握しきってないし。


「カリス大暴れ、アルカナティリアが消滅、こまいとこは聞いてないけど王機がかき消したってことだから都市そのものが怪獣化したのかもね。その後でロマーニと全面戦争。エルフとドヴェルグ、ロマーニが壊滅」


 水でできた蛇の頭のあごがカクンとはずれた。


「あほか。どないしてそうなった」


 私は赤い目をした水の蛇を横目で見つつ、意図的に集中をそちらに集め周囲からの他の情報を遮断する。


「もともとはどういう計画だったのよ」

「適当なとこで止めといて駆逐しきらんようにして百年スパンでMP回収や」

「ははっ、MP牧場か」


 苦笑するしかないわね。

 言い換えるなら知性体の家畜化、奴隷の一種といってもいいかもしれない。


「そのための『亜人分類』の変更やからな。新しい神が生まれた後には星誕宣誓(せいたんせんげん)いうて星全体にやりたいことを一斉通知できる。それに乗せて大陸の東半分つこうて新しい機構が安定駆動するためのMPを捻出するちゅー話をすることになっとったんや」

「セーラにはそれいった?」

「いえるわけないやろ」


 だろうね。

 さっきのレビィのボヤキにもあったけど多分、テラでいうユーラシア中央から極東にかけてがその牧場化されてるんだろうね。

 だから空中に散布されてるMPも多くて魔導も使いやすいけど怪獣や魔獣も強化されやすい。

 そして私のトンチもどきの思い付きの幻想も空間に滞留する大量のMPに裏打ちされて実現したってことになるか。


「その話だとさ、ユーラシア西部、こっちでいうとドラティリア連邦ってとこは、MP少ないのかね」

「少ないで。そのための冒険者やからな」


 ふーん、細かいとこはよくわかんないけど冒険者、たしか赤龍機構(せきりゅうきこう)ってとこに所属する赤の龍王の加護をうけた連中が活動すると地域からMPが減っていくのか。

 つまりより幻想(まほう)が解けていくと。

 その割には話聞いてるとファンタジー世界っぽくも聞こえるんだけど、周期的にMP(ムーンピース)を供給するからくりが……ってあったわね。

 海から出てくる怪獣が。

 あれも確か幻想、言い換えればMPを捕食して生きてる存在だったわ。

 なるほどなぁ、この世界のおおよそのからくりがなんとな……


 ドンッ


 背中から腹にかけて激痛というのも生ぬるい嘔吐を伴う痛みが貫いた。


「げぼっ」


 口から血を吐きつつ後ろを見やるとそこには先ほどまでリーシャが着ていた服を着た高校生くらいに見える、かわいらしいふんわりとした髪の毛の女性がいた。


「ユウ!?」


 レビィの声に振り返ったセーラとリーシャ。


「う……そ。なんで……詩穂(しほ)……」


 私の背中から腹にかけて貫いていた水星詩歌が掻き消えると、憎しみを込めた目で私を見つめたその女性から怨嗟(えんさ)の声が漏れた。


「どうしてあの子を助けてくれなかったの」


 ははっ、やっぱこうなるか。

 因果応報ってこういうことなんかね。


「そりゃ無理ってものさね」


 大量の出血でかすんでいく意識を多重の認証フィルターで強制的にたたき起こしながら私はその怪異の本質を口に出して同定する。


「『母さん』」


 意識が暗転していく中で妹達が呼ぶ声がした。

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