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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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ソングマジック

「さぁ、ついにこのドリームファイトも最終日、泣いても笑っても今日が最後です」


 旧闘技場に響くアカリの声。

 観客席には都市のほとんどの人がいるんじゃないかというくらい人が集まってる。

 ぐるっと見渡すとアルドリーネやメアリーに転換してた彼とその幼馴染もいるね。

 そんな旧闘技場の舞台の上には夢魔っ子リーシャと流星王子になったセーラが立ちすくむ。


「ほんと、どうしてそういうことするかな。おねーちゃんたちは」


 少し首を傾げてこちらを見やるリーシャ。

 基本こちらに来てからは楽しそうだったり笑ってることの多かったリーシャが今ははっきりといら立ちを表情に出してる。

 外では何のかんの言って感情を抑えることの多かった子だからこういうの新鮮だわね。

 そんな怒るリーシャに対してセーラも同じように少し小首をかしげるとふんわりと笑う。


「そうね。しいて言うなら一度やってみたかったのよ」

「やってみたかったって何を?」


 怪訝そうなリーシャにセーラが笑いながら答える。


「姉妹喧嘩」


 シンプルだけど他の解釈の幅がない答えだわね。


「私は、私はっ! おねーちゃんともっと一緒に居たいだけなのにっ!」


 ああ、リーシャもそう考えてたか。

 やっぱりそういう方向で考えるわな。


「私ももっと一緒に居たいわよ」

「ならどうしてっ!」


 憤るリーシャに対して静かな水面のようなセーラの受け答え。

 内心はかなり揺れてるんだけど見せないあたりは大したものだわね。


「愛しているからよ。だからあなたを夢から現実に帰すの」

「いやっ! 帰りたくないっ!」


 セーラの言葉に頭を振って拒否するリーシャ。


「ダメよ。ここは生きてる人は残れない世界なの。だから……」


 セーラは会場に集まる都市の人々にも視線を向けてから続ける。


「私たちがあなたたちを(ゆめ)から大地(げんじつ)に帰すわ。星になるのは居なくなったものだけで十分なの」

「いやっ!」


 静まる会場に姉妹のやり取りが響く。


「どうしておねーちゃん達が死ななきゃいけなかったの。他の人だって良かったじゃないっ!」


 おおう、それを言ってしまうか。

 表情を引き締めたセーラがリーシャに向き合って静かに説得する。


「それはできなかったの。だって私達、カリス教がレビィアタンの復活に際して生贄(そざい)に選抜した人達には絶対的な条件があったんだもの」


 ほぅ、それは聞いてないな。


『いうとらんからな』


 だろね。


「条件?」


 リーシャの問いに大きく頷いたセーラが口を開く。


「そう。封印されし大怪獣レビィアタンの血肉を食らい生きてきたものであること。つまりその身に罪科(ざいか)をため込んだ人よ」


 会場にざわめきが走る。

 なるほど、そういうことか。

 通常、津波被害には理由など存在しない。

 天罰も何もあったもんじゃなく、事実としてただの天変地異だからだ。

 この世界での怪獣災害も似たところがあるわね。

 けど、今のセーラの一言はこと、この町で起こった大災害においては別枠だと言ってるようなものだ。

 そしてその条件ならリーシャが一番条件に近いはずなんだわ。

 罪科と言うから分かりにくくなってるけど、シンプルに言うとレビィとの親和性が高い者達。

 物理でいうならこのレビィティリアに満ちる怪獣由来のMP(ムーンピース)を多く蓄えた者達ってことだわね。

 白の龍王は赤と違って生者の死後の安寧のために何らかの方法でこの世界にあの世を作ろうとした。

 それにあたって始まりの大怪獣とそれに紐づく大量のMPが必要となった。

 何か必要があったんだろうね、それに伴い大規模な魔法を発動しようとしたと考えると大筋つじつまが合う。

 そんなとこじゃないのかね、レビィ。


『ノーコメントや』


 ありがと。

 つまりその後にはこう続くわけだわね。


「だから、最初に生贄(そざい)になるのはこの私。皆を殺した血を(すす)って自分達だけが死ねないのは前世だけでもう十分なのよ」


 生き残るではなく死ねないか。

 なんとも世知辛(ぜちがら)いね。

 おそらくになるけど、セーラの願いはあの世で詩穂(しほ)と再会することじゃないかな。

 ざっと覚えてる範囲の記憶を見渡してもほかに思い当たる筋がない。

 多分に細かいとこは不明だけど、セーラたちが言ってた『大霊界』とやらに人格データだけでも転記されるのかもしれんわね。


『結局、あの時も起きとったかい。ホンマやな餓鬼やな』


 私は完全に寝ることってまずないのよ。

 正確には実験しすぎた反動でいつもどこかは起きてるって感じかな。

 それはさておき。

 多分、総合プランとしてはシンプルだ。

 セーラとレビィティリアの人を触媒に大規模魔法を発動、『大霊界』を実装する。

 その後、表に必要な四聖(しせい)の穴埋めにはリーシャの体を使いその中にセーラの模倣人格を立てることで対処。

 今回、私たちが一緒に過ごしたセーラがそれだわね。

 カリス神は大霊界のコアに位置付けられる信仰の土台なんだと思われる。

 その原理はセーラの呪いの転用。

 セーラに確認したけど()()()()()()()()()()()()()()

 蛇神を(だま)したとは伝わってるけど、どう(だま)したのかがさっぱりわからんのよね。

 つまり因果関係がよくわからない現象だけ発現する呪いと化しているということだ。

 カリス教はその発生現象(のろい)に着眼した。

 ちょっとした怪獣化(かいじゅうか)メカニズムの流用だわね、星神(ほしがみ)という器の中に異世界(テラ)のよくわからない『呪い』を封入したんだわ。

 その目的は……


『それ以上は今はあかん。あとで考えや』


 おっと、そうなのか。

 会場のざわめきをかき消すようにアカリの声が響く。


「リーシャ姉が選手で出ちゃってるので本日の進行と判定は私がします。みんなーー、心の準備はいいですかーーーーーー?」


 リーシャのしゃべり方の真似をするアカリ。

 かわいいけどさ、そこまでトレースする意味があったのかね。

 あとこの絶妙な割り込みのタイミング、どこまでかは知らんけど事情知ってたのかね、アカリは。

 まっ、いっか。


「ドリーーーーーーームッ」


 会場の空気が張り詰める。


「ファイトッ!」


 掛け声と同時に意識をセーラの前、俯いたリーシャに戻す。

 試合は始まったがまだ動きは変わらない。

 というか最初はどちらも様子見だわね。


「どうして一緒に連れていってくれなかったの」


 セーラに問いかけるリーシャの問い。


「あなたに生きていてほしかった、それだけよ」


 セーラの独白にリーシャの表情がクシャっと崩れた。

 俯くリーシャのほほに涙がこぼれる。

 そのこぼれた涙をリーシャは荒っぽく手で拭うと声を荒げた。


「だとしてもっ!」


 感情をむき出しにしたリーシャの手元に後方の高みに溜まっていた黒い闇が一気に引き寄せられ形を変えていく。


「おねーちゃんがそれでいいって言ったとしてもっ!」


 リーシャの手元に形作られていくのは杖。

 ただしその上部にはマイクのような謎のオブジェクトが付いている。


「私はおねーちゃんとずっと一緒にいたかったっ!」


 杖を経由して拡張され全体に響き渡るリーシャの心の叫び。

 マイクみたいな、じゃないわね。

 これ、マイクだわ。

 セーラが一瞬だけ瞳を閉じて小さく呟く。


「私もよ」


 セーラ、あれの名前、今決めたからリーシャに伝えてやって。

 私の内心からの声に小さく頷いたセーラがリーシャに向き合う。


「あなたのその杖、名前は『水星詩歌(すいせいしか)』なんてどうかしら。その名前が私から貴方への最後のプレゼント、大切にしてね」

「そんな、そんなのっ! ぜったいにっ!」


 大きく溜めたリーシャの声が会場に響く。


「いやっ!!」


 リーシャの叫びとともに会場が新月の夜のように暗転した。

 流星王子の演出である星々も消えたその闇の中、不意に頭上に満天の白い月が輝いた。


『なん……やとっ!?』


 ここ地下で闘技場なんだけどなぁ。

 どう見ても地球の月っぽいんだけど幻影かといわれると微妙なラインだわね。

 そして月の出現と同時に静かなイントロがどこからか流れ出す。

 すると月の光が直光のように淡く地面を照らした。

 そこにはスポットを浴びる形で水星詩歌のマイク部分をぎりぎりまで口に近づけたリーシャがいた。

 そして不意に激しいロックな曲調に転換するとそれに合わせた子供らしくないリーシャの歌声が会場に響いた。


「っ!」


 ブレる視界、一日一回しか使えない背水の陣をセーラが使い逃げおおせた後には月から降り注いだ金色の光が超高熱のビームのように地面を焼いているのが見えた。

 リーシャの歌声が響き渡るなか、頭上の月から複数の破壊の光が舞い落ちる。


「はげっ、しいわねっ!」


 流星祭剣(りゅうせいさいけん)が振りまく星を足場にセーラが光から逃げまわるが、追撃する光はその異能の星すらも焼き溶かす。

 あれ、食らったら即死するわね。

 リーシャの殺意がヤバいわ、完全に我をうしなってる。

 跳ねまわるセーラが複数回の空中移動の後にリーシャの位置へとたどり着き流星祭剣をつきこんだ。

 そのセーラの一撃に対して水星詩歌(すいせいしか)のマイクの反対側を向けたリーシャ。

 その瞬間、硬いもの同士がぶつかるような甲高い音が会場に響く。

 更に歌い募るリーシャに導かれるように、水星詩歌の先端にハニカム状の光の壁が出現しセーラの攻撃を阻んでいた。

 通らないことを見るや否や、セーラが無理な姿勢で体をのけぞらせる。

 わずかにずれたその位置に破滅的な月の光が駆け抜けセーラの衣装を焼き焦がした。

 服の下の肌が一部焼ける痛みをこらえながらセーラが星を踏み台にして再度距離をとる。


「これはヤバいわね。ユウちゃん、あの子が歌を歌うように誘導したのはあなただけどこれも想定内?」


 いやー、流石にここまでは想定してなかったわ。


MP(ムーンピース)一億三千五百五十六万越えやと!?』


 頭上に光る月に意識を向けたレビィが驚いた声を出した。


『なんであのガキがそんなにMP持ってるんや。どう考えても普通の人間の数字やないで』


 ああ、その数字はたぶん私のだわ。


『なんやて!?』


 私のMPって眷属である妹たちの総合算なのよ。

 なんだかんだあって妹増えて元四聖(しせい)のナオとかも妹になったからすっとんだ数字になってるんだわ。

 そして今、外では私とリーシャが妹融合中だからMPも共通になってると思う。

 しかし、なるほどなぁ。

 あの月は総MPの表現か、確かにムーンピースって名前だものね。


「そういうことなのね」

『ほんまやで。大体、なんであのガキを歌に誘導したん』


 ちょっとね。

 この先のことを考えて宝貝(パオペイ)を歌に関連付けようとは思ったのよ。

 大きく離れた私たちは気持ちよさそうに歌うリーシャを見つめた。

 その歌につられるように頭上の月が光を増してゆく。


『あかん、飽和攻撃が来るで!』


 レビィの声と同時に月からそれこそ流星どころではない視界を埋め尽くすだけの大量の光が降り注いだ。

 それらをセーラが避け、流し、そして一部はよけきれずに体と衣装を焼いていく。


『ユウ、手伝えっ! 全力防御やっ!』


 頭上に広がる金色の蛇、それが絶対防壁であるというイメージを私の技法によって延々と上書きしていく。

 複数に重ねられたはずの絶対防壁がガラスのように一枚ずつ割れ光が近づいてくる。

 一枚、一枚とシールドが破られ最後の最後の一枚が破れるその瞬間に光が止まった。

 気が付くとリーシャの歌声もやんでいる。

 荒い息を整えるセーラと私達。

 ははっ、やばいわね、これ。

 (あお)りすぎたのもあるけどリーシャがこんなに強いとか、さすがに想定外だわ。

 レビィ、理由分かるかね。


『ソングマジックや』


 なんぞそれ。


『エンシェントマジックの一つ、わかりやすく言うならティリアの魔法や。なんであのクソガキがソレ使えてるねん』


 いや、それは私が聞きたい。

 つーか龍札(たつふだ)のスキルとどう違うのよ。


龍札(たつふだ)の中身はソングマジックを文字の形に固めたもんや』


 なるほど、魔導(まどう)魔導具(まどうぐ)の関係か。

 結局、なんでリーシャがそのエンシェントマジックを使えるのかってのは今はどうなのよ。


『ぶっちゃけわからん。ワイがチェックした際にはあのガキの素養ではどうやってもあの規模の魔法は使いこなせんかったはずや。それより問題なんは魔法相手にどう対処するかや。夢の仮想空間だけにストレートに魔法の効果がでよる』


 それな。

 私がオンミョウジの技と称して横紙破りなことをしてるのと同じで、夢と魔法は相性が良すぎる。

 そんな感じに私らが対応に悩む中、表に出てるセーラが凄みのある微笑みを浮かべた。


「初めての姉妹喧嘩だもの。世界を壊すくらいでなきゃ物足りないわ。強くなったわね、リーシャ」


 ははっ、こりゃ参った。

 今回は私が突っ込ませてもらうわ。

 強すぎでしょ、リーシャ。


『ほんまやで。それでアスティリアの精神世界(インナーワールド)が崩壊したらシャレにならん』


 そんな私たちにセーラが薄く笑う。


「世界なんて実際には手の届く範囲までしか触れられないのよ。でも心はどこまででも届く。だからおもうの。あの子の心次第でこの先の世界が決まるんじゃないかしら」


 言葉の意味はよく分からんけど、まぁ、ニュアンスはなんとなくわかった。

 リーシャはセカイ系だったか、あれ定義が(ゆる)くてめんどくさいのよね。

 さて、大体あっちの手の内は見たかな。

 ソングマジックつーても要は魔法なわけだからね。

 創作論上はマクガフィンでしかないのよ。


『お前さん、ほんと徹底しとるな』


 そういうオンミョウジだからね。

 ここから先は私達のターンだ。

 さぁ、世界を分解しようか。

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