リーシャのラブ
レビィティリア崩壊まで残すところあと二日。
午前の仕事を終えた後、いつものようにリーシャと一緒に都市をぶらつく。
遠くでカモメっぽい何かが鳴いてるけど鳥かどうか怪しのよね。
「あ、おねーちゃん」
なんとなく下層まで足を延ばすと白黒の猫を抱いた女の子が寄ってきた。
口元から胸元を経由して腹にかけて白、手先が白く後ろ足が長めに白のその猫は少女に大人しく抱かれていた。
こういうタキシード柄の猫って愛嬌があってかわいいよね。
そんな猫の首には赤い首輪に金属製の鈴が付いているのが見える。
「お、鈴つけたのね」
この鈴は、よく猫を見失うこの子が少しでも猫を見つけやすいように私がプレゼントしたものだ。
ちなみに首輪と鈴を作ったのはアカリだったりする。
素材はセーラの店のあまりの布と報酬でもらった何かの金属屑だ。
面倒だとぶちぶち文句を言いつつも、手間暇かけて魔導で形成してくれたあたりにアカリの優しさが光るね。
「うん、ありがとう。音ですぐに分かるようになったよ」
「そっか、そりゃよかった」
そんな会話をしながら手を伸ばすと猫は暴れる様子もなくおとなしく撫でられた。
私だけでなくリーシャも一緒になって猫を撫でる。
「じゃあね、おねーちゃん」
「そんじゃね」
最初に相談に来た時にはついていた少女の月華王は今は足元には見当たらない。
ただ単に今いないだけなのか、それともってやつだわね。
「そんじゃリーシャ。沙羅に船、乗せてもらって上まで戻ろうか」
「え、いいの?」
「稼ぎはあるからね、どーせ明日までだし」
「そっか。そうなんだよね」
刺すような強い日差しの中、何かを惜しむかのように足元を見つめるリーシャ。
私はリーシャの頭をそっと撫でた。
「帰りたくないかね」
「ううん、そんなことはないよ」
「そっか」
幼少期のリーシャをずっと観察してると気がつく事が一つあってだね。
妹転換したステファを始めとした五人の妹なんだけど、最初全員そっくりになった時はイメージが不安定だったせいかとも思ったのよ。
時間なかったしね。
ただね、こうして小さい頃のリーシャと一緒にいる時間が増えると否応なく気が付かされることがある。
気が付いてしまえばなんてことはない、五人とも小さい頃のリーシャに似てるんだわ。
転換後の属性が色濃く出た髪の毛の色と転換前の色が残った目の色を除くと容姿についてはほぼ一緒といってもいい。
あの日、今はアカリに変わっている彼に殺されかけた五人を蘇生しようと、無茶を覚悟で妹転換というユニークスキルを使用した。
その結果、スキルは発動しリーシャ達五人はまるで五つ子かと思うぐらいそっくりな姉妹になった。
ただね、こう、こっちの世界に慣れてきて出来る事、出来ない事の境界が見えてくるとわかってくることもあるのさ。
正直、あの状況下でリーシャたちの妹転換を成功させるのには無理があったと思う。
だが、結果としてスキルは成功した。
ならばだ、どうしてあの無理筋が成功したのか。
セーラたちの過去がある程度明らかになった今ならなんとなく見当がつく。
多分、セーラがリーシャに埋め込んだ半分の龍札と『子孫繁栄』の神技が私のスキルに絡み合った結果なんだろうね。
セーラは自分について回っていた呪いを反転させる形でリーシャに付与した。
それにより私に出会う前、あの成人した状態のリーシャには『子孫繁栄』という神技が恒常的に適応されていた。
つまるとこ子供を作るまでは限りなく死ににくい状態になってたと思われる。
きっとこれもあの過酷な状況下でシャル達がぎりぎり生きてた理由の一つだわね。
詩穂との子に執着したセーラの未練がストレートに出たんだろうね。
そして五人が相互の血で接続した状態で、私の妹転換スキルが発動した。
つまるとこ妹転換というフェーズを経由してリーシャが持ってた『子』の龍札の効果も付与してセーラたちの子供へと変化したわけだ。
その結果が分裂怪獣『ファイブシスターズ』としての蘇生だったと私は考えている。
『もうちょいましなネーミングはないんかい』
ないね。
『こいつ、いいきりおった』
たしかどっかの山にそういうのがあったしちょうどいいでしょ。
山のように大きくなれよという願いも込めてね。
うーん、分裂怪獣だとちょっとかわいげがないね。
よし、ちょいといじろう。
五人で一つの大怪獣、星の血を継ぐ可憐な姉妹。
幻想世界で怪獣を操る五つの力、その名も幻怪戦隊『ファイブシスターズ』
なんかそれっぽいよね。
『そういうんはソータだけで十分や。大体、幻怪ってなんやねん』
なんとなく適当に。
そのうちいい説明が思いつくでしょ。
『いい加減にもほどがるわ』
呆れるようなレビィの突っ込み。
さて、先ほどの考察に続けるけど、転換時にリーシャに引っ張られたことで五人は姉妹のようにそっくりになったとみるとつじつまが合う。
だからこそだ、今回の心の旅は大切なんだわ。
妹という概念の怪獣に宝貝が持てるかどうかは分からんけど、最後に一つ、リーシャ相手に試してみたいことがある。
「リーシャ、フィー達が外で待ってる。私らは帰らにゃならんのよ」
「うん」
竹取物語ではかぐや姫は月から地上に降り、成人後に再び月へと帰っていった。
水の四聖、セーラの魂の半分を継いだこの子も明日の終わりにはこのレビィティリアから過酷な生存競争がまっている現実へと帰らなければいけない。
そしてだね、竹取物語にはストーリー的にはあり得ない、ただし表現設定だけならありえたバッドエンドが存在する。
「どうしても帰りたくないというなら一つ方法がないわけでもない」
「え?」
竹取物語には求婚者を無理難題であしらうパートが存在する。
その難題の一つ、『燕の子安貝』の取得。
私はこの夢の世界でそれを宝貝という特殊なアイテムに表現した。
「リーシャが宝貝を組み上げられれば、もしかしたらその能力で想定できなかった終幕に到達するかもしれんね」
私の甘い誘いにリーシャの瞳が揺らぐ。
「それって沙羅おねーちゃんが使ってるあれみたいな?」
「せやね」
私と同化してるレビィが沈黙する中、私はリーシャに話を振る。
「もしリーシャが宝貝を組み上げられるとしたら、きっとそれは夢に特化したものになるとおもう」
「そうなの?」
「うん。だってここは私らの夢だからね。夢の主が使いこなすものであるなら夢の因果を捻じ曲げるものになるだろうさ」
「そうなんだ」
それっぽい私の屁理屈に素直なリーシャが丸め込まれる。
外の世界ではこの子もとっくに成人してたはずなんだけどね。
地の性格かもね、この辺り。
そしてそんな素直な妹相手に、逃げない様に罠を張る。
『お前さん、ほんとたいがいやな』
よく言われる。
「リーシャ、ターミナルについたら、ダガシ買っていいよ」
「ほんとっ!? やったぁ!」
大きかったころにはわからなかったリーシャの趣味がある。
この世界、トライたちが再現した小さいチョコやスナック菓子などが売られていることがあり、発音的にも日本語のまま『ダガシ』と呼ばれている。
他の都市では高価だという甘味も食の溢れたこのレビィティリアでは比較的廉価に手にはいるのを利用して傷んだ食品を再加工して廉価販売してるんだわね。
こちらに来て小さくなったリーシャは、そのダガシをかってちまちま食べるのをとても楽しみにしてた。
「リーシャ、あの小っちゃくて四角いチョコ菓子好きよね。もっと高いのいっぱいあるでしょに」
私がそういうとリーシャがほほを膨らませた。
「いいの。あの安くて甘いチョコが私のラブなんだから」
ははっ、安いラブだわね。
「大きかった時にはあんま感じなかったけどリーシャって結構かわいいのよね」
「えっ、なに? 褒めてもチョコ譲らないよ?」
「いらんわよ」
私はそういってリーシャに笑いかけた。
外では出なかったこの子のこういった素の部分がなんというかストレートに純粋で好ましいのよね。
さて、買い物がおわったら沙羅の船で最後の遊覧だわね。




