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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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リーシャの〇〇

「うちのリーシャ、反抗期って結局こなかったのよね」

『せやからな。アレは元々はお前さんのスペアや。なんで普通に育ててるん』

「だって可愛かったから」


 先頭を歩きつつセーラが無造作にマーマンを駆逐していく。

 砕け散るその残骸を一部を私から切り離して実体化したレビィが水面の中へと運び去っていく。

 なお、私自身はいまだスーパー勇者モードことグレてもないのに金髪のままである。


『アホか』


 レビィのいまの突っ込みがセーラに対してなのか、私の内心に対してなのかは悩むとこだわね。

 ちなみに先頭がセーラ、沙羅(さら)は私の隣でアカリが殿(しんがり)を務めてる。

 なんでもセーラに背を見せるのが嫌なんだそうだ。

 信用してないというか、後ろめたいんかね。


「そういうレビィだって私が忙しい時、リーシャの面倒見てくれたじゃない」

『アレはやな、メンテナンスも兼ねて周期的に記憶の深い焼き付きが起こってないかみとっただけや』

「そういうことにしとくわ」


 私と一体化してるはずのレビィだが、セーラの傍にも頭を出してセーラとリーシャの話で盛り上がっている。

 ちょいちょい湧き出してくるマーマンをセーラとレビィのコンビが文字通り瞬殺しては処分してくれるので、後ろに付いてるだけの私ら三人は特にやることもない。

 皆で歩いていく先は旧闘技場。

 新しい方の闘技場は私の脅しが効いたのか人の気配もなく、飼育されてるマーマンと施設関係者だけが普通に働いてるみたいね。

 水の記憶が見えるレビィと夢を見てる人の意識を探査できる月華王の情報を突き合わせると、結構な範囲を調べることができる。

 そんな感じで脳内マップを組み上げてみると、歪んだプリンみたいな形をしてるこのレビィティリアの中でも中層部の内側にぽっかりとどうなってるかわからん空間があるのがわかるのよね。

 街の代表、トマスさんの記憶とかを見る限り、そこが古い闘技場で間違いない。

 かつては何かの実験場だったらしい広場を改造したものらしいけど詳細は不明。

 元々は施設内を縦横無尽に移動できる仕組みがあったみたいなんだけど今は動いてない。

 その為、本来の移動経路ではない水路を通って近くまで移動してからどうやって入るか適当に決める予定。


『ホンマいい加減やな。心配せんでも壁が生きとったらワイが開けたる。だめでもセーラが一発ぶつければ穴あくやろ』

「山紫水明は威力を絞りにくいからあまり使いたくないのだけど」


 軽く請け負うレビィにため息をつくセーラ。


「これだから四聖は……この狭い中で大技ぶっぱしたら崩れるだろうが」


 私の後ろでアカリが悪態をついた。

 少し歩幅を落としてアカリの隣に行くと、アカリのげんなりした顔が見えた。

 この子、こっちに来てから悪いこと考えてる顔か、こういう顔が多くなったね。


「そういやアカリちゃん。四聖ってカリス教の幹部なんよね」

「そうですね。元々、白の龍王様には七星神っていう腹心の部下がいたんですが、あの人カリスマも人望もないものでことごとく離反されたらしく、いたっ!」


 質問に答え始めたアカリの脛をちょうど足元にいた白ちゃんが蹴り上げた。

 脛を蹴られたアカリはかなりの激痛だったらしく膝を抱えてこすってる。


「なんなんですか、この月華王。前々から気が付いてはいましたけどこの端末、なんか普通じゃないですよね」


 私はすました顔をしてる白ちゃんの傍にしゃがむと視線を合わせた。


「そう、そこなんだよね。この子だけ、多分中に誰かいるんだわ」

「そんな馬鹿な」


 涙目になりながらアカリが抗議する。


「月華王をインナーアバターに使うとか聞いたことがないです。大体、王機って認めた主か龍王ぐらいじゃないと素直にいうこと聞きませんよ」


 ふーん、そんなもんなのかね。


『二人とも静かにせーや。寝ぼけてふらついとる連中が前におる』


 不意に出てきたレビィの頭に少し驚いていると、月華王の白ちゃんが私たちの目の前から移動して沙羅の陰に隠れた。

 痛みが引いたのかけろっとした表情に戻ったアカリ、目の傍に指でメガネのような輪を作るとそこに光が出現した。

 光の傍に複数の文字が回ってるとこを見るとこれも魔導みたいね。


「たしかにいますね。アルドリーネさんも確認しました」


 望遠魔導で視認するアカリの傍にセーラが戻ってきた。


「私の方でも補足したわ。大体百人前後、行儀よく並んでるわね。どうするユウちゃん、近づいてもいいけど何かあった時にどうするかだけは決めておかないとまずいわよ」

「せやねぇ。アカリ、その魔導、私にも掛けられる?」

「できますよ。私と同じ感じに指をメガネの形にしてください」


 メガネというか望遠ジェスチャーよね、これ。

 私が目の前に両手で丸を創るとアカリが発動宣言をした。


「ナイトビジョン」


 アカリの声がかかるとすぐに目の前に遠くの映像が見えた。

 おー、こりゃまた。

 赤外線でもみてるのかね、ほんと魔導って面白いわ。


「輪を大きくすると近づいて拡大、小さくすると引きます」

「こりゃすごいわ。たださ、アカリちゃんや」

「なんですか」

「なんでみんな裸で見えてるん」

「そういう魔導だからです」


 そこには裸の人らが水路の傍の通路を歩いているのが見えた。

 多分着てるんだと思うんだよね、服。


「これ、日常使いしたらセクハラじゃね?」

「非常時だからセーフです」

『何の言い合いしとるんや。あいつら服なら着とるで、ワイが補正したる』


 レビィがそういうとアカリが掛けた魔導に水色が加わった。

 途端に拡大した視界が明瞭になり、身に着けてる服もきっちり見えるようになった。


「……ちっ」


 アカリ、あからさまに若い女の子のとこ見てたよね。

 まぁ、いいか。

 さてと、ざっと見た感じだと例のぼんやりしてるって話のあった人らなのは間違いないわね。

 話をする様子もなくお互いに視線も合わせずただ黙々と歩いていくと。

 ふーむ。


「一緒に行ってみるか」

「本気?」

「もち。というか今のあの人らの状態気になるよね」

『せやな。こうやってただ歩いとるもんがワイに見えんかったのは変や。こりゃなにかあるとおもうで』


 虎穴に入らずんば虎子を得ずともいうしね。

 思い切ってついて行ってみようという私とレビィに対してセーラとアカリは渋い表情を隠さない。


「さすがに危なくないかしら」

「同感です。何かあった時にあの人数を相手するとなったら厳しいです」


 それはそうだろうね。

 だから万一の際には腹をくくる必要があるわな。


「できるなら穏便がいいけどね。姉として指示する。緊急時には殺傷を許可する、今ここにいる私らの脱出が最優先よ」

「それならまぁ、いけるわね」

「いいんですか、優姉」

「本当に万一の時はね。だから何かあった時は私のせいでOKよ」


 私がそういうと妹たちがなぜか苦笑した。

 優先順位を間違えて妹を失うわけにはいかんだけなんだけどね。

 それと、この夢の中で死んだ場合、現実でも目が覚めない可能性は十分にある。

 けれどソレも込みでいいといった。

 本来、姉が妹を守らなならんのだけどね。

 この子ら相手だと最弱は間違いなく私なんだわ。

 そしていつもだとこういう私の判断に疑問を差し込んでくる咲が今はいない。


『なんやホンマ難儀やな。自分、阿呆のくせに余計なこと考えすぎやで』


 ははっ、それ師匠達にもよく言われたわ。


「さてと、じゃぁいっちょいきましょうか」
























 コロッセアムを彷彿とする旧闘技場、本来であれば千人は収容できそうなその場所は、かつて何かあったのか半分ほどが崩壊したままになっており残った座席にだけまばらに人が座っているのが見える。

 崩れた奥の方にはなんか天幕が張られた小さい小屋みたいなものとマイクっぽいもの、それとなんというか表彰台みたいな変なものが見える。

 表現に困るんだけどしいて言うならあれだ。

 小学校の運動会とかで校長が立って長話するお立ち台的なやつ。


『せやろか』

「そういうならレビィにはアレ何に見えるのよ」

『せやなぁ、テラでいうとこの舞台にも見える気がするで』


 ああ、そうも見えるか。

 あの後、行列にまぎれた私たちはそのまま流れに乗って旧闘技場に入った。


「その……入れちゃいましたね」


 恐る恐る周囲を見渡す沙羅の膝上には白ちゃんが抱かれている。


「優姉、入り口近くでマーマンがなんかチケットっぽいモノを売ってたんですが」


 怪訝そうにしながらも注意を怠らないアカリを呼びながら私が目に付いたものを指さした。


「アカリアカリ、あそこ」


 そういって指さした先ではマーマンが座ってる人相手に何か飲み物らしきものを渡して、代わりにコインっぽいものを受け取ってるのが見えた。


「なんだあれ。マーマンが普通に接客してんだけど」


 してるねぇ、接客。

 会話が成立してるかどうかは怪しいけど。

 ふと横を見るとセーラが複雑そうな顔をしながら頬に手を当てている。


「ユウちゃん、このマーマンどうしましょうね。トマスさんとの契約だと野良マーマンは全駆除ということになってるんだけど」

「見るからに野良じゃないっぽいから一旦放置で。襲ってきたら即殺」

「りょーかい。それにしても私、マーマンが人間みたいな動きしてるの初めて見たんだけど」

『奇遇やな、ワイもや』


 ほぉ、レビィもか。

 元が人間の赤ん坊なんだし教育とかすればこういう風にできる気もするんだけど。


『そうはならんのがつらいとこやな。普通のいきもんは生きてくのに必要な波動は生きとるMPから採取できる。せやから食物摂取で必要とするんは普通にいきもんとしてのミネラルやカロリーやな』


 話に聞くムーンピースか。

 ないと生きてけないそうだけどほんと何やってるんだろうね、MPって。


『そんでや、ゴブリンやらマーマンとかに落ちた人間は周期的に他の生物のMPを必要とするんや』

「そらまたなんでよ」

『こまかい話しだすと片手間ではおわらへん。今はそういうもんやとおもうとき』


 ふと横で白ちゃんと遊ぶ沙羅に視線を向けるとその向かい側から同じく見ていたアカリやセーラと視線が合った。

 沙羅はいまんとこそういうゾンビチックな動きは見せてないんだよなぁ。

 キーはMPとスキルかね。

 そんなことを考えていると旧闘技場は不意に暗くなり、先ほどレビィと話した舞台っぽいところに小さい女の子が立っているのが見えた。


「みんなーー! いい夢見てるーーー?」

「「「「「おーーーー!」」」」」


 不意に始まった掛け合い、周囲の無気力だった人らの目に今までなかった意志の光が見える。

 ステージっぽいその舞台の上で小さい女の子が大きく手を振りつつ私たちの方を見やって笑う。


「今日も頑張って当てちゃいましょー!」

「「「「「「「おおーーーーーーーーーーー!」」」」」」」


 その少女の衣装は少しエッチであざとかった。

 黒地にレースのミニスカート、お腹の位置には布がなくて頭の上にはとんがりが二つ付いた悪魔っ子帽子に黒のブーツ。

 ご丁寧にも服のお尻の方からは黒いしっぽが伸び、くねくねとうねっている。

 その黒い帽子の真ん中には白銀に光る『子』の文字が浮かび上がっているのが見えた。


夢の国(ドリームランド)からこんにちわ。みんなの夢を一攫千金っ! ドリームジャンボファイト! はっじまっるよーーーー!」

「「「「「「「「おおーーーーーーーーーーー!」」」」」」」」


 その子は皆に向かってこう言った。


「頑張って七回勝ち抜ければ私のママがどんな願いでもかなえてくれるよ。魔獣のお肉でも芋虫のソテーでもそれこそ、今はいない人のことでもなんでも。さぁ、頑張って戦ってねっ!」


「「「「「「「「「「「「「「うぉーーーーーーーーーーー!」」」」」」」」」」」」」」


 他が盛り上がる中、コメントに困った感がバリバリの私達。


「あれ、リーシャ姉ですよね」

「たぶんね」


 いい子ではあるけど雑味と毒っ毛が足りないとは日々思ってたのよね。

 なかなかやるわね、リーシャ。


『そこなんか』


 可愛いから問題なし。

 布地の少ない幼女には問題のある衣装をまとった愛妹。

 セーラがぽつりとつぶやいた。


「反抗期かしら」

『せやろな』

「んなわけあるかぁっ!」


 黄昏(たそが)れる水の四聖コンビに響き渡るアカリの突っ込み。

 そんな妹たちの交流を微笑ましく感じつつ、私はリーシャの後ろに視点を合わせた。

 この夢には大体意味がある。

 ああやって人が居そうな小屋を形成したなら多分そこには誰かが居るんだわ。

 さてと、アカリにさっきかけてもらったままの望遠魔導でリーシャの後ろの小屋を覗き込んでみますかね。


「…………」


 そして目と目で通じ合う。

 こりゃヤバい、目があっちゃったわ。


「お姉ちゃん?」


 心配そうな沙羅の声が聞こえるが視線が外せない。

 そこには全身真っ黒な目だけが白く光る何かが鎮座していた。


「ははっ」


 大盛り上がりの周囲の中、私だけが頭から水を掛けられたような声で笑ったのをレビィに聞きとがめられた。


『どないした』


 (ティリア)は自称オンミョウジに対抗するために最も適任な悪役(ヒール)を配置してくれたみたいだわね。


「いやー、まいったわね。久しぶりに見たわ。テラではおなじみだけどアスティリアでは初かな」

『ちゅーかアレはなんなんや』


 リーシャや私の中にあったのも河童のワルツで流しちゃったからなぁ。

 そりゃ海でないなら下水に()まるわな。

 妹たちの視線が私に集まったのを見計らって言葉を紡ぐ。


怪異(かいい)よ」


 流した(おり)がそこにいた。

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