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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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壊滅までのカウントダウン

『激おこって何やねん、あの子はそんな言わんわ』


 こんどのセリフは外には声出さないか。

 流石レビィ、必要な時にはまた頼むね。


『なんや、お前さんの面倒みんのは疲れるわ』


 まぁ、そういわんで。

 さて、とりあえず月華王(げっかおう)の調査によって対象者は大体わかってるので、そいつ等を水の蛇を使って舞台の真ん中に運ぶ。

 そういや全体的にみんな舞台の端っこに逃げてるのは何でかね。


『あんなんやったらふつうドン引きするわ』


 あれでも手加減してるんだけどなぁ。


『ガチでいっとるのがタチ悪いで。お前さんこういうとこホンマ女やな』


 あー、レビィ姓差別でしょ、その発言ー。

 とかまぁ、冗談はさておいて。

 舞台の真ん中で怯える連中、凡そ三十人ちょいを見ながら私はこういった。


「月神ティリアはお怒りだ。『マーマン増やしてー、殺し合いさせてるだけでもチョベリバなのに、神殿でエッチしまくるとかチョーさいてー』」


 ちょっと斜め下を見つつ髪の毛をくるくるさせながら私が言うとレビィがあきれた声を上げた。


『なんで昭和のコギャル女子高生風やねん』


 私の脳内にレビィの突っ込みが響く。

 ちなみに私もさすがに昭和世代ではないから実物を見たことはない。

 このセリフ回しは例によって近所のにーちゃんのとこにあった、レトロゲームに出てたベタなギャルキャラのコピーだ。

 参考までにいうと、チョベリバとはチョーベリーバットのことだそうだ。

 和製英語のさらに略みたいな感じやね。


「『もー、やだから全員死んじゃって』と女神ティリアは仰られている」

『いわんがな』


 レビィの言葉は脳内だけに聞こえてる、こういうとこレビィは幽子より空気読んでくれるね。

 私の言葉の後、一瞬だけ硬直した彼らが起こしたのはお互いへの責任転嫁だった。

 それぞれが互いをののしる罵声が神殿に響き渡った。

 やれ自分はそこまでじゃないとか、仕方なかったんだとか、他にもやってる、なんで自分たちだけがとか。

 言い訳の芸がないわね。

 あとここ神殿だって忘れてないかね。


「黙れ」


 私が一言いうと全員が黙った。

 これはアレかな。

 無自覚に夢だと思ってる連中の意識が強く表にでてるのと、各自が無根拠に「自分は大丈夫」という精神の保護をかけてるやつ。

 たしか正常化バイアスだっけかな、単語はどうでもいいんだけどね。


『ホンマいい加減やな』


 それが私の持ち味だからね。

 私は再度皆をぐるりと見渡す。


「いつも無事に夢から覚められると思うなよ。前回助かったから今回も助かると思ってるなら考え改めてね。今回はこの都市ごと丸っと全部木っ端みじんだから」

「まてっ! 俺は、俺たちはそこまでされることは何もしてないぞっ!」


 口を開きかけた兵士の一人を一睨みする。


「都市諸共、強制全連座。神がいつから人に優しいエコな存在だと錯覚していた。自惚れるのもいい加減にしろ」

『エコは関係ないやろ。それにしても大概な悪役っぷりやな、大根やけど』


 そりゃ私は妹好きな趣味オンミョウジであって演技のプロじゃないしね。


『何をどうすればこんな育ち方するんや』


 親と姉妹と環境、後は一冊の書籍と師匠達かな。

 そんな感じでいい感じに上層の連中を脅していくと、人々の瞳から次第に色が抜けていくのがわかった。

 理解不能だろうね、だから普通ならパニックで恐慌状態になるか理解することを拒むのが普通だ。


 だが、それは私が許さない。


 その為に、事前に生きてる人ら全員が連れてる月華王の端末を先に抑えた。

 私、オンミョウジのユウの手にかかれば死にかけていく間際でも精神恐慌のフィルターを外すことはできるのさ。

 少なくとも前世、病院でテロ食らって死ぬ寸前には、そうやって体動かしたわけだしね。

 まぁ、心と体の接続を切ったとこで肉体の限界が変わるわけじゃないからさ、姉のとこにはたどりつけなかったんだけどさ。


『お前、ホンマに人間か?』


 お、神代からの大怪獣レビィアタンに()められるとは光栄だわね。


『褒めとらんがな。で、このほっとくと自殺しそうな勢いのクズ連中どないするきや』


 そりゃヤクザ交渉の本番はここからでしょ。


「しかしだ。私はこの都市に姉妹とみなした眷属がいる。せめてそのものだけでもと、ティリアの姉妹であるうちの神様に懇願してみたわけよ」


 さぁ、ここからが本当のはったりだ。


『そないな神さんはおらんのやけどな』


 しってる、だから悪いけど外には言わないでね、それ。

 でもさ、レビィ。


『なんや』


 ティリアに親と子供がいたなら姉妹がいてもよかったじゃない、『人物設定』としてはさ。


『世の中、本の中の物語みたいなんとはちゃうで。大体のモンがツギハギだらけや』


 まぁ、そこはね。

 さてと、思考に流される前に続きを言おうか。


この都市(レビィティリア)は今日からちょうど二週間で滅びる、これは()()()()()()()()()


 そう、夢であっても過去は(くつがえ)らない。

 この場合、覆らないのは『都市レビィティリアが災厄により滅びた』という過去だ。

 滅ぼしたのが怪獣なのか、それとも神の怒りなのかは本来であれば重要なのだけれども災害を受けたものから見れば被害には変わりがなく、かつ主体があるものに滅ぼされたという点は変わらない。

 だが、主観として自分らの業による天の裁きと切り替わった場合には、改善すべき問題点は外ではなく、過去の自分たちの中にあったという文脈のすり替えが発生する。

 そして本来、レビィアタンはテラの神話では神に属する悪魔であり災厄なのだけど、こちらアスティリアの民間伝承ではそこの神話設定がすっぽりと抜けていた。

 ここに大きな差異が存在する。

 怪獣は天変地異だから発生そのものは誰が悪いわけでもないが、神の裁きには物語上の原因が発生するのである。

 そして彼らには神と直接対面する経験がほぼない。

 だから、このように揃いもそろって戸惑い慄くのだわね。

 恐らくだがこの世界の怪獣には、天変地異とは別の何か深い意味がある。

 今、この状態でレビィが沈黙してるのがある意味の証左なのだけど、聞いても答えないか、表面の心を操作して嘘つかれるだけだろうからあえて聞かない。

 それとだ、津波を始めとした天変地異の酷さは死傷者や物理・精神の被害だけじゃない。

 それは『死体などを目視しないと死んだことを認知できず、死者を彼岸に届けられない』という点にある。

 他人にはなかなかわからんかもしれんけどね。

 どうして残された家族が無駄かもしれないと想いつつ、お金と労力をつかって行方不明者の捜索を続けるのか。


 そこを無駄とせせら笑う人には想像力が足りない。

 それを無意味と理解する人には共感力が不足している。

 死者を探す家族には、あの日、あの時、あの場所、あの人がくれた思い出の笑顔が忘れられない。

 それを悪というのなら、世界は悪に満ちている。

 それを愛というのなら、世界は悲しみに包まれている。

 アクとアイ、日本語の発音だと一音違いだけどそれは似て非なるものだ。

 だから私は愛を理由に世界を騙す、自分の心を踏み台にして。


「私の神、シスはティリアと一つの賭けをした」


 そこで一拍、溜めを置く。


「ティリアは前回を上回る災厄をもって一人残らず滅ぼす」


 ちらりと視線を見向けると真剣な顔をしてるトマスさん。

 それと何故かぼんやりしてるリーシャの姿が目に入った。


「代わりにティリアはシスに大怪獣レビィアタンを貸与、シスを崇めるものであるこの私とともにこの地に下ろした。だから私はトライという名の現身を借りてしばらく観察させてもらったわけよ。この都市全体を」

『しれっといろんなとこを捏造しおったな』


 アカリ曰く、バレなきゃ大丈夫。

 黙っていてね、レビィ。

 そのまま彼らを観察すると口を開こうとして閉じる人たちがちらほら。

 まぁ、いろいろ言いことはあるわな、何人かがトマスさんのことをちらちら見てるってのがもうね。


「すぐには決めろとは言わない。あんたらがどう思ったかは適当にまとめて、七日後にでもうちの妹を預けたそこの人から教えて」


 さて、言うだけ言ったしすっきりしたところで帰りますか。


『鬼やな、お前さん』


 鬼じゃなくて姉なんだけどね。


「リーシャ、帰るよ」

「あっ、うん!」


 慌てた様子でリーシャが走り寄ってくる。

 偶然できちゃった神妹化(しまいか)だけど、これいつまでもつのかね。

 今の状態が続くなら帰りは水路経由でもいいかな。

 そのまま湖に飛び出そうとした私は一つ言い忘れてたことに気が付いた。


「ああ、そうそう」


 振り返ると人々がびくりと震えた。


「街の周囲にティリアの結界あるから逃げられんわよ。まぁ、難しいと思うけど脱出したけりゃ逃げてみるといいわ。その先には何もないから」


 正確には月華王の再現範囲が途切れているのだけどね。

 本当に脱出したとしてもこの夢から外れるだけだし。


『ホンマ鬼やな』


 だから姉だって。

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