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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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それは捻じれた御伽噺

 レビィティリアの上層部。

 中層と上層の間には高い壁があって、通り抜けるにはトンネルを通る必要がある。

 そのトンネルには検問が付いていた。

 アカリがくれた証明書を見せると検問の兵士は簡単に通してくれた。

 水の街、レビィティリア。

 毎度のことながら層が変わると風景が一変する。

 中層下層と違って均一に整備された各貴族や支配者層の屋敷は、敷地面積が似たような感じということもさながら屋敷のつくりも似てるのもあってどの屋敷がどの屋敷だか見分けがつかないというのが初見の感想だわね。

 他の階層と同様にここもあちこちに水路が走っていて、その水路の上には物資輸送用と思われる船とその操舵をしてる男性の水先案内人の姿が見えた。

 沙羅(さら)みたいな階層超えをする水先案内人は多くないらしく、一般的な水先案内人というとここで見るような階層内でだけ船で移動する人のほうが圧倒的に多いそうだ。

 それと腕力とかの関係もあって男性が物資運搬、女性が旅客や観光という風に仕事が分かれているらしい。

 なお、沙羅に関しては腕力が半端ないことがバレてからはギルドマスターのケインズさんに結構こき使われてるみたいだ。

 その分色々とお駄賃とか家具と小物とかもらってるみたいだけどね。

 そういったわけで上層では大体の屋敷に水路が隣接していて船着き場がある。

 専用の船着き場ではそこで荷物を出し入れしている屋敷の人々を見ることができる。

 それとは別に個別の屋敷毎に中層や下層で見た製塩浄水器が付いているね。

 つまりそれぞれの家で売り物になる塩が取れて水も自家用にそれぞれ作ってるってことだわね。

 だからかな、ちょいちょいプールっぽいものとか噴水とかも見える。

 こりゃ、アカリが毎日整備にいっていても終わらんわけだわ。

 ここまで分かりやすい階層格差と無駄遣いなんて、そうそう見れるもんじゃないわね。

 さて、物流の主体が水路にあるのもあって、そこそこ大きめに取られた道路には車や馬車などは走っていない。

 その代わり路肩近くにタイルがずらっと並んでいるのが見えた。

 一見すると日本の視覚障がい者用タイルが似てるんだけど、矢印が書いてあって、その矢印の先にも同じようなタイルが並んでいる。


「おねーちゃん、あれ!」


 リーシャが指さしたほうを見ると、おそらくは使用人と思われる大き目の手提げバックを持った女の子がタイルの上をついーっと滑っていくのが見えた。

 その子が滑るのにそって下のタイルが光っている。


「へー、滑るタイルか。こういうとこは本当ファンタジーなんだわね」


 ゲームとかでたまに見る奴だわね。

 視線を向うの通りとかに向けると遠くの方でも滑っている人を見かけた。

 降りるときはどうするんかね、これ。


「おねーちゃん、私、これのってみたい!」

「分かる。じゃぁ乗ってみようか」


 料金取られたりするのかな。

 まぁ、そんときゃアカリに付けてもらえばいいか。




















 私は、いまっ! 風になるっ!


「ひゃっはーーーー」

「すごいすごーい」


 たまにすれ違う人たちがぎょっとした目で見てるから多分お上りさんだと思われているのだろう。

 実際そうだし。

 速度としては自転車くらいの速度なんだわね。

 しばらく乗ってみてわかったんだけどちょくちょく道が分岐してるとこがあって、そこで体を傾けていた方向に進むという特性があるっぽい。

 ほんと魔導具って便利だわね。

 全身に風を感じながらリーシャと一緒に少しづつ上のほうへと昇っていく。


「ユウちゃんや、上の方、ちょいちょい工事中で道が途切れてるとこあるで。それと回路の調整しとるみたいで普段使わん経路も全部動いとる。マジきーつけや」

「了解、つーか降りるときはどうすのよ、これ」

「横に飛び降りればええ。半身乗り出せば魔導が止まるで」

「なるほど」


 レビィに止め方も教えてもらったので、リーシャと手をつなぎながら滑る床を存分に楽しみつつ、ついでに上層の美しい町並みを堪能していく。

 綺麗に整えられた庭園街に裏手や横に見える水路、町全体はまるで段々畑のように階層になっており、海水を循環させているためか潮風の匂いはここ上層にも満ちていた。

 本当に小奇麗で住んでる人には便利な街だと思う。

 上っ面はね。

 そして私の肩口に、小さく分離した水の頭部分だけ覗かせているレビィをちらりと見やる。

 数日前、アカリがこんな話をしていた。


「この都市の動力源は怪獣レビィアタンそのものです」

「怪獣でハム車でもしてるん?」


 ハム車とはハムスターが回転させる永久循環装置、もとい運動用のおもちゃのことである。


「正確に言うとですね、地下に埋蔵された各種封印装置群がレビィアタンから引き出した力をこの都市全体にいきわたらせているんです。だから放っておいても限界まで蓄魔(ちくま)されるし、製塩浄水器みたいな魔力(マナ)をバカ食いする魔導装置も保守と周期的な部品交換さえしっかりしてれば延々と動き続けるんです」

「ふーん。そして都市の特産として塩や凍らせた海鮮類を売ってるわけね」

「はい。まぁ、それだけじゃないですけどね。蓄魔分のコストも全部都市の収入になっています。作りとしては販売価格に乗せる形ですね」

「それじゃ高くなるじゃん。売れるのかね?」

「売れますね。基本的にどんな赤貧(せきひん)と呼ばれる地域でも金はあるとこにはあります。蛇の道は蛇ともいいますし」


 私は再び周囲の風景を見た。

 美しい青空に潮風、妹のロリーシャをつれてするこのサイクリングモドキは本当に楽しいといえる。

 その一方でこの都市は怪獣からの搾取で成り立っている。

 いや、ロマーニという国自体がいま肩口にいるレビィから奪い取った力を活用して生きていたといってもいいんだろうね。


「オンミョウジ殿! その先は危険です!」


 その結果、大怪獣レビィアタンの暴走とともにこの町は滅んだ、それは規定事実だ。


「そろそろ降りんとあかんで、聞いとるかいな?」


 しかしなぁ、こうやって触れ合ってみたぶんだと……


「おねーちゃん、あそこっ!」


 妹の声に我に返ると、そこは都市の最上部、黒く見えた池に向かう一本道だった。

 もうすぐ池に突っ込むルート、というか何故か崖に向かって滑る床が伸びてる。


「あっ」


 降りようとした時はすでに遅く、私とリーシャは空中に放り出されていた。

 いやー、あれだわね。

 ほら歩きながら情報端末操作しちゃ駄目とかいう話あんじゃん。

 考え事しながらこういう自動移動装置に乗ってるのはあかんね、マジで。

 ゲームとかだとあるあるだわ、調子の乗って滑ってると穴に落とされるとか。

 こういう時に言うべきはあれだわね。


「アイキャンフライっ!」

「アホかーーーーーーーーーーーーーーー!」


 レビィの叫び声が響いた。






















 遥かなる昔。

 父母達に置き去りにされた小さな女神は月の遺跡からただ一人、大きな星を見つめていた。


「ねぇ、レビィ。あの星の一番北にはきっと大きな穴が開いていて、その中には不思議な世界が広がってると思うんです。管理者としては一度きちんと見にいって、確認しなければいけないとは思いませんか」

「なんもないで」


 その質問そのものが、すでに数えるのもばからしいほどの回数されたものだった。

 正確には人の姿をしたものはかの幼き女神ただ一人。

 その傍には親たちが残した兎と蛇がそっと寄り添っていた。


「わかっているとは思いますが、あそこに行くことはできませんよ」

「わかっています、もうメティスは私のこと信じてませんよね」


 そう言って憤る女神に対し、兎と蛇は肩をすくめた。

 蛇にすくめる肩があるかどうかは不明だが。


「自分、この前キックでここ抜け出そうとしたな」

「ぬ、ぬけだしてません。ジャンプの練習しただけです」

「積み木積んで足場にしようともしとったな」

「ち、違います、あれは芸術作品です」


 蛇に続いて兎も言い募る。


「この拠点ごとまるごとあそこに落とそうとしたのは先月でしたか」

「あ、あれはちょっとお散歩もいいよねって、その……ごめんなさい」


 そのまま黙り込む女神。

 一人と二匹で眼下に広がる星を見つめる。


「ねぇ、みんなはいつ帰ってきますか」

「お前さんがいい子にしとったらな」

「お母さんたちがいなくなってから、何年たちましたか?」

「凡そ十六億ほどですね」


 いかに長命であっても心は老いる。

 それが神であってもさえも。

 少しずつ、幼い女神の心が(かたむ)いていたことに兎と蛇は気が付いていた。

 気が付いていて、それでもなお何もしなかった。

 いや、できなかったのである。

 如何に創造の力を持つとはいえ少女は幼すぎた。

 そして、親たちが不在となってからあまりにも月日が経ちすぎていたのである。

 それでも尚、狂気に足を踏み入れなかったのは偏に兎と蛇の尽力あってこそだったが、それも当の昔に限度を超えていたのである。

 そしてついに幼い女神は呟いてしまった。


「さみしいです」


 立ち尽くす兎。

 膨大な知識を蓄えた彼女をもってしても見通せないものがあった。

 それは小さい女神の渇きの癒し方。

 計算通りならあと三十億の年を過ぎれば事体は緩和するのがわかっていた。

 だが、この小さな創造神がそこまでもつとは思えなかったのである。


「なら(つく)ったらええやん」

「えっ?」


 少女の嘆きに蛇が答える。


「おとんやおかんがかえってこんのがさみしいんやろ。なら代わりの家族を創ってまえばいいやろ」

「レビィ! それは規約に違反します」

「バレなきゃええ」


 諫める兎に進める蛇。

 そしてその提案は触れ合いに飢えた小さな女神にとっては、あまりにも甘美な果実であった。


「いい、のかな」

「ええで」

「ダメです、ここで踏み込んでしまってはこれまで長い年月何のために……」

「でもっ! いくらまってもみんな帰ってこないっ! ねぇ、メティス、お父さんたちはいつ帰ってくるの?」


 白い大きな月の上、女神の(なげ)きが木霊する。

 知恵を担当する兎は答えない、いや、答えられない。

 何故なら彼女の親はもうどこにもいないのだから。


「メティス、もう限界や。それか他にいい案あるんか、あるなら言うてみ」


 力の蛇が兎に問う。

 答えは当の昔に決まっている。

 幼い女神のすがるような瞳が兎をとらえて離さない。


「……やむをえませんか」

「やったっ! 家族! 家族が増えるっ!」

「転びますよ」

「大丈夫! レビィ、メティス! 早くもどりましょうっ! どんな子がいいかな、ちゃんと考えないとだめですね」


 小躍りしそうな勢いで、居住地に戻っていく幼子を兎と蛇がじっと見送る。


「わかっていますね」

「わかっとるで」

権能(けんのう)を分割することはあの子自身を不安定にします」

「せやな」


 二匹の瞳が眼下の青い惑星をうつす。


「ワイらも腹くくらんとやな。ワイはこのまま環境保持担当でええな」

「お願いします。私の方は当面は新しく生まれる子たちの教育を担当します」

「ちゃんと教えるんやで。アレみたいなワンパクがこれ以上増えたらワイらが詰むで」

「わかっています。それとレビィ、万一の際には私たちであの子を止めなければいけませんよ」

「それこそわかっとる。せや、メティス、ワイ、一つ思いついたんやけど」

「なんですか」


 兎が蛇を見やって首を傾げた。


「ワイらのこの器なんやけど、ガッチリ力つかうなら強度不足や。せやから乗り換えなならんとおもうんやけど」

「たしかに。初期の器と比べて時間の分だけ馴染みましたので勿体なくもありますが、致し方ありません」

「せやろ。そこでや、これに環境維持の権能を載せてワイらの補助させるんはどないやろ。世界の管理が減ればアレの暴走止めるんにも、もうちょい動けるんやないか」

「なるほど、それは一考ですね。検討してみましょう」


 後に兎と蛇の器は大きく改造され再利用(リサイクル)されることとなった。

 兎の器は心を守る、その名は月華王(げっかおう)という。

 蛇の器は竜となり、その名は命竜王(めいりゅうおう)という。

 月の女神の子たる青の龍王は、それらを含む八柱の王の器を鋳造し、それに王機(おうき)と銘打った。


 それは遠い昔の物語。

 皆が忘れた御伽噺(おとぎばなし)

 知恵の兎は沈黙し、捻じれた蛇は語らない。

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