表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
36/170

神が囁く毒電波

 華やいだ時間は過ぎるのが早い。

 はしゃぎすぎたリーシャがウトウトと船をこぎ始めたあたりで先に寝せることにした。

 習慣付いているのかリーシャは寝ぼけながらもパジャマに着替え始めた。


「おねーちゃん、今夜もお仕事?」

「ええ、遅くなるから今日も先に寝ててね」

「はーい、おねーちゃん気をつけてね」

「ええ、だからいい子にしてて待っててね」

「うん」


 微笑ましい姉妹のやり取りを私らが見ているとセーラが振り返った。


「じゃぁ、三人とも。一階でお着換えしましょうか」


 昼に話したちょっと見せたい場所ってのは町の地下、地下水路の奥の方にあるそうだ。

 なので行くにあたって多少なりの準備をすることになった。

 一階、セーラの店は服飾の他にもクリーニングや仕立て直しなども請け負っている関係で、服も物も多い。


「あの、私は魔導士なので着替えるのはちょっと」


 そういやアカリの服には特殊な細工がされてるんだっけか。


「だめよ、あなたここ数日その服しか着てないでしょ」

「そりゃ、まぁ。そうなんですが……一応、自動洗浄ついてますし」


 それで着た切りやってたのか。

 なんだかんだ言って私はちょいちょい着替えてたけど、アカリは嫌がるものだからそのままにしといたのよね。


「他の服だと空間に展開する魔導の発動に時間がかかるんですよ。何かあった時に危ないので」

「大丈夫よ、どっちみちこの先行くのは地下水路だから空間が狭いわ。アカリちゃんメインは風属性でしょ。補強魔導掛けたアミュレット縫い込んだお洋服なら一杯あるから」


 そう言いながらセーラが複数の服を取り出した。

 ふーん、セーラの服には魔導の補助掛けしてあるのが結構あるのか。


「セーラ、カリス教って魔導禁止してるんちゃうの?」


 私がそういうとセーラが首を傾げた。


「そんなわけないでしょう。どうやって普通の生活するの。うちのお洋服の撥水加工とかにも魔導使ってるわよ。それともなーに、私が死んだ後で禁止にしちゃったわけ?」


 おや、話がかみ合わない。

 私とセーラがアカリのほうを見やると苦い表情をしたアカリがしぶしぶといった形で口を開いた。


「レビィティリアの崩壊は世界に大きな影響を残しました。特に一番酷かったのが魔族(まぞく)、それと魔導の排斥運動の盛り上がりです」


 アカリの言葉にセーラが訝しむ。


「魔族? この世界に魔族なんていないわよ」


 魔族ねぇ、よくあるファンタジーだと魔力に強かったり長命だったりする魔に特化した種族が配置されてたりするわけなんだけど。

 ふむ、もしかすると……


「物流とエネルギー供給の重要拠点が崩壊するという大混乱の中、各地に支部を作っていたカリス教は新しい神の星誕宣誓(せいたんせんげん)の際に『亜人分類(あじんぶんるい)』の変更を全世界に訴えました」


 黙って話を聞いていた沙羅がびくりとした。


「亜人分類?」


 なんとなく見当はつくけど一応は聞いてみる。


「はい。まず人とみなされるのはステータスを保有する存在全般のうち人間を中心としたしゃべる種のことです。そしてステータスを保有してるのは人だけじゃありません」

「ゴブリンとかかね」

「はい。それと怪獣も個体によっては持ってるんです、ステータス」

「ほう」


 そりゃまた、あれだわね。

 どの子の思い出をさらっても天敵に等しい扱いをされてる怪獣にも会話のできる、つまり知性のある個体がいるってことになるね。

 あ、いや、ナオのみーくんとかはナオのいうこと聞いてたね。


「そうなるとですね、話し合いでとかいう寝言をほざくのが必ず出るんですよ」

「無理なのかね」

「まずもって厳しいですね。大体にして深度の低い怪獣は本当に獣です。しかも魔法にも幻想にも耐性があるので、ステータス確認の魔導が通じません。知性が本当にあるかどうかは相手がしゃべるまで分からないんですよ」


 なるほど、そうなるのか。

 怪獣使いとか多分にありそうな気もするけど、それだって怪獣自体を人扱いにはできんわな。

 仮に喋れたとしても対話になるかどうかというのもあるわけだし。

 トライがこれだけ来てるこの世界なら、小さな容器に運んで出す味方の怪獣とかありそうな気がするんよね。

 ああ、そのためにカリス教のコントロールビーストがあるのか、なるほどなぁ。


「アカリちゃん、先を聞かせて」

「はい。結論から言っちゃいますけど多国間交渉の結果、ロマーニ国民は全員魔族であるとされました」


 そりゃまた随分荒っぽいことを。

 何とはなしにふと足元を見ると月華王もなぜか神妙な様子で話を聞いている。

 この白ちゃんは他の月華王の端末とはなんか一味違うのよね。

 ま、可愛いからいいけどさ。


「一応確認するけどさ、ロマーニの人って普通の人間よね」

「ええ、間違いなく。ただ、血統による適正なのか総じてMPは高めです」


 つ-ても普通に考えるなら無理筋だと思うのだけど。

 例えばさ、地球で特定地域の人間を対象に悪魔だとかろくでなしとかのレッテル張りってのはままあるし、実際にあった話だ。

 とはいえある程度交流が進んでて血が混じったりする状態で連中は人間じゃありませんというのはほぼ通らんと思うのよね。


「それ、メティスが許したの?」


 セーラの問いに一瞬逡巡したアカリ。


「むしろ逆です。最古の星神(ほしがみ)でありシャルマー・ロマーニ七世の……縁者(えんじゃ)でもあった大司祭が裏打ちしたことで龍王以外に否定できる存在がいなくなったんです」


 今、一瞬何か言いかけてやめたね、アカリ。

 その大司祭とかとシャルの間にも何かあるっぽいね。

 私がそんなことを考えているとセーラが頬に手を当てため息をついたのが聞こえた。


「そういうこと。なら、世論の調整は風ね」

「はい。四聖(しせい)の中でも唯一プライベート情報が一切公表されてない風の四聖が魔族に関する噂を流しました」


 『風の(うわさ)』ってやつか。

 なんかセーラ見てるとそれくらいはできそうね。

 月華王がセーラの足元に行って上を見上げている。

 なんかセーラの表情を見てるみたいね。


「この時期、国王は怪獣と多面で戦闘していて外交は手薄になっています。さらにここが壊滅したことで外の世論に対応する能力が決定的に不足したんです」


 うーん、それにしてもそれ無理があると思うのよね。


「この町の惨劇からしばらくの後、東方の小国で社会実験が行われたんです」


 いい予感がしないね、それ。


「どんなのよ」

「ロマーニからの怪獣難民百人と罪人百人で怪獣の巣窟(そうくつ)ではどちらのほうがより生き残れるか」


 はは、そうくるのか。

 そりゃ、多分はっきりと差が出るだろうさね。

 シャル曰く、怪獣は幻想を好んで食する。

 そして魔法、魔導というのはこの幻想世界アスティリアを構成する幻想の一種であり、MPことムーンピースを用いて行う特殊技能になる。

 スキルも雑に言ってしまえば魔法の一種だ。

 そしてアカリはさっき「ロマーニ人は総じてMPは高め」といった。

 獣が餌の多いほうと少ないほう、どっちにより目が行って食いつくかという話だわな。


「それフェアじゃないね」

「世の中そんなもんです。私が日本にいた頃から世の中がフェアだったことなんてなかったですよ」


 アカリは変なとこでほんとドライだわね。


「じゃぁさ、魔族(まぞく)の王のシャルは魔王(まおう)になるわけか」


 そういう私の軽口に二人が黙り込んだ。


「アカリちゃん、どうなの?」

「魔王シャルマーは世界的に通じるシャルマー・ロマーニ七世の蔑称(べっしょう)です」


 魔王ねぇ、そりゃあの子には似合いそうな称号ではあるけどさ。


「曰く、重力を操り(グラビティ)隕石を落とし(メテオストライク)、亜人を増やすため日々研鑽し世界征服を狙っていると」

「アカリ、シャルがそういう奴じゃないのはアカリが一番よく知ってるよね?」

「知ってますよ。知ってますけどっ!」


 激高したアカリを私が正面から見据えた。


「けど何よ」

「あの人が亜人の検体を大量に保存して実験していたのは確かなんです」


 お、おおう。


「うーん、正直、あのテラオタクがわざわざバイオにのめりこむ理由っていうとなぁ」


 多分、アイラの父親の件とかだろうな。

 私がそう思っているとアカリが再び口を開いた。


「目的は多分亜人と人の差の探求だとおもいます。その他にも失った体組織の再生や生殖能力を失った個体の増殖とかも試してました。それも王城の地下で大規模に」


 フィーたちがいたという研究施設か。


「医療実験よね」

「はい。そしてそれを風の四聖に大々的にリークされました。蘇生に失敗した実験体がいたという証拠もがっちり抑えられた上で」

「証拠を抑えるも何もシャルは隠ぺいしてなさそうだなぁ」

「ええ、まぁ。というかですね、当時のカリス教は言うに事欠いてロマーニ人は王によって魔導の実験をされて魔族に改造された哀れな者たちであり、死をもって救済されるべきだと説いたんです」


 あははは、こりゃ笑うしかないわ。

 以前からカリス教とロマーニ国のいざこざについては色々と腑に落ちん点があったのよね。

 邪悪認定するにしたって限度ってものがあるしさ。

 カリス教がやったことは生物災害、俗にいうバイオハザード扱いをしたってことなんだわ。

 ゾンビ扱いみたいなものと言ってもいいかもね。

 それでナオの『救済してやんよ』につながるわけだ。

 土台として私の出身の世界の著名な普遍宗教の枠だけをパクったカルトにしても今更クルセーダーなんぞ、よほどでなけりゃ発生しないだろうっておもうよ、そりゃ。


「国民全部を改造ってどうやるのよ。いくらシャルでも無理じゃね?」


 私がそういうと心底嫌気のさした顔をしたアカリがぽつりとつぶやいた。


「『毒電波(どくでんぱ)』」


 は?


「いやいやまてまて、ちょっとまち。毒電波って二十世紀の末に一時期日本でブームになってたあの毒電波かね」

「そうですよ、要は携帯端末の電波が健康に云々というやつとか放射線によって体が変化してとかをちゃんぽんしたあほらしい奴です」

「あほくさ」


 横で聞いていた沙羅(さら)が私のほうを上目遣いで見ながら恐る恐る聞いてきた。


「お姉ちゃん、毒電波ってその、なんでしょうか」


 はて、毒電波ね。

 口で説明しようとすると難しいね。

 マイクロウェーブ、怪力線(かいりきせん)どちらも違うしなぁ。

 被害妄想と切って捨ててしまうのが一番早いのだけど、この幻想世界だとそれが一番危ないのよね。


「アレな人が発する謎の波動。どっからともなく雑音と声が聞こえるんよ」


 首をかしげる沙羅。


「それってティリア様からのお告げですか」

「え、この世界の創造神って電波系なんか」


 劇的スクープ!

 女神ティリアは電波系少女だった。

 私が電波系女神というニュージャンルに慄いているとアカリが呆れたように割り込んできた。


「沙羅姉も適当なこと言うのはそこらへんにしといてください」


 流された沙羅がほんとなんだけどとかぼやいてる。


「この世界ではすべての生き物が王機から供給される波動(マナ)、世間一般での言い回し的には恵みっていうんですが、それに依存して生きてるってのは常識として通ってるんです。その恵みを横から掻っ攫って消費するのが魔導であり毒電波だっていう、ぶっちゃけいちゃもんを付けたんですよ」


 なんというか論理のいじり方が半端に嫌らしいね。

 魔導が魔力(マナ)、つまり王機からの力を使用して因果をいじるのは事実。

 事実でないのはそれが毒電波だというそこだけなんだけど、それを証明するのは悪魔の証明になってしまう。

 なぜなら毒電波はテラ、すなわち地球の概念だからだ。


「あー、わかった。シャルがテラオタクだって事実を悪用されたんか」

「はい。実際のとこ、あの人は自分の一代で世の中を変えすぎたんです」


 せやろうなぁ。

 多分、水掛け論になって話どころか喧嘩腰にしかならんかったろうなとはおもう。

 だって毒電波なんてトライだと知ってる人は知ってるけど、実際にあるかどうかは誰もわからんし。

 嫌らしいのはトライという存在事体がテラの技術や概念だとオカルトに属することに尽きる。

 しかもリモート、つまり電波っぽいなんかで龍札から体を制御してるっぽいしね。


「私は科学とかはさっぱりだけどさ、シャルとか幽子にいったら笑われるよ、それ」


 私の言葉にアカリが肩をすくめた。


「実際、ロマーニの魔導士はカリス教の主張をトコトン相手にしませんでした」


 幽子は何のかんの言って虐めで追いつめられるくらいの技術好きだし、シャルに至っては地球の科学を魔法に適用して異世界の科学、すなわち魔導を編み出した生粋のマッドサイエンティストだ。

 マッドサイエンティストに毒電波って確かに似合いすぎだけどさ。

 ああ、そのうちあの子に白衣とか着せてみたいわね、似合いそうだわ。


「結果、カリス教との関係はどんどん悪化していきました」

「でもさ、魔導って見た感じだと味方に引き入れて使い倒したほうが便利そうに見えるんだけどね」

「それをしたのは赤の龍王の方です。ドラティリアでは魔導は冒険者の疑似スキルの一つとして定着してます。むしろカリス教は向うではカルト扱いですね」

「そりゃそうだろうさね」


 まいったね、こりゃ。

 所属してたセーラ達には悪いけどさ、カリス教、私が思ってた以上に粗悪なカルトだわ。

 というか宗教と思うからダメなのかもしれんわね。

 錬金術を経由して科学と分離する前のオカルトなんだわ。

 こりゃシャルとは相性悪いわけだ。


「むしろアカリ、よくその状況でカリス教に食い込んだね」

「神聖術は表向きには魔導ではないので。私は良い魔族という扱いで特赦(とくしゃ)を受けたんです」


 清々しいまでの蝙蝠っぷりだわね、この子。


「実際のとこ神聖術は術者のマナを使用する魔導はほとんど転用してないんですよ」

「なるほどねぇ。まぁ、私らにとっちゃ昔の話だし、さっさと着替えよか」

「そうですよね。着替えるにしてもせめて風補強の強い服でないと」


 すっぱりと切り替える私たち。

 セーラの瞳がいろいろな感情をたたえているのが見えたがあえて無視することにした。


「セーラ、地下水路に潜るのに向いた服ってある?」

「任せて。三人とも素材いいからすっごく可愛くしてあげるわ」


 あ、なんか自滅した気がする。

 隣でアカリがアホ姉と呟いたのが聞こえた。

 そんな私の隣で沙羅が目を丸くしながらセーラに聞いた。


「わ、私もですか」

「むしろあなたが一番腕が鳴るわね。その肌の色に似あうお洋服、ちゃんと見立てるから」


 しかし毒電波ねぇ。

 ふとひらめいたのでアカリに振ってみようか。


「アカリちゃんや、シス教では幽子が発する妹的なユンユンが一定溜まるとさ」


 そこで一旦溜める。


「どうなるんですか」


 聞きたくないだろうに律義に聞き返してくるのがこの子のかわいいとこだわね。


「妹に進化するって広めてみようかと思うんだけどどうかね」


 ため息とともにアカリが毒付いた。


「退化だろ、それ」


 はは、一本取られたね。

 いける気がするんだけどなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ