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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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月兎は河童の夢を見る

 周囲の人が騒がしくなったあたりで私らはアカリに手を引かれて現場を離れた。


「別段逃げなくてもいいんじゃね?」

「めんどくさいので、先に兵士にこちらから通達します」

「了解」


 アカリが私の手を引くのに合わせるように小走りにリーシャと沙羅(さら)がついてくる。


「あ、あの、ここって……」


 目を丸くしている沙羅を、リーシャが物珍し気に見つめる。


「ああ、沙羅。この子こっちでのリーシャ、こっちではアカリの妹の妹になったから」

「は、はい?」


 分かってないようだけど面倒なのでそのまま押し切ることにする。


「リーシャ、この子私の妹で沙羅、よろしくしてあげてね」

「あ、うん。初めまして、リーシャです」

「えっと、はい。沙羅です」


 遅れぎみなリーシャを沙羅が手をつないで引く。


「あと、リーシャ。沙羅、河童(かっぱ)だから」

「へ? カッパってなに」

「詳細は沙羅にきいて」

「え、ちょ、ちょっと待って、待ってくださいおねーちゃん」


 混乱する妹二人が後ろでわいわいしてるのをほのぼのとした気持ちで観察する。

 ふと視線を私を引っ張るアカリに戻すと冷たい視線が返ってきた。


「優姉はいつか妹に()されると思う」

「ヤンデレか」


 処置なしといった様子で頭を振ったアカリ。

 特に何か言うわけでもなくずんずん進んでいった。


 レビィティリアの下層は大きく分けて二つの側面を持っている。


 一つは水場を利用した荷役処理。

 基本的にこの世界は遠海を用いた海洋貿易がほとんどなされていない。

 その理由は海から怪獣が出現するからだ。

 その代わり空を利用した空路での輸送があるわけだけど、ぶっちゃけ費用が高いらしい。

 そうなると主に利用されるのが比較的弱い怪獣しか出ない沿岸部を移動する船と川、もしくは陸での輸送になるわけだ。

 空間圧縮魔導具ってのがあって内部空間を拡張できるらしいのだけど、それを動作させるのにも魔力(マナ)がいる。

 維持管理も高くつくとあって、結局は普通のコンテナに冷凍や各種守りをつけるのが主流になっていたそうだ。

 その為、滞在している間に自動的に蓄魔されるというこのレビィティリアが必然的に交易の要となるわけだ。

 個人技としての空間圧縮もあるらしいけど深度によって能力が段違いに変わるらしいのよね。

 それと維持するのに恒常的に魔力を使い続けるそうだ。

 ちなみに沙羅のポシェットはスキルの延長なので魔力はほぼ使わない。

 シャル曰く沙羅の場合には自然回復のほうがアイテムによる消費速度より早いそうだ。

 そのあたりもあってロマーニ国ではここ、レビィテリアを中核に据えた他国とも結んだ交易をしていたという話。

 ま、この辺りはシャルの受け売りなんだけどね。

 先々の予定としては空間圧縮コンテナを積んだ魔導列車(まどうれっしゃ)にしたかったそうよ。


 とまぁ、ここまでは下層のきれいな側面。


 ふと後ろを振り返るとあからさまに作りの悪い木製のバラックが傾斜にずらりと並んでいるのが見える。

 水路からだと古い町並みしか見えないように壁やちょっと高めの建物で上手く隠してるのがミソだわね。

 振り返った私の視界の中で沙羅とおしゃべりしているリーシャも元々は下層の住民だったとセーラからさっき聞いた。

 それが、本当なのかどうかはわからんけどね。

 この下層にいるのは主に他の街から逃げ延びてきた難民たちだ。

 何から逃げたって?

 そりゃ大体は怪獣でしょ。

 リーシャの場合は怪獣によって沈められた貴重な遠海航行船舶の生き残りで()()出会ったセーラが引き取ったそうだ。


「可愛かったからよ。ハートに来たの」


 とはセーラの談だけど果たしてどうなのかね。

 でまぁ、下層の難民バラック、実質は貧民街(スラム)なのだけど私の世界での貧困ほどは貧困はしてない。

 何せこの町、適当に釣り竿垂らしていても餌なしでオケラが珍しいといった釣り人垂涎(すいぜん)の街だからだ。

 もちろん魚に警戒心がないわけじゃないのだけどそれにもまして漁獲量が多い。

 だから適当に過ごしていても食いあぶれるということが多分に少ないせいか、貧民街特有のガツガツした雰囲気がかなり薄い。


「おっとごめん……」


 とか言ってる傍からぶつかった瞬間に持ってた小銭入れ(コインケース)をおっさんに取られた。


「エアロバインドッ!」


 すかさずアカリが魔導(まどう)を発動。


「ぐべっ」


 両足を風の拘束にとられたおっさんがそのまま地面にひれ伏した。


「何やってるんですか、ここでぼうっとしてると怠けものにこうやって取られますよ」


 そういってすられた小銭入れを取り返して私に投げてきたアカリ。

 冷たい目でおっさんを見下ろしてる。


「頭踏んでやろうか、おっさん」

「や、やめ、いや……」

「アカリアカリ、スカートの中見えてる」

「!!」


 あ、思いっきりおっさんの薄い頭踏んずけた。

 伸びちゃったじゃんか。


「くっそ、誰かのせいで。ほら進みますよ」

「うーい」


 こんな感じで貧乏で柄は悪いけど変に緩いのがここレビィティリアの下層だ。

 伸びてるおっさんを見るがそこには月華王の端末はいない。

 そう、この下層部ではほとんど月華王の端末をみないんだわね。


「優姉」

「なによ」

「今のおっさんって……いえ、別にどうでもいいです」

「さよか」


 そんな風に周囲を眺めつつ進んでいく。

 しばらくすると海岸近くの荷物の検査場に到着した。

 その一角にある兵士詰め所へと進んでいく。


「とりあえず、私が適当に説明しておきますで黙っていてくださいね」

「うーい」


















「なるほど、今後の魔導具修繕の下見のためにわざわざこの下層までお越しいただいたということですか」

「はい。現状では動作している町の魔導機構群ですが長期的な目で見た場合には保守(メンテ)が必要です。本日の午前は早朝から中層部の調律を行っていましたが、その際に魔導具に連動ノイズが計測されました。これは魔導連接点である下層部の魔導具にも大きな不具合があるのではないかと思い姉とともにこちらに来たのです」


 アカリの長台詞もさることながらこの詰め所にいるお偉いさんも、他の事務員っぽい人も兵士の人も私のそばでおいしそうに菓子を食べるリーシャと沙羅にくぎ付けである。

 可愛いからしょうがないね。


「それで、その……そちらの……」


 お偉いさんの視線が自分に向いてるのに気が付いた沙羅が視線を合わせた。


「み、緑のお嬢ちゃんは……その亜人であってるのかな」

「あ、は……」

「違います、河童(かっぱ)です」


 肯定しかけた沙羅の言葉を私が遮って代わりに応える。


「カ、カッパ? それは聞いたことがない亜人なんだが……」

「亜人じゃなくて河童。テラの水辺にすむ妖怪ですよ」


 私がそういうと何とも言えない空気とともにアカリが額に手を当てるのが見えた。

 被りを振ったアカリが、お偉いさん相手に営業スマイルを浮かべながら口を開いた。


「ご存じないかもしれませんがカッパは陽界王(ようかいおう)の眷属のレアな幻想種(ハーフゴッド)です」

「そ、そうなのですか」


 ヨウカイオウねぇ。

 妖怪の王さまでもいるのかいな。


「今は私が調伏後に妹にしてシスの眷属に仕立て直してるんだけどね」


 物理で調伏(ちょうぶく)しました。


「ほ、ほう。そんな名前の神がいるのですか。しかしチョウブクとはいったい……」

「オンミョウジの業です」


 そういって龍札(たつふだ)を見せる。


「そ、そうですか。つまるところトライのスキルということですかな」

「せやで。そうそう、死人が出なかったのもこの子のおかげなんよ」

「それは素晴らしいですな」


 ここは嘘はついていない。

 なんか足元で月華王があきれたような目で見てる気がするけどきっと気のせいでしょ。


「こうやって両手を合わせて沙羅に祈るといいことがあるかもよ」

「え、ちょ、おねえちゃん?」

「なるほど。さすがは陽界王の元眷属、あり得る話ですな。では一つ私も」


 日本風に両手を合わせて拝み始める。


「えっと、私もいいですかね」

「どーぞどーぞ」


 そのうち釣られるように祈り始める職員一同。

 呆然と祈られる沙羅。

 その隣で硬直するリーシャ。

 よし、うやむやにはできたかな。


「なんだこの状況」

「アカリも祈ったら?」

「このアホ姉。私、黙っていてっていいましたよね」


 妹の素晴らしさを語れる絶好のチャンスかなっておもったものでつい。


「まぁ、沙羅の良さを皆で共有できたし結果オー……いったっ!」


 なぜ足踏んだし。

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