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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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出来ること、出来ないこと。そして出来たこと

 今日で六日目か、確か今日だったかな。

 午後の出発前に部屋の中でアカリに声をかける。


「アカリ、頼んでおいたのって出来てる?」

「できてますよ」


 そういいつつアカリが渡してきたのは祭りの出店で売ってそうな安っぽさの漂う指輪。

 もらった指輪を適当に左手の人差し指にはめる。

 サイズはぴったりやね。


「これってどうやって使えばいいのかな」

「逆の手の親指で指輪の下の方を抑えつつ、人差し指で上の宝石部分をこすってください」


 言われるままに擦ると床一面に魔法陣が展開された。

 これは妹転換の時に空に表示された奴だわね、よー覚えてたこと。


「この魔法陣どうやればきえるの?」

「指輪を外すか一定時間立つと消えます」


 言われるがままに指輪を外すと表示されていた魔法陣が消えた。

 魔法陣の傍でふんふんと匂いを嗅いでいた月華王が飛びのく。


「いわれたままに作りましたけど、これ、見た目だけで魔導としての中身はないですからね。いくら私でも分類前の魔法は模写できません。最低限、シャル姉に魔導として分類してもらえないと私のスキルは発動できないんです」

「なるほどねぇ、まぁ、十分よ」


 そういいつつ私が指輪を再び指に嵌めた。


「そういや優姉、ここって優姉の夢の中でもあるんですよね」

「せやね」

「なら、優姉の意識で好きなように改編とかできたりしないんですか」


 それ、最初の三日間にも何度か言ってたよね。

 まーだあきらめてなかったんか。


「無理だわね。主体がリーシャにある以上、どちらかというと私たちが王機の精密補正のある相手の夢の中にダイブしてる感じになってる。例えばだ、アカリ。私の視点を見る魔導ってあるかね」

「ありますね、月魔導であれば」

「ちょっとそれで見てみて」

「いいですけど……ちょっと手をつかみますよ」

「ういよ」


 アカリの柔らかい手が私の手をつかむ。


「ビュージャック」


 私とアカリの間に月華王がひょっこひょっこと歩いてきて二人の両足に触れた。

 ふーん、これで見てるのか。

 アカリが目を閉じてるのを確認してから声をかける。


「アカリ、見れてる?」

「見えてますよ」


 ならやってみるか。

 傍にある椅子に手を置いて意識を制御する。

 私の視界から椅子がすっぱりと消え去った。


「え? うそ、消えた?」


 アカリが慌てた様子で目を閉じたまま自分の手を伸ばして椅子の場所を探る。


「あれ、ある。私の手が見えるけど椅子が見えない。なんですか、これ」


 何って言われてもね、これが私のオンミョウジよ。


「私の我流陰陽道ってのはあくまでセルフコントロールの一種なんよ。見たいモノ、見たい常識、付けておきたいモノを任意に選定できる。そういう技能ね」

「んなばかなっ」


 アカリが手を放して目を開けて手を振る。


「ならなにか、あんたは自分の無自覚なものとかも全部いじれるってことになるじゃんか」

「そこまでは。少なくとも五感は全部いじれるわね。幽子もその延長で構築したわけだし」

「えー、幽子姉ってそうやって創ったのか。というかそれってノイローゼとかごっこ遊びなんじゃ」

「そうよ。イマジナリティーフレンドともいうわね」


 その流れでいうならイマジナリティーシスターとか脳内妹とでもいうべきかね。


「あれって一種の病気だったような。マジでそこまでできるんですか。優姉、どこまでできるんですか」


 イマジナリティーはたしか現象であって病気ではないんだけどね。


「さぁどこまでできるのかはちょっとわからんわね。ただ歩けない、呼吸ができないまでなら試したことはあるわよ」


 シャルは四聖のことを人格破綻者と呼んでたけどさ。

 社会からズレていることや倫理が欠けていることを破綻というなら私も破綻者に入っちゃうわな。

 人によっちゃ狂人とも言われかねない私が、無事に前世で事故死できたのは偏にとことん逃げ回ってきたからだ。

 擦り合わせができずとも社会と衝突さえしなければ私のような奴でも最後までいけるし、幽子のような比較的いい子であっても生を全うできない。

 そこで世界が狂ってると割り切れていたなら、私はもしかしたら状況によっちゃ世界の敵になってたかもしれんわね。


「よく生きてたな、それ」

「ぶっちゃけ死にかけた。運よく助けられたから生き残ったけど向こうの姉に激怒されたわ」

「あたりまえだ」


 アカリはともかくなんで月華王までぐんにょりした反応してるのかね。

 窓の外を見るとよく晴れていて気持ちのいい青空が広がっている。


「妹が死んだ現実が見たくなかっただけなんよ。只々それを限界まで突き詰めてたら何時しか自分が世間的には可笑しくなってた。それだけさね」














 私が見つめる中、青空を背に(はかな)く笑う優姉。

 なんでそこで笑えるんだよ。

 何というか私が、いや俺がこいつ見てるとむしゃくしゃする。

 傲慢にして傍若無人、周りをさんざ振り回しておいて反省してるかどうか怪しい人生初めての年下の姉。

 大体、こいつと付き合ってると年下の姉とか年上の男の妹とか倫理以前に常識がどんどんおかしくなっていく。

 その癖、何というかほっとけない。

 何なんだこいつは。

 狂った言動してるくせに変に理性的で自分を他人視点で見てやがるし。


「今日はちょいと無茶するけど付き合ってくれないかな」


 そういって苦く笑うこのアホ姉を放置できる妹が一体どれだけいるだろうか。

 きっと放っておいたらどっかで死ぬ。

 それもすっごく下らない理由で。

 夢の中だから仮に死んでも大丈夫のはずなのに、なんかこいつだけは幸せな顔をして目が覚めない気がする。

 そうなったら責任取らされるの私じゃないか、まっぴらごめんだ。


「ほんっと最悪ですね。いいですよ、やってやりますよ。で、どこでしたっけ」


 私がそう振ると優姉は一瞬考えこむしぐさを見せた。


「下層、こっからだと三十分くらい下がった場所の製塩浄水器のある建屋が爆発するね。時間は大体午後の三時くらいかな」


 完全ではないらしいけどこの先、この町に何が起こるかをこの姉は緩く抑えてるらしい。

 大体わかったとか言っておいていつもザルなんだけど。


「下層はまだ手がついてないですからね」

「上から順にだっけか」

「はい。基本金持ってる人のとこからですね」

「そりゃまた、身も蓋もないね」


 優姉の話だと実際にはここ数日の間にも町の魔導具に複数不具合が出るはずだった。

 事前に情報もらったので小遣い稼ぎがてら修理したけど、意味ないっちゃないとおもう。

 だって夢だし。


「正直、私は今でもリーシャとセーラつれだして、外で楽しく暮らせばそれでいいんじゃないかって思ってるんですけど」

「アカリらしいね。けど、それじゃダメなんよ」

「何でですか」


 私も月魔導は初めてだし、夢が云々言われてもわからないんだけどだめらしい。


「セーラの謎が解けてない」

「はい?」















 首をひねるアカリ。

 説明が難しいのだけどどういったものかね。


「私の陰陽道は現実の世界を誰かが見ている物語だと見立てて、それを分解することを基本とするんよ」

「はぁ……それで」


 まぁ、わからんよね。


「セーラのキャラクター設定に不自然な穴がある。それとリーシャのセーラにしてはリーシャが知らないことを知りすぎてる」

「そりゃまぁ、でもリーシャ姉が忘れてただけなんじゃ」


 ならいいんだけどね。

 足元の月華王を見ると後ろ足で頭を書いているのが見えた。


「ここ三日営業したけどさ、死者が私のとこに相談に来たことてないのよ。一度もね」

「どうしてですか」

「多分、死者は生前の行動から外れないんだろうね。だから試してみたんよ、セーラはどうだろうなって」


 私の言葉にアカリが考え込む。


「確かに自動反応、ではないですね。でも優姉」

「なによ」

「私の記憶する限り水子のセーラはここで死んでいます。契約怪獣のレビィアタンはカリス神が引き継ぐ形で使役して後年の戦争に使われています」


 そこなんだよね。

 アカリ曰く、四聖が十分な状態で契約怪獣を伴って勢ぞろいしたことはないそうだ。

 細かい話はされたけどよーわからんので流したが、適当にいじり倒して怪獣のほうはカリス教がそのまま使ったらしい。

 あと対外的にはセーラは戦争の時まで生きてた扱いになってたらしい。


「それな、たぶん何か意味があるんだわ。物語論でいうとそこにはなからず仕込みがある」

「優姉、現実みましょうよ」

「現実は小学生の時に質屋に入れた」

「とって来いよっ、やな小学生だな」

「はは、違いない」


 律儀だよね、この子。

 ほっとけば楽な方、(ずる)いほうに行こうとするくせに。


「どちらにしろ、セーラをなんとかしない限りはどうにもならんのよ。そのためにも私たち二人がどこまでできるか昼のうちに試しときたい」

「いいですけど、無理そうだったら優姉連れて現場離脱しますからね。さらに無理そうなら優姉は置いて逃げますから」


 多分、本当に逃げるね、この子は。


「ええよ。さて、外でリーシャも待ってるしお散歩に行きますかね」

「はいはい、崩落現場へのお散歩ですよね」


 やってらんないといわんがばかりのアカリ。


「よろしく、マイシスター」

「私は幽子姉じゃないので、そういうのはどうでもいいです」


 つれないこと。















 リーシャと手をつないで街を歩く。

 全体的に白い石材と木材できた町の中を一定距離で水路が流れその上に橋が架かっている。


「古き月よりいざないてー、昏き夜をてらしだすー」


 私が教えた歌をリーシャが口ずさむ。


「結構覚えたわね、リーシャ」

「えへへ、ちゃんと歌えてる?」

「上手上手、さすがリーシャ」


 私がそういってほめるとリーシャがほほを染めて照れた。


「優姉、それって……」

「私が適当にでっち上げた月華王版の歌よ」

「あんた、あいかわらず適当に生きてんな」

「ありがと」

「ほめてないから」


 中層と下層の敷居にははっきりとした段差がある。

 上層と中層の間には壁があって兵士もいるんだけど中層と下層の間は結構適当だ。

 だから、歩いて行こうとすると急な階段を下りる必要が出てくる。


「あかりちゃんや、やっぱ下層の魔導具の修繕って許可下りんのかね」

「無理ですね。大体にして町全体のメンテナンスが足りてないんです」


 階段から落ちないように注意しながら下層へと歩みを進めていく。

 船を使ってもいいんだけどね、普通にお金かかるんよね。

 同層内だと安いんだけど層を移動すると途端に高くなる。

 それと下層と上の層との船はほとんどが荷役で旅客はほぼないのよね。


「シャルがそういうの放置する気はしないんだよなぁ、なんでこうなったのよ」

「いろいろあるにはあるんですが一番の原因は怪獣の多発です」


 あー、そういうことか。


「この時期、他の地域が総崩れしていますからね。見た目的には安定運用できていたここは後回しになっていたんです」

「なるほどねぇ。で、アカリちゃんや。それってやっぱりそういうことなんかね」

「ええ、まぁ」


 この時期からカリス教は暗躍してたってことか。

 つまり本命はここ、レビィティリアで他は釣り餌ってことだわね。

 時期的にはアカリやアイラ、フィーリアの故郷が怪獣に蹂躙されたのも、このいま見えてる時代のちょい前だわね。


「よっと、やっとついたわね」


 下層についてまず思うことは猫が多いこと。

 多分、生ごみが多いんだわね。

 全体に木造が増えてるってのも特徴かな。

 そういってると女の子が一人走り寄ってきた


「あ、おねーちゃん。ありがとう、見つかったよ」


 お、猫の子か。

 手には黒地に口元からお腹にかけて、それと足先が白いソックス柄をした猫が抱かれてた。


「みつかってよかったね」

「うん! ありがとう、オンミョウジさん! またねー!」


 走り去っておくその子の後を月華王の端末がひょいひょいとついていく。


「お姉ちゃんってすごいんだね」

「オンミョウジだからね」


 傍を見るとやれやれといった様子のアカリのしぐさが見えた。

 さらに数分歩くと目的の場所についた。


「お姉ちゃん、ここで何かあるの?」

「ちょっとね、アカリ、あれかね」


 少し上の位置にすっかり色のくすんだ製塩浄水器のある建屋が見える。

 その下は大きく壁になっており、下にはバラック型の住宅が並んでいるのがみえる。


「多分あれでしょうね。遠目で見る限りは動作停止してるように見えますけど。たぶん、魔導具と建屋に仕込まれた魔導回路の接続を切り忘れてるんでしょうね。破損して動いてないので気が付いてないんだと思います」

「OK、なら始めますか。リーシャ、危ないからそっちの方によけておいて」

「う、うん」


 リーシャが離れたとこからこっちを見ているのを確認してからアカリに話しかける。


「もう少しは時間あると思うけど、時間稼ぎお願いね」

「ほんと、いざとなったら逃げますからね」


 そういうアカリの視線は普通に生活している周辺の人々に向けられている。

 月華王の端末は私たちそれぞれ分しかいない。

 つまりは今日この時にこの人たちは死ぬということだ。


「さぁ、始めますか」


 アカリに作ってもらった指輪を動作させる。

 私とリーシャにとっては見慣れた『妹転換』っぽい魔法陣が地面いっぱいに展開される。


「北辰の流れは絶えずして、地へと還れぬ物は無し」


 私の詠唱が周辺に響き渡る。

 声につられて周囲の建物から次々と人が出てくるのが見えた。


「南天の輝きは帰せずして、天へと還れぬ者は無し」


 魔法陣が一層きらめく、ここら辺もアカリちゃんが仕込んでくれたんかね。


「我が……」


 私がそこまで言った瞬間、上部にあった建造物が爆発しはじけ飛んだ。

 同時に土台となっていた大量の石も崩れて宙を舞う。


「エアロシールド!」


 アカリの魔導が爆風を防ぐ、けれど砕け散った瓦礫がまだ大量に浮いている。


「術式強制キャンセル、短縮実行、エアロバースト!」


 アカリの術が一番大きい瓦礫を一瞬押しとどめる。

 私は一気に詠唱を言い切った。


「緊急省略! 緊急招来っ! いでよっ、シスの眷属にして我が妹、沙羅(さら)っ!」


 飾りだったはずの魔法陣から風が吹きあがり、真ん中に見慣れた河童(かっぱ)の妹の姿を現出させた。

 私はトンネルでやったのと同じノリで上を指し示すと叫んだ。


「沙羅っ! 全部収納!」

「は、はいぃぃ!!!」


 沙羅がポシェットを開くと空中に舞っていた瓦礫が次々と中に吸い込まれていった。

 すべての瓦礫が吸い込まれたあたりで時間切れとともに魔法陣が消えた。


「いや、ひやひやだったわね」


 ふーん、きちんと手順を踏めば夢の世界も騙せるもんなんだわね。


「ほんとそうだよ、何とかするってこういうことかよ。というか優姉のいいアイデアってホントろくなことないですね」


 悪態つくアカリ。


「えっとあの……ここ、どこですか」


 きょろきょろと見渡す沙羅。

 まぁ寝てただろうしわからんわな。


「優姉、沙羅姉が見えるきがするんですがこれ、例の優姉の妄想ですか」

「妄想いうなし。ここしばらくで準備してた疑似スキル『妹召喚』よ。できるもんだわね」

「こいつ……夢の中の現実を捏造しやがった」


 現実を捏造って単語がアカリの混乱を感じさせるわね。


「今のは……あ、あんたらは一体」


 感慨にふけっているとバラックからでてきた初老の男性が私に声をかけてきた。

 私、アカリ、沙羅のその傍を気持ちのいい潮風が吹き抜けていった。

 まぁ、説明はシンプルでいいか


「オンミョウジ」


 どんどんオンミョウジがおかしくなってくとアカリが後ろでぼやいたのが聞こえた。

 さてと、ここまではできることが分かった。

 あとは死者の呪いをどう(さば)くかだわね。

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