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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第三章 歪曲都市編 優しい幸福がそこにはあった
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追憶の中のレビィティリア

「いやぁ、絶景だねぇ」


 いわゆる体育座りというやつで高いとこから海とか見るのってなかなかおつだよね。

 北の国からこんにちわかと思いきや海に港ときたもんだ。

 目の前に広がるは黒味を帯びた海水をたたえた果ての見えない内海。

 それを見下ろす形で私とアカリ、それと一匹の兎がいた。

 海のそばには山の側面に沿って作られたようにも見える港町、その山側には怪獣除けの高い壁が海の中からそりたって山と街を遮る形でぐるりと一周してまた海に入っていた。

 あの海の中からそそり立ってる壁の部分とかどうやって作ったんかね、私の元の世界でもまず見ない作りだわ。

 アカリの神秘的にも見える緑の瞳が私をにらむ。


「優姉、しれっと今来たように言ってますけど、誰かさんのせいで迷子になってから三日たちましたからね」


 疲れたような顔で私をにらみ上げるアカリ。

 そのアカリの持つシルバーの髪の傍、肩口には白くて目が金色の兎がいた。

 正確には兎っぽいそれが前足をアカリの前のほうにだらんと伸ばした形で後ろ半身はそのままアカリの背中に張り付いている。


「いやだってさ、夢の中の世界でリーシャに関係する街だけ再現されてるとか言われたら普通気になるじゃん、そこから外れたらどうなるのかって」

「気になったからって普通は全力で再現領域から脱出を試みたりしませんー、バッカなんじゃないですか。あ、アホ姉でしたね」


 三日間、二人で今見える領域の外に出た割には存外元気だね。


「収穫はあったじゃない」

「そりゃまぁ、この認識世界で今の私たちがどこまでできるのかは試せましたけど、それって結果論ですよね」

「せやね」

「あー、もう、そのなんかさらっと流されるのがチョーむかつくー」


 元男の割には思いっきり女の子の言動が馴染んでるあたり、スキルの影響なのか本人資質なのか考え込むとこだわね。

 あー、逆に同性から見てあざといあたり、多分人によっては鼻につく媚の売り方が男だった名残なのかもしれんね。


 さて、今更ではあるが今目にしてるこの風景はリーシャを核とした精神世界、言い換えるならあの子の夢の中だ。

 海が広がる傍に存在するこの大きな町はかつて津波の被害を受けるまでリーシャが住んでいたというロマーニ国の南端の町レビィティリアである。

 シャルの会話なんかにもたまに出てくるんだけど、ドラティリアやアルカナティリアといった感じに都市や地域などの名称の末にティリアがついてることがちょいちょいある。

 それは古の時代、女神ティリアが関与した構造物や町なんだそうだ。

 たしかエンシェントシティだったかな、今眼前に広がるレビィティリアもその一つ。

 シャルから聞いた話だとこの世界、基本は城壁をこさえた城下町を構築しそこを中心に活動する。

 これは怪獣対策としてよほど大きな奴じゃない限りは襲来してきた怪獣をやり過ごすというのが考えの基本にあるからだそうで、国家名と主要な都市名、そして支配者の性が同一なのはそこら辺の関係だそうな。

 そして都市の周辺に耕作地とそれに紐づいた集落が形成されてる。

 城壁の外にはあまり町は作らないってのは、怪獣とかに周期的に壊されたりするからなのかもしれんね。

 アイラやフィーの思い出に出てきたコナラ村はもっと北側、ロマーニ国の端っこ近くの領土の一村落ってわけだ。

 ここ三日の何もない白い空間での心温まる姉妹の交流でアカリが教えてくれた感じだと多分アカリの実家も都市の領主だったみたいね。

 魔導によって急速に国力を伸ばしたロマーニは周辺の困窮する都市国家を複数併合した大きな国なんだそうな。

 その支配地域は大体、私の元居たテラでいうとこの二十世紀でいうヨーロッパロシアあたりとほぼ被る。

 ちなみに、その西隣以降には小さい都市国家が大量にあるそうで、そこら辺は全部ドラティリア連邦と言う名称でドラティリアという国の傘下として所属している。

 ちらっと聞いた話だとドラティリアでは普通に冒険者ギルドがとかがあってモンスター退治とか野党退治とかしてるって話だから、そっちは普通のファンタジー世界って言っていいのかもしれんね。


 以前にえらいざっくりしてるねぇとシャルに聞いたら


「領土があっても維持するのも食っていくのも大変ですから」


 と答えられたわけだが、そういう世界で周辺国を引き取ってたロマーニってかなり強い国だったんだろうなってのはさすがの私でも察しが付く。

 そこまでしてなんで拡張したのよと思わんでもないよね。

 それについても聞いてみたことがあるんだけどさ。


「テラでは珍しくなかったという大陸を横断する鉄道を引いてみたかったんです」


 シャル曰く実利とロマンの両方を見据えてだったそうな、そういうとこ男の子だねぇ。

 下手すると道路すら維持できなさそうなこの世界で鉄道インフラって無理じゃね。

 それと、路線の位置がどう見てもシベリア鉄道っぽかったのよね。

 いつの日か地上を抜け出してアンドロメダまで引く予定だったのかもね。


 さて、このレビィティリアもかつては独立した一つの国だったわけなのだけど、鉄道を引きたいという野望を持ってたロマーニに併合された。

 ぶっちゃけ怪獣が領域内で暴れたことによって耕作量が激減して半ば身売りする形で統合したって話だ。

 そも、この世界、海の沖に出れば出るほど強力な怪獣が出る。

 アカリが倒しまくってたサメもああ見えても深度一の怪獣だったりする。

 手に負えなくなるのは深度二の後半から三に入ってからだそうで深度一あたりだとああしておいしく食べられてしまうこともあるわけだ。

 長くなったけど、結局のところ船で交易とかは沈没率も高く港があっても船が来ないなんてことはざらだったりする。

 そんな海はあるけど交易港としてはいまいち役に立たないレビィティリアが地方の一都市としての位置を確立したのが最後の頃、今見てるのはそんな在りし日の追憶にしか残ってないレビィティリアだそうな。


「ところでアカリちゃんや」

「なんですか、優姉」


 あからさまに不機嫌な表情でもルックスがいいとそこそこに見えるってのは結構ずるいよね。

 逆に言うと可愛いだけで怖くもないんだけどさ。


「その兎、何よ」

「ちょっ、おまっ、私が丁寧に説明したとき大体わかったって言ったよなっ?」

「大体ね」

「わかってねぇじゃねーか、このアホ姉」


 そういいつつアカリちゃんが私の頭を両腕で締めてきた。


「いたたた、そして柔い」

「このまま窒息して死ねっ、このあほたれっ!」


 じゃれあうこと数分。

 本人はプロレス技かけてるつもりっぽいけど、かなり非力なものだから大して痛くもない。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、そ、そろ、かんべんし、げほ、これで勝ったと思うなりょ、げほっ」


 ほんと体力ないな、この子。

 それとその言い方だと私が勘弁してあげたようにも聞こえるんだけど。


「でさ、月華王(げっかおう)だっけか、この子」

「はぁ……聞いてたんじゃないですか」


 なんとなくはね。

 脱力するアカリのそばでひょいっと片手をあげたうさちゃん、こと月華王。


王機(おうき)でいいんだよね」

「そうですよ」

「なんでここにいるん?」

「あんたがド派手に領域外に脱出するとかいうバグじみたまねしたもんだから助けに来てくれたんじゃないですかっ! 大体、なんで再現領域の外に出ようと思った」


 魔導士服が転換して黒と灰色主体のシックな色彩の割には結構ぎりぎりのミニスカになったアカリが全身を揺らすといろいろ見えかけてやばいんだけどそこはあえて言わない。


「そこに見えない壁があったから?」

「ルールっ! ルール守れよ、この馬鹿っ! もしあのまま動けなくなったり、即時魔導術式停止したらどうするつもりだったんですか」

「そんときはそんときよ」


 私がそう開き直るとアカリは額に手を当てて上を見上げつつ嘆く。


「優姉はテスターとかデバッカーの資質ありますよね」

「いやそれほどでも」


 照れるね。


「ほめてねーよ、てか龍王が構築にかかわった古代魔法(エンシェントマジック)の穴をポンポン掘るなよ」

「穴とかやーねぇ、アカリちゃん。どえっち」

「その発想するあんたのほうが頭いかれてるわっ!」


 ついからかいたくなるんだわね、この中身おっさんのスケベ少女。


「で、なんでランドホエールと同じ王機がここにあるのってのが聞きたいんだけど」


 アカリが再び息を整えたあたりで私が質問を投げた。


「そこからは聞いてないんですね」


 ため息をついたアカリが口を開く。


「初代青の龍王が先代の世界樹を利用して建造した世界管理用の八柱の王機のうち『心』を担当するのが月華王、そしてこの兎は月華王の端末です」

「ほぅほぅ」

「私がカリス教で研究して普及させた神聖術(しんせいじゅつ)のうち物理に影響するものはカリス神に処理を投げる形で現象をおこす汎用(コモン)魔導の一種で、残りは以前は月魔導(つきまどう)と呼ばれる精神に関する魔導です」


 神聖術ねぇ、結局魔導なんだ。


「それってシャルの魔導とどう違うのよ」

「信者でかつ特定のアイテムを保持していれば誰でも使えます」

「それってどんなのよ」

「具体的に言うとカリス神と交信するための魔導式を刻んだサークレットですね」


 そういったアカリの瞳が少し揺らぐ。

 なるほど。

 確か以前、シャルは直接実施する魔導は本人の資質や周辺環境に大きく依存するとか言ってた、つまりは個人技だってこと。

 それを補うのが道具や衣服に魔導式を刻み込んだ魔導回路だそうな。


「それってさ、魔導具とかわらんよね」

「効果だけを見ればそうですが、女性だけが使える月魔導を基本にしていますので女性の場合に訓練すればサークレットなしでも使える時があります」


 ほーん、それそのうち幽子でもできるか試してみよう。


「随分便利そうだけどデメリットは?」

「深い深度の魔導は使えません。深度二以降はほぼ無理ですね」

「ありゃま、ならフローティングボードとかも使えないんだ?」

「ええ、まぁ。といいますか私のこの魔導士の服とかには周辺空間にも魔導式を複写する機能がついてるんです。それなしだとエアロシールドは張れてもフローティングボードを制御するのは厳しいですね」


 そういうアカリちゃんの視線が泳いでる。

 なんかウソついてるっぽいなぁ、まぁいいか。


「それで魔導を嫌うカリス教なのにあの服着てたんか」

「あの時は相手がシャルマーだったので念のためです。日頃は神官服着てましたよ」


 おお、そりゃちょっともったいないことしたね。


「神官服してればシスター服のアカリが見れたわけか。エロいの?」

「まぁ、スリットかミニスカのエロ服でしたからね」

「それってアカリの趣味のせいとかだったりして」


 あ、黙った。

 こいつ、結構職権乱用してたんだなぁ。


「それで結局、月魔導ってどういうのなのよ」

「今度はきちんと聞いて覚えてくださいよ、優姉」

「うぃよ」


 アカリは横にいた月華王の端末をひょいを手で持つと胸の前に掲げた。


「魔導王シャルマーが学生の頃に後のカリス教大司祭メティスと共同作成した系統で、心に関する各種処理をこの月華王に丸投げで依頼することで結果を導くのが月魔導です。人によってはムーンマジックとも呼びます」

「身もふたもないね、それ。丸投げってことは実際の動きの中身は作ってないわけ」

「そうなりますね」


 なぜか胸を張ったアカリがどや顔しながらそういった。

 私は月華王の頭に手を置いて撫でた。

 もっふもふでけっこういいね。


「この子は触れるのね」

「認識できるのは多分トライだけですけどね」

「なんでよ」

「そりゃ基本的に王機に対してトライが優先的に触れるようになってるからです。いっときますけど私もなんでかとか知りませんからね」


 あー、ランドホエールの操作もなんかそんな感じだったなぁ。


「なるほど。それで、いまシャルが発動してるこの現実と見分けのつかないけど、外に出ると真っ白になる疑似空間も月魔導なわけね」


 アカリが頷いて肯定する。


「はい。深度四魔導『アナザーデイ』です」


 前々から面白いとは思ってたけどここまでできるわけか。


「この世界ってのは夢の世界なのよね」

「まぁ、そうですね。正確には当時レビィティリアで生活していた人達の当時の記憶を、すべてのモノの心を管理する月華王がつなぎ合わせて再現したものです」


 なるほどなぁ、こりゃすごいわ。


「普通は大きくても屋敷一つとかその程度なんですけどね。シャル姉が規格外なのが悪いんです」

「せやろなぁ、でこの都市のどこかに当時のリーシャがいると」

「そうなりますね。一月後、誰かさんのせいで正確にはあと二十七日後には、この町が津波で跡形もなくなりますのでその前に見つけて連れ出すなり助けるなりしてあげれば、それだけでも結構変わるはずです」


 そういうアカリに私は一つ聞いてみた。


「津波、起さないようにはできないのかね」

「無理ですね。この魔導は今も生きてるここに住んでた人たちの精神をつないで再現されてます。一人二人ならともかく複数人に認識されてる過去は覆せませんよ」


 ふーむ、なるほど。

 関係者全員の記憶と認証で確定されるわけか。

 一応、惨事があったのあたりのあらましはリーシャに聞いてある。

 最終的には三千人程度が生き残り、ロマーニの中央方面に余剰人口として引き取られたそうだ。

 リーシャについては以前から面識があったフィーリア達がすでに中央にいてそのまま引き取られたときいてる。

 そういやどういう怪獣が出たのかについては聞いてなかった。


「アカリ、暴れた怪獣ってなんだっけか」


 ジト目で見つめたアカリが答えてくれた。


「何ってそりゃ封印都市に封印されてた怪獣ですからそのまんまですよ」

「うん。で、なによ」


 アカリが海を見つめるのにつられる形で私も黒ずんだ海を見た。


「レビィアタン」


 海の怪獣リヴァイアサンの別称か、確かヘブライ読みがレビィアタンでラテン誤変換されたのを英語読みしたのがリヴァイアサンだったかな。

 なるほどね、つまりこれはそういうことなんだろうね。

 それでシャルは元カリス教のこの子を私のサポートにしたんだな。


「アカリちゃんや」

「なんですか、優姉」

「これさ、怪獣暴走させたの四聖(しせい)でしょ」


 振り返ったアカリの目は驚きを隠せてなかった。


「なんでわかった」

「そりゃまぁ、なんとなく」


 カルト出身のカリス教が放置するとは思えんかったからね。

 さて、どうしますかね。

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