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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第二章 世界樹編 その幻想は茜色に染まっていた
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続きのエピローグ

 外からはカモメの鳴き声が聞こえる。

 和風といえば聞こえはいいが海風にさらされて痛んでるといったほうがしっくりくる店兼住居の建物、その二階の一室に女の子らしいピンクの装飾がふんだんに飾られた私の妹、明日咲(あずさ)の部屋があった。

 生まれた時からの疾患持ちってのもあり、ほとんど外に出たことがないあの子は布団の上にかかる形でせり出したテーブルの上に買ってもらったノートパソコンを広げながらよく動く丸い瞳で私を見つめる。


「お話聞いていますか、おねえちゃん」

「ああ、うん。聞いてる聞いてる、今やってるゲームの話だっけか」

「もう、やっぱりきいてない」


 そういって頬を膨らました明日咲の頭をなでる。


「来月の誕生日に何のお祝いするかのお話ですよ」

「適当でいいんじゃね?」

「またそういって。だーめです、自分がそれされたらいやでしょ」

「しょうがないなぁ」


 話に出たのは何のこともない、今度誕生日を迎える私らの姉に何を送るかという他愛もない話。


「つうてもねぇ、ねーちゃんてさ、私に増して適当じゃん。何贈っても変わらん気がするのだけど」

「う、それはそうだけど気持ちが大切なんですよ」


 一瞬詰まった明日咲がそれでもと言い募る。

 実際のとこ、私も姉もかわいがってるこの子にお祝いされれば大体何送られてもうれしいんだけどね。


「じゃあさ、明日までになんか考えとくわ」

「忘れちゃだめですよ」

「ただ、明日なんだけどさ、私、ねーちゃんとこよってからくるから遅くなるんよね」

「あ、そうなんですか」


 目に見えてしょんぼりとしたのがまたかわいくてつい頭をなでる。

 子猫みたいにくすぐったそうにはにかんだ明日咲がパソコンに目を落とした。


「じゃぁ、それまではこれやって待っていますね」


 パソコンの画面にはブラウザが開いておりそこにはゲーム画面が映っていた。

 その下にはショッピングサイトのショートカットが無造作に置かれている。


「ん、明日咲、このショートカット何よ」

「私が選んだプレゼントです」

「じゃぁ、それでいいじゃない」

「だめです、二人で相談して決めるんですから」


 そういう明日咲はゲームに視線を落とした。


「今日は残りはこのゲーム進めるの一緒にやってもらうんですから」

「はは、まだこれやってたのね」

「やりこむと深いんですよ」


 明日咲がやってるのはドラゴンプリンセスというネットで遊べる同人ゲーム。

 一言でいうと今時珍しい二次元表記のダンジョン攻略もので、ダンジョンをクリアするだけなら三十分で終わる代物だった。

 理由はよく知らんけど姫を連れた勇者がダンジョンの中に居るシーンから始まり、サブキャラの姫を死なせないように地上に連れ出すというのがクリア条件。

 地下一層から始まって入口が崩落で崩れているので仕方なく地下に潜るというそこまではいい。

 そしてなぜか知らんけど始めてから七層目に隠し扉があってそこから地上に出れてしまうという、バグなのか作者が飽きたのかわからん作りになってる。

 一応、出るとエンディングテロップは流れるのでおわったっぽい感はあったのだけど。


「下の層に潜ってみたんだっけか」

「はい、そしたらですね。同じ国の兵隊さんがいてお話できたんです。すぐ死んじゃいましたけど」

「ほう。それでなにかわかった?」


 一瞬困ったような顔をした後で明日咲が口を開いた。


「地上は魔王(まおう)に占拠されているので出たら殺されるといわれました」

「うっわぁ、ひど。ゲームのクリア条件がそも嘘なんじゃない」

「そうなんです。だからかもしれないですね。姫ちゃんが地上に出るのいやがってたの」

「なるほどねぇ」


 このゲーム、ゲームとしてはシンプルなダンジョン攻略ものでアイコン表示の勇者が歩く後を姫がついて回ってくるという作りなんだけど、そのお姫様が遅れてついてきたり横の部屋に入ったりとまぁ、フリーダムだったりする。

 いうこと聞かないときには無理に連れていくもできるし会話して説得したりとか姫に関するバリエーションだけがものっすごく多いという変なゲームだ。

 しかもメモを取っていても次にやった時に別なパターンが出てきて、これランダムというかどんだけパターン仕込んでるんだといいたくなるやつを、こまめな明日咲は逐一丁寧に対処してやりこんでいた。


「これをやりこむ明日咲がすごいわ」


 私に褒められたのが照れくさいのか頬を染める明日咲。


「おねえちゃん。また一緒にこれやりませんか」

「そだねぇ、じゃやろっか」

「はいっ!」


 一緒に遊ぶのが楽しみなのか明日咲が珍しくはしゃいだ声を上げた。





















「ああ、またか」


 目が覚めたという実感とともに眩暈(めまい)がする。

 今でも思い出す昔の記憶。

 色あせない思い出は美しいというけれど、人間それだけじゃないというのをいやって程痛感させられる。


「うゅぅ、もう入りませんよぉ」


 横に寝ていた沙羅(さら)(さき)にかかってた草で編んだ上掛けを掛けなおす。


「カコ……」


 咲が目尻に浮かべていた涙を指で拭った私はそっと馬車から外に出た。

 弱い双子の月明かりでは暗闇にしか見えないけどその先には大きな島がある。


「ねえさん、どうしたんだい」


 焚火のそばで番をしていたステファが、私に視線を投げかけてきた。

 その横ではマリーが草で編み物をしていた。


「ちょっとお花摘み」

「そうか。あまり遠くにはいかないで欲しいな」

「うーい。マリー、悪いけど沙羅お願い」

「うん、わかった。姉さま、気をつけてね」


 夫婦、つーても同姓だから嫁と嫁かね。

 二人そろって心配性だこと。


『それだけ優が危なっかしいんだよ』

「そうかねぇ」












 用事を終えた後で海岸沿いを幽子(ゆうこ)と歩く。


『優、怖いなら無理しなくていいと思うよ。ポシェットの中のトイレでもよかったよね』

「まぁね」


 今夜も適当なとこで腰を下ろして星を見上げる。


『あのさ、さっきの夢のことなんだけど』

「ああ、やっぱり見てたのか」

『そりゃね』


 二人の間の会話が途切れ、代わりに潮騒(しおさい)の音が耳に響く。

 あの子にせがまれてばーちゃんの家に泊まったときもこんなきれいな星空だった。


『優はこの世界ってゲームだと思う?』

「正直わからんね。リアリティって意味ならゲームの枠を超えてるとおもう。ただ、私が生きてた時代にはなかっただけで遠い未来には現実と見分けがつかないゲームが生まれてるかもしれんし、それこそ宇宙人の技術とかオカルトとか言い出したらきりがない。もしかしたら死にかけの私が見てる脳の錯覚かもしれんし、それこそどっかの神様が見てる夢かもしれんしね」


 私がそういうと幽子は腕を組んで頭を傾げた。


『そっか。あれ、それなんか優があたしのこと最初に変にした時も言ってなかったっけ』

「言ってたねぇ。ただまぁもし仮にゲームだとしたらえらい自由度が高いのは確かだわね。ゲームはゲームでも、ごっこ遊びとかの部類に近いね」

『あー、魔法少女に変身してロボに乗って、結局ゲロって勝利するコンピュータゲームとか、もしあったらぶっちゃけクソゲーだよね』


 それな。


「それにさ、そも人生ってクソゲーだってのも一面では正しくね」

『そうかもね』


 少なくとも前の人生で命を投げ出した時点での幽子にとってはクソゲーだったんじゃないかね。


「助けてやらんで悪かったね。反省はするけど後悔はしてない」

『ちょっとは後悔してよっ! じゃないと(たた)るからね』

「妹神の祟りとかどんとこいだわ」


 再び沈黙。


『優のあほぉー』


 そういう幽子は言葉とは裏腹に困ったような、そう、あの子を思い出すような笑みを浮かべていた。

 昔、恐怖しか感じなかった夜の潮騒が今だけはそう怖くないのはなんでだかね。


『ふえっ! 流れ星、って今すごい速さでなんか願い事考えたよね』

「まーね」


 流れ星に願いを込めると叶うというしね。


『あれってさ、向こうでの西欧の逸話なんだっけか』

「たしか、はっきりはしないはずよ。主のとこの上位種が天から見つめてるからとか、空の向こうの神様の世界からこぼれた奇跡があるからとかいろいろ言い伝えはあるね」

『へー、ロマンチック』


 この世界だと異世界ってテラのことだからロマンがあるかどうかは正直わからんけどね。

 以前にも思ったけどこの世界には救いがない。

 シャルたちのぱっと見の気立ての良さは何というか逆に驚かされるとこがある。

 あれはたぶん怪獣が強すぎて諦観(ていかん)が浸透しきった結果なんだろうなと私は思ってたりする。

 一般論として生きた後でどうなるか不安だからこそ人間は神話を紡ぎ神に祈る。

 それは科学が星を支配する時代になっても消え失せなかった人の業。

 それができないというのは一見合理的なように見えて実際のとこストイックな生き方をしてるともいえる。

 こっちで幽子以外の神にはまだ会ったことはないけど、星神(ほしがみ)ってのが実在するからだろうね。

 あの子らの話から察するに精霊とか妖精の上位種っぽいけど。

 あの世でも審判の後でも六道でもいいんだけど、生きて死んだ後に続きがあるってのは今がよけりゃいいって考え方に対して一定の自制を求める側面がある。

 その一方で死んでも何度でも同じ世界でやり直せるとか思ってしまうと人は怠惰になる。

 そこんとこのバランスをとりつつ生きやすい世界を調律して、死後の不安を和らげるために私たちの元の世界、テラの普遍宗教は存在する。

 一見、拝金主義や科学賛歌に見える日本人でも根本的なところでは民族宗教に対して緩く浅く信心をもっていたりするよね。

 その割に普遍宗教への恒常的な信仰心は薄いけどそこはそれ、なるべくしてってやつじゃないかね。

 宗教関係者の人らから見るとゆるゆるだけど、そこが持ち味の民族ってのが私が考える……


『すとーーっぷっ、また思考が暴走してる』


 おっと。


『優、前から思ってんだけどあんたのその思想やら信仰への思考が暴走するのってなんでなのよ』

「わるいね、元々は単純に死後の妹の魂の行く末を延々考察した結果なのよ」

『あー、そう来るんだ。そのなんというかごめん』

「こっちもごめんよ。それにしても幽子のことだから流れ星は大気圏で物が燃えてるとか言い出すかなぁと思った」

『いくらあたしだってそこまでは言いませんー。というか真面目にさっき何願ったのよ。早すぎて聞き取れなかったんだってば』


 私はゆっくりと立ち上がると馬車に向かって歩き出した。


「お互い心が筒抜けのように見えてそうでもないってのが面白いよね」

『優、戻って寝なおす前に何願ったのか言いなさいよ』


 こういうのはあんま言いたかないんだけどねぇ。

 私の目に前に幽子が回り込んできて頬を膨らませる。


『こら、ごまかすな』


 ごまかしてはいないんだけどね。

 私の願いなんてささやかなもんさね。

 しゃーない、言葉にはしないからしっかり聞き取りなよ、幽子。


『うん』


 願わくはこの幻想が覚めませんように。

お読みいただきありがとうございます。

この話をもって二章終了です。

また、ブックマークや評価してくださった方、ありがとうございます。

余りあとがきを書かない方なのでこのタイミングにてお礼申し上げます。


姉妹たちの物語、次話から三章になります。

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