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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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女神の転生体

<そんな竜神の娘の噂が、お城の殿さまの耳に届きました>


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


 小首をかしげる月音(つきね)に向かってねーちゃんが複数の雷撃を放つ。

 その雷撃を光る双剣で弾いていくレオナ。


「可愛い明日咲(あずさ)の質問じゃ答えんわけにはいかないね、いいよ」


 そういったねーちゃんに月音が頬を膨らませた。


「私は月音(つきね)です。明日咲(あずさ)の記憶は持ってますが()()()()()()()()()()()()んですよ」


 そういい返した月音にねーちゃんが少しだけひきつった笑いをした。

 ちらりとこちらを見てきたけどそんな目で見られてもね。


『えっとかっちゃん……でいいんですか?』


 珍しく物怖じしたような感じでかっちゃんに話しかけてきたアカリ。

 口を挟みたいとこなんだけど語ってるからなぁ。

 そんなことを考えてるとマジカの内部表示に『水崎花鈴(みずさきかりん)』という漢字とこちらの文字でのルビが表示された。


「みずさき……かりん?」


 これはかっちゃんを転換した場合に備えて私が事前に考えておいた妹としてのかっちゃんの名前だ。

 どうやら喋れない私に代わってマジカにセットされてる龍玉(りゅうぎょく)達が表示してくれたみたいね。


「これウチのことかいな」


 かっちゃんの質問に瞬く形で龍玉たちが答えた。


「花鈴……悪ないな」


 そういって少しだけ首を動かしたかっちゃんの鈴がチリンとなった。

 お気に召したようで何よりだわ。


『そんじゃ花鈴でいいですかね』

「かまへんで」


 アカリが確認してくれたことで名が確定する。

 カリス神の分霊(ぶんれい)、改め花鈴(かりん)星誕(せいたん)である。

 能力(けんのう)とかの位置づけは(かた)りが終わって星誕宣言(せいたんせんげん)の時に。


<「人を生き返らせ富を生む鈴と竜神の娘か。我が物にしたいな」>


『花鈴の階層に置いてあった()()、動かせませんか』

「あー、あれなー。蓄魔(ちくま)が足りてのうて今の状態だと移動しかできへんで」

『ならシスティリアに繋ぐか……実物さわりたいんですけど』

「ええで 、あんたん近くにウチの階層への直通階段を開くわ」

『たすかります』


 アカリとかっちゃん改め花鈴が相談する間にもねーちゃんを相手にしたレオナとマジカの攻防と月音の会話、そして私の語りが並走する。


「ごめんごめん、月音ちゃんね。そっかー、まぁ自称ティリアって多いからさ」

「そうなんですか?」

「結構ね」


 創世神(ティリア)詐欺でも横行してんのかな。

 まぁ、記憶があるかどうかだけで言うならレオナもあるみたいだし結構いるのかもしれんわね、自称ティリアの転生体(うまれかわり)


「そこっすっ!」


 タイミングを合わせてつきこまれたマジカのドライバーとハサミがねーちゃんの張ったシールドで防がれた。

 ねーちゃんの方からお返しとばかりに出てきた複数の雷をマジカが紙一重でよけていく。


「そんで、あず……」

月音(つきね)です。次間違えたら怒りますよ?」


 そういいながら腰に手を当てて()ねた表情を見せた月音。


「ごめんごめん」


 ひらひらと軽い調子で手を合わせたねーちゃんだがレオナやマジカの攻撃は一切通る気配がない。


「ねーさんにしては珍しい。あの人適当やけど二度は間違わへん」


 ()()()()()()()


<どうしても手に入れたい殿さまは家臣を通じて娘に無理難題を命令したのです>


「何でも聞いていいよ」


 そういいながら指を一本立てたねーちゃん。


「ただし一回だけね」

「むぅー」


 ねーちゃんは月音がティリアの分霊(ぶんれい)であるという同定(どうてい)をとことん避けてた節がある。

 いや、違うな。


「それじゃ質問しますねっ!」

「いいよ。その代わりにさ」


<「明日までに千石の米を城に持ってこい。出来ないのならば、お前の嫁を差し出せ」>


「……いやお米はいらないから一緒にこっちで暮らそうよ」

「考えておきます」


 おー、月音がそういう受け答えをするようになるとは。


「そんなに一緒がいいんですか」

「それは質問?」

「違います」


 にべもない月音の言葉に苦笑するねーちゃん。


「レオナちゃんと月音ちゃんは首輪なしで外に置くのはちょっとねー」


 少女に首輪とかマニアックな。

 まぁ、比喩(たとえ)なんだろうけど。

 さすがにツチノコと同じ奴はつけんよね、多分。

 それとねーちゃんと二人との間にはなにかあるんだな。

 月音相手にレオナは自分たちはティリアの生まれ変わりだと言っていたらしい。

 そのレオナはソータ師匠が鍛えたというか育てた子なのは間違いない。

 そんでもってそういう重要なとこを間違ってた場合には訂正しないソータ師匠じゃないんだな。

 クラウドもそうなんだけど総じて赤龍機構(せきりゅうきこう)関係者の元ティリアへの対応が過保護気味なんだわ。

 そう、まるで地雷原に相対するかのような……あー、そういうことか。

 メンヘラ女神のティリア自体がそもそもこの世界における最大の地雷なんだな。


「……」


 いろいろ言いたそうな目でこっちを見た月音が再びねーちゃんの方に向かい合う。


太歳星君(たいさいせいくん)って神様なんですよね」

「そうね。え、質問終わり?」


 首を横に振った月音。


「まだです。それで聞きたいことがあるんですけど」

「うん」


<途方にくれた娘は嫁にこういいました>


「私、そんな神様知りませんよ?」

「そっかー、知らないかー」


 ふむ、今の問いを月音がティリアの後に形成されたからとは答えないんだな。

 そう答えると月音がティリアを継ぐ神であると肯定してしまうか。

 なるほど、赤龍機構(せきりゅうきこう)の連中が何に配慮(くろう)してるかが見えてきた。


「『電光石火(でんこうせっか)』」


 駆け抜けながら雷と触手を切って捨てたレオナが再び月音の前に戻る。


「ありがとうございます」

「なんの、姫を護るのが某らの務めならば」


 ほほえましい二人のやり取りを見ていたねーちゃんが口元をゆがめた。


「そんじゃお代わりいってみよーかー」


 周囲一面に雷が落ち床が肉の触手化する。

 そしてそれらが一斉にレオナ、マジカ、月音へと襲い掛かる。

 巨体でありながらぎりぎりでかわしていくマジカに対して月音を護る形で立ちふさがるレオナは光の双剣で大量の雷と触手を次々とはじいていく。


「まだかいなっ!」


 チリンと音を立てたかっちゃんの鈴。


<「無理。私が嫁に化けて時間稼ぐからその間に逃げて」>


 続いてアカリの声がマジカ経由で聞こえた。


『もうちょっとです。いまシャル姉に手伝ってもらって起動シーケンス最短で通してますから』

「どんだけ待てばいいんやっ!」

「うひゃっ、やべっすっ! どんどん増えてるっすよっ!」


 月音との会話の一方で増え続けていくねーちゃんからの雷撃と当たった先から生える触手がまるで過密な弾が飛び交うシューティングゲームのような様相を呈していた。


「今、あのおっぱいおっきいのがうちの階層で準備しとる。もうちょっとだけ気張ってや」

『その言い方はどうなんですかねっ!』

「了解っす。まじでかくて邪魔そうっすよね」

吉乃(よしの)っ!』


 修羅場のはずなのに楽しそうなのはなんでだろうね。


「ほんまに何を食べたらあないにでかくなるんや?」


 見切り始めたのか龍玉(りゅうぎょく)の点滅とともにマジカの回避がぐんと安定する。


「あれくらい大きかったらレオナも振り返ってくれるっすかね」


<「なにいっとん。そんくらいうちの実家から取り寄せたるわ」>


「まじっすかっ!」

「なにアホなことを言うとるの。今のは後ろのアホのセリフや」

『なんの話をしてるんですかねっ!?』


 いやタイミングがちょうどだったからさ。


「なんでその神様がいると不幸になるんですか?」


 今回、月音にはざっくりとした流れだけ説明して細かい会話は任せている。


「あはは……そりゃあれよ、地球(ちきゅう)(たた)(がみ)だからさ」


 なし崩し的に一個以上の質問に答えてるねーちゃんだけどズームアップされた額に汗が浮かんでいた。

 この流れであってたみたいね。


地球(ちきゅう)の神様がなんでこっちにいるんですか」


<次の日、竜宮から取り寄せられた千石の米を見た殿さまは驚きつつも更なる難題を仕掛けました>


「なんでってそりゃ再現したから?」


 ねーちゃんが会話をこういう形ではぐらかすののも珍しいな。


「再現できるんですか?」


 横から突き込まれるレオナの連撃を片手でさばきながら視線を月音から外さないねーちゃん。


<「お前らは余程の長者とみえる。明日、すべての家来をつれて来るから酒と料理を用意しておけ。少しでも足りなかったらその時はわかっておろうな」>


「できなきゃこうはなってないよ」


 そこなんだよなぁ。

 私、この世界にきてから暇があれば夜の星とか太陽の動きは確認してきたんだよ。

 まず、夜空の星は()()()()()()()()()

 かつ主要な星の遷移は()()()()()()()()()()

 そう、均等にそっちゃってるわけだ。


「なんで鏡面(きょうめん)なんですか?」


 ねーちゃんが今の姿に化ける際にシステムに憑依したねーちゃんの分霊(ぶんれい)が口にした言葉。

 それが『激雷(げきらい)鏡面星(きょうめんせい)


<次の日、家来に殿さまの服を着せ行列の先頭に立たせた殿様は、自身は家来の恰好をして一番後ろに隠れて娘の家に向かいました>


 オカルト的に解釈するなら太歳星君(たいさいせいくん)ということであってると思う。

 オカルトならね。


「ああ、太歳(たいさい)って星自体が木星(もくせい)鏡像(きょうぞう)だからねー」


<それはあえて間違えさせて失態としようという殿さまの悪戯でしたが一番後ろで偉そうにしている家来に近づいた娘が素の表情でこういいました>


 元々は約十二年で元の位置に戻る木星が天体観測の対象だった。

 そも暦というものはおおざっぱ分ければ太陽に合わせるか月に合わせるか、もしくは夜空の星が基準になるわけだけど、これは周期のサイクルが安定してるものを指標としただけだ。

 その中でもきれいなタイミングで元の位置に戻る木星は年間サイクルを取るのに使いやすかった。

 ただし、その動きは反時計回り。

 公転する他の惑星を上から見下ろす形で観測してるからそうなる。

 一方で中国においては年の指標として十二支があったわけだけどこれは時計回り。

 そこで時計回りの処理にするために木星の鏡像(きょうぞう)となる()()()()を中国では想定した。

 それが太歳(たいさい)だ。

 その位置は天ではなく地の奥深く、鏡像だけどもあるという設定の星、それが太歳。

 ゆえに土の中から得体のしれないものが見つかるとそれが太歳ではないかと大騒ぎしたらしい。

 長くなったけど要は太歳って星は木星がないと成り立たんという話なのよ。

 そして


「私、この世界(アスティリア)木星(もくせい)(つく)ってないですよ?」


 こういう流れになることはわかってた。


「あははっ、それさ自称ティリアは大体似たこと言うんだよ」

「むぅ、なら逆になんですけど」


 ちょっとだけ余裕を戻したのか雷撃とレオナの斬撃、触手とマジカが飛び交う中でねーちゃんが笑う。

 ふくれっつらになった月音があざとさの際立つ見上げる視線でこう畳みかけた。


「ここ、地球(ちきゅう)なんですか?」


 すべての雷撃がやみ触手が一斉に停止した。

 すかさず突貫したレオナとマジカの攻撃を両手で展開したシールドで防ぐねーちゃん。


「それは……」

「ないですよね。だってテラのお星さまを描画してるのって星空王(メビウスイーグル)に乗ってた()()()()()()()


 慌てた様子で月音の方に進もうとするねーちゃんだがレオナとマジカがそれをさせない。


「『天象儀(プラネタリウム)』ですし。星空王(メビウスイーグル)がそういってました」


 ははっ、やっぱあの星空は偽装(ぎそう)だったか。

 道理で()()()()()()()()()のこの世界で()()()()()の動きと噛み合っちゃうわけだわ。

 空に描く星の動作速度をいじってたんだな。


「だからもう一回聞くんですけど」


 ねーちゃんのシールドが音を立てて(きし)む。

 虚構王(ワルプルギス)が組み立てた太歳星君(たいさいせいくん)という名の幻想(フィクション)が可愛いオンミョウジ助手の手によって今ここに崩壊(ほうかい)する。


「私、そんな神様知りませんよ?」


 マジカの正面に表示される『幻想崩壊(げんそうほうかい)』という文字。


「あっ!」


 ついに砕けたねーちゃんのシールド。

 

「『閃光(せんこう)』」

「シューーーーート!」


 無防備なねーちゃんにレオナの双剣とマジカルパイルドライバーが炸裂。

 激しい爆発と煙が充満した。


 チリン!


 響き渡る花鈴の鈴の音が爆発と煙を一瞬にして消し去った。

 そこには元の衣装に戻ったねーちゃんとその傍にたたずむバッハの姿があった。


「あははっ、やってくれたね」


 幻想(げんそう)(つく)るも(こわ)すも私の……


「私たちの、ですよね。おねぇちゃん?」


 私の思考に割り込んできた月音の可愛らしい仕草に笑みがこぼれる。

 そうやね。

 ねーちゃんの方を見つめ続ける月音が口を開く。


「それでその太歳星君なんですけど」


 そんじゃ月音、代行よろ。

 小さくうなずいた月音がねーちゃんに胸を張りながら宣言する。


「そんなオカルト、私知りませんっ!」


 創作とMP(ムーンピース)を基盤とする星神(ほしがみ)がそれを言うのはちょっとしたブラックジョークやね。


<「ようこそ、殿様」>


 やっと捕まえたよ、ねーちゃん。

 助手、いつも最後にやるアレもお願い。

 私の内心に月音が小さくうなずいた。

 残り十節。


 白と黒の映えるオンミョウジルックスに身を包んだ白い大きなリボン付きの妹がドヤ顔で宣言する。


「ファイナルターン、ですっ!」

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