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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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階層変更、ラーニング

<「おとん、うちが行くのはかまへんけど嫁入り道具の一つくらいはもたしてな」>


『何をするつもりですか』

「階層変更や。ねーさんが動く前にやるで」


 そういうとかっちゃんが目の前で何か印を切るような仕草をした。

 いや、これは何かを操作したんだな。


「これって……」


 アカリが目の前に出現した新しい半透明な表示板をじっと見つめた。


「うちらの管理権限の一つ、階層の入れ替えや」


 なるほど、迷宮内の階層位置変更ができるのか。


「この階層を第一層の墓場の前にうごかすんですね」

「そうや。そして動かした後で外と繋いだら天井を空けて床を持ち上げる」


<そういう娘に竜神は紐に吊り下げられた小さな鈴を二つ持たせました>


 舞台の奴みたいな感じか。

 そこまでするなら実質外に出したのと同じになるかな。


「はよしたってや。ねーさんたちが拒否できんいまのうちにやらなならん」

「了解です。ちょっとだけ時間ください、手術したリーシャ姉たちを退避させます」


 そう言い切ったアカリに少しだけ何か言いたそうな顔をしたリーシャだが肩に置かれた沙羅(さら)の左手に右手を重ねるとアカリの方に向きなおして小さくうなづいた。


「ごめんね、アカリちゃん」

「いえ、怪我をさせてしまったのは私です」


 アカリの言葉にリーシャが小さく首を横に振った。


「違うよ、みんなで戦ったの」

「そう……ですね」


 二人の会話をするリーシャとアカリに小さく鈴を鳴らしたかっちゃんが声をかけた。


「いろいろと申し訳ないんやけどもせいてほしいわ」

「わかってます」


 アカリは顔を天井の方に向けた。


『フィー姉、ちょっと来てもらえませんか?』


 アカリが姉妹通信(シスターサイン)で声をかけると同時にアカリの少し後ろ側の壁にドカッと穴が開いた。


<「神鳴(かみな)りの鈴や。もっていくがええ」>


「はい」

「うぉ、いつの間にそんなとこに」


 顔を出したのは茶色の髪、赤い瞳のリーシャによく似た姉、フィーリアだった。


『えっ、もしかしてフィーそこまで掘ってきたの?』

『フィーちゃんらしい』

『階層の間、掘れちゃうんだ?』


 多分、今時点でかっちゃんの層とここがつながってるからできるだけじゃないかな。

 フィーは使っていたであろうスコップをザクっと()()に突き刺してレッサーベヒーモスが(まも)るリーシャの傍に歩み寄った。


「二人には持ってる機材での応急手術はしました。あとは栄養補給と自己回復が必要なんですがここじゃ無理です」


 そういうアカリを赤い瞳がじっと見つめる。

 言葉の少ないフィーにアカリがさらに畳みかけるようにつづけた。


「二人を怪獣の影響範囲から連れ出して先にシスティリアに戻ってもらえませんか」

「はい」


 うなずいたフィーにアカリがばつの悪そうな顔をした。


「グラビィティッ!」


 そろそろ飛び出しかけていたメタルコッコを月音(つきね)魔導(まどう)が再び下へと押し戻す。


「傷の周りは月魔導(ムーンマジック)で局所にMP麻酔してるので感覚がないと思いますが三時間くらいで戻ります。システィリアに戻ったら霊樹(れいじゅ)のとこいってエウ姉から痛み止めと抗生物質をもらって飲ませてください」

「はい」


 素直に頷くフィーリア。

 霊樹こと世界樹(せかいじゅ)精霊(ドライアド)であるエウは全ての植物に精通してるのもあって治療に使える植物の選定や薬学にも長けている。

 他にも一時的であれば傷口をシールドで塞いで止血とかいった器用な真似もする。

 世界樹自体にもゆっくりとではあるけど周囲を癒す効果はあるからそこに行けって言ってるわけだわね。


「アカリちゃん」


 沙羅に支えられながら起きあがろうとするリーシャにアカリが駆け寄る。


「今言ったじゃないですか、手術直後なんですから傷がっ」


 近づいたアカリの顔を両手でとらえたリーシャがアカリにキスをした。


<こうして娘はなし崩し的に竜神の娘を妻としたのです>


 唇を離したリーシャがアカリの額に自分の額を当てる。


「先に帰ってまってるからね、アカリちゃん」

「はい」


 後ろで赤くなってる沙羅とは対照的にフィーは表情一つ変えない。

 先に掘られた穴へ戻ったフィーにリーシャを抱えた沙羅が続く。


「アカリちゃん」


 振り返った沙羅とアカリの視線が絡む。


「お急ぎを。月影先生(つきかげせんせい)、我に力を!」


 足掻くメタルコッコを高い位置から飛び降りたレオナの双剣が再び穴へと押し戻す。


「ぶ、無事に帰ってきたら私にも……」

「え、あっ、はい」


 急にしどろもどろになったアカリを見ながら小さくはにかんだ沙羅がリーシャと水星詩歌(すいせいしか)を抱えて穴へと飛び込んだ。


「ぷにゃ」


 その穴の前に移動したレッサーベヒーモスが岩の塊に戻り出入り口をふさいだ。


「ありがとう、ツチノコ」

「ぷにゃ」


 目の前の表示板を見つめたアカリ。


「さすがフィー姉、もう階層の外に出たんですね」


 再び床材から形成されたレッサーベヒーモスがアカリとメタルコッコの間を覆い隠した。


「階層変更、実行っ!」


 私たちを取り囲む空間全体に揺れながらかき回されるような、しいて表現をするなら洗濯機の中で回転させられるような気持ちの悪い感触が走った。


<娘が妻を連れて家に帰ると、家には大勢の村人が集まっていました>


「天井解放やっ!」


 かっちゃんの言葉に応じて上から外の光が差し込んでくる。


「下部構造上昇開始っ!」


 続いてアカリが宣言すると今度は大きな揺れを起こしながら足元の床が上に上り始めた。


『ふえっ!? マジで闘技場もろとも外に出しちゃうの?』

『それがナオのリクエストですから』


 やがて完全に動きが収まるとかつてレビィティリアの地下にあった闘技場がいまだ雪が積もる地表に押し出される形で地表に出た。

 外から降り注ぐ日の位置は夕方を回りそろそろ茜色へと色彩を変え始めていた。

 わずかに暗くなり始めた空には赤と青の小さな月が浮かんでいるのが見えた。


「コッコ、クワー!」


<「ただいま。何があったの?」>


 床が完全に地上と同じ高さになったのとほぼ同時にメタルコッコがめり込んでいた床からぴょんと飛び出してきた。


「よっこいしょっと。いやー、ひどい目にあったわ」


 そしてその後方からゆっくりとねーちゃんが浮かび上がってくる。

 周囲をぐるっと見渡したねーちゃん。


<娘が聞いてみると、隣の家の子がこういいます>


「あははっ、掘り出しちゃったかー。そんじゃちょっとがんばっちゃおうかな」


 赤い日の光を背に底光りするメタルコッコとねーちゃんの瞳。


『し、深度(しんど)六くるの?』


 今回も来るのかと身構えた幽子の声に冷静なナオの声が後に続く。


『こねーよ。あいつ魔王なんだろ、ならワルプルギスの下だからボスの深度はこえねーよ』


 それ言うとナオとかはメビウスイーグル傘下の四聖で一度六まで行ったんだが。


『ナオちゃん、一回六行ったよね』

『みーくんに全部食わせたからな。みーくんはメビウスイーグルの下じゃねー、だからリミットがかからねー』


 後ろで姉妹通信での会話が続く中、真っ先に動き出したマジカがねーちゃんを狙う。


「隙ありっすっ!」


 マジカがズームした横方向ではレオナがメタルコッコに注目したまま地上に出た位置をキープしていた。


『夢の中のあの化け物は?』

『壊れた王機(おうき)だとリミット解けてるからな』


 なるほど。


<「三年もの間、どこへ行っていたのさ、あんたっ! ほんのついさっき、あんたのおっかさんが息をひきとったんだよ! この親不孝者っ!」>


 突貫したマジカがマジカルパイルドライバーを打とうとしたその瞬間。


「コカーーーーーーーー!」


 地表に響きわたるメタルコッコの雄たけび。


 ガッ


 強い衝撃とともにマジカに乗る私やかっちゃん、吉乃の体全体に上から重圧がのしかかってきた。


「!?」

「ぐはっ、これは、なんっす……」

「あ……か……」


 非力なかっちゃんが真っ先に下に押し付けられたことにより奇積(きせき)の発動もなく三人とマジカの機体に強い力が押し付けられる。


『グラビティです、今すぐ退避をっ!』


 いつの間にか外部出力に繋がっていたマジカから姉妹通信の内容が雪原に響く。

 ははっ、メタルコッコに学習されたか。

 まずい、圧迫で息が吸えない。

 この技、こんなに強力だったんか。


 ブモッーーーーーーーーーーーーーーー!

「『電光石火(でんこうせっか)!』」


 さらに横から入った激しい衝撃とともに上からの重圧が消えた。

 火花を散らすマジカがズームしたその先には私たちと入れ替えに重圧に耐えるレオナとその隣で崩れていくレッサーベヒーモスの姿があった。


「レオナっ!」


 絞り出すような吉乃の声が届くと同時に重圧が解けたと思われるレオナが立ったままの状態からがくっと膝をついた。


月影(つきかげ)っ!」

「今いっちゃ駄目だっ!」


 煙を上げるレオナの装甲を見て飛び出そうとした月音を羽交い絞めにしたアカリが必死に止める。

 アカリの腰の位置にいるツチノコが悲鳴を上げてるけど多分あれは(つぶ)されて泣いてる。

 怪獣戦は命のやり取り、たとえこれがねーちゃんと裏で手を結んだプロレスだとしても手を抜いてくれたりはしない。


「あんたらの中心が明日咲(あずさ)とツッチーの主なのはわかってたからね」


 そういって右手を上げるねーちゃんの後ろに控えるメタルコッコの口の中に青白い破壊光線がたまり始めているのが見えた。


「おねーちゃんと一緒に墓の中においで。さぁ、フィナーレだ」


 一旦嘴を閉じたメタルコッコがけたたましい鳴き声とともに月音とアカリに向け……


「コケ「エクスッ!」」


 パンっという柏手の音とともに時が止まる。


 月音の前に一つ、そしてアカリの後ろに一つ現れた人影。

 その人物はメタルコッコの破壊光線の先端部分に双剣の片方を剣が砕けるギリギリの位置に当てながら振り抜く。

 身動きの取れない時の中、意識が止まらなかった月音とねーちゃん、そしてレオナの視界の中、唯一動作する双剣の少女。

 タレントが発動した剣をそのままに、もう一本の残されていた剣を破壊光線に当てる。

 それは時の止まった世界の中で破壊光線の端に二本の剣を接触させ同時に二回タレントを発動させるという離れ業。


 そしてアカリの後ろで合掌していた少女のタレントが解け時は動き出す。


「カウンターッ!」


 倍化された破壊光線がメタルコッコへと逆流。

 光の奔流がメタルコッコの中心部分を貫き大穴を空けた。


「またせたね」


 そういってほほ笑むステファに呼応するようにアカリの肩に手をかけたマリーが二人に声をかける。


「詰所からここまで時間かかっちゃった。ぎりぎりになってごめんね」


 ひきつった笑いを浮かべたねーちゃん。


『ステファリードが使うカウンターの元スキルは完全反射です』


 そうか、シャルたちの会話が外に聞こえてたのってわざとだったのか。

 私がそう考えるとマジカにセットされた龍玉(りゅうぎょく)たちが小さく点滅した。


『あの子はそれを限界まで引き上げています』


 つまりは元のスキルに限りなく近い。


(いにしえ)勇者(ゆうしゃ)かなんかはしらねーけどな』


 シャルに続いたナオの言葉が私たちがまだ生きていることを今さらながらに実感させてくれる。


『おめー、冒険者(ぼうけんしゃ)のタレントなんてメタルコッコに覚えさせりゃいいとか思ってたろ』


 音声通信だから当然顔は見えない。

 だがククノチで今日も仕事をしているメイド姿のナオがどんな表情をしてるか、なんとなくわかった。


『千年なめんな、骨董品』


 耳に届いたであろうナオの声にねーちゃんは嬉しそうにあははっと笑った。

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