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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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黄昏の獣

<娘と亀が海の底へ向かう途中、亀がこういいます>


 あからさまにレオナとマジカ目掛けて落ちて来る複数の雷。

 マジカに一本の雷が直撃したその瞬間、私の目の前のかっちゃんの鈴がチリンと涼やかな音を鳴らした。


「させへんっ!」


 確かに直撃したはずの雷が消えている。


「いまうちらがここから追い出されるわけにはいかんのや」


 奇積(きせき)を使ったね。


「レオナ、ねーさんに一発入れたれっ!」

「承知」


 かつてカリス教で(カリス)大司祭(だいしさい)を務めていた二人が太歳星君(たいさいせいくん)コスプレをしたねーちゃん目掛けて突き進んでいく。


<「あなたが帰るといったなら竜神(りゅうじん)様が土産は何がいいかとお伺いになるでしょう。そうしたら娘さんを嫁にほしいと言うんですよ」>


月影先生(つきかげせんせい)(みちびき)きを。()け抜けるでござるっ! 『閃光(せんこう)』っ!」


 ねらい打つように落ちて来る雷の隙間を文字通り光りながら飛んで行くレオナ。

 ねーちゃんに肉薄する距離まで近づいたレオナは双剣をつきこんでいく。


「せいっ!」


 つきこまれた剣の前に複数の光るシールドが展開される。


「だぁぁぁぁぁぁああああああ!」


 そのまま両手の剣を交互に叩き込んでいくレオナの前にねーちゃんのはったシールドが一枚、また一枚と割れて砕け散っていく。


<嫁が欲しいわけではなかった娘は困惑して亀にこういいました>


「あははっ、さすがってとこかな。しかも王機(おうき)(まと)ってるし」


 そうか、月影(つきかげ)が付いてるのが重要なんだな。


「覚悟っ!」


 ついに突破したレオナの剣がねーちゃんに当たり切り裂いたかに見えたその瞬間、レオナが剣を引きはるか後方へと一瞬で退避した。

 瞬く間も与えずに雷が本来あり得ない横一直線に飛び壁に当たる。

 当たったその壁が即時に肉と触手へと変化しレオナへと襲い掛かる。

 だがまるで先を見て動いているかのような動きをするレオナは危なげもなく(かわ)し光る剣の刃にて弾き飛ばしていく。


「ふぅ、危ない危ない」


 深度五の相手が多少食らったとこで危ないとも思えないんだけどね。

 空中に跳躍してなお器用に攻撃をさばいていくレオナが月音(つきね)の傍まで戻った。


「すきありっすっ!」


 レオナに注意が向いてると踏んだ吉乃(よしの)がマジカルパイルバンカーをねーちゃんに打ち込んだ。

 きしむ駆動音とともに打ち出されるミスリルの杭がねーちゃんの手に当たり、そのままがっしりと掴まれた上に止められる。


「まじっすかっ!?」


 そのまま持ち上げられていくマジカ。


「そぉぃっ!」


 大概のものであればその重量でひき潰せてきたマジカがまるで小さな木製のおもちゃのように放り投げられた。


「あかんっ!」


 かっちゃんの鈴が再びチリンとなったその瞬間、私たちの感覚ががくんと変わりマジカが映し出す外の光景がねーちゃんから大きく離れた地上の上へと変わる。

 ねーちゃんの向いているほう、今まで私たちのいたその線上には巨大な雷が横一直線に駆け抜けていた。


『ゴリラかよっ!』


<「私、女だけど?」>


 多分ねーちゃんが言うだろうセリフと偶然ダブった私の語りにねーちゃんが苦笑いを浮かべた。


『霊長目ヒト科ゴリラ属のゴリラかどうかはさておくとしてあの剛力には興味がわきますわね』

『そこで興味がわくんだ?』

『ええ』


 幽子(ゆうこ)のあきれたような声に淡々と答えたシャル。

 奇積(きせき)、それは類まれな偶然の産物としての奇跡とは違う奇妙(きみょう)()み上げると書くこの世界における星神(ほしがみ)の特殊技能。

 その行使にはマナ、生命力、そして自己の存在といった実施する行為に該当するだけの摩耗、代価を必要とする。

 本来、カリス神の分霊(ぶんれい)であるかっちゃんは他人の死や消耗を蓄積することで奇積を実施出来る。

 だが数年この迷宮に(こも)っていたかっちゃんには十分な死の累積がない。

 結果どうなるか。


「吉乃、いうたか? ちょ、ちょと、ほんまに、無茶、すんのは堪忍してや」


 息切れと損耗が色濃く見えるかっちゃんを振り返ってみた吉乃がすまなそうにうなづいた。


「申し訳ないっす」


 二人のやり取りの間にちらりとマジカのコンソールに目を落とすが特に破損したらしい部位もない。


「うち、あんま()めれてないんよ」

「わかったっす……レオナに任せて後ろに引くっすか?」


<「そういえば幸せになれます」>


 外では再び攻勢に転じたレオナが数多の雷の雨を避けじりじりと近づいて行っているのが見えた。


「それはあかん。うちが負けたら……魔王(まおう)でおらななったらカコもここにはおれへん」


<「私にはいらない。母の幸せと薬が欲しい」>


 実際のとこどうなるかはさておいて少なくともバッハと融合したねーちゃんはそう言ってるわな。


「カコを取り戻す。せやからうちは引けんのや」

「了解っす」


<「ならばなおのことそう言いなさい」>


「じゃぁまた行くってことでいっすね?」

「あたりまえや。うちをだれやと思っとるんよ」


<娘は竜神様の()()にするのには抵抗がありましたが母のことを想って頷きました>


「この迷宮の魔王の一柱、辰巳(たつみ)のカリスや」


 ほーん、辰巳なのか。

 こりゃまた都合のいい偶然……なわけはないわな。

 なるほど、ここにソータ師匠となっちゃんの仕込んだ狭い攻略のゴールがあるわけか。

 多分、元の前提はレオナを連れた私がもっと早くここに来ることだったんだろうね。


「せいやっ!」

「そればっかだね」


 外ではレオナとねーちゃんの壮絶な切込みと雷撃の攻防が進む。

 何が見えてるのかはわからないけどギリギリのところで雷撃を交わし、攻撃をマントで弾き、双剣を突き込んでいくレオナとそれに対応するねーちゃんの動きがすでに曲芸の領域に達していてちょっと割り込める状況にはない。


<竜宮につくと竜神や住民たちが珍しい菓子や品を用意して娘を歓迎してくれました>


『シャル姉、さっきの聞いてましたか?』

『ええ』


 後方に下がって何やら仕込みを始めたらしいアカリとシャルの会話が聞こえる。

 さっきのってのはかっちゃんの自己申告だろうね。


『ツチノコが私の所有になった時点から私の妹欄にもツチノコが入ってます』


 あー、そういう処理になったのか。

 ステータスに娘とかペット欄ないしね。

 私らがないだけで従魔化した魔獣とか使役できる怪獣とかの表記はありそうな気もするけど。


『ならば魔王としての権限も?』

『はい、ツチノコが私に副権限よこしたんで。ただ、なんか制限がついてるらしくて』

『制限ですか?』

『そうなんですよ。なんか戌亥(いぬい)の魔王ってやつらしいですよ、こいつ』


 なるほど、やっぱ十二支(じゅうにし)絡みか。

 ねーちゃんが太歳星君(たいさいせいくん)って時点で十二神将(じゅうにしんしょう)が来るかなとは思ってたけど多分逆なんだな、これ。

 辰巳と戌亥ってことは丑寅(うしとら)未申(ひつじさる)も多分ある。

 鬼門(きもん)裏鬼門(うらきもん)ということなら山海経(せんがいきょう)からだったはずだけど雷獣(らいじゅう)鬼姉(おにあね)がくるとは普通おもわんよ。


<けれど母親が気になる娘は心の底からは楽しめません>


「ほんまマジでなんなん、そのずっとしゃべり続けとんのっ!」


 振り返ったかっちゃんが少しにらみつけてくるがここで止めるわけにもいかんからね。

 ぶっちゃけいうと設定を強制変更するためのフラグ。

 まぁ、今の状態だと月音と月影以外にはわからんだろうけど。


(ゆう)がそういうことを言うってことは必要なことだと思うからほっといてあげて』


 姉妹通信(シスターサイン)越しに幽子がそう言ったのがマジカのスピーカーから聞こえる。


「ほんま気が散るんや」

「そろそろいっすか」

「ええよ」

「ならまた全力でいくっすよっ」


 全速力で突っ込んでいくマジカの中に私の語りが響き渡る。


<夜遅くにそっと宴会を抜け出して竜宮の庭へと出るとそこには水色の髪の少女が佇んでいました>


「もう気にせんことにしたわ、勝負や、ねーちゃんっ!」


 繰り出されるマジカのハサミがするりと抜けたねーちゃんの横を走り抜ける。

 空振りかと思われたその攻撃、けれど吉乃の笑みは変わらない。


光輝(こうき)……」


 よけた位置にするっと滑り込んだレオナの右手の光る剣がねーちゃんをとらえる。


燦然(さんぜん)っ!」


 しまったという表情をしたねーちゃんにもう一本の剣が叩き込まれ同時にカリス教に由来するレオナの特殊技能、神技(じんぎ)がまばゆい光とともに炸裂した。

 この技の使い方、ステファによく似てる。

 というか光縛りなのか、レオナの神技。


「あいたたたっ」


 眩い光が収まるとそこには左肩を抑えたねーちゃんがいた。

 その片口は金色の光が立ち上り傷らしきものがすぐにふさがっていく。


『すごい、攻撃はいるんだ?』


 ねーちゃん相手に一本取ろうとしたら基本は初見殺しでいくしかない。

 本人は頭がいいわけじゃなくてなんとなく要領がいいだけだとよく言うけど、ねーちゃんのそれで心折れた人も多いからね。

 そういう意味では向こうの世界でも怪獣みたいな人だったともいえる。


『レオナと月影、それにアトラの統合体です。月影が深度二なのでレオナたちの累積深度は四に該当します。五であるあれに何とか手が届く範囲ではありますわね』


 即時に攻撃を入れるレオナとマジカ組だが今の一撃で警戒されたのか有効打が入らない。


「せいっ!」


 レオナはレオナで攻撃するときには発声するもんだからタイミングがばれるというのもある。

 たしか九州南部の剣術にあったね、おっきな声出すやつ。


「いまや」

「くらえっすっ!」


 マジカのマジカルパイルドライバーが空振りしたその瞬間、聞きなれた声が後方から響き渡った。


「「グラビィティッ!」」


 ガツンっと重力の重さで頭を押されたねーちゃんがぐぬぬという声を出す。

 マジカの全面スクリーン、後方の一部が拡大されアカリと月音が手をつないで残ったほうの手に前にかざしているのが見えた。


『ふえっ! あ、あたんないんじゃなかったのっ!?』


 幽子の質問はもっともだわな。

 太歳星君としての能力がある限り外れる可能性のある技は外れる、ここは変わってないはずだ。


『主軸は外れ続けています。ですがタレントとして発動されたグラビティは必ず実施される、これは王機(おうき)ワルプルギスの権能です。そしてあれは範囲攻撃ですので外れても多少の効果があります』


 なるほど、ずれても効果があるタイプか。


『二人のタレントの発動の位置補正を私がオルゴノールで随時行っております』


 作業してる割には余裕ありそうだこと。

 そんなことを言ってるうちに二人のグラビィティが止まった。


『時間切れです。タレントとして実装された深度の高い魔導には最大時間制限(タイムリミット)があります』


 一度、全員が離れた状態で再度の仕切り直し、だがねーちゃんはまだまだ余裕が見受けられる。


「どないすんねん、これ」

『有効打は複数出ています。続けるしかないでしょう』

「そないいわれたかてこのままじゃうちらのほうが先にまいってまうわ」


 そうだろうね。


「それにさっきのは大体不意打ちやん。誰が次チャンス作るんよ」


 真剣に戦略を考えるかっちゃんと妹たちを脇目に私の語りがこだまする。


<「なんや、迷子かいな」>


「ちょいまちぃ!? それもしかしてうちかいなっ!?」


 声音(こわね)もきっちりまねたからね。

 そんな私の語りにねーちゃんがわずかに焦りの表情を見せた。


「あははっ、そうくるんだ?」


<「うん」>


 文句はかっちゃんに()()()()()とかつけたソータ師匠にいって。


「ならもうちょっと本気出すかー」


 ねーちゃんがまだ本気じゃなかった件について。


『どーすんですかね、相手やる気ですよ』

『なるようにしかなりませんわよ、お姉さまですし』


 ははっ、シャルもあきらめたか。


<なんとはなしに話始めた二人でしたが組み合わせの妙か話が弾みそれは姉妹とも思えるほどに仲が良くなっていきました>


 なら最後まで(かた)るしかないな。


「そんじゃちょっと助っ人呼ぶわ」


 そういって右手を横に伸ばしたねーちゃん

 えっ、これ以上厄介(やっかい)なのがふえるん?

 そう思う暇もなくねーちゃんの横にふいに開いた真っ黒な穴。

 その奥には赤い目をした巨大な生き物がいた。


『シャルっ、オルゴノールで穴を閉じるんだっ!』

『やっています、ですが閉じませんっ!』


 本当に久しぶりに聞いたクラリスとシャルの動揺。

 ずいぶん前にランドホエールの中でもあったね。


『『『『『『『『『『「「「……」」」』』』』』』』』』』


 息をのむ皆の視線を受けながら穴の中からひょっこりと頭を出したその動物は形だけなら地球にいたあれだった。


『ふえっ!? に、にわとりっ!』


 あの青みがかった銀色の光沢があるメタリックなボディ。

 ありゃおそらくマジカと同じミスリルだわね。

 それと少なくとも人ではない。


「よく来てくれたね、メキラ」


 メキラ、多分十二神将の中で(とり)に該当するあれのことだな。

 本地仏(ほんじぶつ)阿弥陀如来(あみだにょらい)ともいわれる。


『オルゴノールが赤龍機構(せきりゅうきこう)のアーカイブからこの怪獣のデータを見つけました』


 そのまま元気よく穴から飛び出した巨大な鶏は喜びの雄たけびを響かせた。


「こっけこっこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 (めす)の鳴き方じゃないんよ、それ。

 あとリアルの鶏はそういう鳴き方はしない。

 閉じた穴の前でねーちゃんが頭をなでる巨大なミスリルの鶏。


『深度四大怪獣メタルコッコ。推定保有スキルは完全模写(かんぜんもしゃ)です』


 ははっ、そうきたか。

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