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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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副葬神

 今回、私たちがたてた作戦はシンプルだ。

 カリスは死や損耗といった摩耗現象を力に変え奇積(きせき)を起こすことができる。

 こういう自動回復する相手にはそれを上回る火力で叩き潰すかその回復を封じる手段を打つというのが定石だ。

 私たちが選択したのは後者。

 奇妙を積むと書く奇積(きせき)は起こす現象以上の消耗を実施者に強いる技能だ。

 そこをつけばカリスであっても摩耗させることはできる。

 一応、今回は真面目にそれをプランBとしている。

 アカリやリーシャたちがこの階層に到着するまで時間稼ぎをして交戦状態になった場合にも全滅を避ける。

 ねーちゃんの階層でギリギリまで待つってのも考えはしたのだけど万が一アカリたちが下りてきてるのを補足されて上に登られた場合、今度はアカリたちが火力不足で押し切られる可能性があると思った。

 そこで中間をとって三時くらいまで下で過ごしてから登ってきた。

 それとその時間の間に部品単位で運んできていたマジカの再組み立てを終わらせてある。

 組み立て後に私の収納にしまったけど容量的にはギリギリだったみたいだから次回は無理かもしれんね。


「たってんとこっち来て」

「はいよ」


 かなり様変わりしてる駅舎の中、改札に近い位置にある部屋の中へとかっちゃんが誘う。

 さて、まずはプランA、説得の時間だ。

 とはいっても半分は時間稼ぎなんだけどね。


「椅子は適当に座ってや」

「はいよ」


 勧められる前にすでに座っていたねーちゃん以外の私らは近くにあった椅子に座った。


「ねーさん、普通は家主に勧められてからすわるんやで」


 いつの間にか茶まで飲み始めていたフリーダムな姉をかっちゃんが諫める。

 その二人の中間地点に座り込んだバッハがまるで犬のような手のそろえ方をして床に座った。


「いーじゃんどーせ誰も来ないんだし」

「そーいう問題やあらへんのやけど」


 そういって頬に手を添えるかっちゃんのしぐさはどことなくセーラを思い出させる。

 ははっ、フロアボスが目の前にそろってるというね。

 しかもスキル封じをするバッハだけでも強いのにこの二人とバッハで組まれたらマジで詰みだったわ。

 さて、相手が本題である死反玉(まかるかえしのたま)を私が持ってるかどうかを聞いてくる前にこっちから切り出した方がいいね。


「ところでさ、かっちゃんや」

「なんや?」


 小首をかしげたかっちゃんの髪についた鈴がチリンと鳴る。

 その鈴に視線が向いた月音(つきね)の足元で月影(つきかげ)が相変わらずバッハを凝視していた。


「カリスは使ってる体ごとメビウスイーグルで冬眠してるのよ」


 再びかっちゃんの髪についた鈴がチリンと鳴った。

 これはチューキチとの戦いの際に開示された過去の物語の情報。

 カリス教、風の四聖(しせい)であるハルチカの龍札(たつふだ)、そしてカリス神が使ってる体は王機(おうき)メビウスイーグルの中で冬眠しているとソータ師匠が明言していた。


「そりゃ元の方やな」

「元っていうと?」


 元って単語から何となく察しはつくけどここはあえて聞く。


「うちはカコの(まも)りとして分けられたカリスなんよ」


 なるほど、分霊(ぶんれい)か。

 日本の神の場合、御霊を分割することによって他の土地の護りにしたり個人の守護としたりすることができる。

 そのわかりやすい例が神社の御守りやね。


『優姉、三十八層の真ん中くらいまできました』


 着々と進んでるみたいね。

 カコの護りってことはこの目の前の水崎カリスは(さき)の妹、カコの為に分霊されたカリスだということだ。

 なお、勘違いする人が多いけど日本の神を分霊した場合は本体とは別として処理がなされる。

 本社が霊的に消えても分社は関係ないなんてことがあるのもこれが理由だわな。

 そして分霊だとわかったなら聞かなならんことが増えたわけだ。


「そんじゃ元のカリスは誰の体に入ってるんよ」


 私がそういうとそれを知らないことに対しての安堵と怪訝そうな感情の両方がかっちゃんの瞳に浮かびすぐに消えた。


「リトルスノーや」


 初めて聞いた単語なんだけど。

 ずずずっと茶をすすったねーちゃんが口を開く。


「白の龍王よ。あの子の体、重症だったからメビウスイーグルの治療モジュールに突っ込まれてんの」


 ねーちゃん、『あの子』ではなく『あの子の体』っていったね。

 まぁ、今はいいか。


「なるほど、大体わかった」


 実のとこ、大霊界ってのが実態を持たない世界だってのはこれまでの話で見当がついてる。

 そして物理で肉体を保持していてカリス教の一連の騒動に関係した人物、かつレビィとメティス、そして四聖以外で行方がわかってないのは二名。

 白の龍王とカコだ。

 ソータ師匠がおそらくわざと残したと思われる過去の風景ではそのどちらがメビウスイーグルでの冬眠処理になったかは分からなかった。

 けど、今回の会話でそこがわかったわけだ。

 カコの護りとして分霊されたかっちゃんがここにいる。

 詳細はよくわかんないけど白の龍王が重傷を負うような事象が発生しカリス教は大霊界にMPをさらに集める為にロマーニに戦争を仕掛けた。

 ならカコはどうなったかという話なんだよね。

 人が死んだとき棺に副葬品(ふくそうひん)を入れるという慣習は東西を問わず広く存在する。

 そして信仰に寛容な日本においては仏式の葬儀の際に神社の御守(おまも)りを一緒に入れても良いのよ。

 昔近所に住んでて津波で死んだにーちゃんの副葬品で入れたからね。

 レトロゲームのカセットはダメでも御守りは大丈夫だった。

 たしかなくさないようにってことで胸元に持たされたはず。

 葬儀社の話だとお焚き上げで燃やすものだから構わんって言ってた気がする。

 そして護りとして分霊された星神(ほしがみ)が墓の下にいるって事実が全てなんだわ。


「カコを生き返らせたいんやね」

「「『『『『『えっ』』』』』」」


 なにも全員揃って驚くことないじゃん。

 カリス教の教えに従って素材にされてないだけ温情なんじゃないかな。


『カコ……』


 消沈してる咲には悪いけどカコが既に死んでるパターンは想定のうちだ。

 それは殺されて大霊界の(いしずえ)にされたってのも当然含まれる。


「……なんやおっかない人やな。なんでこんだけの会話でわかるんよ?」

「そりゃ私の妹だからねっ!」


 何故ねーちゃんが胸を張る。

 そんなねーちゃんを半眼で見ていたかっちゃんがこちらに頭の向きを直した。

 そして髪の鈴がチリンと音を立てた。

 ずっと観察してるとわかるんだけどこの鈴、鳴ったり鳴らなかったりとまちまちだ。

 ただ、かっちゃんの一部なんだろなってことは何となく察しがついた。


「先に言っとく。ねーちゃんにもいったんだけどさ」

『えっ、優姉、まだ早いですよっ!?』

『優っ!』


 慌てた声を上げるアカリと幽子。

 時間稼ぎとしちゃ全然足りてないからね。

 ちらりと視線を向けると口元を手で隠したシャルと髪についた鈴をじっとみる月音が目に入った。


「カコを蘇生(そせい)できるかどうか、私にもわからんよ」


 少なくとも私にはできんけどね。

 沈黙が場を包んだ。

 少しの間の後で鈴の転がるようなかっちゃんの声が続く。


「それ、いわんほうがよかったんちゃうの?」

「せやろね」


 損得で考えるならたぶんそうだろうね。

 ただ、相手の内面に踏むこむには言うしかないと思ったのさ。


「少なくとも今のカコがどうなってるかわからんことにはできるかできないかも言えんのよ」


 ソータ師匠のいってた死返玉って意味であればたぶん私には無理だ。

 それとは別にねーちゃんに禁止された妹転換(いもうとてんかん)ができるかどうかは今のカコがどうなってるか次第。

 だからここは腹芸なしで正直に言う。


「ねーちゃんがさ、私にかっちゃんを妹転換するのはいいけどかっちゃんが大切にするものは妹転換しちゃダメだって縛りかけてんのよ」


 私がそういうとかっちゃんの表情が険しくなった。

 バッハが急に立ち上がり同時に月影がいつでも飛び出せる体制に入った。


「ねーさん、何のつもりや?」

「聞いたままよ。とりあえず見せるだけ見せてからでもいいんじゃない?」


 横に座りながら火花が見えるような二人の雰囲気が周囲に伝播する。


「今日あった相手を連れてけっちゅうんか」

「そーよ。少なくともこの子らは私が鹵獲して(つかまえて)無力化してる。だから私とバッハはまだ戦闘中。そこはわかるよね?」


 実際のとこねーちゃんにスキルとか諸々を封印されてるのは事実だからね。

 この状態だと妹転換も多分発動しない。

 それと月音がさっきから部屋をきょろきょろと見渡してるんだけど何を探してるんだか。


「ほんまなん?」


 首を傾げつつ私を見てきたカリス。


「ほんとほんと。あとさ、ねーちゃんにも聞いたことなんだけどかっちゃんはさ」

「なんや?」


 彼女の赤い瞳に映る私の口元が笑みを形作ってるのが見えた。


「水崎カリスと水崎理沙(りさ)、どっちで呼ばれたい?」

『理沙って私の……』


 理沙はリーシャを育てたセーラにとっての最初の娘。

 リーシャにとっては血のつながらない因果関係だけの姉だわね。

 家庭問題の後、二人で逃走したセーラたちが大事にしていた石はその子の代替(だいがえ)でもあった。

 かっちゃんの社に鎮座してるあれやね。

 眼を見開いた状態のカリスに私が語りかけ続ける。


「あー、でも水崎理沙だとりっちゃんとかになっちゃうか」

「あんたその名前どっから聞いた?」


 どっからもなにも。


「セーラから聞いた。外の丸い石、セーラの赤子石でしょ。だからかっちゃんはこうやってまだ存在を保ってられる」


 多分あの石を粉砕すればこの子にダメージを与えることはできる。

 やらんけどね。


「ねーちゃんの妹の名に懸けてあの石は壊さない」


 カリスの鈴がチリンと鳴った。


「つーことで話すすまんからさ、逢わせてくれんかね。カコに」


 ふぅとかっちゃんがため息をつくとねーちゃんとバッハが力を抜いた。


「お姉さま、少々よろしいですか?」

「なによ」

「あちらを」


 シャルが指さすその方向には床の板を開いて下へと続く階段を覗き込んでいる月音がいた。


「隠し扉見つけましたっ!」


 人の家の床下扉を開いてるのを見つかったということへの悪びれが微塵もないあたり育て方間違えたかね。


「なんでそこがわかったんっ!」


 がたっと椅子から音を立てて立ち上がったかっちゃんに月音がむふーっという擬音が聞こえそうな態度でこう答えた。


「その()()()()()()()()()()()()()のでっ!」

「なんなん、それっ!」


 それはむしろ私が聞きたい。


「赤い糸が伸びてましたっ!」

「まじでなんなん、その子っ!」


 かっちゃんが月音の言葉に少し赤くなってるあたりそこで正解なんだろうね。

 ねーちゃんの中身が想定通りだとしても今の月音は私の妹だからね。

 だから答えはこれであってるはず。


「ねーちゃんの妹」


 たぶんね。

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