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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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四十二層攻略会議

「つーことでねーちゃんのガワをかぶったヘカテーが脱出のサポートをしてくれることになりました。拍手ー」

『『『『『「「「…………」」」』』』』』


 誰も突っ込んでくれないのがちょっと寂しい。

 今は洗濯を終えたシャルたちも合流し家の中のテーブルのある部屋に集まっている。

 なお、いそいそとシャルたちの分の茶を用意したねーちゃん、改めヘカテーが目の前に並んだ五つの湯のみを右から順に飲んでる。

 つーか自分と私らだけじゃなくて月影(つきかげ)と足元にいるバッハにも入れたんかい。

 猫もそうだけどバハムートも茶は飲まないと思う。

 バッハ微妙な反応してるじゃん。


「おねえちゃんって変だよね」

「そうかね。ねーちゃんほどじゃないと思うんだけど」

『『自覚っ!』』


 怒られるほどじゃないと思うの。

 三杯目の茶を飲み切ったヘカテーが湯のみをテーブルに置いた。


「出口までは送らないけどねー。かっちゃんのとこはあんたらだけじゃ多分どうしようもないだろうから付き合うよ」

「その前にさ。かっちゃんって誰よ」

「カリス」


 だろうとは思ったけどさ。

 階段を上った上、四十二層のボスか。


「あとねーちゃん。中身のヘカテーとねーちゃん、どっちで呼べばいいん?」


 そう聞いた私にねーちゃんは何時もの笑いを返してよこした。


「好きな方でいいよ」

「じゃぁねーちゃんで」

『そっちにするんだ?』

「慣れてるからね」


 さて、こういう時は私よりシャルに任せた方が早いかな。


「質問があります」

「シャルちゃんだっけか。いいよー」

「まず一つ目。バハムートの咆哮(ほうこう)の現在の効果時間は?」


 咆哮っていうとあの光った奴か。

 スキル封じのことだな。


「六時間くらいかな」


 今が昼だから夕方にはとける感じか。

 戦闘中だったらどうしようもなかったね。


「あと先に行っておくけどさ、私たちが優たちに付き合えんのはバッハのそれがとけて日が沈むまでだからね」

「なんでよ」

「建前的には今戦闘中だからさ。かっちゃんには降参させたっていうことで連れてく」


 なるほど。

 モンスタートレイン、ゲームでいう敵を誘引する行為の逆だな。

 猫が獲物を見せに行く行為っぽいきもしなくもない。


「それでいいよ。なら時間が来たら敵に回るのかね」

「私らはここに還るだけよ」


 帰るんかい。


「それはそれでしゃーない」


 私がそういうと四杯目の茶を飲み切ったねーちゃんが空になった湯のみをテーブルに置いた。


「では二つ目です。この階層の一つ下に降りる出入口は?」

「見てるでしょ。お地蔵様、あれよ」


 あれ、やっぱりギミックだったのか。


魔導機(まどうき)ではありませんでしたが」

「魔導じゃなくて奇積(きせき)の方をつかってるからねー。お供えすれば開くよ」


 お供えねぇ。


「お(さけ)ですか?」

「正解。シャルちゃん、五月(さつき)の知り合いでしょ?」


 視線をそらしたシャル。


「ええ、まぁ。散々巻き込まれましたので」

「あっはっはっ、おつかれさん」


 地蔵に酒のお供えって普通はやらんのよね。

 元々が子供の守護仏だからつながらんのよ。

 つまり五月を知ってるか偶然に頼って総当たりでもせん限りは開けないギミックなわけね。


「次の質問です。私たちだけでは厳しい理由は?」

「そりゃアレがあるからね」

「アレとは?」

歌風王(かふうおう)の右手」


 一瞬だけびっくりした表情をしたシャルがすぐに口元に手を寄せ沈黙した。


「確か外付けなんだっけか。深海王(しんかいおう)と歌風王の両手足」

「うん、そう。あの人が請け負ってた修理をしてたのはここだからね。修理中のがのこってるよ」


 あの人ってのはソータ師匠のことだからそれはいいとして。

 修理中ってことはどっか壊れてるんだな。


「頼んでるのは赤龍機構(せきりゅうきこう)やね?」

「そりゃそーよ」


 クラリスことクラウドが以前『赤龍機構(せきりゅうきこう)魔窟管理簿(まくつかんりぼ)の方でも()()()()()()』といってたから組織としての赤龍機構はこの迷宮を認知してる。

 一枚岩じゃないみたいだし嘘のつけないクラウドにはここのことは知らせてなかったみたいだけどね。

 もしくは本人があえて聞かないようにしてたか。


「歌風王の手足って飛ぶんよね、たしか」

「飛ぶというか空を走ってくるね」


 走る?

 視線をシャルに向けるとシャルが大きく頷いた。


「歌風王の本体は大戦で破損したためマナの供給用に特化されています。四肢には大規模改修が施されており右手であれば現在はテラにおけるテンダー機関車の形状をしているはずです」

「いや、テンダー機関車っていわれてもわからんわよ」

『わかるでしょ、蒸気機関車だよ?』

「テンション高い幽子(ゆうこ)には悪いけど私鉄道は趣味じゃないんだよなぁ」


 それにしても大霊界の主神として作られたカリスの階層に蒸気機関車ねぇ。

 幽霊機関車かな。


『アニメでも空飛んでるのあるじゃないっ!?』

「あー、某大先生の作品のあれか」


 空飛ぶ機関車というか列車っていうとあれ以外にも結構あるのよね。

 童話とかでもそうだし特撮やヒーローアニメとかにもそこそこの数あったはず。


『ハドソンって呼ばれるアレ、炭水車(テンダー)ついてる奴っ!』

「ゲーム会社しかわからんよ」


 向こうの世界で近所に住んでたにーちゃんのレトロゲームコレクションで遊んだ時に覚えた。

 たしか私が生まれるずっと前に倒産してたはず。

 というか幽子の知識の守備範囲が男の子っぽいんだよね。

 そこら辺もあるかもしれんね。

 前世でいじめであれこれあったの。

 そんな幽子の解説を打ち切る様にコホンと咳払いをしたシャル。


「レッドトルネード号とヒドラス号はここにはないのですね」

「ないねー」


 話の流れから見て歌風王の手足の話かな。


「てかなんで列車なのよ」

「お姉さまは私が使用したエアロレールを覚えてますか?」

「そりゃまぁ」

「あれのもとになった()()回路、それが仕込まれていたのがACTと歌風王の手足です」

「ほーん」


 空飛ぶ列車とレールが出せる塔ねぇ。


「失われた学術都市アルカナティリアも巨大な塔の形をしていました。そこからの類推として神代においては空を走る列車が交通の主体だったのではないかと言われています」


 ちらりとねーちゃんをみたシャル。

 五杯目の茶を飲み切ったねーちゃんが空になった湯のみをテーブルに音を立てて置いた。

 そのままねーちゃんは立ち上がりながらこう続けた。


「大自然が呼んでる」


 トイレやね。


「そりゃあんだけ飲めばね」


 冥府の女神でも生理現象はあるらしい。

 いそいそとトイレに向かうねーちゃんとそのあとをついていくバッハ。

 そうか、バッハって私たちのことを警戒してるわけじゃないんだな。


 なるほど、なんとなくわかった。


 それにしても王機(おうき)の右手か。

 ねーちゃんの話しぶりからするとかっちゃんが使ってくるってあたりか。

 わかってるのとわかってないのとでは大違いだけどさてどうしたもんかね。


「なんですか?」


 視線を月音(つきね)に向けると月影を膝上にのせて撫でているのが目に入った。

 素材という意味であれば月音の積み木も同強度のはずだけど王機ってかなりの無茶ができるから同列には扱えんかな。

 少なくとも私は空間を掘るマジカルスコップとかいう荒業を王機で使ったことがある。

 あれも対怪獣用の巨大ロボにしては過剰スペックだと私はおもってる。

 そんなことを考えていたら月影と目があった。

 横を向いた月影の視線の先には戻ってきたねーちゃんとバッハがいた。


「いやごめんねー」

「かまわんけどさ。そんで作戦つーてもカリスでしょ、私、アレの基礎概念は一度祓ってるよ」

「あーやっぱりそうか。悪いけど(ゆう)、今回は(はら)うのはなし」


 おっと祓いなしか。


「なんでよ」

「教えられない。でもそこが飲めないなら手伝わない」

「さすがに殴られっぱなしにはできんよ?」

「防御やカウンターはいいよ。でも根っこから祓うのはダメ」


 ん-、どうするかね。


「シャル、月音、どうする?」

「カリス神の『代価置換(だいかちかん)』は強力な魔法です」


 そりゃまぁ、失った分は報われる、報われてほしいという人間の根幹に近い位置にある常識、言い換えれば欲だからね。

 そうでないと普通の人の場合は心が荒れる。

 私の定義だと死んで転生したら何かしらのプラスがあるってのもそう。

 メタ目線で見るなら否定すると多くの場合で物語の初動が回しにくいってものあるわな。


「あれがある限り劣化や破損も含めたすべての死が相手側の優位に動きます」


 そういう概念だからね。

 しかもコアに原理不明な地球の呪いを持ち込んでるというおまけつき。


「月音はどうよ」

「思ったこと言ってもいいの?」

「ええよ」


 抱きかかえた月影と一度視線を合わせた月音が私たちの方を向いてこういった。


「誰かがいなくなるのは寂しいから嫌。おねえちゃんの妹にするのがいい」


 妹転換(いもうとてんかん)か。

 あれ地味に難易度高いんだよね。

 しかも今回はかっちゃんことカリスが相手だし。


「ねーちゃん的には私のスキルでの組み換えはいいのかね」

「かっちゃんならいいかな」


 いいのか。

 すっと真面目な表情になったねーちゃんが私たちを見つめながら続ける。


「ただ、あの子の取り戻したい子にそれをするのはなし。そこも飲めないなら手伝わない」


 死反玉を使ってでも生き還らせたいとカリス神が願う相手か。

 いい予感はせんけどね。


「いいよ。代わりにねーちゃん、そのかっちゃんを妹転換するためのサポートを宜しく」

「いいよー」

『なんかすっごく軽く請け負ったけど大丈夫なの?』

「まぁ、こういう人だからね」

「そんじゃま、(ゆう)明日咲(あずさ)にシャルちゃん」


 立ち上がったねーちゃんの周りに月音と同じような魔法の反応が出現し服が組み変わっていく。


「ちょっとした冒険に行こうか」


 腕一本分の王機戦をちょっとした冒険と評する姉がここにいた。


「せやね」


 そこには薄い土色の帽子に上着、それにパンツにベルトに衣装が組み変わったねーちゃんがいた。

 つーかえらい見覚えがある衣装だな、これ。

 腰に鞭と銃っぽいものがついてるあたりが違うけど。

 あの微妙にゴテゴテした形は神銃か。


「あれはアキラが昔使っていたデカルトですわね。破損したと聞いています」


 レオナの爺と同じか。


「あ、そっちのお洋服の方がいいですね」


 続けて立ち上がった月音も同様の探検隊衣装に切り替わる。

 こうして同じ衣装を着ると姉妹間が増すね。

 それと月音の衣替えの魔法は発動すると。

 なるほど、内部の魔法も打ち消すレッサーベヒーモスと補完関係にあるんだな。


「優」

「なによ?」


 ニカっと笑ったねーちゃんの足元にいたバッハがこっちを向いた。

 それとバッハの前に置かれた湯のみがいつの間にか空になっていた。


「この衣装の時の私はヘカテー・D・ジョーンズだからよろしく」


 さいですか。

 つーかミドルネームのDはなによとか思わなくもないがねーちゃんのことだから多分意味はない。


「いいですねっ! なら私も月音・D・ジョーンズですっ!」


 楽しくなってきたのか流れにのる月音の手の中で月影がバッハへの警戒を続けていた。


「お姉さま」

「なにかね」


 そんな私の服の袖をシャルがそっと引いた。


(わたくし)たちも着替えた方がよろしいですか?」

「いらんよ」


 ジョーンズ四姉妹になる気はないし。

 さて、アカリたちは間に合うかな。

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