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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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洗濯都市

 上機嫌に洗濯干し場に進んでいく前世の姉(ねーちゃん)

 正確には姉の姿と声、性格をしてると思しき謎の人物。

 ダンジョン攻略に来たのになんで洗濯干しを手伝うことになってるのか。


「全妹に姉として指示する。この迷宮内で彼女たちから提供される一切の飲食物の摂取を禁止する」

「なるほど。了解しました」

「なんで?」


 素直に頷いたシャルと首を傾げた月音。

 単純にヨモツヘグイなんだけどどう説明したものかね。


「ソータのトラップが仕掛けられている可能性があります。飲食物からの内部MP汚染を受けた場合、除去が難しいのです」

「そうなんですね」


 そういやそんな話もあったっけか。

 以前、亜人に転換する条件を聞いた時に聞いたね。


「シャル、魔導(まどう)はどこまであかんかね」


 一瞬視線を合わせたシャルが手をかざして宣誓(せんせい)をする。


「エアロライト」


 宣誓したシャルの言葉に対して何も現象も発生しない。


「御覧の通り発動しません。これは深度不足と類似する現象です」


 月影(つきかげ)を抱き上げた月音(つきね)と月影の視線が私に刺さる。


「二人のスキルもかね」

「うん。なんか重いの」

「いつもの衣替えはどうよ」

「重いけど行けると思う」


 ふむ、もしかして本人にかかる魔法はいける感じかな。


「あとね、おねえちゃん」

「なによ」


 月音が背負ってるリュックの中を指さしているので覗いてみる。

 そこには普通の布で作られたリュックの底が見えていた。


「切れたっぽい」

『私たちの方では切ってないんですけど……』


 ぐぬぬという月音に対し困惑した声を上げる沙羅(さら)

 二人の会話を聞いていたシャルが静かに首を振った。


夢幻武都(むげんぶと)の主である沙羅が深度一ですのでバハムートの『激雷(げきらい)』でかき乱されて動作不能に陥ってるのです」

「いやはや……性質(タチ)悪いわ」


 視線を洗濯干し場に向かった姉に向けるとその足元に絡みつく四足の獣と視線が合った。

 黄色の毛皮にアリクイのような長い鼻、四本脚によく見ると尻尾が二本なんだな。

 頭からしっぽまでの大きさは五十センチ弱ってあたりやね。


「あれ、もしかして雷獣(らいじゅう)?」

「はい」


 馬琴先生の書いた奴だと前足が二本に後ろ足が四本、しっぽが二本だけど描く人によって結構異なる。

 それが落雷(らくらい)の妖怪、雷獣だ。

 この場合だとソータ師匠が龍札(たつふだ)の半分を素材に作った創作怪獣ってとこか。

 ふと、馬琴先生つながりでポケットに突っ込んでいた龍玉(りゅうぎょく)との接続を確認してみる。

 おっ、こっちは動くのか。

 虚構王(ワルプルギス)が関係する冒険者ギルドのマナはシャルのいう物理系統じゃないんだな。

 てことはタレントは使えると。

 収納もつかえるみたいね。

 となると念のため私ら三人の収納に分散格納しておいたマジカも大丈夫かな。

 タレントや事前準備した魔導具とかはいいわけか。

 なるほど、確かに冒険者の育成迷宮であってるんだわ。

 スキルとかでのズルは許さんってことね。


「バハムートは以前はエクスプローラーズの後輩であるアキラと仮契約していました」

「仮契約っていうと貸付ってことかね」

「はい」

『アキラさんかー、もうなつかしい。元気してるかな』

『変わらないんじゃないかな』


 通信越しに幽子(ゆうこ)とクラリスが会話に入ってきた。


「おっと、知ってるんかね」

『うん。向こうでいろいろあったんだ。お土産のお肉もアキラさんからもらったんだよ』

「なるほど」

「アキラらしいですわね」


 シャルの後輩でエクスプローラーズってことはAランク冒険者なんかな。


「そんでそのアキラって人、強かったりするんかね?」

「ええ、かなり。ステファたちの初期教育担当でしたから」


 あー、そりゃつよそーだわ。


「個々の技能自体は浅く広くでしたが複数組み合わせることで足し算以上の力を発揮するタイプでした」


 一瞬、近年の某特撮のライダーみたいだなと思ったが、そういう力の使い方もありっちゃありか。

 そしてあのバッハと呼ばれてる雷獣は自分より深度の低い相手の魔法を封じることができると。

 いや、マジで強いな、その組み合わせ。

 それに事前準備のキャンセル能力持ちのレッサーベヒーモスも組み合わせたら初手で詰むんじゃないかな。


「バハムートだけであれば手は割れています。アレの能力は魔法封じと影渡りが基本です」


 雷なのに影渡りするのか。

 いや、逆か。

 雷だから影を作るんだな。


「もしかして部屋の角とかからにょっきりと湧いてきたりして」

「よくわかりましたわね。あれは角ばった場所からであればどこからでも出入りできます」


 某コズミックホラーの怖いワンワンかなとおもったのはここだけの話だ。


「勝算は?」

「姉妹間闘争禁止指示がない状態でしたらなんとか」


 やっぱそこがネックになるわけか。


「おーーい、優ー? 手伝ってくれるんじゃないの?」

「はいよー」


 さすがにこれ以上ここにいるのは無理か。


「シャル、月音。とりあえず手伝いしよう。自分が今どこまでできるか見つからないように確認しておいて。それと最初に言った指示は守る様に」

「うん」


 晴天の下、ひらひらと風に吹かれる大量の洗濯物。


「ねーちゃんの相手は私がやる。シャル、月影。月音をよろしく」

「はい」

「…………」


 こうして私たちは、いまだアクティブではないエリアボスのお手伝いを始めることになったのである。


     *


「いやー、やっぱ手伝ってもらうと早いわー」

「そりゃそーやろうね」


 仕事でもない限りこの量の洗濯物を干すことなんてまずないし。

 衣類をたたみながら視線を壁の方に向けるとそこには新しい洗濯物を洗っているドラム式洗濯機が見えた。


「ねーちゃんさ、アレの電気は?」

「バッハ」


 洗濯機の電源にされたバハムートに同情を禁じ得ない。


「追加であらってる奴もこの後干すんかね?」

「まーねー、今日も天気いいから全部乾くでしょ」


 そういう私らの傍を乾いた風が通り抜けていく。


「そもそもさ、なんでこんなに大量の洗濯してるんよ?」


 私がそういうとねーちゃんはいかにも深く考えてますって風に深く頷いたうえでこういった。


「よくわかんないっ! 毎朝、洗濯物がいっぱい置いてあるからなんとなく洗ってるっ!」

「……なんとなくって……いやいい加減だなー、ほんと」


 そう。

 こういう人だったんだよ。

 私の地球での姉、安藤(あんどう)真昼(まひる)という人は。

 それでいて割り振られた仕事をこなすのも他人を使うのも早い上に上手だった。

 労働基準法なんて真っ青なブラック労働の下でもねーちゃんの明るさが……まぁ、そこはさすがに端折るか。


「ところでさー、優」

「なによ」


 ねーちゃんが視線を向けた先、そこには銀髪紫瞳の美貌の妹(シャル)と黒髪に青い瞳を持ったセーラー服の妹(つきね)が何やら会話をしながらせっせと洗濯物を片づけているのが見えた。

 おや、月影とバッハが見当たらない。

 おっと、向こうの方でまだにらみ合ってたのか。

 心なしかバッハの方が逃げ腰に見えるな。


「あれ明日咲(あずさ)だよね?」

「ねーちゃんがそうおもうならそうなんちゃう?」


 同定をこちらに投げてきたねーちゃん相手に質問を丸投げで返す。

 ちょっと膨れたねーちゃんが少しだけ優しい目で月音を見る。


「うん、明日咲(あずさ)だよね」

「見た目はね、今のねーちゃんと一緒よ」


 聞こえたのか聞こえてなかったのかねーちゃんはその一言には答えなかった。


「いつの間にあんなに動けるようになったんだか」

「せやね」


 質問に対しての「せやね」なので肯定も否定もしていない。


「ところでねーちゃん。千暁(ちあき)はどうしたんよ」


 私の姉、安藤真昼には二卵性双生児の娘がいた。

 その二人の名前は千暁に真夜(まや)

 昔だと古風な名前かもしれんけど一周回って今時だとあれなネームかもしれんわね。

 一度結婚したねーちゃんだったけど、いろいろあって離婚。

 本人たちの希望もあり千暁はねーちゃんと、真夜は旦那の方が育てることになった。

 基本親権については母親の方が取得することが多いけどそこら辺はきちんと話し合って別れることができたあたり、円満はなくともまだましな離婚だったんじゃないかなとは思う。

 その後、娘の千暁とアパート暮らしだったはずなんだけど私が死んだ後でどうなったかはもちろん知らない。

 さて、このねーちゃんの姿と記憶、言動もきっちり模写してる彼女はそこをどうこたえてくるのか。


「いやー、二人で洗濯機買いに行く途中で事故にあっちゃってさー」


 あー、なるほど。

 よくある娘はかばったけど自分はってタイプの異世界転生か。


「二人でこっちに来ちゃった」

「ははっ、そうきたか」


 千暁、どんくさかったからなー。

 ねーちゃんが助けるのも間に合わなかったと見た。

 いやまて二人で?


「ねーちゃんさ、もしかして龍札(たつふだ)で招来された口?」

「お、やっぱわかっちゃうかー。ねーちゃんのこのにじみ出る勇者(ゆうしゃ)オーラが」

「そんなオーラはたぶんない」


 あと私は今、勇者とは言わなかった。


「シャルおねえちゃん、おねえちゃんが突っ込みに回ってるよ?」

「そうなるでしょうね。伝承にあるあの人が相手では」


 少し離れた位置で伝承とか不穏なことを言ってる妹がいるが今はさておく。


「そんで龍札の文字は何だったのよ」


 周囲を見渡すと大量にあるドラム式洗濯機。

 なんとなく答えを聞くまでもないけどあえて聞く。


「ふふー、きになる?」

「いや、いいや」

「ちょっと、聞いてよーっ! きいてくれたっていいじゃんかーっ!」

「わかった、わかったから袖引っ張んない」


 再びふくれっ面になったねーちゃん。


『あれ、オレたちのねーちゃんだよな?』

『あの優が振り回されてる』

『独特な人なのです』


 いそいそと服の中を覗き込んで、あれっ?ないとかいうねーちゃん。

 少なくとも普通下着の中には龍札をしまわんのとちゃうだろうか。

 龍札をナプキンかなにかと間違ってんじゃないかな、この姉。


「あ、あったあった」

「ポッケからしわくちゃにした状態で出すなよ」

「いやー、つい。どうせ時間がたつと勝手に伸びるし」


 ねーちゃんのせいで龍札の隠された便利機能、しわが自動で伸びるがわかった。


「じゃじゃーん、どうよ」


 ドヤ顔で私に見せたねーちゃんの龍札にかかれた文字は『洗濯機』

 三文字か。


「すごいじゃん」

「でしょー、つーてもホントはレプリカなんだ。これ」

「レプリカなんかい」


 レプリカの龍札とか初めて見たわ。

 アカリの偽札だったらあったんだけど。


「本物の方は?」

「ん-、たぶん今でも元気に海を回してる」

「なんぞそれ」


 何を言ってるかわけわからんけど聞いたら不幸になりそうなのでこれ以上は聴かんことにした。

 これ以上の踏み込みは確実にカウンターされるからね。


「そういう優は?」

「持ってきてない」

「ずるー。私と変わんないじゃん」


 そしてこの姉は私の質問にまだ答えていない。


「で、千暁はどこに行ったのよ」


 そう問いただした私に困ったような寂しげな表情をみせながらねーちゃんが洗濯機を見つめてこうつぶやいた。


「いるじゃない。そこら中に」


 数秒の思案。

 ふむ、ホラーやね。

 ぎょっとした表情の月音と呆れた顔をしたシャルの表情がすべてを物語ってるわな。


「心の中にってか」

「へへー、せいかーい。さすが優、引っかかんなかったねー」

「ねーちゃん、そういう性質の悪いひっかけ好きだからね。で、千暁はどうなったんよ」


 逃がさず再度問いただすとその姉は困ったように笑みを浮かべた。


「なんかねー、星神(ほしがみ)ってのになってた」

「ははっ、そーきたか」


 私の幽子と同じだな。

 いや、これ本当に偶然か?


「そんじゃそこら辺にいる?」

「ううん」


 首を振ったねーちゃんは再び寂しそうに笑った。


「千暁はかっこいい王子様捕まえて二人で作った国で幸せに暮らしましたとさ」


 なんで昔話風なのかね。

 そしてこの迷宮の入口が何だったかという話につながるわけか。

 なんとなくわかった気がする。


「それ、なんて国よ?」


 吹き抜ける風と共に洗濯物がざわめく音を伴い姉の声が響いた。


「ロマーニ」


 なるほど、真偽のほどはさておいてそういう流れで来るわけか。


「いい名前でしょ」


 せやね。


「そんじゃなんでここにいるん?」


 私の質問に一瞬キョトンとしたねーちゃんは笑いながらこう言った。


「だって洗濯機がここにあるからさ」

「その大量の洗濯機のことかね?」


 私の質問に横に首を振ったねーちゃん。


「てっぺんに洗濯槽あるじゃん、この都市(レビィティリア)


 レビィティリアって洗濯機だったのか。

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