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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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ボス部屋で詰む

「おねえちゃん、なんか、戻れない」

「こちらも駄目ですわね。チューキチの時と同じマナの攪乱(かくらん)がおきています」


 あー、あの時も深度四だったか。

 大体、そのあたりで移動不可になるんだな。

 そんなことを言ってる間にも月影(つきかげ)がリュックから外に飛び出して月音(つきね)の前に陣取った。

 了解、そんだけやばいってことね。


(ゆう)、こっちから呼び出す?』

「お願い、マジでヤバイ」


 ボス対策はしてきたけど姉妹対策はこれまでしてこなかったんだわ。

 現在、姉妹間の殺害、それにつながる行動は姉としての指示で禁止してある。

 事故や治療での結果、訓練とかはまぁしょうがないとして例外にしてあるけどそれ以外の故意なものは全部だ。

 そしてその妹の範囲には()()()()()()()()


「おーい、(ゆう)明日咲(あずさ)。聞こえてるー?」


 ()()()()()()()()()

 これが何を意味するかというと多分、ボスである姉の姿をした冥府の何かと黄色い獣相手に私たち、月影を含めた四名は手足どころか毒殺も含めた攻撃手段を取ることができんということだ。

 ステータスに表示されるのは妹であって姉は表示されない。

 そして私と月音は前世の姉の姿と言動をとる人物がそこにいることを認識してしまっている。

 私が妹にだす絶対命令は本当に強いからね。

 初期に設定した命令を改訂するならここにいる私と龍札(たつふだ)の私、両方の同意が必要だ。


『ごめん、優。こっちから呼び出せないみたい』

「やっぱそうなるか」


 抜本問題としてシスティリアは人手が足りていない。

 その上で妹がやらかした時の処分は私の絶対命令と領主のリーシャの判断の両面でここまでやってきた。

 本来、国として備えるべき司法を担当する仕事まで人手が回らなかったことと法体系としては元のロマーニ国の法を継承したものだから当面の暫定措置として王の私かリーシャが対応するという形で処理してきたのがここにきて悪い方に出た。

 これは想定外を想像しきれていなかった私のミスだ。

 悩んでる時間はないな。


「シャル、魔導(まどう)でいまきた水路を戻れるかね」

「可能です。やりますか?」


 確認を取ってきたシャルに私は頷く。

 どんどん近づいていく船、そして鳴り響くカイジュウアラート。

 その警報音に眉をひそめた私の姉、安藤(あんどう)真昼(まひる)が両手で耳をふさぐ。


「シャル、急いでっ!」

「はい」

「おーい。話くらいしてってよ。てかなにその音、(やかま)しいんだけど」

「マルチエアロバーストッ!」


 シャルの言葉に呼応して船が浮き上がった。


「バッハ」


 四足で黄色い毛が生えていてアリクイのようなちょっと長めの鼻を持つそれ。

 まるでねーちゃんの動きがわかっていたかのように頭を持ち上げるその獣。


「これ何とかして」


 ねーちゃんがそういうとその謎の獣が口を開く。

 シャルの魔導が完全に確定するその直前、全体を染めあげる真っ白い光と轟音が鳴り響いた。


「うひゃっ!」


 急に水面に叩きつけられた船が大きく揺れる。

 後からシャルの声が響くも特に変化した気配もなく、眩しさで閉じてしまった眼をゆっくりと開いていく。

 視界の中、船は再び岸に付こうとしていた。


「月音、ブロックは?」

「なんかだせない……あれ、月影は?」


 船の上から消えたタキシード猫(つきかげ)

 まさかさっきの奴で落ちたか?


「お姉さま、月音、あれを」


 シャルの声に従い陸の上を見るといつの間に移動したのか月影が黄色い獣と正面からにらみ合っていた。


『「月影っ!」』


 月音の呼びかけにも視線を動かさない月影。

 今のうちに逃げろってか。


「どうなさいますか?」


 どうする、ではなくなさるってことはさっきの以外でもシャルには何か思いついたことがあるんだろう。

 あとは私が月影を置いて逃げることを決められるかどうかだけだわね。


「おねえちゃん!」


 振り返った月音の表情を見た私。

 ははっ、ここで見捨てられるようなら今こうにはなってなかったわね。

 私は両手を挙げて陸の上のねーちゃんにこういった。


「降参だわ。ねーちゃん、その子がどっかいかんように見といて」

「んー? よくわからんけどわかった。バッハ、警戒緩めて」


 ねーちゃんがそういうと謎の獣が先に視線を逸らす。

 続いてこちらに視線を送ってきた月影の瞳には一言では言い表せない複数の感情が見て取れた。


「いやまぁ、いろいろ言いたいだろうけどさ、しゃーないじゃん」

「……………………」


 月影の表情は言葉より雄弁だわな。


「お姉さま、ご報告があります」


 いい報告ではないんだろうね。

 私が視線だけ向けるとシャルが続きを口にした。


「結論を言うと物理系の魔法封じがされています」


 物理系の魔法封じって単語が初めて聞くんだわ。

 再び視線を陸に向けるとよくわかってない表情をしたねーちゃんの顔があった。


「陸にいるアレによって物理四系統のマナが攪乱されています。私の魔導も月音のスキルも深度負けにより動作不可です」


 ははっ、やってくれる。

 地獄でねーちゃんが待ってたかと思いきや随分熱烈な歓迎をしてくれることで。


『どうしよう、何かできることある?』


 幽子(ゆうこ)の声が聞こえるってことは通信は切れてないらしい。

 魔法封じって話だけど全部の魔法ではないんだな。

 その証拠に魔法による擬人化である月音はぴんぴんしてるし月影も動いてる。


『ここが第何層かわかるかね』

『えっとね……。ふえっ!? よ、四十九層……』


 そんな気はしてたけど随分深いな。

 それとこの階層数、ソータ師匠がわざとやってるんだろうな。

 五十まで行ければ大霊界へのヒントがあるかもだけど今はそれ以前かな。


『あの足元にいる黄色いもふい奴、誰かわかるかね』

大凡(おおよそ)であれば』


 答えようとしたシャルの言葉をアカリが遮る。


『シャル姉、私から言いますよ』

『お願いしますわ。私はあれ相手に有効な魔導の構築を模索します』

『了解です』

『それで、アカリ。あの黄色いのは何よ』


 猫と犬、アリクイを混ぜたみたいな首元にモフモフのある謎生物。


『あれはクソジジイの契約怪獣の一体、『激雷(げきらい)』のバハムートです』


 なるほど、北陸とかで冬に落ちる雷か。

 それでいい加減なねーちゃんがバッハとか呼んでるんだな。

 一発雷ともいう。

 夏の百倍の威力とかいう話もどっかで聞いたね。

 バハムートねぇ、ゲーム的な竜じゃないんだな。

 レビィアタンにジズ、ベヒーモスとくれば妥当っちゃ妥当か。


『それとレオナが十四層で戦ったボスがアレだそうです』


 レオナと吉乃(よしの)、元の名前でいうならチューキチが戦って負けた相手か。


『魔法封じや転送禁止もあれの影響かな』

『たぶんそうです』

『なるほど。いや、参った。結構頑張って準備したんやけどね、しゃーない』


 そとそろ船が岸につく。


『クラリス』


 数秒の間。


『なんだい?』


 声には出てないけどなんか微妙な間があったね、今。


『見てのとおり事故った』


 しかもまさかの姉妹事故というね。


『冒険者からギルドへの救援要請の制度ってなかったっけか』

『あるよ』

『お姉さま、それは……』


 救援要請を出そうが出すまいが成果にかわりはない。

 ただ当然、ギルドに何か仕事を頼めば一定のポイントを持っていかれるわけで私たちのチームロマーニの勝利はほぼ絶望的となる。


『あれを倒せるならそれはそれでいいけどさ』


 シャルの瞳に視線を向けるといつもならこういう状況で光っているシャルの目が普通の光彩なのが見えた。


()の能力も封じられてるんよね?』

『はい』

『ふえっ!? そこまで封印されちゃうの?』


 幽子の疑問もわからなくはない。

 多分、マナの内外での入出力全体が影響を受けてるんだと思う。

 チューキチの時より強い、というかこれがこの世界における幻獣こと幻想(げんそう)怪獣(かいじゅう)が持つ本来の強さなのかもしれんね。


『私らはともかく月音は都市に返さなならんのよ』


 一拍の間。


『わかりました』

『チームロマーニは現時点をもって救援要請を申請する』

『受諾した。救援にかかる必要ポイントは君らの成績から減点するよ』

『ういよ』


 二人の望んだ形じゃないだろうけどシャルがアカリ達のところに嫁入りになるのがこれでほぼ確定となった。

 生きて帰れたらの話だけどね。


 そして船が接岸する。

 接岸した船から真っ先に飛びだした月音が、さっきの位置から動いていなかった月影を抱き上げる。


「心配しました、月影」


 ぎゅっと抱きしめる月音に抱かれるがままにされている月影。


「優」


 声の方を見やるとねーちゃんが何食わぬ顔で私に手を伸ばした。


「よーわからんけどよーきたね」

「うん、まぁ……せやね」


 私は伸ばされていたねーちゃんの手をつかむ。

 ははっ、あったかいし。

 そのまま私の耳元に口を寄せたねーちゃんはぼそりとこういった。


「でさ、その後ろの美少女ちゃんなに?」


 シャルのことか。


「こっちで作った新種の妹」


 事実だけを端的に伝えた私に目を丸くしたねーちゃんはポンと手を打ったあとでこういった。


「ならしょうがない」

『『納得すんなよっ!』』


 通信に響くツインつっこみ。


「ほんとひさしぶり。優」


 見た目はセーラの住んでいた中層の店兼住居とあまり変わらない。

 ただ、なんかドラム式洗濯機みたいなのが複数に並んでるのと一人暮らしにしては多いなって数の服や布が干されていた。

 ちなみにねーちゃん自身は部屋干し派だし大病院だとリネン室で処置されてるからこんな風に干されてるってのはまずない。


「今日も晴れてるから洗濯物がよく乾くんだわ。取り込むの手伝ってよ」


 それはまるで昔のドラマやアニメでたまにあった屋上洗濯物干し場のような光景。

 育成迷宮のフロアボスと思しき姉から洗濯物の取り込みを頼まれた。

 今回、準備不足もあるけど初手で姉だと認識してしまった私の痛恨のミスだ。

 こうなるともうシャルの旦那にお迎えに来てもらうしかないね。


「ええよ」


 まさかの緊急クエスト。

 冥界(めいかい)訪問譚(ほうもんたん)、別名黄泉(よみ)下りの始まりである。


『アカリ』

『聞きたくないです』


 そうは言われてもね

 かもーん、イザナギ。

 いや、オルフェウスの方かな。

 あの世からの連れ戻し成功って今私が覚えてる限りだとないのよね。


『冥府で嫁が待っている』

『あんたが言うとシャレになんねーんだよっ!』

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