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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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冒険五日目、チームロマーニ最終日

「あそこにあんなのあったっけか」

「いえ、ありませんでしたわね」


 本日は私たち、ロマーニ組の攻略二日目。

 再びアクアタクシーターミナルの前に来た私たち三人の視線の先には沙羅(さら)が使っていたのによく似た船があった。


「これって沙羅おねえちゃんのお船と同じですか」

「せやね。シャル、これどんな感じよ」


 視線を横に向けると紫の瞳を光らせたシャルが船をじっと観察していた。


「魔導機ですわね。おそらく乗船後に移動するところまでは分かりますがその先どうなるかまでは」

「せやろね。ちょいまち」

「んぎゅっ!」


 早速乗ろうとしていた月音(つきね)の服の首元をつかみ制止する。

 前回と同じくセーラー服を着た月音の背中にはリュック型の夢幻武都(むげんぶと)が背負われており、こちらも前回同様に頭と肩、それと両前足をちょこんと出した月影(つきかげ)がじっと私を見上げていた。


「つーても階段上っても普通だろうしこういうギミックが来た以上は行かざるをえんのよね。シャルはどう思う?」

「そうですわね」


 しばし考え込んだシャル。


「私たちは大型魔獣討伐数でポイントを稼ぎましたがクエストの類はほぼ消化していません。このまま推移すればリーシャたちに勝つのは厳しいと思われます」

「せやろね」

「あのソータがここまで渋い構造で抑えてくるとは思いませんでした」

「渋い言うても大量の烏賊(イカ)(カニ)(タコ)と盛りだくさんだったんだけどさ。ポイントは怪獣(かいじゅう)討伐に全然届かんね」


 魔女っ娘衣装のシャルが口元に手を置いて微笑した。


「それはそうでしょう。ジャイアントキリング自体は称賛されますが都市において命に直結するのは怪獣の方です。魔獣は生息域が決まっていることが多いですから」

「あー、野生の動物ならそうか。シャルさ、アカリの出した買取条件なかったら勝てたかね」

「無理ですわね。そこを見越しての怪獣討伐だったのでしょう。なので逆転を狙う私たちも怪獣を狙う必要があります」


 これ、この世界の価値観からしたらびっくりなこと言ってるんちゃうかな。

 怪獣って畏怖とか恐怖の対象だし。


「シャル、一ついいかね」

「なんでしょう」


 やっぱ見え隠れしてんだよね、焦りが。

 目的と手段が反転してる気がする。

 勝つことよりもアカリに自分の上位魔導を見せるのが目的っていわれても違和感ないのよね。


「その判断はシャルらしくないなと思う」

「そうでしょうか」


 そう、まるで私と月音を巻き添えに……いや月音の本体はあくまで都市(システィリア)だ。

 背負ってるリュックの接続が切られても最悪スキルが使えれば月影とシスティリアに帰れる。

 そうなると戻れないのはシャルと私だけってことになる。

 なるほど、そういうことか。


「まぁいいや。それで目途は?」

「この場所から出る船は階層を超える便です。行先は中層の川傍になります」

「それってセーラの家といわんかね」

「はい」


 言い切ったシャルに月音がびっくりした表情を見せた。


「仮にいたとしてセーラと戦うのって無茶やないかね。レビィの方でも無理があると思うんよ」

「以前であればそうです。ですが昨日組みあがった魔導があれば善戦できるかと」


 なるほど。

 引きこもって何かやってるとは思ってたけど、やっぱり魔導の式組んでたんやね。


「どんな魔導よ」

「深度四月魔導(ムーンマジック)『メイザーカノン』です」


 現地でのお楽しみって言われるかと思いきやすぐに答えてきたシャル。


「えっと……ビーム?」

「可視の破壊線は出ますわね」


 めっちゃロマン魔法やん、それ。


「シャルの自作?」

「いえ、ミスティアという弟子の魔導です。あの子は起動条件を満たせずにレビィアタンに敗北しましたが式は私が引継いで改良を行っていました」

「どんな相手にも効くの?」

「いいえ。宇宙怪獣(うちゅうかいじゅう)、もしくは幻想怪獣(げんそうかいじゅう)に効果があります」

「ははぁ。つまり対レビィ用の魔導か」


 そういった私にシャルが小さく頷いた。

 そしてそれがカリス教と戦ってた間には完成しなかったと。

 まぁ、今はいいか。


「この先にいると読んでるわけね」


 レビィが。


「ええ。カリス教のつながりがありますし、ここはレビィティリアの残骸ですから」


 一理はある。

 ただソータ師匠がそう簡単に組んでくるかなぁ。


「とりあえず月音がもう乗りたくてうずうずしてるっぽいからいってみようか。ヤバそうなら撤退指示出すから従うこと」

「はい」

「月音、乗っていいよ」

「やった、ここのお船にも乗ってみたかったんですっ!」


 苦笑する私らをしり目にわくわく感を出しっぱなしの月音が船に一番乗りする。


「シャル、安全の確認は随時よろしく」

「承知しました」


 背中のリュックの月影(つきかげ)に視線を向けてみるけど警戒はしてるけど動かんとこを見るとまだ大丈夫なんだな。

 次に乗った私がシャルの手をとり船に乗せる。


「そんじゃま、ちょいと船の旅としゃれこみますかね」


 私がそういったのを待ってたかのように船はすいーっと上流に向かって滑り出しすぐにトンネル内へと入った。


「二人とも、出たらすぐ戦闘かもしれんからそのつもりで」

「はーい」

「ええ」


 いざゆかん、懐かしの中層へ。


     *


 勝手に進んでいく船の上、先端部で先を凝視している月音が落ちないように気を付けながらシャルと会話をする。


「シャルってさ」

「はい」

「未練のある人とかいないわけ?」


 私がそういうと少し困った表情をしたシャルが一度だけ視線を逸らした後で再び紫色の瞳をこちらに向けてきた。


「急ですわね。どういう意図での質問ですか」

「いやさ、私とかだと母さんとのあれこれがあってセーラの時にえらい目にあったわけじゃん」

「はい」


 船は次第に壁に近づいてゆき、やがて水と一緒にトンネルの中へと入った。

 暗い洞窟の中、シャルがかざした杖の頭の部分にほんのりと明るい光が出現し船と周囲を照らす。


「ソータ師匠のことだから精神攻撃もありそうだなと思ったんよ」

「その方向ですか」

月魔導(ムーンマジック)だっけか、精神攻撃もあるのよね」

「はい。メイザーカノンもそうです」


 なるほど。

 幻獣対策っていうのはつまりは精神対策になるってことか。


「そこら辺の防御とかってどうなんよ」

「深度三までなら問題ないですわね」

「四を超えると厳しい?」


 私がそういうとシャルが小さく頷いた。


「月魔導は攻撃と防御の深度がかみ合わないことが多い分野です。攻撃が高くても防御が高いとは限りませんし、その逆もそうです」

「あー、まぁ、人の心なんてそんなもんっちゃそうだって言えるけど月華王(げっかおう)が守ってくれたりはせんの?」

「月魔導においては攻撃に寄与するのも月華王ですので」


 なるほど、王機(おうき)同士の衝突みたいな感じになるわけか。

 船先にいる月音のリュックから半身を乗り出している月影にちらりと視線を送ると少し視線がかみ合った後で月影がすっと視線を逸らした。


「月影の防御ってどれくらいかな?」

「月音が深度二なのでおそらくは同等でしょうね。あの子の精神防壁ですから」


 そこは連動するんだな。

 いや、月影の今の深度といった方が正しいのか。

 そうなると月影は月影で何かスキル身に着けてそうなものだけど。


「そうおっしゃるお姉さまはどうなのです?」

「私? 私は心の棚には定評があるから逃げるだけならなんとでも」


 母さんはもう流してしまったからあと誰が来るかといわれるとちょいとわからんけどね。


「そういうシャルはきたら動揺するだろうなという相手とかいないのかね」

「いません……とは言いたいとこですが、妻ですわね」

「あー」


 さすがの魔導王も奥さんたちは苦手か。

 いや、妻たちじゃなくて妻っていったね。

 てことは特定個人かな。

 そんなことを考えていると船はトンネルを抜け眩しい光の下を再び進み始めた。

 少し目を細めながら先の方を見るとそこにはセーラが住んでいた家と隣の借家があり、その横には例によって地蔵が無造作に置いてあった。

 眩しい日の光が注ぐ中、干された複数の白い洗濯物が風に揺られてはためいている。

 そんな洗濯物の中央あたりにはセミロングの髪を一本にまとめた女性とその足元にまとわりつく一匹の黄色い色に見える謎の獣がいた。


「やっぱ、こういう日は洗濯に限るわー。ついでに心も洗濯してー、なんちゃって」


 随分昔に聞きなれた声。

 見覚えのある後ろ姿。

 視線を月音に向けると月音も目を見開いているのが見えた。


「よっこらせっと」


 洗濯物の詰まった籠を持ちながら振り返った女性に私、月音、シャルの視線がささる。

 そして彼女と私たちの視線がかみ合った。


「ははっ。これは想定してなかったわ」


 女性の足元の獣がこちらを見て毛を逆立て、それと同じくしてカイジュウアラートの警報音が響き渡る。


「お姉……ちゃん?」

「まさか本物? いえ、あり得ないはずです」


 頭を振ったシャルの首筋に一筋の汗が見えた。

 船先に視線を送ると目を見開いた月音の肩口にがっしりと月影がしがみついている。


「シャル、月音。()退()()

『ふえっ!?』


 私は対応を即決した。

 カイジュウアラートの警報音は四回。

 二人に指示を出しつつ視線は動かさない。


「ありゃまぁ何の音かと思ったら」


 ちょっとだけ首を傾げた彼女、安藤(あんどう)真昼(まひる)は私たちの方を見てにかっと笑いながら手を振った。


「そこにいんのはもしかしなくても(ゆう)明日咲(あずさ)じゃん」


 それは私が向こうの世界で死んだあの日、逢うことのできなかった安藤家の長女。

 もう逢えないと思ったその人がそこにいた。


「こっちにいつきたの?」


 果たしてこれは月魔導(ムーンマジック)による攻撃なのだろうか。

 私は相手に合わせるように過去の私を可能な限り再現して挨拶する。


「ははっ。久しぶりやね、ねーちゃん」


 勘弁してほしいわ、マジで。

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