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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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妹たちの工作

「そんじゃ、そっち運ぶっすよー」

「承知でござる」


 本日は四日目。

 先日のフィーが妹達を引率してのミニ冒険は大きな怪我もなく無事に終わり今日は予定通り全員の休日だ。


「いい天気やねー」

「はいなのです」


 先日と同じくベンチに腰掛けつつたくさんの妹たちがマジカを取り囲んで騒いでいるのをのんびりと眺める。


「そこの姉もちょっとは手伝えよ。言い出したのあんただろ」


 マジカの傍、オーバージェスチャーで大きな胸を揺らしながらぷりぷりと怒るアカリ。


「えっと、そのごめんなさいなのです」

「いや、咲姉(さきねえ)はいいんですよ。いてくれるだけで和むんで。私が言ってるのは優姉(ゆうねえ)です」


 その傍でホワイトボードに複雑そうな式を書き込んでいたシャルが苦笑しながらアカリの方を向いた。


「そうは言いましてもお姉さまのできることとなると」


 実際できることってないのよね。

 私にできるのは適当に話聞いて適当に返すくらいで。


「アカリちゃん。これでも飲んで落ち着いて」

「ありがとうございます、リーシャ姉」


 アカリのそばに寄ったリーシャがアカリに缶を渡した。

 書いてる文字は読み文字だから私にも読める。

 なになに、コーヒーとな。

 金属って貴重だって話だから缶は鉄じゃないのかな。

 瀬戸物っぽくも見えるしもしかして素材はレッサーベヒーモスあたりとかか。

 強度とかどうなんだろうね。


「いつの間に缶コーヒーとか作ってたんよ」

「あんたが休んでる時だよっ!」


 そういって缶を受けとったアカリの手をそのままつかんだリーシャ。

 手が離れないことに驚いた表情をするアカリにいたずらじみた表情をしながらリーシャが呟く。


「夜みたいにリーシャって呼んでくれないの?」

「!?」


 慌てたように缶コーヒーをリーシャの手から取ったアカリが赤くなりながらプイっと横を向いた。


「そーゆーのは外でやるもんじゃないです」

「そうだね」


 さらりと流したリーシャの傍で店の番をしてた沙羅(さら)が同じく赤くなってるのが見えた。


「ねぇ、優」

「何よ」


 今日は休みということで同じく休日にもかかわらず作業にいそしむ妹たちの労いに来ていた幽子(ゆうこ)が真剣な表情で私の方を見た。


「やってることはすっごく甘酸っぱいのに周囲の風景がアンマッチで台無しなんですけどっ!」

「せやね」


 墓場に街が出来てきてるといった感じだからね。


「ずいぶん前の事になるけど聞いていい?」

「なによ」


 白髪に赤い瞳のロリっ子と化した幽子が私の方を振り返った。


「優ってあの学校に転校してくる前はどうだったの?」

「どうって普通よ」

「優の普通って想像つかない」

「あんま通ってなかったしね」


 上を見ると映像で表示された青空に白い雲が浮かんでいた。


「ただまぁ……」


 いったものかどうか悩んだ私が言葉を止めるとベンチに近づいてきた幽子が私の顔を見下ろすように直視してきた。


「……なんかやったの?」

「友人がいじめを受けたもんでついね」


 私がそういうと幽子が驚いた顔を見せた。


「むー、私の時は何もしなかったくせに」

「悪かったって」


 私がそういうと幽子がくすっと笑った。


「もう怒ってないから。それで何やらかしたの?」


 ははっ、逃がしちゃくれんか。


「学校の生徒の大半と教員の一部を精神的に叩きのめした」

「ふえっ!?」


 多少引き気味の幽子に私が言葉を続ける。


「いじめる奴がいなければ連鎖もしないじゃん。手っ取り早いかなって」

「優……馬鹿なの? あー、うん、馬鹿だったね」


 若かったんだよ、私も。


「それでどうなったの?」

「どうもこうも……学校が閉鎖された。そんでもって私はさらに荒れた」

「そ、そうなんだ」


 それ以前にも墓の前で死にかけたこともあったしね。


「だからスムーズに転校できたともいう」


 あの学校に入った後でねーちゃんから聞いた話だと師匠達が被害者全員のケアをしてくれたらしい。

 ほんと師匠達には頭上がんないな。

 気まずくなったのか幽子が再びアカリたちの方に顔を戻した。


「それとさ、優」

「何よ」

「あれ、なにかな」


 ここは墓場迷宮の第一層。

 スーパーカヤノ墓場迷宮店と月の湯が並ぶその隣にいつの間にか作り上げられていたクレーン付きの町工場風の建造物。

 そこではアカリに依頼したマジカルカスケット、ことマジカが大規模改修をされていた。

 どんな悪路も進めるようにとつけられた下部の台座と無限軌道。

 新しく取り付けられたギガノコ君の大きなハサミとその反対側に据え付けられたマジカルパイルドライバー。

 どう見ても触手だった上部のセンサー類は何やらお椀を二つ重ねたような形、そろばんといった方がいいかな。

 そんな感じの頭部に入れ替わりそこからぴょこんと小さな触覚が二本飛び出ていた。

 後部には何やらシリンダーのような大きな筒にも見える金属製の円柱が据え付けられている。

 頭だけ見れば有名なお金を食べる怪獣に見えなくもないけど、あれにハサミにキャタピラ、あとパイルドライバーはついてなかったと思う。


「マジカちゃうの?」

「いやもう原形ないよねっ!?」

「うん」


 魔改造するとは聞いていたけどここまでとは思わなんだ。

 でもあそこにシャルもいるしなぁ。


「シャルちゃんや」

「なんでしょう?」


 振り返ったシャル。


「ここまでがっつりとアカリたちに関わらせて良かったんかね」

「アカリにあのような依頼を出したお姉さまがそれを言いますか?」

「いやまぁ……」


 昨日一日、一人でああでもないこうでもないとマジカをいじっていたアカリだがさすがに時間が足りないと判断したらしく最後はリーシャに相談した。

 そこでリーシャが出した答えはリーシャたちだけではなく妹達全体の力を借りてマジカの改造を行うという内容だった。

 その中には私らロマーニ組のみならず、この前まで寝たきりになっていたレオナまで含まれていた。

 というかレオナの方から月音(つきね)に看病された恩義を返したいと協力を申し出てきたらしい。


『姫、後方足元に注意にございます』

「そこ、段があるっすよ」

「おっと、二人ともかたじけない。サニア殿もせっかくの休日であろうに」

「いい。暇だった」


 なんだかんだで吉乃と仲の良くなっていたサニアを含めたレオナたちは主に重い資材の運搬を行っていた。


「あーいう力作業ってアカリの魔導機の出番なんちゃうの?」

「足場が悪くて使えないんですよ。トロッコ使うにしてもレール引いてる時間がもったいないですし」


 墓場だしそりゃそうか。

 日本の古い墓地って車両通るだけの隙間ないし通路も頻繁に曲がってたりするしね。

 遠くの方を見るとコツコツと墓の移設にいそしむフィーの姿も見えた。

 いや、いっそ作業用に線路敷いた方が早いのかとかいってるアカリの言葉は今は聞かなかったことにしておこう。

 なるほど、確かにアカリがからむと墓場が何か違うものに組み替えられていくわ。


「ならシスティリアのアカリの作業場……は使えんのやったね」

「はい」


 アカリと私が視線を向けた先、月の湯の入口にはいつでも走り出せるような体制でスタンバイした月影(つきかげ)の姿があった。

 そして昨日一日で出てこないことがわかって安心したのか私の足元にはコロコロと太った猫のツチノコが頭を擦り付けていた。

 そんなツチノコを幽子が持ち上げるとぷにゃっという鳴き声をあげるが暴れもせずにそのまま抱きかかえられた。


「なんであんなに警戒するのかなぁ」


 そういって首を傾げた幽子に一瞬何か言いかけた咲が言葉を飲み込んだのがわかった。


「そりゃいったじゃん。ツチノコ自身が『地震(じしん)』の怪獣(かいじゅう)だって」

「いわれたけどさ。おとなしいよ」


 幽子に撫でられながらだらしなくひっくり返ったツチノコ。

 再び視線を月の湯に向けると月影の瞳が底光りしているのが見えた。


「幽子、そのあたりにしといて」

「え? いいけど。降りてね」


 幽子に下におろされたツチノコは余裕をかましているのかそのままゆったりと月の湯の方に向かって歩いていく。

 その歩いていく様を眺めていると視界に小さな白っぽいなにかがはいった。


「あれなにかな」

「あれって」


 さすがに遠いからか幽子もよく見えてないらしい。

 同じくツチノコを見ていたシャルがぽつりとつぶやいた。


「月音の積み木ですわね」

「あっ!」


 瞬間、調子に乗って月影の近くを通り過ぎようとしていたツチノコに月影がとびかかり泡を食ったツチノコがプギャーっと泣きながら横に転がった。


「だめー、月影っ!」

「ツチノコっ!」


 月の湯の中から慌てて駆け寄ってきた着物姿の月音と肉体作業の為に軽装をしていた沙羅が二匹の猫を捕まえて引きはがした。

 同じく駆け寄った咲が二人と何か話し込んでるのが見える。


「怪我……はないみたい」

「も―、月影―。あのくらい見逃してあげても良くないですか」


 いやー、猫にとってエリア防衛は本来死活問題だからね。

 つーても墓場迷宮は本来はツチノコの領分なわけでツチノコとしては面白くないだろうこともわかる。

 ツチノコ、完全にイカ耳になってるけど。


「しかし、月影よく飛び出せたね」

「月影は月音の積み木を足で踏んでいましたわよ」

「影鬼かな」


 そういやリーシャやあの子と一緒に月影の傍で影鬼もやったなぁ。

 影鬼って私らは呼んでるけど一般的な呼び方は影踏み鬼だったかな。


「そも、出るだけなら月影はシスティリアを出れますわよ」


 そういやシスティリアの外に出た時もあったね。

 都市を出ること自体は可能ってことか。

 多分、月音に縁のあるものが関わるかどうかが重要なんだな。

 視線をレオナたちに向けると仲睦まじく作業してる姿があった。

 まぁ、いいや。


「月音、悪いけど月影を中に連れて行ってくれるかね」

「はーい」


 そういって月音が月影を抱きかかえつつ月の湯の中に下がるとそこには沙羅に背中を撫でられつつ怯えた目をしたツチノコの姿があった。

 猫の場合、一度力関係が確定すると普通は(くつがえ)ることはない。

 月影がツチノコを牽制したのは今回だけじゃないし毎度ツチノコが逃げてるから上下関係はすでにはっきりしている。

 にもかかわらず調子に乗ったツチノコがちょいちょい月影にしばかれる理由は何かというと……


「ツチノコ、相変わらずアホなんやな」


 私がそういうと周囲の妹からの熱い視線が私に降り注いだ。


「なによ?」

「べつにぃ」

「自覚があって言ってるようなので私からいうことはないですわね」

「ほんっと、あんたが言うなよだよ」

「おねーちゃんって何度死んでも直んないよね」


 幽子、シャル、アカリ、リーシャの順にありがたい言葉をいただいた私。


「そりゃまぁー、ねーちゃん譲りの変わらぬ妹愛だからね」

「優のおねーさんかー。あの時会いに行って結局会えなかったよね」

「せやね」


 あの時というのはこちらの世界に来るきっかけとなった爆破テロでの話だ。

 もうずいぶん前で懐かしいわ。

 そんな話をしながらちらりと視線をシャルに向けると口元を手で隠したシャルが少し苦笑した後で再びこちらに背を向けてホワイトボードに魔導式を描き始めた。

 今回、アカリとシャルの勝負とは別に私はシャルから一つ依頼を受けている。

 依頼内容は今の赤の龍王が未練を持つ故人の調査。

 その報酬は私の姉のその後の情報。


「どんな人だったの」

「いやまぁどんないうてもね」


 実のとこ、シャルが知ってる情報があるという時点で逆算的にわかってしまう情報があったりもする。


「私以上に適当だったよ」

「えっと……。たしか看護師さんだったよね、優のお姉さん」

「そうよ。だから病院にいったじゃん」

「う、うん」


 適当な看護師ってのは言葉尻だけで聞くと怖いわな。

 仕事についてはねーちゃんまじめだったとは思うけど。

 そしてシャルが知ってるということは私が招来されたより過去にねーちゃんもこっちの世界に来た可能性があるということでもある。

 あの事件の時かどうかはわからんけどね。

 トライは召喚される時代を問わないからずっと先のねーちゃんがトライとして招来されたって可能性もあるわな。


「優姉より適当ってそれもうどーしようもないんじゃないですかね」


 アカリがあきれたようにそういうとシャルの方からガツッという音が聞こえた。


「シャル姉!? 何やってんですか?」


 何がどうしたのか墓場に持ち込んでいたホワイトボードに頭をぶつけたっぽいシャルがこちらに背を向けたまま小さな声で答えた。


「いえ。ちょっと眩暈(めまい)がしただけです」


 慌てたように立ち上がってシャルの傍に駆け寄ったアカリ。


「なら無理しないでくださいよ。マジカにあの魔導を組み込むのはそれこそ明日の朝でもいいですから」

「大丈夫です。今手掛けてる魔導式の方はもうすぐ完成しますのでそのあとで休ませてもらいますわね」


 そういって苦笑を浮かべるシャルを背の低いアカリが心配そうに見上げる。


「ほんときつかったら言ってくださいね。大体優姉の無茶ぶりが悪いんですから」

「そうですわね」


 おっと、こっちに矛先が来た。


「大体優が懲りないのが悪いんだと思うの」

「そうはいうてもねぇ」


 私より懲りないとこがあったねーちゃんはあの後、どんな人生おくったんやら。

 こりゃ掘り出した骨で痛い目を見るのはシャルだけじゃなくて私もかもしれんわね。


「私の向こうの家族大体そうよ。半分くらいは血統ちゃうかな」

「ひどい家系を見た」


 そんな会話をする私たちの耳に月の湯の中からぴぎゃーっというツチノコの鳴き声と慌てた様子の咲や月音の声が聞こえた。

 ありゃま、月の湯に侵入したんかい。


「ほんとこりんね、あの子も」

「「あんたが言うなよっ!」」


 そりゃまーそうなんだけどさ。

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