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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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チームククノチと無茶ぶり

「そっちいったっすよっ!」

「了解、狩る」


 吉乃の声に合わせてサニアが走る。


 プキー


 複数いる妹達が避ける中、手にもった短剣を光らせながらサニアがすっと近づいてこめかみに刃物を突き立てた。

 そのまま数歩進んだ後で鮮血とともに魔獣(まじゅう)ホーンボアの体が横に倒れる。


「ナイスっす」

「楽勝」


 それぞれ冒険にふさわしい動きやすそうな身なりの上に火鼠の外套(ファイアラットコート)を羽織った吉乃(よしの)とサニアが両手を上にあげパンと音を立てて合わせた。


「うわー、くるなーっ」

「ど、どうすればっ!」


 他にも複数名いる小さな妹達がホーンボア相手に苦闘する中、ホーンボアに押し切られた組も出現する。


「あっ!」


 脱兎のごとく走り抜けようとするホーンボア。

 その走る先に音もなくスコップを構えた赤い瞳の少女。


「あなたの相手は向こうです」


 横殴りに叩き込まれたスコップ。


 ピギーッ!


 角を持った魔獣が中を舞いながら数回回転し地面に落ちて沈黙した。

 それを見つめる赤い瞳の少女、フィーリアは数秒の間の後で交戦していた妹たちに頭を下げた。


「すみません。やってしまいました」


 そんなフィーに戦っていた妹たちが何とも言えない表情をしながら頭を左右に振った。

 この場における最年長の妹は少しだけ首を傾げた後で小さく頷いた。


「次、湧いたら優先で当てます。待っていてください」


 そういいながらフィーは他の妹たちの状態を確認する。

 フィーやサニア、吉乃を含めて十八名にも及ぶ妹集団が先日攻略が終了した塔の一階で複数のホーンボア相手に善戦していた。


 ピギーッ!


 一匹のホーンボアが鳴き声とともに角を光らせた。


「来るよっ! みんな(まも)って」


 五人ほどの小集団を纏めていたリーダー格の子がその個体に対応していた全員の声をかける。

 その声に近くにいた妹たちが火鼠の外套(ファイアラットコート)で身を護る様に体と頭を隠した。

 やがてホーンボアから放たれた固形物を振動破壊する魔法が彼女たちが着ている外套に防がれ霧散する。


「よし、攻撃っ!」


 魔法が不発に終わり次の行動につなげられずにいるホーンボアに妹たちが襲い掛かりダメージを与えていく。

 やがて大きな一角猪はプキィという鳴き声を立てながら地面に倒れ伏した。


「「「「「やったぁっ」」」」」


 歓声を上げる妹たちの傍に再び音もなく近づいていたフィー。


「まだです。他の組が倒し終えるまでは気を抜かないでください」

「は、はいっ!」

「ご、ごめんなさい」


 対応していたホーンボアを倒しきった子たちが周囲を見渡すと、他の子たちも特に危なげもなく魔法や攻撃は特製の外套で防ぎひるんだところを集団でかかるというやり方で徐々にホーンボアが数を減らしているのが見えた。


「他の子の邪魔になります。そのホーンボアは送ってしまいましょう」

「はーい」


 貼り付けたチップとともにホーンボアが消える。

 墓場迷宮探索三日目。

 フィーが率いる外に出たい妹たちの集団は午前はアカリたちが攻略した王道のダンジョンの追加攻略。

 昼休憩は墓場の一層目で各々が持参していたククノチの弁当を食べつつ休憩。

 午後に入った現在は私たちが攻略した塔に挑んでいた。


「くー、かったいっ!」


 ホーンボアに刃物が通らなくてぼやく妹を見ていたフィー。


「骨よりは柔らかいです。眉間か耳の後ろを狙ってください」


 そりゃ骨よりは肉の方が柔らかいわな。

 フィーの指摘が的確なこともあり妹たちは不慣れながらも生体の急所を狙うように攻撃しホーンボアを撃破していく。

 やがて全部のホーンボアが倒されたタイミングでフィーが小さく頷いて全員に声をかけた。


「皆さんお疲れ様でした。リーシャから甘味を預かっていますので三時のおやつにしましょう」


 周囲に転がるホーンボアが残るなか甘いものにつられた妹たちが歓声を上げた。


     *


 墓場に設置されたベンチに腰をかけながら木製の容器に入ったカフェラテっぽい物を飲む。


「いやはや、なんというかシュールやねぇ」


 アカリが作ってくれた配信システムの映像を眺めつつあの子たちと同じくリーシャがくれたカステラっぽいおやつを口に入れる。


「墓場でカフェしてる優姉が言うのもどうなんですかね」


 甘味がいまいちな気もするけどこれは今後の課題やね。

 口に含んだそれに飲み物を足して喉奥へと飲み込む。


「そうはいってもさ。カフェできるようにこのベンチとそこの自販機設置したのアカリじゃんよ」


 現在、私とアカリが会話しているのは迷宮から出れなくなったアカリが生活している墓場迷宮の一層目。

 日本風の墓場ゾーン……だったはずなのだがたった一日、目を離しているうちにスーパーカヤノはちょっとした小さい建屋になっており、その横には温泉の暖簾マークがついた和風の建物が増えていた。

 これは何かというとシスティアにある公衆浴場、月の湯の出張店舗。

 月の湯墓場迷宮店である。

 なお、その位置にあった墓はフィーが土台ごと移設したらしい。

 フィーが移設できたことにも驚くけど動かした墓を開いてもちゃんと階段があるんだよなぁ。

 どういう作りになってるんだか。


「アカリちゃんさ」

「なんですか」


 私のベンチの上に上がり込んでスリスリしながら月の湯をチラチラと気にするツチノコの頭をなでる。

 ぷにゃっと鳴いたツチノコに最近量産され始めた猫用のカリカリをあげる。

 ツチノコから月の湯の玄関口に視線を戻すとそこにはさっきまではいなかったタキシード柄の白黒猫(つきかげ)が両手をそろえて座りながらじっとこっちをうかがっているのが見えた。


「月の湯ってシスティリア扱いなんかね」

「そうなんじゃないですか。今日は月音(つきね)が墓場迷宮店の店番してますし」

「頼んだんかね?」


 私の近くでマジカを分解整備していたアカリがあからさまに視線をそらす。


「いえ……その、なんか気が付いたらやってました」

「そっか」


 リーシャと相談して後で給金の処理決めとかんとだわね。


「しかしわかっちゃいたけどフィーのチームはほんと危なげなくこなすね」

「そりゃまぁ、致死性の罠は見つかる範囲ではつぶしておきましたし優姉達が攻略したあそこはどっちかというと狩場ですし」

「せやねぇ」


 それにしても想像以上に効果があったのが火鼠の外套だった。


「あの外套、マジで強いね」

「あー、シャル姉が一着ずつ効果付与しましたしね」


 そう、元怪獣のチューキチ、今は吉乃の毛皮である火鼠の外套(ファイアラットコート)には耐水、耐圧、耐刃、耐毒、対魔が付与されている。


「それと耐熱と耐雷も追加したみたいですね」

「ほー」


 フィーたちを映す映像の中で複数の妹たちの火鼠の外套が掻き消えるように消えたのが見えた。


「あの子らちょいちょいやってるけどあれってどうやってるんよ」


 私の質問に銀髪が持ち上がりアカリの綺麗なグリーンアイが私を映しだした。


「シスリターンです」


 なんぞそれ。


「いやマジでなんぞそれ」


 本気で質問する私にアカリが嫉妬と憧憬、苦笑と喜びといった複数の表情が混ざった独特な表情をした。


「月音が妹を送還してたじゃないですか。魔法で」

「あー、してたねぇ」

「シャル姉が一晩で魔導化してくれたんで朝のうちにあの子らの外套にチップとそれを一緒に仕込みました」


 シャルが一晩で、アカリが朝の片手間でなんかやったらしい。


「どういう原理よ」

「どういうも何もただのちょろちゅーのチップですよ。外套に仕込んでシスコールはそれぞれのリングを目印に自動着装にしてシスリターンは冒険者カードの収納内に指定してるだけです」

「なるほど」


 さらりと答えたけど地味にとんでもないことしてる気がする。


「シスコールってのはリングの召喚機能でシスリターンってのは送還機能ってことであってるかね」

「はい。これでやっとちょろ妹が半自動化できます」


 そういうアカリの傍に瞬時に小さな箱が出現した。

 アカリが開けると中には書面と小さな魔石(ませき)が入っていた。


「それは?」

「シャル姉からです」


 そういいつつ書類に目を通したアカリがにやりと笑った。


「さすがシャル姉。これでマジカの改造がはかどります」


 そういうアカリの視線の先にはマジカルパイルドライバーが本格的に固定され始めたマジカの姿があった。


「しかしさ、アカリちゃんや」

「なんですか」


 再び手元の作業に視線を戻したアカリ。


「なんか全面的に改造の手伝いさせてるけどいいんかね。敵に塩おくるような真似して」


 手元の作業を止めたアカリが再び私を見つめてきた。


「まぁ、作業費はもらってますしマジカの功績は私にもポイント配分されるという契約なんで損はないですね」

「なるほど」


 私がアカリの瞳を見つめ返していると先にアカリの方が視線を外した。


「それに……これぐらいしておかないとあんたらどっかで死にそうで怖いんですよ」

「ははっ、それは言えてる」

「おい、私らに勝負で勝つ気あるのか。あんたら」


 そういって睨みつけてきたアカリに私は肩をすくめた。


「私と月音はある。月影(つきかげ)はたぶん仕方なく。それとシャルは……」


 他に通信などで聞かれてないことを確認した後で私は続きを言葉にした。


「きっと墓場の中で骨を探してる。本人には自覚がないけどミイラ取りがミイラになる可能性は高いかな」

「骨?」


 私の言葉に虚を突かれたのかアカリの表情から険しさが消えた。


「そりゃだって墓の中だからね。骨くらいあるだろうさ」


 ロマーニの墓、五月姫(さつきひめ)と並べば否応なくわかるわな。


「たぶんスキル封じと対シャル対応、それとこいつはただの勘だけど王機(おうき)に匹敵する強さの敵がいそうな気がするんだよね」

「そうなったらつんでるじゃねーか」

「そうよ」


 そしてシャルはその可能性を分かった上であえてロマーニ組で攻略している。

 さすがに月音の安全には何か一工夫考えてるだろうけど私とシャル自身についてはどうだろうね。


「言ったじゃん。この子の正式名はマジカルカスケットだって」


 魔法の(かんおけ)

 静けさが支配する墓場で二人の沈黙が続く。


「で、どうすればいいんですか?」

「おっと、そう来るか。怒らんのやね」

「そりゃまぁ、優姉がそういう風に言ってくる時ってのは私に無茶ぶりしてくるときなんで」


 ははっ、さすがによー分かってること。


「五分だけでいい。互角とかそういうのは無理だから考えなくていい」


 なら最大級の無茶をリクエストしようじゃないか。


「戦闘不能の月音とシャルを抱えて王機と戦って生き延びられる棺桶にマジカを改造しといて。私らの攻略がくる明後日まで」

「ほんっとむちゃいうなっ!?」

「ははっ、ちがいない」


 無茶言ってる自覚はあるからね。

 興奮したアカリがさらに叫ぶ。


「あと生き延びられる棺桶ってなんだよっ!」


 そっちの方が気になったか。

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