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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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レビィティリアの石像

「おねえちゃん、ちょっとメリーさん見てきてもいいですか」

「ええよ。私とシャルはその間休憩させてもらうから。いいよね、シャル」

「ええ。月音(つきね)、用件が済んだら私がこちらに召喚しますので伝えてください」

「うん。ありがとう、すぐ戻るねっ!」


 淡い緑の光を伴って月音が目の前から消える。

 システィリアのククノチに戻ったんだわね。


「ちょっと一息やね」

「そうですわね」


 二人で近くの瓦礫に腰を下ろす。


「お姉さま、お茶です」

「お、ありがと」


 シャルが出してくれた茶を飲みながら周囲をゆっくりと見渡す。


「やっぱあれって地蔵観音像よね。シャル、この単語で通じるかね」

「はい。クラスメイトに道祖のトライがいましたので。テラの宗派における観音の像が地蔵で炉端の神として配置されたのが道祖(どうそ)であると習いました」


 ランドホエールに乗ってたっぽいトライがそれかな。


「ざっくりいうとそうやね」

「こちらの世界では主に水の近くであれば地蔵、水場から離れた位置だと道祖神(どうそじん)が配置されていることが多いですわね。多くの場合、どちらも都市神(としがみ)の制御下に配置されています」


 地域の守としての特性が主体なわけね。


「それで防衛機構の一部になってるわけね」

「はい」


 対怪獣用の都市の防衛機構。

 どれだけ古い都市とか規模やら経緯やらが大きくかかわるとされる。

 ここは幻想世界であると同時に怪獣世界でもあるからね。

 この場合の怪獣ってのは地球の特撮の怪獣に似ちゃいるけど完全に別物で、この世界固有の荒ぶる巨大存在の総称のことだ。

 細かい経緯は省くけど創世神であるティリアとその子供の四柱の龍王(りゅうおう)、それと従者であるメティスとレビィは地上を創造する際に思いっきり地球(テラ)の生態系や文明を参照してた節がある。

 わかりやすいのが霊樹こと世界樹から年に一つとれるという原初の種。

 どのタイプの植物にでも変えることのできるという極限のチートアイテムの一つなわけだけどあれにもわかりやすい縛りが存在する。

 それは使用者の知識にある、かつ地球にかつて存在した植物であること。

 その範囲内であれば例えば私が生きていた二十一世紀より未来のバイオテクノロジーで生み出された植物にも変化させることもできるわけなんだけど、有名な大先生の漫画に出てくるような中にカレーが詰まったヤシの実みたいな植物は遠未来の地球の科学でも再現できなかったらしく変化させることはできない。

 残念やね。

 レトルトバックとか宇宙食であれば出してくれてもいいのにと思わんでもないけど、あくまで植物として育成されたことがあるというのが条件らしい。

 そんな風に植物一つとってみてもこちらではテラと呼ばれる地球を強く意識した構造になってるこのアスティリアでは今現在を生きる人々の脅威として怪獣が実在している。


 怪獣を簡単に言うと早くてデカくて固くて回復が早くて強い。


 私自身が目の当たりにしたことはないけど地球でいうとこの熱兵器でも倒せるかどうかかなり怪しいらしい。

 何せ半壊状態からでも五分で治ってしまうというのだから本当にタチが悪い。

 そんな怪獣についてなのだけどその強さは保有してるスキル『環境適応(かんきょうてきおう)』『高速回復(こうそくかいふく)』『堅牢鉄壁(けんとうてっぺき)』に由来する。

 つーかスキルって時点で私らや王機(おうき)とかと同じティリア由来ってのがもろわかりな上に主食としてMP(ムーンピース)を好んで取り込もうとする特徴を持っている。


『シャルおねえちゃん、終わりました』

「では姉妹召喚しますわよ」

『うん』


 シャルの視線の前に消えた時と同じく緑の光を伴って月音が出現した。

 リュックから頭と手をのぞかせている月影(つきかげ)が心なしか疲れた瞳をしてるってことは向こうで何かやらかしたね。


「おかえり」


 あえて聞かんけど。


「はいっ、戻りましたっ!」


 私の言葉にうれしそうに笑う月音。

 おかえりというささやかな一言がうれしいんだわね。

 この子は本当に家族が好きなんだわな。

 明日咲(あずさ)の影響なのか元々のティリアの影響なのか、それともその両方か。

 いや、これはもう月音という妹の気質だと思った方がよさそうやね。


「もうちょっと休んでから冒険の続きをしようか。シャル、月音にもお茶よろしく」

「わかりました。月音、少し熱いので気を付けて持って下さい」

「うん、ありがとう」


 そんな月音の背中のリュックの中にいるタキシード柄の猫がきりっとした瞳で私たちを見つめていた。

 最近は月音のやんちゃぶりに振り回されてる姿が多くて忘れそうになるけど月影も定義の上ではスキルを持つことから怪獣、それも星神(ほしがみ)怪獣(かいじゅう)の両特性をもつ古代怪獣(こだいかいじゅう)に該当する。

 というか王機(おうき)そのものが霊樹を使用したカラクリ仕立ての古代怪獣の一種なんだろうね。


「月影にもおやつをあげよう」


 私が収納から取り出した小皿にウェットフードを載せて月音のリュックに近づけると月影が身を乗り出して食べ始めた。


「お疲れ、月影」


 ちらりとだけ視線をよこした月影が再びおやつに頭を戻す。


「月音ちゃんや、ちょっとペース考えんと月影がきついかもしれんね」

「むー」


 拗ねつつも反省の色を見せる月音。

 そんな年少の妹にシャルが苦笑しながら話しかけた。


「怪獣にとってスタミナコントロールは死活問題です。月影の主は月音なのですからあなたが意識しないといけません」

「はーい」


 そう、さっき並べた怪獣の標準スキルには()()()()()()()()()

 よって対怪獣用の都市の防衛機構の着想はどうなるかというと。


「シャルちゃんさ、さっきの話の続きなんだけど」

「はい」

「やっぱ怪獣相手の闘いの基本はスタミナ削るのと時間稼ぎになるわけね」

「ええ。対怪獣戦の基本戦術です」


 スタミナ切れを狙った泥仕合、城壁や防衛機構を使用して王機といった怪獣に有効打を与える存在が到着するのをただただ待つという地味な戦術となるわけだ。

 けどまぁ、しばらく暮らしてみてレビィティリアには城壁以前に怪獣に耐えられそうな背の高い壁そのものが存在しないのはわかってる。

 壁はあるにはあるけど港湾都市だから海側が開いてる。


「ここってさ、大怪獣とかに対応できそうな壁ってなかったよね」

「ありませんわね」


 私の言葉に小さく頷いたシャル。

 二人の視線の先には地蔵がちょこんと配置されてた。


「あのお地蔵さんがミサイルにでもなって飛んでいくんかね?」


 冗談のつもりでそういった私にシャルが小さく笑った。


「いえ。飛んでいくのは王機の手足です」

『ふえっ!?』


 ちょい待て、王機の手足って外せたのかい。


『あー、大昔はそうだったらしいですね』

『やっぱロケットパンチはいいよなっ!』


 通信先でテンションが上がってるナオ。


「いやいやまてまて」


 視線を月音の方に向けると二匹目を手懐けようとしているのかゆっくりとヤギの群れに近づく月音とその頭にパンチを入れる月影の姿が見えた。


王機(おうき)の中でも歌風王(かふうおう)深海王(しんかいおう)は巨人状態になる際に外部モジュールが四肢として接続するタイプです」


 なにそれ、マッチョな両手両足がついたフンボルトペンギンしか思いつかんのだけど。


「……おねえちゃん……」


 ヤギに近づいていた月音が私の方を向いて心底残念なものを見るような目をした。


「つまりあれか。レビィティリアは文字通りの意味での深海王の手足が防衛してたってことかい」

「はい。少なくとも赤龍機構(せきりゅうきこう)が立ち上がってからしばらくはロマーニが防衛する龍眠海(りゅうみんかい)から防衛のために深海王の部位を随時派遣していたことが記録に残っています」

「それ、動いたのかね」


 私がそういうとシャルが深い紫の色をたたえた瞳で直視してきた。


「お姉さまは見ていますわよ。レビィティアの疑似王機としての制御装置を」


 あー、セーラと一緒にレビィに会いに潜ったあの地下水路の先の謎施設か。


『あれが……だとすると……』


 通信先で何かぶつぶつといってるアカリの言葉の続きを待つ。

 最近またなんか作ってるっぽいからね、いい刺激になれば。


『シャル姉、地蔵は信仰とエネルギー収束、それと星神と都市の連接用ですか』

「ええ。各所に製塩浄水器があったでしょう」

『ありました、というか夢の中では私が直してましたし。都市のエネルギー接続点だってのはわかってたんですがあれの子端末が見当たらなかったんですよね』


 二人の会話を聞きながら私は地蔵に近づいてじっと観察する。

 ふむ、つくりは道祖としてよく見る地蔵だけど根元のとこに何か模様があるね。

 どれ……ほー、これ九曜紋(くようもん)か。

 水、てか逆流する水場近くに設置された地蔵、紋、そして星神ねぇ。


『サツキの像でありますな』

「そうですわね。正確にはテラの神仏関係の像ですが」


 サツキ、水。

 九曜紋はいろんなとこで使われているけどオカルトがらみで有名どころというと千葉氏の紋、転じて相馬氏の紋として有名だ。

 あそこは妙見(みょうけん)信仰からきた星紋だからね。


「シャルちゃんや、一つ聞いてもいいかね」

「なんでしょう」


 少し首を傾げたシャルの透き通るような銀髪がさらりと流れる。


「レビィティリアの都市神って滝夜叉姫(たきやしゃひめ)だったりせんかね」


 しばし目を見開いたシャルが小さく声を出した。


「何故わかりました」


 あー、やっぱりそうなんか。

 捻じれまくってるもんなぁ、あの姫も。


「そりゃまぁオンミョウジだからね」


 だから地下水道に流された子供が妖怪じみたマーマン化してたんだな。

 あと私たちが出会ったころにはセーラが全部壊し終わってたってことだ。

 子どもの守り手としても有名な地蔵菩薩を表現した像を。

 どうりで『水子(みずこ)』の龍札(たつふだ)で招来されたセーラがいたのに水子地蔵(みずこじぞう)がどこにも見当たらなかったわけだわ。


 業が深すぎてため息しかでんわ。


 セーラが生贄となって子供らを導くためには地蔵菩薩像が邪魔だったってことやね。

 私たちが見た時点で滝夜叉姫はレビィティリアのどこにもいなかったもんなぁ。

 そして星神が何かしらの理由で不在になって神域が空になってるところに四聖(しせい)のセーラが入り込んだと。

 本地垂迹(ほんじすいじゃく)の応用、セーラを地蔵菩薩の化身に見立てたんだと思う。

 だから夢の中で流星王子(りゅうせいおうじ)なんて無茶も通ったんだな。


「そりゃ逃げたくもなるわな、滝夜叉姫も」


 通信先を含む全員が黙る中、シャルがそっと視線を外した。


「ええ……まぁ、逃げましたわね。()に」


 あ、これ例によってダメな奴だ。

 逃げた方向が予想外なんだわ。

 この冒険って赤龍機構経由で配信されてるらしいから痛いとこ当たった人があちこちで悶えてる気がするんよ。


 つーかさ、ソータ師匠。


 やめようよ、こういう地雷は。

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