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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第二章 世界樹編 その幻想は茜色に染まっていた
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埋葬人

「水没少女、リー……うげぇぇぇぇぇぇえええ」


 盛大に吐いたリーシャと私。

 憑依融合状態が解けて元の体に戻っても吐き気は一向に止まらず、胃の中が空になっても吐き続けていた。

 同じ状態(マーライオン)になったリーシャの方には姉のフィーリアが付き添ってる。


「だいじょうぶなのですか」


 心配そうに覗き込む(さき)

 私は満面の笑顔で顔を上げて吐いた。


『ごめん、咲。もうちょっとだけほっといてあげて』


 森の中、今は妹たちに開けてもらった広場にいる。


「駄目みたいですわね」


 私らの吐瀉物(はいたもの)はフィーリアが処理。

 ダウンしてるリーシャは馬車の方に寝かせつつ、心配そうに見つめる妹たちを見る。


「いやぁ、想像以上に駄目だったわ」

『二人とももう内心ぐっちゃぐちゃ。ほんと何がどうなったの』


 胃がムカムカする。


「私が津波苦手にしてるのはいったっけか」

『うん、聞いた』


 もしかしたら何とかなるかと思ったんだけどね。

 こりゃしばらくは駄目だわ。


「シャル」

「なんですの」

「リーシャ、津波の被災者だろ」

「津波といいますと海における水害ですわね」

「そう」

「であればそうですわね。正確には怪獣災害による二次被害者です」


 これもこの子達から来た話でしかないが、この世界、地震や津波、台風といった突発的な自然被害はほぼないらしい。

 代わりに怪獣がでる。


「私はお姉様にリーシャとのアレは薦めかねると言いましたわよ」

「言われたねぇ」


 シャルの言うアレとはアイラとの間で検証して技法として確立した疑似スキル『妹融合(いもうとゆうごう)』だ。


『何その変な命名。つーかただの乗っ取りだよね』

「まあね。でもさ、シャル。アレしてる間って間違いなく私らの力って上がってるんだよね」

「ええ、間違いなく。先ほどのリーシャとの検証時に確認しました。お姉様の『妹転換』に合わせてリーシャの『水操作』、龍札の『勇者』のすべてが動作していました。よって深度三に該当します」

『それってさ、話に出る怪獣みたいな感じになってること?』

「みたいなではなく実質怪獣ですわね。本来、人は修練してもスキルは身につけられません」


 それな、なら咲はどうなんだろうね。


「深度二以上となれば尚更なのですがあのような手法で切り抜けられるとは思いませんでした」

「幽子あってこその抜け道だけどね。オープンザウィンドウ」


 <安藤 優>


 MP:71276167


 種族:トライ

 龍札:勇者


 スキル:妹転換


 妹:幽子、キサ、シャル、ステファ、アイラ、フィー、マリー、リーシャ、沙羅


 最初から気になってたんだけどね、どうにもこの世界は歪だ。

 シャル曰く、このステータスは青の龍王が知性ある種に埋め込んだ魔法の一種だそうだ。

 何故か一気に増えたMPはよく分かんないのでいいとする。

 それは置いておいたとしてだ、このステータス魔法に意味がなさすぎる。

 普通の人間はスキルがない、また龍札はトライにしかない。

 だとするとこの魔法は名前、MP、種族、そして妹を表示するだけということになる。


『妹があるのは優だけじゃないの』


 多分ね。


「シャル、このステータスって他人にも見せられる?」

「ええ、出来ます。嘘判別の魔導は、他人の窓をひらいて行います」

『どうやってやるの』

「本人には見えてない数値があるのでそれを強制参照します。嘘をついた直後だけ上昇する数値があるのです」


 なるほどなぁ、嘘発見器と大体同じ原理か。

 私の方を見詰めつつじっと動かないシャル。


「ねぇ、シャル」

「なんですの」

「このステータスってさ。龍王が作った()()()()だろ」


 シャルが口元をそっと隠した。


「ええ、よく分かりましたわね」


 ふーん、()()()()()()()()わけか。


『どういうこと』


 私の傍に寄ってきた幽子が小声で聞いてきた。

 ありゃ今のシャルの癖だわね。

 余計な情報を渡さないようにしようとすると口元隠すのさ。


『へぇー』


 もうひとつわかる事もあるけどそれはそのうちだわね。

 どちらにせよ言いたくないことを無理に聞き出す必要はない。

 それにシャルは私の妹だ。

 最後は私たちのために動いてくれると信じる。

 私とシャルの会話をじっと聞いていた妹たちの顔を見てから私は続きを話した。


「それよかまずは対策をどうするかなんだけどね。とりあえずダメもとで水属性のリーシャと私で、アイラと私がやったようなのができるか検証したけどだめだった。正直言ってちょっと今は厳しいかな」

『結局、リーシャとはなんで駄目だったの』

「私の記憶見てリーシャが吐いた」

『優の記憶ってそんなにグロいの?』


 なんかフィーリアとシャル以外の妹たちがドン引きしたような気がする。


「別にグロかないわよ。昔さ、津波で行方不明になった妹が水中で死んでたとしたら、どんな死に方をしたんだろうなと延々と考察を重ねたことがあってね」


 記憶をなぞると幽子が地面に這いつくばるような形になった。


『あんた、なんてもの想像してるのよ』

「まぁ、実生活に障害が出たからね。いろいろあって克服はしてないけど飲み込んだのさ。だから幽子も水没系非腐乱窒息に見せかけたショック死だとすぐわかったのよ」


 実際のとこ、私の妹の明日咲(あずさ)は津波の時にはぐれたのは確実だけど死体は見つかってない。


『ごめん、もういい』

「そうかね」


 なんかフィーリア以外の妹がさっきよりも離れた気がする。

 気のせいだわね、妹たちは私を愛しているわけだし。


『あんたのその無根拠な前向きの理由が知りたいわ』

「人徳かな」

『はいはい、妹パラノイアだったわね。で、結局どうするのよ』


 そこな。

 今時点でどうなってるかわからないけど霊樹のドライアドが火の怪獣とカリス教徒を抑え込んでるそうな。

 まぁ、ヤエが飛ばされてから三日はたってるようだからもう駄目かもしれんけどね。

 問題があるのはいまでも持ちこたえていた場合。

 私ら自身がカリス教とは縁が深い、というか妹たちをガチで殺されてる。

 話し合ってはいそうですかと聞くようならカルト宗教じゃないわな。

 よって万一に備えて対抗手段がいる、そのために水属性での妹融合ができればいいなあとおもったわけだけど結果はあの通り。

 むしろアイラで問題が出なかったのは運が良かったと思うべきかもね。


『あんたね……駄目だったらどうするつもりだったのよ』


 そういわれてもね、終わるだけよ。

 火属性相手なら本来は水。

 アイラの火では意味がないし霊樹が余計燃える。

 ステファではかみ合わない。

 マリーも同様だけど霊樹のサポートは出来るかな。

 そう考えると……


「お姉さま、私ですか」

「うん、いけるよね、フィー」

「はい」


 焚火を囲んで向かい側のフィーリアが大きく頷いた。


「シャル、他の子たちへの指示任せていいかな」

「それは構いませんが。何をなさるのですか」

「特訓」








「ライト、レフト、ライト、レフト、ライト、レフト、ターン」


 私の声に合わせてフィーがスキルで土を掘る。

 声一回に対してきっちり三十センチの正方形、掘った土は後ろに積み上げさせてる。


「レフト、レフト、ライト、ライト、レフト、ライト、ターン」


 左右と掘らせた最後にくるりとまわるフィーリア。


「レフト、ライト、ライト、レフト、レフトターン、ライトターン、レフト、ライト」


 手拍子とともに出す私の指示をフィーリアは黙々とこなしていく。

 息は上がってるけどミスはほぼない。

 それにこの子はこういう単調な作業でも文句を言わない。


「レフ……じゃなくてライト、ライト、一歩前に、レフト、ターン、はい、ポーズ」


 ひっかけにもかからないってのは良いね。

 私の無茶な指示もこなしたフィーリアは最後、腰をかがめてスカートをわずかに持ち上げるポーズをしてぴたりと静止した。


『あんた、なにやってんの』

「なにって特訓だけど」

『どう見たって特訓にかこつけたセクハラにしか見えないよっ!』


 心外な。

 対策会議の次の日、シャル達に先行してもらうこととして私と幽子、フィーリアは能力の使いこなしの向上のために特訓を行っていた。


『延々掘ったり埋めたりするのがほんとに特訓になるの?』

「たぶんね」

『おい』

「フィー、ちょっと休憩入れようか」

「はい」


 今朝方、シャル達が出かける際に置いて行ってくれた食べ物を広げる。

 少し遅めの朝ごはんは兎に野菜、あとはキノコがメイン。

 いい加減、穀物がほしいなぁ。

 幽子は食べないので私とフィーリアだけでの食事、そういや二人きりってのは初めてだわね。


「フィー」

「なんでしょう」

「リーシャはいつからの付き合い?」

「あの子が九つの頃からです」

「結構長いね」

「はい」


 フィーリアとリーシャは義理の姉妹だ。

 それを聞いたのはつい昨日だけどね。

 実際のとこアイラの記憶の中にはリーシャっぽい子はいなかったし、今はよく似てるけど死ぬ前の二人の容姿は似てなかった。

 小さいころに怪獣による水の被害で壊滅した場所の生き残りって話だからそれが九歳の頃かもしれんね。

 だとするとリーシャには悪いことをしたかな。

 あの子の記憶が明日咲がいなくなった時とかぶったものだからいろいろと思い出してしまったんだよね。

 二人で黙って食べていると食事はすぐに終わった。


「「………………」」

『ああ、もう! らしくないよ、優っ!』


 らしくないか、違いない。


「フィー」

「はい」

「妹融合すると見たくないものも見る羽目になる」

「はい」


 茶色の髪をした元侍女は私の言葉にはいという言葉と同時にうなずいてくれる。


「当然、フィーリアの見せたくないものも全部私は見る。恥ずかしいことも嫌なことも、それこそ死ぬまで秘密にしたいことも」

「はい」


 私はフィーリアに手を伸ばす。


「それでもいいならおねーちゃんと合体しよう」

『その言い方はどうかと思うの、あと同意なしで実行したリーシャに謝れ』


 それは断る。


『ひどい奴だな。つーかなんでフィーには聞くのよ』

「それなぁ」


 私が視線を向けるとフィーリアが伸ばした手を取りながら笑みを浮かべた。


「私が埋葬人だからですね、お姉様」

『え、フィーってただの墓守じゃないの』


 だったらよかったんだけどね。

 シャルは「レイスやアンデッドの類の多くは肉親が死者をとどめてしまった場合に出現する」といった。

 つまり墓場にはアンデッドがわく。

 埋葬人とは湧き出してくるアンデッドを処理する処理係、いわば死骸を殺すために配置された者ってことだ。

 幽子の顔が青くなったと同時にフィーリアが私の手をそっと離そうとした。

 その手を私はがっしりと握りなおす。


「つかんだからには逃がさない。一応もう一度聞くけどいいのね」

「はい」

「エロもグロも全部見ちゃうよ」

「はい」


 苦笑した私にフィーリアがほほ笑んでくる。


「やらせる私が言うのもなんだけどさ、なんでそう割り切れんのさ」

「好きになりました」


 へっ?


「アイラを助けてくれたお姉様が」

『あ、優が照れてる。めっずらしぃ』


 うるさいよ。


「危険にさらしたもの私なんだけどね」

「それでも」


 埋葬人の少女が淡く微笑む。


「アイラの心は救われました。私は彼の傷を埋めることしかできなかった」

「それだって大切なことだけどね」


 やっばいなぁ、この子は私より老成してるわ。

 よし、ならこうしよう。

 私はフィーに背中を向けるとそのまま体重を預けた。


「フィー」

「はい」

「アイラたちがまってる。いこうか」

「はい」


 私が起き上がるとフィーの表情はいつもの状態に戻っていた。

 良い女だわね、この子。

 さてと、後はなるようになれだけど、ふむ。


「フィー、もしかして()()()()()()()()()()かね」

「わかりません」

『どうやってやるのよ』


 面白い。

 シャルには悪いけど追加実験だわ。


 多少遅刻してもあの子らなら何とかするでしょ。

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