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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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裏ルート・第三十五層

 ついた先は第三十五層目。

 また随分と飛んだけどやっぱり七の倍数なんだな。

 ルールがあると見た。


「ははっ、これが現実か」


 そして眼前に広がるレビィティリアの元下層部。

 そこはかつて近海を回遊する船や水先案内人や荷役業をする人でにぎわっていた港の一角。

 洪水による暴力的な力で多くの建造物が原形をとどめていない中、リーシャや沙羅(さら)、アカリと訪れたことのあるその場所だけはかろうじて風体を保っていた。


『……アクアタクシー……ターミナル……』

『沙羅ちゃん……』


 姉妹通信(シスターサイン)越しに聞こえた沙羅とリーシャの声。

 半端に原型がわかるのもあれだわね。

 あそこが沙羅たちがダガシを買ってた店であっちの方が水先案内ギルドの事務所、それと受付カウンター。

 たしか奥の方にケインズさんがいて木材が散ってるそこら辺が沙羅がよく弁当を食べてた机と椅子かな。

 強いて差を言うなら塔でも見た小さな石像が建物傍の陰になる位置にひっそりと設置されていた。

 やっぱりなんかのギミックっぽいね。

 ふと横を見るとシャルが両手を胸の前に当て静かに黙祷をしていた。

 リュックから上半身を乗り出した月影(つきかげ)は建物そのものではなく少し横の水際の方をじっと見ていた。


「シャル、この場合は黙祷で何を祈るのよ」

災禍(さいか)にあった者たちのMP(ムーンピース)が原初に戻り死の苦痛が続いていないことです」

「なるほど」


 カリス教が絡んだ場合にはMPは回収されてるわけだけど、そこもわかっててやってるわけね。

 私と月音も同じような感じで黙祷をする。


「レビィティリアの全壊から十二年……」


 シャルのセリフの続きを吹き抜ける海風がかき消した。

 区切りがついたのか海風に髪をたなびかせたシャルが淡い微笑を浮かべながらこちらの方を向いた。


「物思いにふけっていても仕方ありません。先を行きましょう」

「せやね」


 さて、とはいうもののどう進むかだよね。


「おねえちゃん、あっちの方にも何か見えます」


 そういって中層の方を指さした月音(つきね)

 あっちは確か製塩浄水器の崩落現場か。

 夢の中だと防ぐことができたけどこっちだと住民の頭の上に岩盤ごと落ちてたはず。

 パターン的にはやっぱ二ルートがあるんかな。

 ここはちょいと妹の力を借りてみますか。

 腰に下げていた袋の中から龍玉(りゅうぎょく)を一つ取り出す。


「お使いになられるのですね」

「まーね、試しておかんといざってときにも使えんでしょ」


 作った本人と頼んだ私だけが理解してるなか不思議そうな表情をした月音が龍玉をじっと見つめていた。


「何をやるんですか」

「簡単なことよ。シスリンク『智恵』」


 私がそういってタレントを発動すると手に持っていた龍玉がほんのりと明るくなった。


『な、なにそれ?』

「何って言われてもね。妹の力を借りてるのよ」


 その状態でぐるっと見渡してみる。

 ふむ、あのあたりかな。


「シャル、あのあたりに多分なにかいるとおもう。やりすぎない程度に牽制できるかね」

「わかりました。それでは」


 シャルがおもむろに右手を上げるとそこに氷でできた槍が出現した。


「アイスジャベリン!」


 飛んで行った氷の槍が水面に消える。


「なにもでないですよ?」


 近づこうとした月音を月影がぺしっとたたいて止めた。


「いたっ、だめなんですか?」


 月音が月影にそう言った瞬間、水が音を立てて割れ、その中から巨大なカニが顔をのぞかせた。


『げっ、よりによってこいつですか』


 ぶっちゃけでかい。

 ビル何階建てだろう、このカニ。

 つーか結構深いんだな、あの位置。


「ははっ、こりゃヤバイね」


 リンクした智恵の妹があれがチョーやばいことを教えてくれる。

 いや、まぁ普通に見てりゃわかるんだけどね。


「ギガンテッククラブですわね。成体ですので頭から末尾までの長さは十八メートル前後。あれの最大の特徴は強力なハサミです」

「なんかさ、どっかで見たことあるカニなんだけど」

「テラにおけるノコギリガザミに類似しています」


 ノコギリガザミときたか。

 たしかハサミの強さが半端なかったはず。


「ギガンテックなノコギリガザミか。長いからギガノコくんにしよう」


 ギガノコくんはそのまま微動だにしない。


「二人ともそこから動かないでください。あれは水に近づいたものや水中の魔獣などを補食する特性があります。動体を見ていますのでこちらの反応がなければ水に戻ります」


 シャルの言葉に小さく頷いた私と月音。

 そんな巨大カニと見つめあうこと数十秒、何を考えているのかカニは再び水の中へと戻っていった。


「お姉さま、何故あの位置だと思いました?」

「あー、そりゃあそこが大きめの船が付く位置だからよ。ひとつ前の経験から歩いて登れる階段があるあっちのバラック方面が通常ルートで水の上を移動する仕組みと次の層への入口がありそうなギルドの周辺に強い相手が仕込まれてると読んだんよ」

『うっそー。優が無駄考察じゃないちゃんとした先読みをしてるっ!』

幽子(ゆうこ)は私をなんだと思ってるんかね」

『え、歩くトラブルメーカー?』


 他の妹が誰も否定してくれんのが私の信用の深さを物語ってるわね。


「おねえちゃん、それちょっと違うと思う」

「せやろか」


 なお、今回の読みは私自身のものではなく『智恵』の龍玉の力を借りたものだ。

 いうならば疑似的に同化してるって意味では妹融合に近いけど経由してるのがタレントだからシャルとの契約には違反しない。


「ぶっちゃけこの龍玉に教えてもらってるだけよ、さすがは智恵の妹って感じだわね」

『『『『『へー』』』』』


 感触的には智恵というよりは小知恵とかちょっとしたひらめきのアシストっぽいけどね。


「お姉さま、ステータスに変化は?」


 シャルに言われて覗いては見たけど特に変化はなし。


「変わってないわね」


 タレント周りは冒険者としての拡張だからGPとか以外は冒険者カードにしか表記が出んのかもしれんわね。


「どのみちさ、崩落現場の近くにあるのは上りの階段だけだろうね。多分、リーシャと歩いたあそこが上行きの通常ルートだわ」

「なるほど、理にはかなっていますわね。そうなるとそちらの方には別の魔獣がいる可能性がありますわね」

「たぶんね」


 そしてシャルが作ってくれたコズミックホラーは今都市に戻ってるから使えない。

 先を急ぐならカニ退治なんだろうけどね。


「ギガノコくんは一旦後回し。崩落現場に行くよ」

「わかりました」


 私とシャルがそういうと月音が意外そうな顔をした。


「お姉ちゃんことだからカニ鍋よーとかいうかとおもった」


 よくわかってること。


「ノコギリガザミは絶品だからね。けど月音ちゃんや、私らは勝負もあるけど他の子たちが危なくないようにある程度総ざらいしてるっていうの忘れてないかね」

「あっ、忘れてました」


 そういってペロッと舌を出した月音。


「そういえばこの服だとここにはちょっと合わないですね。なら」


 そういいながらくるんと回った月音。

 今度は白いセーラー服になった。

 頭にはリボンのついた水兵帽ものってる。

 例によってミニスカだけど、これアカリのコレクションぽいなー。

 短さのぎりぎり感やちらりしそうなスカートの長さとかね。


『『『『『『『『かわいっ!』』』』』』』』』


 そして黒髪蒼目にセーラー服とセーラーハットの月音の可愛さもさることながらリュックから乗り出してる月影もいつの間にかおそろいの水兵帽をかぶってて廃れた海辺の風景にマッチしていた。

 しかしセーラ―服になんちゃってオンミョウジ、それに魔女っ娘ルックスの私ら三人ははたから見るとどう見えてるんだろうね。


「他の妹たちの安全確保のために崩落現場の方もとりあえずは探索、駆逐対象の魔獣がいたらある程度は倒して終わったら戻ってくるよ」

「はーい」

「承知しました」


 おっと、シスリンクはきって……いや、めんどいからマナ切れで切れるまでこのままでいいや。


「おねえちゃん、ずぼらー」

「修練だから。つーか維持にほとんどマナくわないしね、このタレント」

「えー、ホントですか?」

「ホントホント」


 常に適当なことを考えとくと心を読まれていても本気かどうかわかんなくなるってのは面白いもんだわね。

 さて、それはそれとして。

 あっちには何がいるかな。


「あっちにいるのはどんな魔獣さんでしょうか」

「さてねぇ」


 元々だと猫が多かったけどこういう閉鎖空間だと猫って存外長期間はもたんからね。

 多分、ホーンボアに該当する何かが養畜されて……


「メェーーーーーーーーー」


 視界の先、崩れ落ちた城壁の山から階段にかけて群れを成して元気に走り回る白い動物たち。

 例によって大量にいる奴らの名は。


「アクセラレートゴートですわね」


 安藤探検隊を待っていたのはヤギでした。

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