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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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都市と防衛

月音(つきね)ー、慎重にね」

「はーい」


 次の階層に続く階層を私たちはゆっくりと下がっていく。


「シャル、月音の前の警戒してるよね?」

「はい」


 そりゃそうか。


「そういやさ、私塔の中とか外に転がってた石とか結構適当に収納に突っ込んでるんだけど結構入るんやね」


 シャルと月音の視線が離れた瞬間に適当に色々詰めてみたんだけどバレてないっぽいわね。


『優、あんたこそこそともの拾ってると思ったらそんなの集めてどうするのよ』

「いや、なんとなく」


 ゲームの勇者とかもとりあえず拾ってみるじゃん。


『人に魔獣(まじゅう)を大量に押し付けておいて何やってるんですかね、この姉』

「いや、なんとなく?」

『なんで疑問形なんだよ!?』


 何かの役に立つかもしれんやん。

 何に使うのかわからんけど。


「そんでさ、私、冒険者カードもらってすぐなんだけど結構入るよね。これってどんだけはいるん?」

「お姉さまはランクEなので最大積載量は五トンです」


 トンクラスかい。

 相変わらず単位はテラ基準なんね。


「大きさの方はどうなのよ」

「ランク次第です。D以上からは空間圧縮機機能付きの魔導(まどう)コンテナを載せることができるようになります」


 魔導コンテナっていうとレビィティリアでも見たあれか。


「なくてもそこそこ入るし初心者に持たせるにしては随分と大盤振る舞いやね」


 私がそういうと前方を歩いていたシャルが振り返ってきた。


「緊急時に使用する避難用の生活道具一式を収納しておくためです。ですから冒険者カードは可能であれば就寝時も含めて常時保有が推奨されています」


 なるほど、地震とかで持ち出す避難袋の替わりか。

 ギルドポイントもこの中に入ってるし当然現金とかもしまえるわけで。


「ほんとこっちの世界は怪獣(かいじゅう)慣れしてんね」


 私がそういうとくすっと笑ったシャルが再び視線を前方に向けて背を向けた。


「テラの住民は天変地異への被災慣れしていたと聞いています」

「そりゃそーだけどここまで制度に組み込まれちゃいなかったわよ」

「避難訓練や消防訓練も文化としてありますわよ」

「まじか。てかそんなに頻繁に都市から逃げてたら生活成り立たないんちゃうの」


 私の言葉に興味を惹かれたのか一番前を歩いていた月音がぴたりと止まりシャルの方を振り返りながら階段をそろそろとおりていく。


「おっきなおうちはどーなったの?」

「エンシェントシティですわね。ドラティリアなど現存するものもありますがアルカナティリアやレビィティリアのように失われた都市も複数あります。現在、生活に使用されている一般的な都市は古代都市(エンシェントシティ)縮小再現(シュリンク)版、いわばレプリカです。当然、各種機能を大きくそぎ落としておりその最たるものが怪獣など外敵に対しての自動防衛機構(ガードシステム)です」

(まも)りがないんか」

「はい。正確にはエンシェントシティの()()回路は複製再現ができませんでした。現在、都市防衛の要となるのは特殊なタレントを使用する勇者とアシストする聖女、及び各種魔導機構を遠隔動作させる星神(ほしがみ)、もしくは星獣(せいじゅう)です」


 勇者(ゆうしゃ)聖女(せいじょ)星神(ほしがみ)星獣(せいじゅう)と単語だけならファンタジーなんだよなぁ。

 つーか特殊なタレントを使用する勇者とアシストする聖女ってイージスコンビっぽいね。

 マリーは聖女ではないけど。


「それだけでは軍勢には対応できませんので深度一の分裂型怪獣等に対しては国や都市が保有する騎士などの軍組織や冒険者ギルドが対応します」


 いつも思うんだけどしゃーないとはいえ対症療法なんだよね。


「それだと負けて都市が壊滅(かいめつ)することも結構あるんじゃない?」

「はい。南方諸国連合においては十六年に一度、ドラティリア連邦で見た場合には平均七十二年に一度は大怪獣の襲来を受けていますので王機(おうき)や増援が間に合わなかった場合には都市が壊滅します」


 シャルの言葉に月音が目を丸くする。


「そんなに早く負けちゃうの?」

「これでも伸びた方です。結果、権力や資金を持つものほどドラティリア本国やシークレットガーデンの中に構築された各国の王都に移住するようになり、外に生まれ落ちたものは何年たっても怪獣に荒らされ蓄財が困難であることから最後まで貧困層であることも多いのです」

『『『『『「「………………」」』』』』』


 ヒーローのいない怪獣世界、それもファンタジー風味だとこうなるんか。

 いやはやロマンがないわね。


『あの、ロマーニはどうだったんですか』


 姉妹通信(シスターサイン)越しに聞いてきた沙羅(さら)

 そうか、私もそうだけど沙羅やマーメイドの子らは昔を知らんのだわね。


「襲来数の平均であれば五年に一度です」

『そんなに?』

「絶対数でいうならば多くはありません。ロマーニを中心とした東方三国同盟のユーディアライト大陸における都市数は戦前時点で八十一、大怪獣の数が年間十六体なので都市比重だと遭遇率が高くなっていたのです。世界全体でいうならば大怪獣の発生数は年間平均二百九十一体ですから過半は南方諸国連合やドラティリア連邦で発生しています」


 いやー、想像以上にえぐい数字だわね、それ。

 ()()()()()()()()()()()()()()だから大体毎日どこかは大怪獣に襲われてるってことになるか。

 そりゃ王機も遅れたりするわけだわ。

 レビィに怒られた理由がやっとわかった。


「そんじゃロマーニとかの都市って結構壊されてたんちゃうの」


 私がそういうと一瞬だけ私を振り返った後でシャルが再び前の方を向いた。


「怪獣による都市の破壊は多かったですが全壊(ぜんかい)は少なかったですわね。東方三国同盟であるロマーニ、エリフィンリード、ドヴェルグガルドには百年越えの都市が多数ありました」

「ほー、そりゃまた何でよ」

「私たちの祖先は龍眠海(りゅうみんかい)から定期的に出現する大怪獣対応を任されていました。ロマーニ王家がかつて東方辺境王と呼ばれていたのはそれが由来です」


 あー、辺境か。

 たしかにそうかもしれんわね。


「大怪獣ってさ、王機じゃないと戦えんのと違ったっけか」

(わたくし)()()()()()()そうでした。現在ですと勇者や魔王、魔導士や神技(じんぎ)使いのほか赤龍機構(せきりゅうきこう)の対怪兵装などもあります」

「それってさ、結局のとこマナとか仕組みのレベルで王機に依存してるよね?」

「はい」


 例外といえるのは龍札(たつふだ)くらいか。


「個人が強いとかってのは?」

「あります。ただ系統に強さが残ることは稀です」


 大体が一代限りとかになるか。

 実際の話、私もアカリも魔法に対する資質は高くなかった。

 二人ともトライだから血としてはシャルからしか引いてないにもかかわらずだ。

 多分、上がりすぎて怪獣化したのとかもいるね、この分だと。


「また、上位存在も含めて年月とともに深度は下がる傾向にあります」


 なるほど、幽子を眷属にしたクラリスみたいな感じか。


「それで王機に依存してたって感じになるわけね」

「はい。ですので龍眠海沿岸地域の防衛を任された私たちには初代の青の龍王から深海王(しんかいおう)()()されていました」


 王機が来るかなとは思ったけどランドホエールじゃないんかい。


「つーか、深海王あって負けたんかい。ロマーニ」

「はい」


 振り返らないシャルの表情は月音にしか見えていない。

 ランドホエールにルナティリアと並べてみりゃわかるけど王機の強さはガチだ。

 ロマーニが負けるとは普通は考えんわな。

 これ赤龍機構の連中も慌てたんじゃないかね。


「なんで負けたんよ、カリス教に」

「王機は私たちティリアの家族がこの世界で生きるための力です」


 私の視線の先の月音が大きく目を見開いた。


「家族に向ける(じゅう)ではありません。それが私たちが龍眠海沿岸部を守護するにあたって初代の青の龍王と交わした盟約です」

「それで王機なし縛りでカリス教と戦争して負けたんか」

「はい。相手に打てない兵器は相互確証破壊は成立しても実際の闘いでは勘定に入れられません」


 なるほどなぁ。

 そしてソータ師匠はそこらについては配慮する気がなかったというのもわかる。

 わざわざ神の銃と銘打った武器を作ってるくらいだからね。


「臣下に王機を使うべきだって言われんかったかね」

「もちろん言われました」

「例のルキフグスにかね」


 吐息のような苦笑を漏らしたシャルは私の問いに答えない。


「王機は生きるための力です。()()()への転用は私が禁止しました」

「そっか」


 それで深海王は連れていなかったんだな。

 頑固というのは簡単だけどこりゃ信念だわね。

 多分にランドホエールが厳重に封印されていたのとも関係すると見た。


「そんで深海王は今どうなってるん?」

「龍眠海の自動防衛を指示してあります。同時に遠隔指示の受付を禁止しましたので今でも海をめぐっていると思いますわ」

「それって解除できるのってシャルだけ?」

「私にもできませんわね。戦闘待機状態の深海王を説得し中に乗り込めれば解除可能です」


 ははっ、そりゃまた。

 シャルたちが追い回されるわけだわ。

 きっと何かほかに方法があるに違いないって思われたね、たぶん。


「さて、話はこのくらいにして進みましょう」

「せやね」


 切り替えた私たちに対して複雑そうな表情を向けた月音に私が笑いかける。


「もう終わった話よ。さっ、次の冒険にいこう」


 一瞬だけ戸惑った月音。


「うんっ!」


 進行方向を向いた月音のリュックから頭と両手を出した月影と私たちの視線が絡み合う。


「そういやシャルちゃんや、ついでに聞いてもいいかね」

「なんでしょう」

「深海王って何の動物?」

「ペンギンです」


 ペンギンって深海まで潜る動物じゃないんだけどなぁ。


「へー、キングペンギンってか」

「いえフンボルトペンギンです」


 いや、普通王様でペンギンって言ったらねぇ。


「なんでよ」

「以前、同じ質問を知人にした際にテラの日本(にほん)で一番多く飼育されていたペンギンがフンボルトだったからだと聞きました」


 ほー、そこで日本が来るのか。

 トライも日本人が主体だしなぁ……ふむ。

 この考察は心の奥底に沈めておこう。

 まずは次の冒険といこうか。

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