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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
136/170

少女と猫と○○○○

 海ではいまだイカたちが荒ぶっていた。


「あれ鳴かないから怪獣(かいじゅう)感は少ないけどあの大きさで暴れたら普通は怪獣扱いだよね」


 それもダース以上いるし。


「大きくとも魔獣(まじゅう)は魔獣です。怪獣と違い冒険者にも討伐可能です」

「あれって倒せるんか」

「ええ、さすがに駆け出しの冒険者には無理ですが」


 シャルはともかく私と月音(つきね)は駆け出しなんだけどさ。


「あんだけ大きいと脅威じゃね?」

「もちろんそうです。ですが怪獣と違い高速回復(こうそくかいふく)しませんし堅牢鉄壁(けんろうてっぺき)もありません。時間はかかるでしょうし買取額も下がりますが(どく)を仕掛けるのも一手です」

「なるほどね」


 そういう意味では勝てる相手なわけか。

 まぁ、普通の人が挑んだら丸のみでやられそうではあるけど怪獣よりましってことか。


「そういう風に聞くと怪獣ってほんと論外やね」


 私がそういうとシャルが生徒を見つめるような視線で少し微笑んだ。


「以前、(わたくし)はお姉さまに怪獣はこの世界における最大の脅威だといいました」

「いわれたね。さっきいってた毒もあかんのかね」

「はい。仕留め損ねた場合は環境適応(かんきょうてきおう)によって毒への耐性が付きます」


 ほんと性質(タチ)悪いな、怪獣。

 それといつも思うんだけどシャルたちの口調から脅威や恐怖、忌避(きひ)は語られても怪獣への憎悪(ぞうお)はあまり出てこんのよね。


「前々から思うんだけど怪獣が憎かったりせんのかね」

「憎しみはありませんが思うところはあります。妻の一人を目の前で食われたこともありますし」


 さらりと答えたシャルに私と月音が驚く。

 すると少し気まずい空気を読んだのかシャルが言葉を続けた。


「怪獣が黒の龍王の(のろ)いだという世間の風説には私は同意しません。ですがMP(ムーンピース)で成長する特性を持つあれは間違いなくこの世界一部。そして」


 シャルのパープルアイが正面から私を映し出す。


「短い生を足掻く私たちの脅威です。そもお姉さま?」

「なによ」

「テラの創作内では怪獣は途方もなく強いものと聞いています。ならば幻想が物理と手を結ぶこちらの世界でもそうであるのが自然でしょう」


 怪獣がいるのが自然か。

 そんでもって魔導(まどう)は地球の科学(かがく)魔法(まほう)で模写したものだっけか。

 だから対怪獣用特化魔法って位置づけになるわけね。


「生きるために戦うわけか」

「はい」


 明瞭なシャルの答えを聞いてから再び海のイカたちに視線を向ける。

 確かに怪獣と比べたらイカは脅威ではないわな。

 私とかが捕まったら文字通り海の藻屑だろうけどさ。


「とはいえ、あの大きさと数となると通常は大規模討伐クエストの一環として複数パーティによるレイド戦になります」

「あー、やっぱソロパーティで相手するわけじゃないのね」


 小さく頷いたシャル。


「通常魔獣討伐においては討伐報酬は低く買い取りで収支を取ります。ですのであのような討伐難易度が高い魔獣の群れの場合は領主か冒険者ギルドなどが主導する殲滅戦(せんめつせん)での戦いになります」


 魔獣だと買取の方がメインか。

 なるほど、だからアカリはあの条件を出してきたわけだ。


「クラリス、今回はそこんとこどうなんよ」

『育成迷宮の場合は引き際も含めての教育だからね。好きにすればいいよ』


 そういうクラリスの言葉には微妙な含みがあった。


『普通はあのサイズの魔獣を複数配置しないからね。共食いしかねないし』

「なるほど。ああやってでっかいのを置いておくのってやっぱ面倒なんかね」

「ええ。間違いなく。ここからでは見えませんが海中にジャイアントクラーケンの養畜施設(ファーム)があるでしょうね」


 巨大イカの養畜施設って初めて聞いたんだけど。

 大体さ、普通は共食いする動物を養殖(ようしょく)はせんのよ。

 たしか向こうでもマダコの養殖でてこずってた気がする。


「もしかしなくても大量に湧いてくるやつかね」

「ええ」

「イカ料理食べ放題やね」

「そうでわすね」

『そういう問題かな』


 つーてもね。

 見たくないじゃん、現実。


「ははっ、やっぱこれってソータ師匠のあれかね」

『けっ、あのクソジジイの嫌がらせ以外にあるかって話ですよ』

「やっぱそうか」


 私がそういうとシャルがため息をついた。


「現在、遠海を航行できる船舶は()()()()()()()のでジャイアントクラーケンを討伐することもまれです。その為、冒険者ギルドではジャイアントクラーケンは積極的な狩猟対象にはなっておらず討伐報酬はホーンボアとほぼ変わりません」

「あれとイカが同じってちょっと酷くないかね」

「無理に狩る必要がないのです。採集素材の買取は常駐でありますからそちらでということですわね」


 なるほど、理にはかなってるんだな。


『それにクソジジイの性格だと下への階段は向こうに見えるレビィティリアの前とかにありますよ、きっと』


 ソータ師匠のことになるとアカリはいつもこんな感じだわね。

 アカリの言葉を聞きながら魔導式を展開したシャルは少しだけ目を細めて海の向こう側を凝視していた。


「そのようですわね」

「なんかあったかね」

「はい。ここから見えている都市はただの書割(かきわり)のようです。その手前の海面に顔を出した岩礁に人工構造物が見えますのでそこが階段でしょうね」

「やれやれ、意地でも海を渡って来いってことなんかね」

「もしくは先ほどの階段を上れといったとこでしょう」


 さてどうしたものかね。

 力押しもありっちゃありなんだけど、結局こういう状況になると私が役に立たんのよね。


「おねえちゃん」


 そんなことを考えていると月音に服の裾をひょいと引かれた。


「何よ」


 ふと視線を月音に向けるとそこにはあからさまにわくわくを隠せてない月音。

 それとリュックに入ってる月影(つきかげ)があからさまに乗り気じゃなさそうな雰囲気を(かも)していた。


「私にいい考えがあるのっ!」


 今この子を制止できる良い言い訳が思いつかんわ。


「あー、いま都市にいる誰でもいいんだけど一つお願いしてもいいかね。つーてもリーシャかステファになると思うんだけど」

『え、急になに?』


 先にリーシャが反応してきたのでリーシャに頼むか。


「月音が危なくなったらすまんのやけど姉妹召喚で呼び戻してほしいんよ」

『いいけど……お姉ちゃん、そっち』


 視線を下に戻すと思いっきりふくれっ面をした月音と目が合った。


「おねえちゃんは過保護です。やる前からそれってどうなんですか」

「いや、ごめんよ。その代わりやってみるのは止めんからさ」


 そういいつつ月音の頭をなでながら私はぽつりとこういった。


「ソータ師匠のことだからさ。スキル対策とかもしてそうなんだよね、あの人」

「気にしすぎだと思う」


 だといいんだけどね。

 さっきからシャルが黙り込んでるのが余計嫌な予感をさせるんだよ。


「とりあえず安全優先で」

「はーい」


     *


「いくよ、月影っ!」


 やる気満々な月音に対して目に諦観を浮かべた背中のリュック内の月影。

 海ではイカたちがお互いを攻撃してるのかえらいテンションで暴れまわっているのが見えた。

 そんな中、月音がすっと息を吸ってから朗々と歌い始めた。

 月音の歌声にひかれたのか一部のイカが月音の方を向くと同時にタワー内と同じようにスリングショットに載せた積み木を月音が真上に弾き飛ばす。

 瞬間、積み木の上に出現した月音は歌いながら次々と積み木をスリングショットで弾き、その弾いた先へと瞬間移動を繰り返していく。


『え、なにこの曲? いつもの月音ちゃんのお歌じゃないよね』

『うわー、なっつかしー』


 幽子が反応するってことは向こうの世界、テラの曲なんだろうけどさ。


『これ何の曲よ』

『私もネットで見ただけだから多分だけど確かアニメのOPだったと思う。勇者なんとかファイガード?』

『ちげーよ。冒険勇者(ぼうけんゆうしゃ)ファイガーンだ』


 私の質問に答えた幽子にナオが突っ込みを入れた。

 そうしている間にも空中にどんどん積み木をばらまきながら月音はイカにつかまらないように縦横無尽に空中を跳ね回る。


『ナオが教えたんかね』

『おう』


 どういう風の吹き回しなんだか。

 いや、基本ナオは月音とか後輩の面倒見はいいけどさ。


『あいつが強くなりたいって言ってたからな』

「ほう」


 横を見るとシャルが何やら観察用の魔導式を動作させ始めているのが見えた。


『月音ちゃんはどうして強くなりたいのですか』


 そうつぶやいた(さき)にナオが返答する。


『ステねーちゃんたちに影響受けたんだろ。都市と家族を(まも)れる強さが欲しいっていってききゃしねー』

『普通、都市神(としがみ)は結界の維持をしながら勇者(ゆうしゃ)や冒険者とかに護られる側であって自分から打って出るのってどーなんですかね』

『しらねーよ。あいつに聞け』


 アカリの突っ込みもわからなくもない。

 都市神の場合は基本は星神(ほしがみ)だって聞いてる。

 星神はこの世界の魔法そのもの、そして怪獣は魔法を食べる存在だ。

 補食対象が自分で打って出るってのはないわな。

 追い詰められたとかじゃない限りは。


『それでナオ。あの子に何を教えたんだい?』


 そう聞いたステファの言葉に一瞬だけ黙り込んだナオ。

 そうこうしているうちに空中に大量に飛び交う積み木が徐々に集まりビルでいうなら五階ほど高さを持つ人型の形を取り始めた。

 背中に翼の生えた木製の人型のそれは一言でいうなら……


『『はぁ!? 勇者ロボっ!?』』


 むしろ昔の少年とかが使うごっこ遊びのミニロボって感じだわね。

 たしかに月音は巨大な手とか積み木で作ってたからやろうと思えばできるか。


『ナオ、月音に教えたのってもしかしてさ』

『おう、玩具操作(がんぐそうさ)だ』


 かつてカリス教の火の四聖(しせい)として皆の救済(きゅうさい)という目的で都市もろとも人々を焼いてきたナオ。

 玩具操作はそのナオが回帰した思い出に由来するナオ本来のスキルだ。

 それを教える、しかも殺したこともあるだろう都市神相手ってのはいろいろ思うとこもあったろうにね。


「そっか。お疲れ」

『おう』


 視界の先、月音と同じく宙を跳躍するその木製の巨人は近くにいたイカに渾身の一撃を入れた。

 そして吹き飛んだイカが私やシャルのいる建物に激突しわずかに揺れる。


「なんでこっちに飛ばすかね」

『俺がそうやれって言った。古代遺跡はかてーからな、あったらそこにぶつけりゃ弱い方が砕ける』

『ふぇ!? やり方が荒いにもほどがあるよっ!?』


 ここが崩れるとシャルはともかく私は海にまっしぐらなんだが。


「お姉さま、ご報告があります」


 ははっ、なんとなく見当はついた。


「なによ」

「月音に『妖怪化(ようかいか)』と合わせ第二スキル『玩具操作(がんぐそうさ)』が動作していることが確認できました」

『それは間違いないんだね』

「はい。システィリアの都市神(としがみ)にして座敷童(さしきわらし)の月音は深度二に深化(しんか)しました」


 チューキチの時も急だったけど月音の場合はシスティリアの都市神だしなぁ。

 それにしても私との融合以外で妹の中から追加の深化が出たのはこれが始めてかな。

 私たちの会話が続く横でさらにイカを殴り飛ばしては私たちのいる建物にぶつけて気絶させていく月音。

 そんな中、月音がちらちらとこっちを見てるのがわかった。


「なんやろ、あの視線」

「さぁ、わかりかねます」


 私とシャルが首をひねる中、ナオのため息が聞こえた。


『ったくわーったよ。いえばいいんだろいえば』


 ナオの言葉に大きく頷いた月音。

 次の瞬間、木製のロボが何やらポーズをとる。


『激闘っ!』


 ナオの言葉を聞いてからポーズを取り直す月音の木製ロボ。


『冒険っ!』


 さらに両手を斜め上の方向に向けて開いたロボ。


『絶対防衛ムーンガードっ!』


 シャキーンという音でも聞こえそうな勢いだけど重力にひかれて落ちていくロボは月音が弾く積み木の位置に転送する形でひょういひょいと瞬間移動するもんだから微妙にしまらない。

 男の子の趣味が好きな姉妹がヒーローロボごっこしてるみたいでほほえましい。


『防御してねーよっ!』

『ぴょんぴょんしてるんですけどっ!』


 姉妹通信(シスターサイン)経由で二大ツッコミ担当のアカリと幽子の突込みが響く中、シャルが何か納得したような表情で頷いた。

 やっぱここはツッコミどころだよね。


「これがテラの創作で有名な攻性防御(こうせいぼうぎょ)ですか。興味深い」

「いや、ちゃうからね?」


 やばい、ボケの数が多すぎる。

 ボケと突込みが交差する中、ムーンガードが張り手で飛ばしたイカが宙を舞った。

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