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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第六章 虚構竜宮編 それはひとつまみの奇跡
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裏ルート・第二十一層

 扉を抜けると潮のにおいが鼻をくすぐる。


「うわー、こっちも海ですっ!」


 遠くにはあのひと夏を皆で過ごした過去のレビィティリアの姿があった。


月音(つきね)、何があるかわからんからあんま走っちゃあかんよ」

「はーい」


 月音の後を追いブロックの端までたどり着くとそこは胸ぐらいの位置まで壁があって海を見下ろせるようになっていた。


「ここって何層かね」

『二十一層目ですね』


 随分と先へのショートカットルートだこと。

 そんでもって七の倍数なんだな。

 ブロックの床を少し歩くとすぐに突き当たりとなり見下ろすと下の方に黒くも見える海水が見えた。


「あれって昔のレビィティリアよね」

「そのようですわね。育成迷宮ですから四方は実際にあるわけではなく表示映像のはずです」

「なるほど」


 そういいながら振り返ると後ろには私たちが出たよりも高い位置まで伸びる直立のレンガでできた円柱があった。


『懐かしいでありますな』

『そういやあったなぁ、お海の奥の塔』

『こっちの世界海の中にこんなもの作れたんだ』

『建造にかかる技術は随分前に一通りテラから模写したからね』

『えっ、てことはシールド工法とかもある?』

『あるよ』


 相変わらず科学でチートの出来ん世界だこと。

 大体、千年前に学び終えてるとか言われそうよね、こっちの世界(アスティリア)


「なんよこれ。灯台あたりかね」

「いえ。これは当時レビィティアの沿岸部に存在したACTという古代施設の一つです」

「遺跡なんか」

「はい。一応、魔導機(まどうき)を配置して夜間の安全のために点灯させ灯台代わりにしていた時期もあるのですが沖合に出るコストが見合わず末期には利用されていませんでした」

「なるほど」


 そういいながら私たちが見上げる古代の塔はそこそこの高さがあった。

 その横、影の位置には小さな石像が見える。

 地蔵っぽいけどここ日本じゃないしなぁ。

 後でシャルにでも聞いておくか。


「ふつーに考えるならこの塔を登れってことなんだろうけどどう思うよ」

「普通ならそうですわね。ですがここを作ったのはあのソータですわよ?」

「そうなんだよね」


 ソータ師匠がそんなぬるいことをするかというと多分しないんだよなぁ。


「多分なんだけど普通にクリアするルートと普通じゃないルートの二系統とかありそうな気がするんよ」

「そうでしょうね。とりあえず登ってみましょうか」

「ういよ。月音、こっちの塔に上るよ」


 私が月音の方を見ると海を見ながら興奮気味に月影に話しかけていた。

 それと同時に月影がリュックから上半身を乗り出して同じく海を凝視していた。


「優おねえちゃん、あれなんでしょうか」

「なにってなにも見えんけど」


 そういう私の傍に寄ってきたシャルの紫の瞳が淡く光る。


「いえ……月音の言う通りいますね。しかもかなりの数が」

怪獣(かいじゅう)かね?」


 私がそういうとシャルが首を振った。


「かなり大型の個体ですがMP濃度が低いですわね。魔獣(まじゅう)だと思います」


 ほー、そこらへんもわかるんか。


「少々、つってみましょうか」

「どないするきよ」


 そういう私の目の前にシャルが鳥のおもちゃのようなものを取り出した。


「なんぞそれ」

「アカリの真似になりますがパテントを購入して自作してみました。ミラージュ印の鳥のおもちゃです」


 ふむ。


「で、正式名称な何なんよ?」


 私の問いにシャルが一瞬だけ戸惑った後でこういった。


「『パタパタぴよこ』です」


 ひよこじゃなくて()()()なんか。

 ミラちゃん、なんというか()()()()()()といい、独特なセンスしてるね。

 夢の中で遊んだ小さい頃はそこまで不思議ちゃんだったかというと……いや、結構変な子だったわ。


「可愛い名前ですねっ!」

「そう、ですわね」


 シャルがそっと横を向いたと同意に赤くなってるのが見えた。

 恥ずかしかったんやね。


『……そういう顔もするんですね』

『アカリちゃんもなんか赤くなってない?』

『なってませんからっ!』


 なってると見た。

 こりゃあれやね、告白を優先したのもあってシャルのいろんな面を見てる余裕はなかったんだな、アカリ。


「で、それをどうするんよ」

投擲(とうてき)します」


 一応、少しは飛びそうには見える。

 けどなんというか昔よくあった割りばしとゴムで飛ぶミニヒコーキみたいな作りなんよね。

 長距離いけるかというとわからんかな。


「すぐ落ちそうだけど」

「そこは一工夫します。そいっ!」


 シャルがすっと投げるとそのままパタパタぴよこが海風に揺られてよたよたと飛び始める。

 そのあとを追いかけるようにシャルが空中に魔導(まどう)式を展開しているのが見えた。


「エアロレール!」


 シャルの宣言とともによろめいていたパタパタぴよこが一気に安定して一直線に空を飛び始めたのが見えた。


『ふえっ!』

『なにそれ』

『そんなのもあるんだ』

『ステちゃん、あれってたしかあの子の魔導だよね』

『そうだね』


 すいーっと飛んでくパタパタぴよこ。


『アカリちゃん、あの魔導ってアカリちゃん使ったことないよね?』

『ないですね。深度三魔導エアロレール。動作限定魔導の一種で発動にはACTの補助が必要です』


 なるほど、そりゃ使いにくいわ。

 ロードじゃなくてレールなのには何か意味があるんかね。


『魔導ってどこでも誰でも使えるんじゃないの?』

『建前はそうですが実際には細かい制限があります。エアロレールは古代魔法(エンシェントマジック)を転換した魔導なので元の魔法の縛りがそのまま残ってますね』


 しかしレールねぇ、昔は空にレールでも敷いてたんかね。


「これって他の場所に向かってレール引いてるん?」

「いえ、この塔からこの塔に戻る経路を複数引いています」


 そういう運用もできるんか。

 しばらく進むのを皆でぼんやりと見つめていると不意に海面が後範囲でブクブクと泡立ち始めた。


「なんぞ」

「魔獣が顔を出します。お姉さま、月音、少し後ろに」

「はーい」

「はいよ」


 私と月音がすこし後ろに下がると同時に海面から音を立てて巨大な生き物が顔を出しパタパタぴよこに食らいついた。


「「でっかいっ!」」

『『『『『イカっ!?』』』』』


 そう、それは海で定番の巨大モンスター、イカ。

 タコじゃないときは大体イカだわな。

 大きさはこの状態だとちょっとわからんけど十メートルはわらんね。

 その巨大イカがパタパタぴよこをつかもうとしたその時だ。


「魔導改変、レール切替っ!」


 ふいにパタパタぴよこがくるんと方向を変えて横に動きを変えた。

 そのまま食らいつこうとした巨大イカが海に沈む。

 とおもいきや今度は別の同じくらいに大きな巨大イカがパタパタぴよこに食らいつく。


『二匹!?』

『いや……これは多分』


「レール切替っ!」


 シャルが操作するパタパタぴよこが方向を切り替えるとさらにもう一匹の巨大イカが出現する。

 そのままイカをつっては切り替えを繰り返しながら数分後。

 シャルが投げたパタパタぴよこは結局シャルの手元まで戻ってきた。

 そして周囲の海には二桁に及ぶイカがうようよと(うごめ)いていた。


「ひーふーみーよー、いっぱいいるねー」

「おねえちゃんいいかげんー」


 だってめんどいし。

 一匹でもでかいといえるイカがこの数だと結構大変だわな。


「シャル、さっき魔獣って言ってたよね?」

「ええ。魔獣ジャイアントクラーケンですわね。この数が狭い位置にいるのは珍しいですが魔獣ですので深度は(ゼロ)です」

「ホーンラビットとかと同じなんね。強さ的にはどうなんよ」

「推奨冒険者ランクはC以上です」


 私らはなりたての冒険者だから当然Eランク。


「アカリたちが怪獣討伐でCに昇格したばっかだっけか」

「ええ。このフィールドは前提としてレッサーベヒーモスが倒せるだけの強さであることを前提としているのでしょう」


 アカリからもらったレッサーベヒーモスの素材で開いた階層だからそれが基準なんだな。


「おねえちゃん。これってあれですよね」

「せやね」


 ソータ師匠の作ったゲーム、ドラゴンプリンセスにおいても敵が文字通り落とした品を使って(ゲート)を開けるということが出来た。

 問題は倒したわけではなく落とさせた場合にそれを使って開いた場合にはどうなるというとだ。


「弱くて強ゲーム。ししょーさー、それってただのクソゲーっていうんよ」


 私の言葉に月音が大きく頷いた。

 さて、海には巨大魔獣がうようよいることがわかった。

 できることとなると後ろの塔を登るか海を攻略してみるかなんだけど……


「やっぱ使わなダメかね」

「試運転ですので是非。最初は塔からですわね」


 振り返るとそこにはいつの間にかシャルが収納から取り出していたと思われるコズミックホラーが鎮座していた。


「これそこそこの重さありそうやね」

「ええ。軽量化はしていますが三トン近くはあります」


 重さの単位はやっぱトンなわけね。

 シャルの収納にしれっと入ってたことに驚くわ。


「内部は圧縮魔導による拡張空間になっています。サイズは御覧のとおりですが重さと後部収納空間への積載量はテラにおける二トントラックに近い仕様になっています」

「まんまトラックかい」


 前門のイカ、後門のコズミックホラー。


「どっちに進んでも創作恐怖神話系ってのはどうっすりゃいいんかね」


 なんかわくわくした目をしてる月音にゃ悪いけどテンション上がらんのだけど。

 そんな私にシャルが苦笑しながら小さな包みを差し出してきた。


「なんぞ?」

「お姉さまに指示を受けていたあれが完成しました。魔導甲冑(まどうかっちゅう)でご使用いただきたいと思います」

「あれっていうと……」


 袋を開けるとそこにはガラス球のような球体の中に文字が浮かんでいる品があった。


「これってあれかね」

「はい」


 おー、これはちょっとだけテンション上がるかもしれんね。


『え、なに?』

『あれでありますな』


 私が中に入っていた宝珠の一つを指で取り出すと中には『義理(ぎり)』の文字が見えた。


「試作した汎用型(はんようがた)龍玉(りゅうぎょく)です。お姉さまの指示通り八つ作成いたしました」


 ははっ、ちょっとだけやる気出てきたかな。

 そして再びコズミックホラーが目に入る。

 よし、逃げよう。


「これ単体で使っちゃダメかね?」

「ええ」


 残念、コズミックホラーからは逃げられなかった。

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