チームロマーニ
アカリ達の健闘が終わって今日の攻略は私らロマーニ組。
安全が確保されている育成迷宮の第一層、墓場エリアで私ら三人は昨日開いた裏ルートに潜る前の事前確認をしていた。
「おねえちゃんたち、頑張りましょうっ!」
そういって墓場で意気込む月音。
冒険のイメージで固めたのか薄い土色の帽子に上着、それにパンツにベルト。
これ、探検家コスプレやね。
「ずいぶんと気合を入れましたわね」
そういうシャルの方は長いローブにいつもの杖、ニーハイソックスにスカートと複数のアミュレットらしいもののついたファンタジーの魔法使いといった風情の服を着ていた。
シャルの頭に乗ってるとんがり帽子だけどシャルの髪の色に合わせて配色してるあたりが趣味がいいね。
つーか、肩が出てたりニーハイソックスとスカートの間の素足の隙間が見えてたりとかなりあれなんやけど。
「シャルちゃんや、その衣装」
「アカリに作ってもらいました。似合いますか?」
「似合うけど……可愛いというか」
シャルが少しだけ短いスカートをつまんだ。
うん、めっちゃくちゃアニメ的でアレな衣装なんだわ。
言わんけど。
「魔導防御がされているので基本服飾のデザインは任意です。面積があればあるだけ細かな魔導回路が仕込めますが、この服のように魔導回路を収蔵した核を複数設置すれば服面積は大きく削れます」
「それってあれかね。水着とかでもいける?」
「機能を限定すれば可能ですわね」
これ、俗にいう沼にはまる奴だ。
さて、そんな二人とは対照的に私の方はいつものオンミョウジルックスなわけなんだけど……
『『『『『『『『…………』』』』』』』』
私の視線につられてみてしまったのか複数の妹が沈黙しているのが通信越しにもわかるのがもうね。
私の右手、視線の先にはシャルが絵にかいた例の私専用の魔導甲冑の実物がデデーンと鎮座していた。
とりあえず見なかったことにしたい私は月音の背中に再び視線を向ける。
探検隊コスプレをした月音の背中には亀の甲羅柄のリュックが背負われていて上の方の少しチャックが開いていた。
「月音、その背中の奴なんやけど……」
私がそういうと開いたリュックの隙間からタキシード猫の月影がにゅっと顔を出した。
これ、やっぱり夢幻武都のレプリカか。
いつの間にリュック型とか作ったんだか。
「アカリちゃんや、ちょいといいかね」
「なんですか?」
私と同じく右手に鎮座するコズミックホラーを見ようとしないアカリが、墓場に設営されたスーパーカヤノ二号店に設置された椅子に座ったまま私を見上げた。
その隣では沙羅が何処からともなく出現する四角いボックスを開けては中身を取り出して閉じ、そしてまた箱が消えるという謎現象を繰り返していた。
それのおかげなのかテントを設置した昨日とはうって変わって簡易の棚やキャッシャーが設置されたスーパーカヤノの育成迷宮出張店には生活やら冒険に必要と思われる各種商品がずらりと並べられていた。
「色々突っ込みたいことはあるんやけどさ。まず、それなによ?」
「えっ、何って優姉が言ったんじゃないですが。カヤノでの効率のいい物流考えといてって」
そりゃ言ったけどさ。
そんな風に話をしている間にもどこからともなくボックスが出現し沙羅がその中からものを取り出し始める。
「要はシスティリアの中とやり取りしてるんよね」
『何それ。えっ? 瞬間転送システム?』
通信で見ていた幽子のつぶやきが月音経由での姉妹通信で聞こえた。
そりゃまぁ、おもうわな。
「何って沙羅姉がコンテナを召喚してるだけですよ」
『ちょ、ちょっとまって。なに? 沙羅ってそんなスキルあったっけ?』
光る紫の瞳でじっと観察していたシャルがぽつりとつぶやいた。
「これは姉妹召喚ですわね。コンテナにちょろちゅーの回路を仕込んだのですか」
『ふえっ!?』
ははぁ、なんとなくわかった。
「やっぱわかりますか」
どや顔しながらアカリが揺れる大きな胸を張った。
「コンテナ型妹、なずけてちょろ妹です」
『な……えーー!?』
そういわれるとちょろい妹しか連想せんのだけど。
視聴しているであろう通信先の他の妹から声一つ聞こえんのは絶句しとるんかね。
テラの技術周りに強くない子らは分かってないのかもしれんけど。
「シャルちゃんや、こういうのって今まであったかね」
私がそういうと口元に手を当ててじっと考え込んでいたシャルが手を外してから答えた。
「私の知る限りではありませんわね。瞬間転位や物質組み換えは創世の魔法に近い高次元の魔法か特化したスキル、もしくは神代の魔法回路を流用した魔導機でないと厳しいです」
なるほど。
「他にはないんかね」
「魔導の錬金でも可能ではありますが効率は悪いですわね。クラウドや月影のように偏在する異能持ちであればやってできなくはないでしょうが……」
そういっている間にもアカリたちがこしらえた魔導コンテナ「ちょろ妹」は光と共にシスティリアへと帰還していった。
本人はシャルと比較するものだから低めに見積もりがちだけどアカリも大概におかしいよね。
『アカリちゃん、ちょっといいかな』
「なんですか、ギルマス」
おっと、クラリスからアカリに話しかけるとは珍しい。
『君のやってるそれ、他の妹にも可能かい?』
「できますよ。といいますか今ちょろ妹のやり取りをしてるのはリーシャ姉と沙羅姉ですし、ちょろ妹のチップの改造ポイントはさっき冒険者ギルドの掲示板に載せましたよね」
『うん、見たよ。あれ君は権利とか主張しないんだね』
「そりゃちょろちゅーのマイナー改造ですからね。パテントは元のマジカルマウスのままです。あっ、使用禁止になるときは教えてくださいね。他のやり方考えますんで」
『……禁止になるときにはね』
他のやり方考えますんで、か。
これ、まーた赤龍機構でもめそうな案件やね。
クラリス、お疲れ。
「そういやシャル、冒険者カードって以前のとおなじ?」
ステファもそうだけどシャルも元々冒険者、しかもSランク冒険者だったはず。
「いえ。今回、シャルとして新規に発行してもらいました」
「そりゃまた何でよ」
なんとなくわかるけどさ。
「元の私のビルドでは勝負になりませんから」
こりゃ、もちろん圧勝って意味だわな
「でも、魔導は使うんでしょ?」
「ええ。個人技や武装、スキルは別です。リーシャや沙羅も宝貝をつかっていましたわよね」
「そういやそうか」
アカリも事前準備してたね。
「おねえちゃん、進みましょうっ!」
私らがそんな話をしている間にもレビィティリアの墓に空いた下への階段を覗き込んだ月音が冒険したくてしょうがないのかせっつく声が聞こえた。
「えっと、優姉。あれ」
ふとアカリの視線を追いかけるとそこにはテントの隅でプルプルと震えるツチノコの姿が見えた。
そのまま視線を月音に切り替えると下への階段を覗き込む月音の背負いリュックから頭と両手だけ乗り出した月影がじっとこちら、ツチノコを注視しているのが見えた。
「うちのあいつがかなりテンパってるんでさっさと先に進んでほしいんですけど」
「せやね」
いや、本当どうしたもんかね。
月影が神経張るのもわかるだけに一方的にどうこうもできんしなぁ。
大体、猫同士のことだし私が間に入るのもちょっとね。
「優姉。とりあえず、これもっていってください」
アカリが何か細かいものが沢山入った袋を押し付けてきたので受け取る。
レビィティリアでもなんかこんな感じでもの渡されたなぁとか考えつつ袋の口を開けると、そこには何か平たい四角の小さな板のようなものがたくさん入っていた。
「なんぞこれ」
「ちょろ妹のコア部分のチップです」
色々と単語がおかしい気がするのだけどスルーしてアカリに先を促す。
「進んだ先で素材とか出たらそれを張り付けてください。私が姉妹召喚でここに呼び出して解体して買い取った分のGPをギルマス経由で優姉たちに振り込んでおきます」
「なるほど」
ゲームとかでお約束のどう考えても入りそうにない大きなものの買取をこういう風に実装するわけね。
「えっとさ、冒険者カードの収納能力で運んじゃあかんのかね」
私がそういうとアカリの緑の瞳が私をとらえた。
「それでもいいですけど入りきらなくなったら放置になりますよ。もったいないじゃないですか」
「まぁ、それもそうやね。だったら魔獣とか倒したら随時買取ってことでよろしく」
「了解です。それじゃ、優姉、シャル姉、月音」
すでに階段に半歩足を踏み入れかけていた月音もアカリの声に反応してこちらを振り返った。
「無事に戻ってくださいね」
「ええ。可能な限りは破損なしで取りますのでお願いしますわね」
シャルがそういうとアカリがにやりと笑った。
「言いましたね。ならどんどん送ってください、仕分けとかこっちでやりますから」
「さばけなくなっても知りませんわよ」
「いざとなったらシスティリアでもばらせますし大丈夫です。何なら素材にチップを張ったらすぐに送るようにもできますよ」
「あなたがそれで構わないのでしたら」
「優姉の無茶ぶりと比べりゃ楽勝です」
「それではお願いしますわね」
アカリが乗り気なのは買取は八割額で必ずアカリたちの取り分があるからだわね。
いいって言ったから別にいいんだけどよー考えたこと。
逆を言えば私らのチームは素材の買取による成果ではアカリ達に勝てなくなったってこともであるわな。
でもなぁ、シャルも大概に規格外だからなー。
アカリが何か変な自滅しそうな気もしないでもない。
「なので……」
アカリは月音の背中のリュックから顔を出したタキシード柄の猫を見てこう言った。
「このバカ姉妹三人のお守り頼みましたよ。月影」
ははっ。
「どーやら私ら三人より月影の方が信頼があるらしいよ、シャル」
「そうですわね」
鬼が出るか蛇が出るか……いや、蛇はもういいや。
そう考えた私の脳内にパーマが掛かった長い金髪に透き通るような赤い瞳を持ったインチキ関西弁の妹の姿が浮かんだ。
そういや、レビィは今何してんだろうね。
まっ、どのみちあの子はいないんじゃないかな、墓の下だし。
ソータ師匠って変なとこで変なリアリティ追及してくるからね。
居るとすれば冥府の鬼くらいかな。
「とりあえず行ってみましょうかね」
いざ、行かん。
懐かしくも初めての現実のレビィティリアへ。
「お姉さま、あれも持っていきますわよ」
コズミックホラーを置いていくことはできなかったらしい。
つーか階段通るのかな、アレ。