妹の困惑 月音・アンドゥ・シス・ロマーニ編
本日よりシスタークエスト、第六章再開します。
またお楽しみいただければ幸いです。
お見舞いに来た私が部屋に入ると白猫のアトラが小さくにゃっとなきました。
「おはようです、アトラ」
そのまま視線をお布団の上に向けると薄いピンク髪のあの子は今日も寝たままの状態でした。
その隣の机にはマリーおねえちゃんが花瓶に入れた小さな花とアカリおねえちゃんが直した銃がおいてありました。
「あなたはいつになったら起きるんですか」
私が寝たままの女の子にそう声をかけるとアトラが部屋の入口近くに走っていきました。
振り返るとそこには私の相棒、猫の月影がいてアトラとあいさつをしていました。
昨日のアカリおねえちゃんたちの冒険の後、お墓でおねえちゃんたちが手に入れたお薬。
ソーマっていうらしいそれをこの子に使ったそうですが今のところ起きる気配はありません。
私はそのままベッドに背を向けた状態で手を伸ばしてアトラを抱き上げました。
「お寝坊さんなんですね、あなたのご主人様は」
頭を上げたアトラと私の視線がかみあったその時でした。
「いや、申し訳ない」
鈴の転がるような可愛い声と似つかない言葉が私の背中の方から聞こえました。
「某、朝は弱い方でして」
ゆっくりとアトラを抱きかかえたまま振り返ります。
「え……」
するとずっと寝たままだったドサンコの女の子、レオナちゃんが透き通るような青い瞳で私の方を見つめていたんです。
「アトラを通してずっと見ていたでござるよ」
えっと、あの……いろいろ言いたいことはあるんだけどその前に……
「なんでござるなの?」
「某、侍が好き故に」
侍が好きだとなんでござるなんでしょう。
いろいろ間違ってる気がします。
そんな風にあたまがわちゃわちゃになってる私の前でレオナちゃんは銃をじっと見てこういったんです。
「起きろっ! 爺っ! 主の好きそうな黒髪美女がおるぞっ!」
『なんと!? おー、これはまた。龍姫によく似た美人ですなぁ、さすがは姫、ご慧眼でございます』
「本当に再起するとは。おぬしの女好きも大概だな」
『はっ、はっ、はっ! 何をおっしゃる。この馬部、最も萌えておりますのは姫にございますれば』
「あー、もうよい。ん?」
レオナちゃんが私の後ろに視線を向けたと同時に何かがすごい勢いでベットの上に飛んできました。
「レオナーっ! 心配したっすよっ!」
ものすごい勢いでベットに飛び込んだのはずっと介護をしていた吉乃ちゃんでした。
私の後ろにいたアトラもいつの間にかベットの上に移動しています。
声を出して泣いている吉乃ちゃんとベットの上からレオナちゃんのことを前足で揉むアトラ。
その横では銃から聞こえる声が姫って叫んでます。
呆然とする私の横に来ていた月影を見ると月影も私を見つめてきました。
「ねぇ、月影」
「…………」
「すごく……騒がしい人たちですね」
当然ですが月影は何も返事を返してはくれません。
「直に対話するのは初めてでござるな、月音殿」
「あっ、初めまして。月音です」
挨拶は大事です。
お辞儀をしてからもう一回視線を合わせました。
「某はレオナ。元はカリス教の大司祭だったでござるよ」
「元なんですか」
「さよう。風の四聖とそりがあわず抜けたでござる」
そういいながら表情が曇ったレオナちゃん。
とりあえず起きたことをおねえちゃんたちに知らせないと。
「私、おねえちゃん呼んできます」
「待つでござる」
そういって部屋から外にいこうとした私をレオナちゃんが呼び留めました。
少しでも早く教えた方が他のおねえちゃんたちも喜ぶと思うのですが。
「大事な話があるでござる」
「え、なんですか?」
一体何の用でしょうか?
私は特にお話はないんですけど。
そんな私の顔を見ながら少し考え込んだ様子のレオナちゃん。
再び口を開くと私にこう言いました。
「レビィに内緒で植木鉢の横に隠したアレ、結局最後まで見つからなかったでござるな」
「あ、うん。小箱の鍵ですね。メティスは気が付くかなーってなんで知ってるんですか?」
「やはりそうでござったか」
私が恐る恐る目を見ながら質問するとレオナちゃんが小さくため息をつきました。
「レビィのおやつを一つ隠した時には怒られたでござる」
「ほんとですよ。あんなに怒らなくたって……だからなんでそれをしってるの?」
私がじっと答えを待っているとレオナちゃんがこういいました。
「某も月音殿と同じでござる」
えっと……レオナちゃんが何を言ってるのかが私にはよくわかりません。
「どういうことですか?」
「申し訳ない。もうしばし時間をおいていうべきでござったか」
私が呆然としていると少し慌てた感じでレオナちゃんが目を閉じて謝りました。
「まってください。同じって私とレオナちゃんの何が?」
気が付くと私はベットの端に手をついて乗り出していました。
怖いんでしょうか。
何が怖いのかもよくわかんないですけど。
「前世でござるよ」
「はい?」
そう言われても私は最初からずっと優おねえちゃんの心にいたわけで前世なんてないんですけど。
「某と月音殿はティリアの生まれ変わりでござる」
正直に言うとですね。
私、このとき、レオナちゃんってめんどくさい人だなって思いました。
だってそもそも私は元ティリアですし。
それとですね。
「生まれ変わりが二人はいないと思います」
「『……』」
私だけじゃなくて吉乃ちゃんやアトラ、銃のおじーさんもなんか驚いてるっぽいので多分違うんだと思います。
「ふむ、一理あるでござるな」
「あ、納得するんですね」
「理にかなっているでござれば。ならば我等がティリアの記憶を持つのは如何様に説明するでござるか?」
大体、本当にレオナちゃんはティリアの記憶を持ってるんでしょうか?
「証拠ありますか?」
「ティリアがこっそりのぞいていた少々卑猥な絵のアーカイブの位置であれば。学習用の」
「それは言わなくていいですっ!」
そういうことは顔を赤くしながらいうことじゃないと思います。
「おねしょした際に汚した衣服をそのままベット下に隠してメティスに怒られた件の方がわかりやすかったでござるか」
「あーーっ! 聞きたくないですっ!」
私がレオナちゃんの口をふさぐとレオナちゃんが驚いた表情でもごもごと何か言っていってるのかわかりました。
「しばらく私に話しかけないでくださいっ!」
そのまま部屋を飛び出すと廊下に置いておいたリュックを背負います。
大きく息を吸って大きく息を吐きました。
私から聞いたのにちょっと悪いことしちゃいました。
息を整えながら心を落ち着かせていると月影が私の足元に来ていました。
「月影、私、あの子ちょっと嫌いです」
「………………」
「何言ってるかわかんないですし恥ずかしいこと言うし」
頬が赤くなってるのが自分でもわかります。
もう、サイテーです。
「でも昔のお話をあんなにしたのは初めて……って私、なにをいってるでしょうか」
しばらくお見舞いに来るのはやめておこうと思います。
月影が気にするのでなんとなくきてただけですし。
「なんですか?」
「…………」
月影がどう思ってても私の心は変わらないですから。
今日は私たちの冒険の日です、意識を入れ替えていかないと。
私は気合を入れるために両手でほっぺを軽くたたきました。
「さぁ、みんなでお出かけですっ!」